3、我が国の動向と今後の課題
1989年11月に、主として4つに分かれていた労働団体が統一され、800万人の組合員が結集する連合(日本労働組合総連合会)が結成されました。労働界の悲願であった、いわゆる労働戦線統一が実現したのです。一方、政界は労働組合が支持する政党の分立状態が続きましたが、離合集散が繰り返される中で、ようやく1998年4月に現在の民主党が結成されました。これにより、労働組合と社会民主主義的・リベラル的な政党との連携が実現したのです。当然、民主党には労働組合と一定の距離をおく保守的資質をもつ政治家や市場の力に重点をおく新自由主義的政策を重視する政治家も参加しましたが、両者の連携に大きな障害になることはありませんでした。
その後、政党と労働組合の関係の在り方、あるいは運動の進め方に関して組織内の意思統一の必要性が高まり、連合は、1993年の第3回定期大会で採択した『連合の政治方針』の見直し作業を開始し、民主党結成の翌年の1999年の第6回定期大会において新たな『政治方針』を確認しました。この方針で連合は、民主党への支持・協力関係の強化について意思を表明しました。一方、民主党は2003年2月18日に『連合及び労働組合との連携・協力の基本的考え方について』を発表し、労働組合とは一定の距離を置いた支持・協力関係の構築することを確認しました。
しかし、実際の日常活動においては、例えば選挙での候補者調整の段階から労働組合が過度に関与したり、あるいは民主党の議員が労働組合の支援を受けていながら労組の政策や活動を批判するなど、両者の間に不信感が芽生える場面も少なからず出はじめました。こうした流れは2005年9月に新たに民主党代表に就任した前原誠司・前代表の「労組依存体質からの脱却」という主義主張のもとでいっそう顕著になり、さらに、国会対策方針や外交防衛問題などをめぐっても民主党と連合の間の連携関係が後退していきました。その後、前原代表が偽メール問題の責任を取って退任し、そして小沢新代表のもとで、両者の関係を修復しようとする動きが強まりました。私自身も民主党の労働局長としてこの作業に関わり、共同宣言という形で「民主党と連合『ともに生きる社会をつくる』」がまとめるに至り、昨年10月13日に、高木連合会長と小沢民主党代表との間で調印が行われました。
この宣言のめざすところは、民主党と連合の連携にあたっては原理・原則論から入っていくのではなく、まず当面の社会・経済問題への対応から両者が協力しようとするものです。まさに「世直し宣言」とも言うべき内容となっているわけですが、自民党の長期政権のもとで、政治が格差問題、安全問題、老後の保障といった基本的課題に対応できていないという基本認識に立ち、民主党と連合は「将来に向かって安全で安心して暮らせる社会づくりと、そのための政治の使命を果たす政権の樹立」を求め共に手を携えていくとしています。ここでは、「連携」という抽象的表現にとどまっていますが、それまでの民主党・連合の関係の流れを考えれば、新たな関係構築に至ったものとして評価ができるでしょう。
そこで、この経過をふまえ、また今回の連合の欧米調査を参考にしながら、民主党と連合の連携の在り方、支持協力関係の在り方について、以下、4点ほど私自身の考え方を提示したいと思います。関係者の皆さんにご参考になれば幸いです。
@生活に密着する身近な課題で連携を
民主党と連合は、昨年秋の「共同宣言」で確認したように、格差問題など、当面の社会問題の解決にむけて緊密に連携し、それらの運動の積み重ねのもとで政権交代にむけた地盤堅めを行っていくべきだと考えます。欧米の労働組合も格差是正・貧困対策という基本的な課題、生活に密着する課題を取り上げて政府・与党に働きかけを強めています。壮大な政権構想は、運動面において、また選挙対策においてむしろ障害になる可能性があり、個々の問題への対応という地道な努力の積み重ねこそが多くの国民の支持を取り付けることになると考えます。
A労働組合の選挙活動を受け入れる体制づくり
勤労者、国民の利益と国民経済の発展を目指すためには、民主党を中心にした政治勢力が政治権力を掌握することが第一義的な戦略になることは言うまでもありません。当面する統一地方選挙や7月の参議院選挙においては民主党と連合が最大限の協力体制をとっていくべきだと考えますが、何よりも労働組合の支援体制を強化することが求められます。この際、選挙運動のスタイルが我が国と似ているアメリカの事例を大いに学ぶべきでしょう。とくに昨年の中間選挙で労働組合が見せつけたように、膨大な資金提供と膨大な人数による選挙ボランティアの提供は圧倒的なものがあり、これが民主党の躍進に繋がりました。このダイナミズムは来年の大統領選挙においても発揮されようとしていますが、我が国の民主党としても、これから予定されている選挙において、連合の支援活動を受け入れる体制づくりに配慮すべきだと考えます。もちろん、労働組合に頼りすぎると支援者の広がりに障害が生じたり、一般の市民ボランティアとの関係で調整が必要となってきますので、双方の関係者は事前の細かい調整が重要だと考えます。
B政治教育を重視せよ
欧米の組合、とくにアメリカの労働組合に見られるように、労働組合員を政治活動に関わらせる際には、何よりも政治教育が重要であるということを認識すべきです。一人ひとりの組合員の意識と能力を高めるとともに、労働組合自らが候補者を発掘し、候補者を育成する教育プログラムを作っていくことが求められます。我が国の民主党の場合、候補者は党の有力者が様々なルートで発掘したり、公募制度を活用したり、あるいは地方組織の政治大学などで育成していくというものが基本になっており、とくに政治に意欲をもつ若者や女性などの候補者を育てていくプログラムが一般的に推進されています。一方、労働組合出身の候補者は参議院の比例区などに限られていますが、労働組合と政党との距離が広がりつつあるイギリスもドイツにおいても、また様々な階層から政治エリートを産み出すアメリカにおいても労働組合出身の議員候補者の育成に積極的であることに注目すべきです。併せて、労働組合の組織率が低下している中で、当然、公的教育機関や地域やNPOなどが実施する社会教育・成人教育の分野においても政治教育の拡充を要請していくべきだと考えます。
C国家理念・基本政策の積極的議論を
経済のグローバル化がすすみ、新自由主義的政策が先進国の主導的政策理念になっていく中で、福祉国家のあり方そのものが大きく問われ、現在も欧米の労組や社会主義政党は様々な試練に直面しています。しかし、欧米では伝統的に労働組合が国家像や社会政策の基本作りをリードし社会運動を展開してきたという歴史があり、むしろ現在の危機的状況をバネにしながら問題点を克服し、新たな国家像を提示しようとする努力が地道に行われています。ブレア首相が打ち出した「第3の道」もその試行錯誤の一つです。我が国においても、今日一段と深刻化する格差問題や貧困問題に対して自民党の新自由主義的政策の帰結だと非難するだけでなく、連合と民主党は試行錯誤があっても、それに代わる政策理念や新しい国家像を提示しながら政治的主導権をとっていくというような意気込みが必要であると思います。このためには、双方の経験交流と政策の練り合わせが必要であると考えます。昨年の連合・民主党の「共同宣言」はこの意味で大いなる第一歩であると考えますが、この作業を中断することなく、次の段階、つまり国家理念や政策理念の提示ができるまで努力を継続していくことが重要だと考えます。この作業は、いずれ政権を獲得した際に、政権内部の分立や主導権争いを未然に防ぐことになると思います。細川連立政権の分解の失敗を繰り返さないためにも、参議院選挙の後のことも展望しながら、連合と民主党は連携して、この基本的な作業に踏み出すべきだと考えます。
以上 |