政策レポート

2015年2月12日

ISILのテロに対して参議院が非難決議

  参議院は、2月6日に開催した本会議において、イスラム過激派組織ISIL(イスラム国)による二人の日本人に対するテロ行為を非難する決議を次のとおり採択しました。

  
シリアにおける邦人へのテロ行為に対する非難決議
第189国会参議院本会議
平成27年2月6日
  今般、シリアにおいて、ISILにより二名の邦人に対し非道、卑劣極まりないテロ行為が行われた。本院は、この許しがたい暴挙を、断固非難する。また、御家族の御心痛を思えば言葉もなく、誠に無念、痛恨の極みであり、深い同情の念を表明する。
  このようなテロ行為は、いかなる理由や目的によっても正当化されるものではない。我が国及び我が国国民はテロリズムを断固として非難するとともに、決してテロを許さない姿勢を今後も堅持することを本院はここに表明する。
  我が国は、中東・アフリカ諸国に対する人道支援を拡充することにより国際社会の平和に寄与するとともに、国連安保理決議に基づいて、テロの脅威に直面する国際社会との連携と取組を一層強化するよう、政府に要請する。
  さらに、政府に対し、国内はもとより、海外の在留邦人の安全確保に万全の対策を講ずるよう要請する。
  最後に、本院は、我が国国民を代表し、本件事案への対応に際し、ヨルダンを始めとする関係各国、国際機関及び関係者によって示された強い連帯と、解放に向けてなされた協力に対し、深い感謝の意を表明する。
  
右決議する。
  

 

1.「決議」の意義と今後の対策の課題

  決議の要点は、①殺害された2人への哀悼、②テロ行為への非難、③テロと戦う姿勢の強調、④政府に対する日本人の安全確保の要請――の4点で、日本人人質2名が残虐なやり方で殺害されたという衝撃的な事件に対する国民の気持ちを集約的にまとめたものと言えるでしょう。加えて、「イスラム国」との表記を使わずに「ISIL」と表記し、「国」として認めない、イスラム教とは関連のない過激派テロ組織である、との認識を表したものと思われます。

  一方で、国際的なテロに対して本当に必要な対策とは何なのか、あるいはイスラム過激派集団の国際的な増長をどのように抑えていけばよいのか、といった本質的な課題に対する対応策については明白な考え方が示されませんでした。決議では、「中東・アフリカ諸国に対する人道支援を拡充することにより国際社会の平和に寄与するとともに、国連安保理決議に基づいて、テロの脅威に直面する国際社会との連携と取組を一層強化する」という表現にとどまっています。このような日本政府のテロ対策の基本は、2001年の9.11同時多発テロ以降、繰り返し強調され続けられているものですが、状況は一向に改善に向かっていません。イスラム過激派に対する国際社会の対応は、アルカーイダ制圧を目指したアメリカ軍のアフガニスタン侵攻以降、武力による対応と人道的支援の両面で進められてきました。日本もテロ対策特別措置法を制定し、一時はインド洋においてアメリカ軍への後方支援活動までも行ってきましたが、中東における複雑な政治的・宗教的・経済的状況のもとで、事態の好転が見られないまま今日まで推移し、そして、いまや「イスラム国」という最も凶暴なテロ集団が国家を形成しようとするまでに至っています。これはテロへの対応の難しさを物語っているわけですが、この地域における第2次世界大戦以前からの歴史的経緯も含め、これまでの国際的な対応を検証していくべきでしょう。

   このような状況のもとで、今回、日本人人質殺害事件が発生し、政府への脅迫も行われたわけですが、日本政府としても日本国民がテロに巻き込まれないための施策を真剣に推進していくとともに、政治的に不安定で、貧困問題や経済的自立の問題を抱える中東やアフリカでどのような支援がテロの温床を根絶する有効な手立てになるのかを改めて検討する必要があると考えます。

  そのためにも、今回の事件における日本政府としての関わりを検証して、次なる対応の参考にするとともに、日本人の生命と財産を守るための具体的な方策や、テロ集団の膨張の根源となる貧困・差別問題などの解決に向けて我が国がどのように貢献できるかを、国会での審議を含め、活発な国民的議論を起こさなければならないと考えます。国会としても、この決意を新たにして審議に臨むことを今回の「国会決議」に込めているものと受け止めていただきたいと思います。

  なお、今後の議論の参考として、以下、イスラム過激派絡みのテロ事件・日本人死亡事件の経過とテロに対するこれまでの国会決議を挙げます。

 

2.過去のテロ事件・人質事件の経過

 イスラム系テロ組織による日本人に対する拉致・人質・殺害事件は次に記載のとおり20年以上も前から発生しており、常に邦人保護の在り方が問われてきました。これまでの事件も参考にして、今後の対策について検討していく必要があります。なお、それぞれの事件は、主として過去の報道資料にもとづいて簡易にまとめたものです。

①1991年7月11日 「悪魔の詩」訳者殺人事件

  「悪魔の詩」の日本語訳を出版した五十嵐一・筑波大学助教授が勤務先の筑波大学にて殺害された。「悪魔の詩」については、1989年2月にイランの最高指導者ルーホッラー・ホメイニーが著者のラシュディと発行に関わった者に対する死刑宣告を行っており、イスラム過激派による犯行であった可能性が高いとされている。

②1994年12月11日 フィリピン航空434便爆破事件

  フィリピン航空434便内で、国際的テロリスト集団「アルカーイダ」が1995年1月21日に決行予定の「ボジンカ計画」と呼ばれる航空機爆破計画の予行演習として実行された航空機爆破物事件。爆破は日本の領空附近で発生し、日本人1名が死亡したが、航空機の墜落は避けられた。

③2001年9月11日 アメリカ同時多発テロ事件

  アルカーイダが起こしたとされるアメリカを狙った航空機を使った4つのテロ事件。ニューヨークのワールドトレードセンタービルの崩壊などで日本人24人が犠牲となった。

④2003年11月29日 イラク日本人外交官射殺事件

  イラクへ派遣されていた日本人外交官2人が、バグダード北西140kmに位置するティクリート近郊にて、日本大使館の車両で移動中、何者かに射殺された事件。イラクの暫定内閣は、旧フセイン政権時代の情報機関の「総合情報局」の残党による犯行としたが、現在まで真相は明らかになっていない。

⑤2004年4月7日 イラクにおける日本人3名誘拐事件

  日本人3名(ボランティア、フリーカメラマンの男性、ジャーナリスト志望の未成年の少年)が武装勢力によって誘拐され、犯行グループより、イラクのサマーワに駐留している自衛隊の撤退を要求する声明が発表された。この要求に対し、日本政府は自衛隊を撤退させる考えのないことを表明。その後、4月15日に、 日本人人質3名はイラク・イスラム聖職者協会の仲介もあって、無事解放された。

⑥2004年4月14日 イラクにおける日本人2名拉致事件

  日本人2人(自称ジャーナリストとNGO団体職員)がバグダード西方で何らかの武装勢力により拉致されたが、4月17日にバグダード市内のモスクで解放された。

⑦2004年5月27日 イラクにおけるジャーナリスト襲撃事件

  イラク戦争取材中にバグダード付近のマハムーディーヤでフリージャーナリストの橋田信介氏と同行していた甥の小川功太郎氏が襲撃され死亡した。

⑧2004年10月24日 日本人青年拉致・殺害事件

  バックパッカーとしてイラクに入国した日本人の青年が、10月24日、「イラクの聖戦アルカーイダ組織」によって拉致され、10月27日、「日本政府が48時間以内にイラクからの自衛隊撤退に応じなければ殺害する」と脅迫してきた。小泉首相は「テロに屈することはできない。自衛隊は撤退しない」と表明した。その後30日に、首を切断された青年の遺体がバクダード市内で発見された。10月31日、小泉首相は「解放のためあらゆる努力を尽くしたにもかかわらず、青年がテロの犠牲となり痛恨の極みだ。引き続き自衛隊による人道復興支援を行う」との声明を発表。

⑨2012年8月20日 女性ジャーナリスト殺害事件

  ジャパンプレス所属のジャーナリストの山本美香氏が、シリア内戦の取材中、シリア北部のアレッポでシリア政府軍の銃撃を受けて死亡したとされる。

⑩2013年1月16日 アルジェリアのプラント襲撃日本人殺害事件

  アルカーイダ系の武装勢力「イスラム聖戦士血盟団」が、アルジェリア東部の天然ガス精製プラントを襲撃し、人質にとられた日揮の関係者の日本人10名が殺害された。

 

3.テロに対する国会決議の経過

  これまで、参議院においては、テロなど日本人が巻き込まれた事件に際に、犯人を糾弾し、日本人保護のための施策を強調する「国会決議」を2回行っています。これらの決議におけるテロ対策の基調は今日でも通用するものであり、以下、今後の議論のために掲載します。

  また、2001年の「アメリカ同時多発テロ事件」の直後の2001年10月29日に成立・制定された「テロ対策特別措置法」は、その後の我が国のテロ対策の基本方針を法文化したものですが、この法律にもとづき、政府はこの年の11月9日には、護衛艦(イージス艦)によるレーダー支援や、補給艦による米海軍艦艇などへの給油等の支援活動など、アメリカのアフガニスタン侵攻を後方支援する目的で、海上自衛隊の艦船3隻をインド洋に向けて出航させました。この法律も今後の議論のために参考になると思われますので、第一条「目的」を併せて掲載します。

  
在ペルー日本国大使公邸占拠・人質事件に関する決議
参議院本会議 第140回国会
平成9年1月23日
  昨年十二月十七日、ペルーの首都リマで起きた日本国大使公邸占拠・人質事件は、我が国及び国際社会に強い衝撃を与えた。
  テロリストによるこの許しがたい行為は、いかなる政治的あるいは理念的な目的によっても正当化することはできず、平和と安全を希求する国際社会に対する重大な犯罪行為であり、強く非難されるべきものである。
  事件発生から早一カ月、この間、我が国をはじめペルー政府、関係各国、国際機関等による平和的解決に向けた努力がなされてきているが、未だに多数の人々が人質として拘束されている。
  本院は、かかる国際的な重大事件を深く憂慮し、人質とされている多くの方々のご苦労と、ご家族・関係者のご心労を思い、本事件の一刻も早い解決を求め、次のとおり表明する。
 一.本事件におけるテロリストの行為を強く非難するとともに、テロリストに対しては譲歩をすべきではないとの考え方に則り、平和的解決を目指すペルー政府の努力への支持を表明する。
 二.政府は、ペルー政府、関係各国、国際機関等と緊密に連携し、人命尊重を第一として 事態の平和的解決を図り、全ての人質が例外なく、安全に、即時全面解放されるよう、引き続きあらゆる努力を払うべきである。
 三.政府は、今回の事件にかんがみ、外交実施体制及び外交施策の在り方について十分な検討を行い、特に、在外公館の警備等の充実を図り、事件の再発防止に努めるべきである。
右決議する。

 

   
米国における同時多発テロ事件に関する決議
参議院本会議 第153回(臨時)国会
平成13年9月27日
  9月11日に米国を襲った同時多発テロは、命の尊さを全く顧みない残虐非道な行為であり、かかるテロリストの想像を絶する暴挙は、ひとり米国民のみならず、人類すべてに対する共通の許し難い挑戦である。
  本院は、不幸にもテロの犠牲となられた多数の方々に対し、心から哀悼の意を表するとともに、ご家族や関係者みなさまの深い悲しみと激しい怒りを分かち合うものである。
  今回のテロ行為に責任を有する者が法と正義の下に裁かれるべきことは当然であり、断固とした決意で国際テロと闘わんとしている米国政府及び米国民を支持し、テロ行為を地球上から追放することが国際社会の一員である我が国の重大な責務であることをここに宣言する。
  よって政府は、我が国及び国民の危機に際しての安全確保のため全力を傾注するとともに、米国を始め関係諸国と力を合わせつつ、日本国憲法の理念を踏まえ、我が国として可能な限りの協力を行い、また、国際連合を中心とする国際機関の活動に積極的に参加することをもって、民主主義社会の安全と発展のために主体的な役割を果たすべきである。
右決議する。

 

平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法
平成13年11月2日
 (目的)
第一条 この法律は、平成十三年九月十一日にアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃(以下「テロ攻撃」という。)が国際連合安全保障理事会決議第千三百六十八号において国際の平和及び安全に対する脅威と認められたことを踏まえ、あわせて、同理事会決議第千二百六十七号、第千二百六十九号、第千三百三十三号その他の同理事会決議が、国際的なテロリズムの行為を非難し、国際連合のすべての加盟国に対しその防止等のために適切な措置をとることを求めていることにかんがみ、我が国が国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与するため、次に掲げる事項を定め、もって我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
 
一 テロ攻撃によってもたらされている脅威の除去に努めることにより国際連合憲章の目的の達成に寄与するアメリカ合衆国その他の外国の軍隊その他これに類する組織(以下「諸外国の軍隊等」という。)の活動に対して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項
二 国際連合の総会、安全保障理事会若しくは経済社会理事会が行う決議又は国際連、国際連合の総会によって設立された機関若しくは国際連合の専門機関若しくは国際移住機関(以下「国際連合等」という。)が行う要請に基づき、我が国が人道的精神に基づいて実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項