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加藤としゆき
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column──コラム

 

※2007労働経済白書は
  厚生労働省のホームページに
  掲載されています。
  →厚生労働省HPへのリンクです

 

 

労働分配率の問題を指摘――『07年労働白書』 

2007. 8.23 

 厚生労働省は8月3日、『2007年版労働経済白書』(以下、『白書』と略)を発表しました。今年の白書の特徴は、労働分配の問題を大きく取り上げているところにあります。全体としては、労働市場や労働環境をめぐる様々なひずみを指摘し、「ワークライフバランス(生活と仕事の調和)」の視点から、賃金・労働政策等に関する企業行動に強く注文をつけるというものです。つまり、小泉政権時代の新自由主義的な労働政策、労働市場における競争原理の導入などがもたらした様々な問題点を明確に指摘し、国民経済の健全な発展と国民生活の再構築について、厚生労働省自らが必要な政策の実行を訴えているという点に注目すべきだと思います。

(1)労働分配率の問題
  白書による労働分配率の問題の指摘は的確です。ここ数年、日本経済は回復を続け、期間からすれば「いざなぎ景気」を超える景気回復局面にあります。また、企業業績も大幅に改善されていますが、企業が生みだした付加価値を人件費に回す割合を示す「労働分配率」は、2001年に74・5%に達して以降は低下傾向が続き、2004年・05年は70・6%と低下傾向にあることを明らかにしています。(図1を参照)

 

(図1)労働分配率の推移


資料出所 財務省「法人統計調査」

 

  この結果、国際的にみて高かった日本の労働分配率は、英国や米国など主要国に近いレベルまでに低下し、さらに、製造業の時間あたり賃金も、円安の影響もあって先進主要国より低い水準になりました。一方で、企業の業績改善がすすむ中、営業利益の配分先は株主などへの配当金や役員賞与に比重が移っていることが指摘されています。

  白書は、この労働分配率低下の背景について、経済の国際化のもとに収益性を重視する企業経営が強まっていること、また労働組合の機能が十分に働かなくなっていることを挙げていますが、今後は、「企業部門で先行している回復を、雇用の拡大、賃金の上昇、労働時間の短縮へとバランスよく配分することによって、勤労者生活を充実させ、社会の安定を基盤とした持続的な経済発展を実現していくことが求められている」として、労働分配率の改善、成果配分の抜本的な見直しが必要だと述べています。

 

  特に、我が国製造業の国際競争力を支える「ものづくり」力を維持するためにも人材へのいっそうの投資が求められています。しかし、最近ようやく歯止めがかかってきたとは言え、90年代からは正規雇用率が減少し、人材育成に不可欠な教育訓練への支出が削減されるという深刻な状況が続いてきました。

  このような状況に陥った要因の一つに、政府・与党による労働市場の自由化を促進した経済政策・労働政策があります。これに経営側の労務政策が加わり、非正社員の増加、若年労働者の採用抑制、労働時間の長時間化などに拍車がかかりました。その結果、労働環境に様々なゆがみが生じたばかりでなく、国民経済全体にも不安要因を残すことになったわけです。

  政府部内の厚生労働省が、今日に至り、ようやく労働政策に関する認識に変えつつある以上、民主党としても、従来の主張が正しかったことを再確認し、これまでの一連の政府・与党の政策の検証を行い、労働市場の歪みや労働者間の格差を是正していくための環境づくりに全力を投入しなければならないと考えます。

 

(2)賃金格差の問題と非正規雇用の問題
  白書は、事業所規模間の賃金格差、勤労者家計における所得階層間の消費格差など様々な格差の実態を取り上げていますが、その根幹にある雇用形態による賃金格差と正社員内部の賃金格差の実態を詳しく分析しています。

  まず雇用形態の違いによる賃金格差について、2006年の勤労者の年収を比較していますが、これによると「アルバイト」は50万〜149万円が過半数、「派遣社員や契約社員・嘱託」も200万〜299万円が3割程度を占め、正社員と比べかなりの低水準となっている現状を明らかにしています。平均的に見ても、非正社員の賃金水準は正社員の6割から7割とのデータがありますが、このことを裏付けています。

  さらに、白書は、正社員の間の賃金格差の拡大についても言及し、成果主義の導入により、これまで年齢や勤続年数などによって決まってきた賃金にばらつきが出てきたと分析しています。また、成果主義は、長時間労働をもたらしたり、強いストレスを与える要因にもなっている現状を問題視しています。個別の労働者の評価における公正性も問われており、白書は、「企業は人材マネジメントにおいて、付加価値創造能力と企業収益力とを相互に結びつける優れた企業経営の構築を目指すべき」だと注文をつけています。

 

 この賃金格差の問題と表裏の関係にあるのは、正規雇用と非正規雇用の間の格差問題です。特に、非正規雇用の割合は長期的に増えており、2006年10−12月期には1691万人となり、雇用者全体の33%を占め、2000年の26%から比べると大きく増加しています。しかし、非正規雇用の増大は、雇用者報酬の切り下げ要因となり、さらなる労働分配率を下げること、職務経験を通じた職業能力の開発の機会が乏しくなること、など問題はさらに大きくなっていきます。また、勤労所得は暮らしを支える基盤であることから、低賃金で短期雇用期間の非正規雇用労働者が増えることは、国内需要を減退させ、出生率の低下や税収の縮小を招き、社会の安定化の障害となっていきます。非正規雇用の「使い捨て」的な状況が続けば、我が国の経済の安定的発展は続かなくなります。

  今日の景気回復過程において、労働政策などを通じ、非正規雇用の雇用・労働条件を引き上げ、あるいは正規雇用化のための対策を講じていかなければならないと考えます。

 

(3)ワークライフバランスの意義  
  我が国の経済・社会が直面する最大の課題の一つは、人口が減少していく中で、いかに国内需要を維持し、労働生産性を高め、国際競争力を維持していくのかということです。

  白書は、この対応策として仕事と生活を調和させる「ワークライフバランス」の意義を強調しています。具体的には、@人口減社会における就業参加の機会を増やし、効率的な仕事の推進による高い生産性の実現させること、A生産・分配・支出という経済循環を円滑に展開させるために内需中心の経済成長を実現させること、B社会基盤を安定させ、結婚・子育てを支援し、自由時間の増大による地域活動の活発化――を掲げています。

  このワークライフバランスにかかわる施策は、企業にとってはコスト増となるために抵抗感が大きいでしょうが、中長期的には労働者のモチベーションを高め、最終的に生産性の向上に結びつくものです。また、労働者自身も、仕事より生活を優先したいという意識がますます強まりつつあります。(図2を参照)

 

(図2)仕事と生活の調和の考え方

(1)現在の仕事と生活の優先度

(2)これからの仕事と生活の希望優先度

資料出所:(独)労働政策研究・研修機構「経営環境変化の下での人事戦略と勤労者生活に関する実態調査(従業員調査)」(2007年)

 

 もし、我が国がこのままの状態が続き、国内における社会的基盤が豊かになっていかなければ、経済も安定せず、優秀な人材も輩出せず、労働者のモチベーションも下がり、結局のところ労働生産性も停滞してしまうことになります。

  政府としても、女性、高齢者の就業率の向上に向け、さまざまな支援策を実施していくとともに、勤労者の生活と雇用を安定させるためのあらゆる政策を推進していく必要があると考えます。

 

(4)労働組合の課題
  白書は、平成不況から今日に至る労働関係や雇用管理をめぐる変化を整理しています。その間の環境変化の最大のものは、非正規雇用の増大と、正規雇用の職場での業績・成果主義的賃金制度の導入拡大です。そしてその結果、労働関係の個別化が進んだことを指摘しています。特に、この非正規雇用の増大など雇用形態の多様化によって、「今までの労使の力学を崩し、成長の成果が労働者全体に行き渡らないという今日のゆがみをもたらした」として、春闘のような集団的・横断的な労働組合による賃金引き上げなどが難しくなっていることを強調しています。

 

 今日、労働者への成果配分は、単に賃金上昇だけでは満足されずに、労働時間の短縮、非正規雇用の処遇改善など、労働者一人ひとりの状況に応じた成果配分が期待されている環境変化もあり、労働組合としても、今後、運動課題の重点化と交渉機能の質的転換が求められていると言えるでしょう。さらに、経済全般から見ても、非正規雇用率が上昇している現状では、「春闘」で賃金アップが実現されても非正規雇用者には波及していかないため、実質的には労働分配率が減少してしまうという構造的問題があります。

  つまり労働組合としては、労働者の多様化しつつある個別要求に応えていくとともに、内需の拡大や生産性の向上、国際競争力を支える能力開発といったマクロ経済からの要請にも応えていかなければなりません。激しい国際競争の中にある産業の労働組合にあっては、すでにこういった状況をふまえた運動課題の見直しが進められていますが、労働組合全体としては、今一度、成果配分のあり方について十分に議論していかなければならないと考えます。

  この際、白書が強調している「ワークライフバランス」が議論におけるキーワードになるものと考えます。特に、労働組合としては、この「ワークライフバランス」について、単に賃上げ要求を軽視するものとか、生産性向上のために労働密度を上げるものだといったマイナス的見方をすることなく、雇用環境の整備、人材の確保といった積極面を意識し、仕事と生活の調和をはかる政策の立案と、これを実現する運動の構築をはかっていくことを期待したいと思います。

 

 

 

 

 
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