政策レポート

2016年2月23日

2016年度政府予算案・税制改正案の問題点

  現在、衆議院で審議されている「2016年度政府予算案」は、関連して実施される税制改正とともに、いくつかの問題点や課題を含んでいます。

  政府予算案は、各省庁の経常的経費や政策的経費を賄う「一般会計予算案」と、労働保険会計や特許会計など特定の収入源をもって特定の事業を行なう「特別会計予算案」の二つがあります。このうち国会に提出して承認を得なければならないのは「一般会計予算案」です。その予算規模は96兆7,218億円にのぼり、過去最大の規模となっています。

  今日のように、税収の増加が見込まれる中にあっては、政府予算案への評価は、主として次のような視点から行われます。①財政再建との関係でどうみるのか、②税制改正の公平・公正性とともに、予算と税制による所得再配分機能がどの程度働いているのか、③社会保障関係費は社会的にニーズに応える側面と効率化すべき側面のバランスがとれているのか。

  以下、これらの視点から来年度政府予算案について検証します。

1.予算規模と財政再建

  まず、財政再建について見ます。政府予算案の特徴は、景気回復による所得税・法人税などの増収を見込んだ分の多くを国債発行の縮減分に充てることにしています。表1にあるように、税収の見積もりは本年度が54兆5,250億円、来年度予算案が57兆6,040億円で約3兆円の増収を見込んでいます。このうち、公債費の発行を2兆4,300億円減らし、2,000億円を支出増に振り向ける形になっています。このような予算の組み方について、政府・与党は財政再建に向けた積極的な措置だと主張し、一方で、野党は財政のムダを取り除く努力が見えず、増収分をあてにした大盤振る舞い予算で、財政再建への道のりは見えないと批判しています。

  すでに政府は、2013年8月に「当面の財政健全化に向けた取組等について-中期財政計画-」を閣議決定し、2020年度までに「基礎的財政収支(プライマリーバランスPB)」を黒字化する、との財政健全化目標を掲げました。「基礎的財政収支」は、国債費(利払い分と償還分)を除いた「歳出」と、国債発行収入を除いた税収など「歳入」の収支バランスのことです。

  2015年度のプライマリー・バランスは、当初予算で13兆4,122億円の赤字、2016年度は予算案で10兆8,199億円の赤字となっています。これから毎年3兆円ずつこの赤字を減らして行けば、2020年度までにプライマリー・バランスが黒字化する計算となりますが、今後、経済が持続的に成長し、安定的に税収が確保されていくのかどうかは保証できませんし、社会保障関係費は自然増により確実に増えていきます。行財政上の効率化、ムダの排除というインセンティブを保持し、歳出面からの財政再建のための施策を追求していかなければならないと考えます。

  他方、我が国の1,000兆円以上にものぼる財政赤字問題の強調は、消費税引き上げなど増税を受け入れる世論を広げる財務省のプロパガンダだと批判する論評もあります。この考え方は、政府の財政を企業と同様に、資産と負債のバランスシートで評価すべきだとの考えに基づいています。

  国のバランスシートについては、財務省主計局が2005年から毎年、正式に出していますが、「平成26年度 国の財務書類」は本年1月に出され、具体的な「貸借対照表」は表2のとおりです。

  これによると、来年度末の国の資産は679兆8,114億円。このうち、比較的換金が可能なものは、「現金・預金」27兆7,618億円、「有価証券」139兆4,771億円、「貸付金」138兆2,510億円、「出資金」79兆39億円の合計約384兆4,938億円。一方、負債は、公債や政府短期証券や借入金など、合計1,171兆8,103億円です。そして、負債と有形固定資産などを含めた資産の差額は▲491兆9,990億円で、これがネットの国債となるわけです。

  問題は、この我が国の1年間の国内総生産(GDP)に匹敵する約500兆円をどのように評価するか、ということです。政府系特殊法人や日銀なども連結対象企業とすれば、このネット国債はさらに250兆円程度にまで減るという試算もある中で、我が国の財政状況は政府が言うほどに厳しいものではないという説も十分に成り立ちます。

  今日の財政状況を厳しいとするのか、あるいは政府は大きな資産を持っているので言われるほどには厳しくないとするのか、この見解の相違は、増税政策の是非論に大きく影響します。いずれにせよ、国の財政状況は、経済・景気の動向に左右され、また一段と高齢化が進む中で社会保障制度の運営や改革の動向も大きく影響されます。基本的には、1年でも早くプライマリー・バランスの黒字化をはかり、政策的支出を膨らませて、最大の高齢化社会を乗り切る財政的基盤を固めることが肝要だと考えます。2月15日に発表された「10月-12月期GDP速報」では、マイナス成長という結果になっています。このような経済の実情などを考慮すれば、少なくとも、景気回復による税収増に期待するのは禁物だと考えます。

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2.予算案・税制改正案における所得再配分機能の課題

  今日の福祉国家においては、政府予算や税制は基本的に所得の再分配機能を持ちますが、来年度予算案と税制改正案を見ると、いくつかの点で、この再分配機能を弱めるような施策が見られます。

  その一つは、消費税の軽減税率の導入です。政府案は、来年4月から消費税率を10%に引き上げる際に食料品の税率を8%に据え置くというものです。食料品に対する軽減税率の導入は、低所得者の負担を軽減する措置として見られがちですが、所得の高い層ほど軽減額も多くなり、逆進性対策とはならないとする意見が大半です。しかも、政府は、軽減税率導入のための財源約1兆円のうち4,000億円を、予定していた「総合合算制度」の実施見送りで調達しようとしているのです。この「総合合算制度」は、国民が医療、介護、保育等、公的サービスを受ける際に負担する窓口一部負担や利用者負担について、低所得者には、例えば世帯所得の10%といった上限を決め、それを超える分は公費負担にしようとする制度です。低所得者層にあっては、病気、介護、保育など複数の困難を抱えた世帯が多く、これらの利用者負担は複合的に家計の重みを増しているという実態があり、所得の再分配をはかる有効な政策の一つとして、民主党政権時代から準備されてきたものです。消費税の逆進性対策には直結しない軽減税率を導入ために、低所得者対策を放棄しようとしており、認めるわけにはいきません。

  一方で、政府予算案では、①低所得者で子どもが複数の一人親世帯への児童扶養手当の増額(子供3人・年収227万円以下で月50,000円→58,000円)、②低所得者で子どもが多い世帯の保育料負担の軽減化(年収360万円以下で第2子は半額・第3子は無料)、③大学生向け無利子奨学金の対象者拡大(総額880億円)――などの低所得者対策が盛り込まれています。これらの予算は、緊急を要する対策として計上されたことは評価しますが、全体の予算総額と給付額水準では全く不十分であると言わざるを得ません。全体としてみても、来年度の政府予算案と税制改正案は、所得再配分機能を十分に発揮しているとは言えず、評価することはできません。

  なお、2016年度の税制改正の具体的内容を表3にまとめていますので、ご参照下さい。

表3 平成28年度税制改正の大綱について(主なもの)

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3.社会保障関係予算の課題

(1)社会保障関係予算の抑制の本質

  最後に、来年度予算案の社会保障関係費を見てみます。

  総額は31兆9,738億円で、今年度予算と比較して、額で4,412億円、率で1.4%増えました。社会保障関連費は政府予算の歳出の約3分の1を占める最大のもので、そのうち、消費税引き上げ分の使途対象の「医療・年金・介護・少子化対策」の4分野で約8割を占めます。

  厚生労働省は、昨年夏の概算要求で高齢化による自然増として6,700億円を見込んでいましたが、最終的な予算案では、①薬価引き下げによる診療報酬の引き下げ、②医薬品価格の適正化、③協会けんぽ(全国健康保険協会)への国庫補助の減額によって4,412億円に抑えたとしています。努力のあとを評価してもらいたいという意図が見えますが、一概にそうとは言い切れません。

  財政事情から、社会保障関係費の自然増を抑制し、国民のニーズを優先したムダのない制度の効率的運用が求められることは当然ですが、例えば、今回の協会けんぽへの国庫補助率の減額は、その背景に、協会けんぽにおける財政の黒字化という事情があります。財政赤字が続いた協会けんぽは、これまで保険料率の引き上げや国庫補助によって黒字化がもたらされましたが、一方で、後期高齢者支援金の報酬割の導入によって、大企業などで運営されている健康保険組合や公務員共済などが負担増になり、相対的に協会けんぽは支援金負担が軽減されたという実情があります。しかも、2017年度より全面的に総報酬割が実施され、多くの健保組合・共済はさらに財政運営で苦しむことが予想されています。現政権が、「共助」の名の下で、実際は勤労者に偏った負担増を前提に社会保障関係財政の効率化を進めようとするならば、それは「整合性ある財政政策」とは言えません。

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(2)社会保障の充実予算とバラマキ

  そのほか、社会保障関係予算で特徴的な支出項目と金額は次のようになっています。

  消費税率の5%→8%の引き上げに伴う国と地方の増収分は、2016年度においては8兆2,000億円と見込まれています。その内訳は、①基礎年金国庫負担に3.1兆円、②社会保障の充実に1.35兆円、③消費税引き上げに伴う社会保障4経費の増加に3,700億円、④後代への負担のつけ回しの軽減に3.4兆円――となっています。

  このうち、社会保障の充実策として「子ども・子育て支援策の充実(+817億円)」や「国民健康保険への財政支援の拡充(+380億円)」、あるいは「子どもの貧困対策とひとり親家庭対策の推進に1,931 億円」、「不妊治療への助成拡大に158 億円」等が計上され一定の評価はできますが、一見して予算が充実していると思われるものの、実際は夏の参議院選挙を意識したバラマキ的な性格をもった項目があります。

  具体的には、「年金生活者等支援臨時福祉給付金」です。すでに、本年度補正予算において、低所得の高齢者向けに1人3万円の支給が決まっていますが、さらに来年度予算案では、65 歳未満の低所得の障害・遺族基礎年金受給者に1人3万円を簡素な給付措置(臨時福祉給付金)の3,000円(平成27年度は6,000円)に付加して給付することになっています。

  これらの低所得者向けの給付金は、僅かながらも生活を下支えするものとなり、受給者にとってはプラスになるものですが、前述のように、「総合合算制度」を見送るなど、低所得者に厳しい対応を取ろうとしている面もあり、選挙を意識したバラマキ的な施策であるとの評価は免れません。また、前述の簡素な給付措置(臨時福祉給付金)が継続する一方で、子育て世帯に対して消費税引き上げ(5%→8%)による影響を緩和するために給付されてきた子育て世帯臨時給付金(平成27年度:子ども一人につき3,000円)は廃止されます。

  来年度政府予算案の問題点・課題を徹底的に追究していかなければなりません。