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加藤としゆき
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1994年から、人民元(写真は100元札)は1ドル=8.27元前後に固定されています。
ドルに対して円高が進むと、元も円に対してはドルと一緒に安くなるのです。

 
 
   

 

 

vol.01

−中国の人民元の切り上げ問題について

2005.06.15
 最近、中国の人民元の為替レートの切り上げ問題が大きく取り上げられています。とくにアメリカは、繊維製品など中国の安価な輸入品によって国内産業が打撃をうけていることもあり、中国に対して人民元の切り上げを要求しています。人民元の為替レートの変動は、中国との経済関係が拡大する日本にとっても大きな影響が出てくるものであり、とくに日本の製造業にとっても国際競争力の問題や国内への生産回帰の問題とも関連しています。
 人民元の現状と為替制度の見直し問題について、以下、簡単に説明いたします。

1、為替制度の2つの類型

 為替制度は、2国間の通貨の交換レートを規定するもので、次のとおり大きく2つの制度に分けられます。
@固定相場制=レートの変動を固定化もしくは小幅に限定する制度で、「ペッグ制」とも言われる。
A変動相場制=レートをマーケットの需給にゆだねる制度で、レートはつねに変動する。
 いずれの場合も、為替レートは、それぞれの国の経済力や輸出入の状況、さらには国際的な政治力などを反映して決められます。日本とアメリカに関しては、1949年に1ドル=360円の固定相場が決められましたが、1973年に変動制に切り替えられ、現在は、1ドル=106〜108円で変動しています。一方、中国の人民元は、1994年に管理変動相場制(管理フロート制)に移行しましたが、実質的にはドル連動する固定相場制で、現在、1ドル=8.27元前後で固定されています。具体的には、中国人民銀行(中央銀行)が常時、為替市場に介入して相場の固定化をはかっています。

2、なぜ中国は実質的に固定相場制なのか?

 先進諸国のほとんどは変動相場制を採用していますが、開発途上国、新興国(エマージング)諸国等の多くは固定相場制を採用しています。中国は形の上では変動制ですが、実質的には固定相場制です。
 固定相場制は、自国通貨を貿易において結びつきの深い国の通貨に連動(ペッグ)させる場合が多く、為替相場の変動に振り回されることを少なくします。それによって輸出競争力を確保し、貿易を円滑に行うことができるメリットを得ます。自国の産業を育成し、輸出振興策を推進したい新興国にとっては、この固定相場制がもっとも望ましい為替制度となります。
 中国は、1979年から始まった改革開放政策により、外国資本を積極的に導入しながら産業の育成発展と積極的な輸出促進政策をとってきました。この流れの中で固定相場制を有効に活用してきたわけです。一方、中国経済が拡大し、輸出入量も増大し、さらには2001年の世界貿易機関(WTO)への加盟もあって、実質的な固定相場制の維持に対してさまざまな圧力がかけられるようになってきました。

3、自国通貨を切り上げるということ

 自国の通貨の切り上げということは、通貨の価値を上げることを意味します。具体的には、他の通貨(国際通貨の米国ドルやユーロなど)との交換レートを下方に変動させることにより実現されます。例えば、1ドル=105円が1ドル=100円になるように、円高は1ドル当たりの円の交換相場を下げることになります(逆に考えると、1円=0.095ドルが1円=0.01ドルになるから円高と言える)。
そうしますと、その国の経済に様々な変化が起きてきます。以下、どのような変化が出てくるかを見てみます。

(1)輸出と輸入の変化
 自国通貨を切り上げますと、海外からモノやサービスを購入する場合(輸入)に、購入費が安くなるというメリットが生じます。
 一方、外国にモノ・サービスを販売する場合(輸出)には、交換レートの変動により販売先での価格が上昇してしまうため、価格競争力を失う恐れがあります。
 例えば、1ドル=105円の場合は105円の商品を1ドルで売ることができますが、円高で1ドル=100円になると105円の商品は1.05ドルに値上がりします。
 国全体の影響は、この輸入のプラス面と輸出のマイナス面の相殺の度合いによって決まります。専門家の分析によりますと、中国では今後、原油をはじめとする原材料の輸入の大幅増が見込まれており、この点を注目すれば、人民元の引き上げは全体としてプラスの材料になると思われます。

(2)外資の導入・直接投資への影響
 人民元の切り上げが行われますと、これから中国に進出しようとする企業にとっては借地料や建物建設費、設備など、投資価格が高くなります。
 さらに人民元切り上げは、同時に労働者の賃金が自動的に引き上がることになります。中国の強みである安価な労働力という魅力がなくなるのです。このことから、全体的に見て、人民元の切り上げは外国資本の流入、直接投資を抑制することになります。但し、中国は農村部に数億人もの余剰労働力を抱えており、この豊富な労働力によって、元の切り上げが行われても安価な労働力は保持されるのではないかと言われています。

(3)中国国民の生活への影響
 中国は、70年代末に改革開放政策へ転じてから、年平均で10%近い高成長を達成してきました。現在の中国の経済力は国内総生産(GDP)や貿易規模から見て、すでに英国に匹敵するレベルに達していると言われています。しかし、人民元が長期にわたって低位のままであるため、1人当たり国内総生産はいまだ1000ドル前後と発展途上国並にとどまっています。現在、人民元の対ドルレートは78年と比べて、名目ベースでは80%くらい安くなっていると言われています。もちろん、元を切り上げて名目的に個人の所得を上げたとしても、その日をもって実質的に国民生活が豊かになるわけではありません。しかし、所得の公平な分配が行われるようになれば、国民の購買力を高めることができますし、社会資本整備における海外調達を推進することができます。
 問題は失業問題が発生する恐れが出てくるということです。とくに外国企業の投資は中国の労働力に雇用を創出する上で重要な役割を果たしているため、前述のように元切り上げにより中国への直接投資が減少した場合、失業率が上昇する恐れがあるということです。また、失業率が上昇した場合、人件費に対して低下圧力がかかり、これにより個人消費が冷え込み、拡大傾向にあった中国国内市場が冷え込む可能性も出てきます。また中国の農業は東南アジアに比べて競争力が劣ることから、元切り上げになると農産物の輸入が増加し、農村部の生活を脅かす可能性も出てきます。
 これらのことから、中国政府としては、なかなか元の切り上げに踏み切れない状況にあるのです。一方、元の切り上げが望ましい面もあります。為替相場を固定するために、中国政府はドル買いをすすめ、外貨準備が増大させていますが、この通貨供給量(マネーサプライ)が膨らむ結果、バブルを生む恐れが出てきています。現に中国の大都市では不動産バブルが生じています。そうすると、人民元の切り上げは、外貨準備を減らすことになるので、インフレ対策にとっては望ましい政策となります。

4、日本の製造業にとっての人民元の切り上げ
 人民元の引き上げは、まず外国資本の進出を抑制する効果がありますので、日本から中国への活発な直接投資はやや抑制されることになるでしょう。これは為替レートの切り上げ幅にもよりますが、大幅な切り上げとなりますと、中国の生産において人件費コストが大きく高まってきます。さらに、中国で生産してこれを海外に輸出している企業は、人民元の切り上げによって輸出品の価格が高まっていくため、輸出競争力を失っていきます。
 そうすると、日本の企業は中国への投資のメリットを失うわけで、日本国内への生産に切り替える企業も出てくることが予想されます。現在、すでに日本への回帰現象が若干見られますが、この流れが大きくなる可能性も出てきます。
一方、中国製品の国内への輸入に関しては、輸入品の価格が上昇しますので、中国製品と競合するものはやや競争力を持ち直すことができます。とくに繊維・雑貨関係など労働集約産業においては、中国との間のコスト差がじわじわと狭まっていくことなり、日本国内での生産が持ち直ることが予想されます。
 基本的に元切り上げは、日本の製造業においては国内で雇用の場をつくる、あるいは生産技術を国内に温存するという面では歓迎すべきものと考えられます。しかし現地生産した製品の多くを輸出している企業にとっては経営的にマイナスとなります。

5、最 後 に

 人民元の引き上げ問題は国際経済、国際政治の中心的テーマの一つになっています。とくにアメリカは中国からの輸入品の増大が貿易赤字拡大の大きな原因になっており、議会を含めて人民元の切り上げ要求とセーフガード対策を強めています。
 確かに、中国の経済力に比べれば人民元の評価は低すぎ、多くの国が不公平感をもっていることは事実です。WTO加盟国として、中国のみが自国に有利な固定相場制をとり続けることは決して好ましいことではありません。なるべく早い段階で中国政府自らの意思決定によって実質的な変動相場制に移行すべきだと考えます。
 しかし、中国と各国間の経済的相互依存関係が一段と強まっている中で、人民元を一挙に切り上げることは、他国のとっても一概にプラスになるとは言えません。適切な時期に、適切な切り上げ幅で段階的に実施することが肝要だと考えます。

 アメリカの要求には、国際貨幣体系おける主導的な立場を利用して、ドル安政策を貫徹して国際競争力の維持と貿易赤字を解消したいという一国繁栄主義が見え隠れしていますが、日本としては、中国経済との関係の推移や東アジア全体の経済発展の状況を見ながら、中国政府に対して適切な対応を要求していく姿勢が望まれると考えます。

 

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