1、中国の経済の発展をどう観るか
年明け早々、中国経済に関し大きなニュースがいくつか流れました。一つは、1月9日に中国政府が発表した2003年と2004年の経済成長率の上方修正と消費者物価上昇率の安定というニュースです。成長率はサービス業の伸びにより、2003年の9.5%成長を10.0%に、また2004年の9.5%成長を10.1%と2ケタ成長に修正したというものです。併せて、消費者物価も昨年では1%台で推移し、インフレ懸念が払拭されたという状況のもとで、中国政府は今後も高度成長路線を敷いていくことが予想されています。二つ目は、2005年の中国の貿易黒字が1,000億ドルを突破し、日本、ドイツを抜いて世界最大の貿易黒字国になったというニュースです。これに関連し1月15日には、中国の外貨準備高が8,189億ドルに達し香港分をあわせると世界1位になったこと。また1月13日には、2005年における中国の自動車販売台数は輸入車の販売台数を加えると591万8千台となり米国に次ぐ世界第2位に浮上したというニュースも流れました。(注1) もちろん、それぞれの数字の背景には様々な問題点もあるわけですが、とにかく中国経済の急激な発展を象徴するかのようなものばかりです。
注1)このニュースは1月18日に572万台に訂正され、日本の585万台を下回り世界第3位であったようです。しかし、2006年度では日本を上回るのは確実とみられています。
我が国としても、中国との経済関係がますます拡大している中、とりわけ貿易、直接投資、技術移転などの面で今後、我が国の製造業が受ける影響も大きくなっていくことが予想され、私たちとしても中国経済の現状と今後の展開について的確に把握していく必要があります。以下、最近の中国情報や政策決定に影響力をもつ中国人の経済学者やシンクタンク・スタッフのヒヤリングをもとに、日中関係のあり方含め、若干のコメントをいたします。
2、「第11次5カ年規画」に見る政策の転換――調和の追求
中国政府は、本年3月に全国人民代表大会(日本の国会にあたる)を開催して、ここで2006年から2010年までの「第11次5カ年規画(旧計画)」を決定します。また、本年の経済成長の目標については、すでにその下限を8%に設定しています。
ここ数年にわたり、「土地・金融バブルの崩壊」「エネルギーの制約」「環境・労務コストの上昇」「様々な格差拡大による社会の崩壊」などを理由に中国経済の「成長限界説」が中国研究者を中心に主張されてきましたが、現実の中国経済はこれらの予想に反し高い経済成長を続けています。
中国経済は、むしろ発展の過程で生じる様々な矛盾を克服し、そのことによってまた新たな発展が誘発されるという成長プロセスに突入していると言えるでしょう。この背景には、外国からの資本導入や技術移転が一段と進み、これにより生産力が強化されマーケットも急激に発展していることがあります。とくに市場においては、労働市場も含め効率的な競争原理が働きはじめていること、また、社会の指導層の柔軟且つ“したたかな”政策遂行も経済成長を支えている要因ではないかと思います。
この政治指導者、行政官僚、経営者、そして政策決定にかかわる学識者の意識改革が着実に進んでいることは極めて重要なポイントだと思いますが、このことは、本年3月に決定される「第11次5カ年規画」の策定過程とその内容に象徴的に見ることができます。新しい「5カ年規画」は、現時点では、昨年10月の共産党中央委員会全体会議で党中央から示された「提案」というものですが、我が国ではマスコミの扱いも小さいため、その内容と特徴を簡潔に紹介します。
まず最大の特徴は、これまでの社会主義的「計画経済」から「規画」という表現に変え、市場を重視した経済政策への転換をより鮮明にしているところです。そして、今回の経済計画案の策定が共産党中央の独占的作業ではなく、明らかに大学やシンクタンクの研究者などが広くかかわっているということです。そのためか、経済・社会の問題点や矛盾を遠慮なしに列挙し、そしてこれまでの政策を総括した上で改革のグランドデザインを提示するという構成にしています。
ここで指摘されている中国経済・社会の問題点や矛盾点は、「生産性の低さ」「アンバランスな経済発展」「自主的創造的な技術開発の努力不足」「経済発展が市民生活の向上に連動しない状況」「農業・農村・農民問題(三農問題)の深刻化」「失業増大など雇用問題の発生」「貧富の格差の拡大」などです。
これに対し、「提案」では、今後5年間にわたり「人を主体とした立場から社会全体の持続的な均衡発展を目指す(「科学的発展観」という用語を使用)」という考えのもとに、@三農問題の解決による都市と農村の発展の調和、A後発地域の支援による地域発展の調和、B雇用・社会保障・教育など公共サービスの充実による経済と社会の発展の調和、C資源節約と自然環境の保全による人と自然との調和、D開放政策を推進しながら国内の市場の発展をはかる国内と対外との調和を制度の拡充――という「五つの調和」を実現することを強調しています。
そして5年後の数値目標として、「1人当たりGDPを2000年の倍にする」、「エネルギー原単位を20%引き下げる」、「対外開放政策の推進により国際収支をほぼ均衡させる」などを掲げています。(別表参照)
ケ小平が「改革開放政策」の一環として沿岸地域の産業振興に力を入れはじめた1992年以降、中国では「経済成長至上主義」が支配原理となり、その結果、1990年から今日までの15年間にGDPは約4倍に膨張しました。しかし他方で、中国社会には様々な歪みや格差が生じ、さらに環境問題やエネルギー問題も一段と深刻化してきました。エネルギー不足によって石炭への需要が急増する中、安全対策無視した炭坑での落盤事故や爆発事故が頻発しているという事態は、社会的歪みの象徴的な出来事だと言えます。
環境汚染とエネルギーの大量消費が続けば持続可能な成長は望めない、あるいはこのままでは社会が不安定化する、という認識が一段と強まる中、中国の指導層は、ここにきて政策理念の大きな転換をはかろうとしています。今後、「バランスの回復」、あるいは「人間を主体とする社会」というスローガンが具体的な政策の遂行で実現していけば、まさに中国経済は質量相伴った新たな発展段階に入っていくものと考えられます。これより5年間、政治指導者、経営者達の手腕が大きく問われることになりますが、私たちとしても今後の成り行きを注意深く見守っていく必要があると考えます。
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