今日本に一番必要なことは「製造業の復活」です。そして、そのための政治の役割は大変大きいと思います。
「経済のソフト化・サービス化」と言われます。たしかに日本経済全体の中で製造業のウェイトは下がっていますが、依然、雇用を生み出す中心産業は製造業です。製造業は工場の直接雇用だけではなく、輸送や金融・保険、コンピュータのシステムから従業員の飲食にいたるまで、多くのサービス産業の需要も支えているのです。また、資源や食料を輸入している日本が、そのための外貨を稼ぐための産業は製造業をおいて他にありません。現在でも、外貨獲得の90%以上は製造業なのです。製造業が無くなってしまったら、残る第一次産業とサービス産業で1億2700万人の国民が生活できるでしょうか。答えは否です。 これまで多くの工場が海外に移転しました。日本への製造業の回帰が始まったと言われますが、やはりそれは一部です。海外流出の流れはまだまだ止まってはいません。正直に言えば、「もうこれ以上海外に日本の工場を出したくない。」これが私の気持ちです。
「そんな事を言っても、日本で作ったら商売にならない」「工場は製造コストの安い海外に出ていくのが経済の必然だ」「気持ちはわかるが、それぞれの企業の努力の結果であって政治に何ができるのか」と疑問に思われるでしょう。
確かにコストが問題なのです。海外の人件費は安い。特に中国は「勝負にならんよ」と言われます。しかし、人件費の差がそのまま最終コストに反映するわけではありません。2000年に中国製と日本製の最終コストを比較した興業銀行調査では、最終製品でのコスト差は、テレビで20%、エアコン25%、パソコンでは10%、携帯電話では5%以下でした。これは2000年の調査です。この5年間、各企業では実に多くの苦労も伴いながら、文字通り血のにじむようなコスト低減を行いました。この差は相当縮まっていると思います。(下図参照)
問題は企業の外にあるコスト、企業努力では減らせないコストです。たとえば、エネルギーコスト、水道代、そして物流費の中に含まれる空港使用料、高速道路の料金、港の使用料。世界一高いこれらのコストは、すべて行政が作り出したものです。行政がつくったものは行政に下げさせるしかありません。それは、政治の役割です。さらに、その行政機構を維持するためのコストも高い。行政の非効率さが、各企業の必死のコスト低減を帳消にし、結果としてこの国の製造業のコストを押し上げているのです。行政の効率化と製造業の海外流出は無関係ではないのです。
次の政治の役割は「需要の創出」です。ご承知のとおり、これまでのわが国では、国による需要の創造は、道路や建物といった土木建築物が中心でした。活用されればもちろん良いのですが、経済的波及効果が小さい投資は、社会コストを引き上げるだけの結果になりかねません。
これからは、福祉型の公共事業に注力する必要があると思います。その一つが「介護」です。たとえば、入浴介助ロボットの開発・導入です。入浴介助は本当に重労働で、時には大人3人がかりになります。日本の技術をもってすれば、施設介護だけでなく、在宅での入浴介助にも活用できる製品も開発可能だと思います。ただ、企業がこの事業を始めるには、リスクが大きすぎます。事業の立ち上げには国のサポートが必要なのです。実現すれば世界をリードする産業になります。橋や道路をつくったのと同じように、公共性をもった事業として、介護ロボット事業を国が育成・推進するという、そのような施策がこれから必要なのです。
他にも、モノづくりのすばらしさを教える教育のあり方、一つの事業をネットワークで実現する中小企業の連携策づくりなど、政策面での課題は多くあります。
私は、日本の政治や行政は、製造業を日本にとどめ置くことに無関心すぎたのだと思います。まずは、製造業の復活が国の政策の最重要課題であること、このことを政治の場でしっかり確認していきたいと思います。
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<参考資料>製造コストの日本-中国の比較 (2000年)

日本のコストを100として表示
 
 
出所;興銀調査2002-No.3 「わが国製造業の変容と中国進出の実態」より
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