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加藤としゆき
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column──コラム

政府の「骨太方針2006」の問題点 

2006.7.21

1、「骨太方針」の意味するもの

  政府は、7月7日、来年度の予算編成を見越した「骨太の方針2006」(下欄の「主な内容」を参照)を閣議決定し、現在、各省庁は来年度予算編成の概算要求の準備をしています。
 政府の骨太方針は今回で6回目となりますが、この秋に退任する小泉総理大臣にとっては、今回の方針は「改革路線」をいかに定着させていくか、その道筋を示したものと言えます。そこには、これまでの小泉改革の正当性をアピールするとともに、小泉政権が敷いた改革路線は「何が何でも推進していく」という意気込みを打ち出すことによって、後続の与党政権に対する国民の支持を取り付けようとするねらいが隠されています。
  この意味で、「骨太方針」の決定は極めて政治的なものであり、民主党としてもこれを傍観することなく、小泉改革に対する政策的スタンスをより明確にし、政策的対抗軸を明確にする作業をすべきだと考えます。小泉改革に対する国民の支持が続く中で、民主党が政策対抗軸を明確に示せないとなると、政権奪取を視野に入れた活動のすべてが無に帰することになります。
  以下、「骨太方針2006」の問題点や残された課題などを指摘し、中長期的な政策課題への考え方を簡潔に示したと思います。

 

 

「骨太方針2006」の主な内容

【日本経済の今後の課題】
○成長力強化と財政健全化が相互に響きあうよう、経済と財政を一体的に捉えた改革の推進

【成長力・競争力の強化】
○ロボットなど新産業群創出による国際競争力の強化と農業の体質強化
○アジア諸国を中心とした経済連携協定(EPA)交渉の促進
○3年間で100のモデル商店街を選び、中小小売業を重点支援
○人材立国、生産手段・インフラの革新、金融革新などによる生産性の向上

【財政健全化】
○2011年度に国・地方の基礎的財政収支を黒字化(必要対応額=16.5兆円、歳出削減策=11.4兆〜14.3兆円、増税など=)
○2010年代半ばに国・地方の債務残高の対GDP比を安定的に引き下げ
○社会保障の安定財源として消費税を検討
○国の資産を約140兆円規模で圧縮

【安全・安心の確保と柔軟で多様な社会の実現】
○フリーターにも国家公務員への就業機会を提供したり、正規・非正規労働者間の均衡処遇を目指すなど、再チャレンジの支援
○少子化対策の抜本的な拡充、強化、転換

 

 

2、プライマリー・バランスは可能か
  今回の「骨太方針」は、いくつかの重要ポイントがありますが、第一のものは「財政健全化」への取り組みです。現在の国の財政赤字について、2段階にわたってこれを解消しようとする方針です。
  まず第1段階として、5年後の2011年までに、国・地方の基礎的財政収支を黒字化させる。基礎的財政収支とは、その年度の必要経費を借金無しで賄えることで、一般的には「プライマリー・バランス」と言われています。次の第2段階は、その後さらに収支改善の努力をして財政黒字を確保し、債務残高の対GNP比を引き下げていくというものです。つまり第二段階では、これまでの国・地方の膨大な財政赤字を徐々に減額し、政府としての借金を縮小していこうというものです。国家財政の累積赤字は、他国などからの借金とは違い、あくまで政府が国民(特に次世代の国民)に対して借金しているわけですから、これを徐々に減らしていけばよいという考え方に立っています。
  プライマリー・バランス実現の具体的方法については、今後5年間で歳出を11兆4000億円〜14兆3000億円を削減し、同時に、歳入は消費税引き上げなどで2兆円〜5兆円の増額をはかるというものです。これを「歳出・歳入一体改革」と称していますが、併せて16兆5000億円の財政改善をはかり収支をバランスさせようという考え方です。(別表参照)
 民主党も、これまで目標年次を掲げながらプライマリー・バランスを実現すべきであると主張してきましたが、政府の方針は内容的にいくつかの問題点があります。まず、骨太方針は一律的な予算削減をしないという点で一定の評価ができますが、日本をどのような社会に改革していくのか、という理念的・戦略的な発想に欠けており、国民にとってはどのような将来が約束されるのかが明らかになっていません。これでは予算の削減・効率化に対する不安が募るばかりです。
 歳出削減を具体的に見ますと、まず支出の大きなシェアを占める社会保障、公共事業などに焦点が当てられていますが、その内容はかなり曖昧なものです。また2006年度で14兆6000億円も占める地方交付税については、地方自治体の反発を配慮してか、一切言及されておりません。
  社会保障については、今後5年間で1兆6000億円、一般会計ベースで1兆1000億円程度を削減するとしていますが、平均的に毎年2200億円程度が削減されるとして、どの予算をどういう理由で切っていくのかは明確になっていません。これは与党側が来年の参議院選挙を乗り切るために敢えて明確にしなかったという報道もありますが、医療における高齢者の自己負担が強化され、さらに税制改正によって高齢者・年金受給者の税・保険料負担が大幅に増えている中で、社会保障予算の削減に関わる負担増を国民が容易に受け入れるとは考えられません。
 民主党の財政改革は、地方への税源移譲とともに、公共事業については、高速道路やダム・可動堰などの大型公共事業の見直し・凍結を謳っています。また関連して、放漫な財政支出を構造的に許している特別会計の見直しも重視しています。今回の骨太方針では、公共事業を毎年1〜2%、最大で3%ずつ圧縮していくとしていますが、具体的施策は示されていませんし、高速道路をはじめとする道路整備事業を放漫化させている道路特別会計についても、一般財源化の議論には至っていません。公共事業の改革は大きな財政効果が得られますが、そこには政策の優先順位や将来的なインフラ投資の重要度を考え、事業の抑制や効率化をはかる姿勢が必要だと考えます。
  ともあれ、骨太方針に示された財政改革案は、具体化に乏しく、実効性にも乏しいものであることが明らかです。このままでは、まもなく始まる来年度予算編成に向け、「緊縮予算でいきますよ」とする官邸から各省庁に向けたメッセージ程度に止まりそうです。既得権擁護に固執する自民党の本来の政治姿勢と省庁の権益確保が、小泉改革を最後まで鈍らせているようです。さらに、ポスト小泉の新政権が政策実行能力の面で力量不足ということになれば、今回の骨太方針は単に絵に描いた餅に終わることになるでしょう。

 

(表2)歳出・歳入一体改革の内容(2006年〜2011年)

項目・増減額

備  考

歳出削減

11.4兆円
  〜14.3兆円

社会保障費  1.6兆円

当面は、雇用保険事業や生活保護予算の削減

人件費    2.6兆円

公務員削減など

公共投資   3.9兆円        〜5.6兆円

毎年1〜3%削減

その他    3.3兆円        〜4.5兆円

国有資産の売却、貸付金の証券化など

歳入増
  2兆円
   〜5兆円

消費税の引き上げ
税制改革

消費税は社会保障財源化などを検討

 計16兆5000億円の財政効果

 

3、格差問題への視点が必要

 財政改革は、歳入・歳出に関わる制度変更や予算縮減が行われるために、その方法によっては、現在、大きな論点の一つとなっている社会的格差の問題が生じてきます。とりわけ、社会保障制度や税制に関わる分野では、制度自体に所得再配分機能が組み込まれているために、制度改定によって新たな格差が生じたり、また逆に格差が縮小したりします。関連する中小企業政策、住宅政策、教育政策なども絡んでくれば、その変化の度合いは一段と大きくなってきます。
  今回の骨太方針では、税制に関する具体的な改革案は提示されませんでしたが、財務省は増税による歳入増を基本路線にしています。当然、消費税の引き上げや所得税の引き上げが視野に入ってきます。消費税の引き上げは、食品など日常用品への課税軽減を行わない限り低所得者への負担増となりますし、所得税に関しては、これまでの経過からすると中・低所得者への課税強化の方向が打ち出されることは必須でしょう。「骨太方針」には所得格差が拡大する方向が隠されていると言ってよいでしょう。このことは、増税政策、あるいは医療保険に見られる自己負担強化策に対する国民の反発を買わないために、政府・与党が必要以上に財政危機キャンペーンを展開していることからも伺えます。
  たとえ財政問題が深刻化し、国民の応分の負担を求める制度改革の必要性が出てくるにしても、制度の見直しには所得再配分の機能の維持とそれによる格差縮小の方向が検討されるべきです。所得税の最高税率の問題、課税最低限のあり方、さらにはグローバル化のもとでの法人税の課税ベースや税率のあり方などについて、国民的論議を行っていく必要があるでしょう。
現在、議論となっている格差問題については、ジニ係数を使って所得格差が拡大傾向にあることが論証されています。これに対し、政府関係者は、格差拡大はもともと所得格差の大きい高齢者世帯が増加しているためであり、小泉改革とは全く関係ないと主張しています。しかし、不思議なことに、高齢者世帯の所得格差そのものについては問題視をしていません。そこには当然、高齢者の雇用保障の問題や年金格差の問題、さらには住宅問題など制度・政策問題が深く関連しているのです。とくに今日、貧困層の比率がじわじわ高まっているという状況を考え合わせますと、格差問題は要因分析の段階を乗り越え、すでに政治的テーマとして扱われるべき問題になっています。
  格差問題についての国民的共通意識は、チャレンジのための機会均等を含めて、国民各層間に過度の格差があってはならないということです。政府の骨太方針にもとづく今後の制度改定や予算編成においては、社会保障制度や税制における所得再分配機能を働かせるなど、積極的に格差拡大問題に対応していくべきだと考えます。この基本姿勢が見えない「骨太方針」は大きな欠陥をもっていると言わざるを得ません。

 

──加藤としゆき

 
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民主党参議院比例区第3総支部