  
『ものづくり国家戦略ビジョン』がまとまる
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| 2005.12.21 |
11月末に経済産業省が『ものづくり国家戦略ビジョン』(以下、『ビジョン』と略)を発表しました。
「ものづくり日本の復活」を政策目標に、国会質問においても「ものづくり」に関する政策提言を行ってきましたが、この『ビジョン』については、担当者からもヒヤリングをするなど、経済産業省の私的諮問機関での検討段階から注目してきました。
以下、その内容の紹介をしながら若干のコメントをしたします。
発表資料については経済産業省のサイト http://www.meti.go.jp/report/data/g51128aj.htmlを参照してください。
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1、「ものづくり政策」の新しい視点――パラダイム・シフト
「ものづくり政策」に関しては、政府も経済産業省と厚生労働省が中心になって『ものづくり白書』を毎年発表するなど、技術・技能の継承あるいは製造業の基盤強化という視点から「ものづくり」政策を推進してきましたが、今回の『ビジョン』は我が国の「ものづくり」そのものに関して戦略的視点から政策のあり方をまとめたものと言えます。
その特徴は、大きく三つあります。第1は、日本が歴史的に持っている「ものづくり」の強みを生かそうということです。ここでは「ものづくり力」という表現を用いています。第2の特徴は、「ものづくり」の技能・技術と科学を融合させるべきだということです。そして第3に、世界的に製品の開発競争とコスト競争が激化する中で、アジア諸国と日本が「ものづくり」という価値観で一緒に発展していこうという視点を強調していることです。
三つの特徴を具体的に検討してみます。
まず、「ものづくり力」ですが、『ビジョン』は、環境資源問題の深刻化や少子高齢化、人口減少などの内外の情勢変化に伴い、従来の規格大量生産の製造業を中心とした経済発展の「パラダイム(その時代を支配する価値観や規範)」はもはや限界にきたと指摘しています。そして、その解決策が、日本が歴史的に培ってきた「ものづくり力」にあると主張しています。
「脱産業社会論」など、産業社会におけるパラダイムの転換はこれまでも幾度となく取り上げられてきましたが、今回は「製造業パラダイム」から「ものづくりパラダイム」という枠組みを提案しています。簡単に言えば、「製造業パラダイム」は大量生産・大量消費・大量廃棄を特徴とし、自然を人間社会と対峙するものとみなし、自然を「開拓」して右肩上がりの進歩を遂げようという考え方。それに対して「ものづくりパラダイム」は、多品種・少量生産を特徴とし、自然と「共生」しようとするポストモダンの考え方をベースにしているものです。
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このような二元論的な議論は近年よく行われていますが、今後「ものづくり」政策を議論する際には、抽象的な議論に陥ることなく、「ものづくり」に関わるすべての人が、生産から消費・リサイクルに至るまでの経済活動において、この「ものづくりパラダイム」にベースにした行動をとっていくよう期待したいと思います。
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2、我が国の「ものづくりDNA」
『ビジョン』は、我が国の「ものづくり」に関して、江戸時代以前から育まれたものづくり力の「DNA」というものに注目しています。
一般的に西欧の文明や歴史は、過酷な自然と戦い、人間・国同士が闘う戦争によって発展してきましたが、日本は四季の恵みを享受し、その中で自然、動物、植物と共生しようという考え方が根強かったことが指摘されています。そして、このような文明的背景があったからこそ、製造現場において工程管理や品質管理の成否をにぎる「チームワーク」が機能し、相互協力態勢が生まれたのだとしています。強い現場を支える「チームワーク・コミュニケーション力」、これが我が国の「ものづくり力のDNA」というわけです。
「ものづくりパラダイム」は、こうした日本の良さを生かしながら、生産規模をいたずらに拡大するのではなく、環境資源や人口問題の制約の中で持続的な経済発展を志向する、まさに我が国が「脱資源発展国家」として未来を切り開いていくキー概念になるものだと強調しています。併せて、『ビジョン』は、このDNAに裏付けされ高い生産性の伸びを維持してきた製造業の潜在的可能性を、それ以外の産業にも波及させることができる、としています。「ものづくり力」の汎用性、普遍性に大いに期待しているわけです。
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こういった考え方は妥当なものと考えますが、それを実現していくためには、公的政策において、例えば環境政策の推進やエネルギー政策の転換、あるいはリサイクル社会を支える社会資本整備など、個々の企業の活動を誘導し、コスト負担を軽減する支援策が不可欠となってきます。また個々の 企業においても、人材育成、省エネルギー、生産工程の効率化など綿密な事業計画と十分な資金手当が必要とされてくるため、「ものづくりパラダイム」に関して経営全体の意思統一をはかることが重要になってくるものと考えます。 |
3、ものづくり力は技能+技術+科学
『ビジョン』は、「ものづくり力」は技能・技術・科学の三つの要素が結合したものでなければならないと強調しています。これまで、「ものづくり」は、どちらかというと技能に力点が置かれていたわけですが、今後はこの三つの要素が融合、相互補完されなければ製造業の発展はないとしています。
確かに、私たちは「ものづくり」と言う場合、現場でのものづくり技能、あるいはものづくりの工程管理・品質管理などを頭に描いていました。さらに近年は、技能と技術の融合が日本製造業の成功を導いたとの分析が一般的でした。
しかし『ビジョン』は、この「技術・技能」に加え「科学」との結合を強調しています。確かに、「ものづくり」と科学との融合はまだ成功事例が少なく今後の課題でしょうが、『ビジョン』は、新しい科学理論をベースにしながら技能・技術に異分野の知識を融合させ、新製品・新サービス・新プロセスを作り出していくことが重要だとしています。具体的には、最先端ナノテクノロジー、ロボット、バイオなどの分野が重要視されています。そして、このことが日本の製造業の競争力のアップにつながっていくと大きな期待を寄せています。 |
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私たちは、「技能・技術」という狭義のものづくりを重視しがちですが、今回の『ビジョン』は、科学の「知」を使ってイノベーションを起こすことが今後の「ものづくり」の基調になると強調しています。これは、「技能を美化することがイノベーションを阻害している」との見方を再確認しているかのようですが、製造現場では、科学によって成り立たない、あるいは科学には代替できない名工的な技能が多く見られるのも事実です。また、これまで長年にわたって完成された「ものづくり技能・技術」がたとえローテクであったとしても、実は社会的に非常に高い有用性をもっているものも少なくありません。さらに、新製品・新サービス・新プロセスの開発においても科学的知識は決して万能なものではなく、実際は新しい生活様式や社会の価値観、過去から引き継がれるニーズを的確に汲み取っていく能力や勘が深くかかわってきます。
要は、「技能重視派」と「科学重視派」が互いの「良さ」を認識し合うということが大切です。『ビジョン』が強調している技能・技術・科学の「共鳴」によって我が国の「ものづくり力」が一段と強化されるよう関係者の取り組みに期待したいと思います。
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4、アジアとの共生
今回の『ビジョン』で注目すべき主張は、「ものづくりパラダイム」は、既存の会社組織や国家組織すら超えて連携を求め拡大していく、というものです。「ものづくり」においては、「研究開発・生産・販売など、それを構成する機能に分解し、それぞれを世界の中の最適地で展開する国際的な最適機能分業体制を構築すること」になり、このことが我が国を含めたアジア諸国の利益の創造につながると強調しています。
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確かに、「ものづくりパラダイム」が力をもっていけば、「ものづくりDNA」を持つ日本は明らかに主導権を握ることができます。さらに『ビジョン』は、「特定の国家・地域が特定の産業・経済活動を惹き付けるのは、均質化する世界の中で依然として残るローカルな特性・強みである」と主張しているわけですが、このローカルな強みがアジア全体ではなく日本のみに限定されるのであれば、東アジア全体としての新しい成長や「最適機能分業体制の構築」は実現できません。実際に近年、我が国の製造業は東アジアへの直接投資を一段と拡大させ、その国の経済成長と産業の発展に大きく寄与しているわけですが、そこで「ものづくり」の技術移転が適切に行われなければ、日本の企業は東アジアの安い労働力を求めているだけの戦略なき海外進出だと言われてしまいます。
他方で、「ものづくり」の技能・技術・科学をアジアへ無条件に伝搬することは、我が国の製造業の競争力を相対的に低下させることも意味します。現在でも、製造業の海外投資が我が国の雇用の減少と技能者育成の後退をもたらしており、そのことで「ものづくり力」が実質的に弱まっている状況は否定できません。
『ビジョン』が主張するように、たとえ「ものづくり力」自らが連携を求めて拡大していくにしても、我が国としては、まず「国際的な最適機能分業体制」とはいかなる姿なのか、またアジアにおける成長プロセスとその核となる産業・技術をどこに置くのか、さらには「ものづくり」ノウハウを受け入れるアジア諸国の人材育成をどのように支援するのかなど、具体的な施策を検討していくことが重要だと考えます。
同時に、我が国としては、「ものづくり」技術・技能のノウハウで中核的なものは日本に残し温存・進化させるとか、アジアにおける知的財産権保護の規制を強化するなどの施策も併せて考えていくべきでしょう。
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5、行政の自己変革
『ビジョン』は、国の「ものづくり政策」に関して、今後の国家間競争に打ち勝っていくためにも、官が市場のプレーヤーの行動を正しく理解し適切な市場をデザインしてこれを提示することが重要であるとしています。そのためにも、行政は「現場」を見なければならない、現場で起こっている変化の原因や構造問題を考えなければならない、と指摘しています。
このような現場主義にこそ、ピラミッド型組織における組織的一体性を重視した従来型の情報伝達や意思決定システムではなく、ITによる共有可能な形式知に加え、「顔と顔を会わせること」でしか得られない「現場の暗黙知や臨機応変な判断の重要性」を認識し共有できるチャンスがあるとしています。そして、「ものづくり」政策を担う行政担当者は、政策現場の精鋭部隊としての自己変革をしなければならないと自らが宣言しています。 |
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「ものづくり」政策における行政の役割は非常に大きいものがあり、それだけに『ビジョン』が示したこのような発想は十分に評価できます。但し、実際にどれだけの行政担当者が生産現場に足を運こび、その現場経験から我が国の「ものづくり力」の強化、ひいては製造業の発展に向けて実効性ある政策を打ち出していけるのか、政策の実行面が大きく問われると思います。また、この『ビジョン』が示した国家戦略に関わるすべての行政部門の関係者が意思統一し、行政組織の改編を含めて的確に対応しなければならないことは言うまでもありません。
この他、行政として、「ものづくり」の人材育成の観点から技能を客観評価できる基準の作成にも取り組む、あるいは「ものづくり」現場での女性の活用も検討していく方針が示されています。今後の「ものづくり」行政の大いなる前進を期待したいと思います。 |
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