1、海外進出のリスク対応の高まり
かつては競うように中国や東南アジアに進出した日本のメーカーが、近年、国内の生産拠点を強化する傾向が強まっています。
1995年前後より、バブル崩壊によるコスト削減要請や円高を乗り越えるために、日本のメーカーは国内生産に見切りをつけ、生産拠点の海外シフトに走りました。とくに、「付加価値の低い生産工程は中国で」という経営戦略が一般的なものとなったわけですが、しかし近年、この流れが大きく変わろうとしています。
この製造業の日本回帰の現象について、「日経ものづくり」2005年12月号は、国内メーカーのアンケートを実施し、その結果(581の有効回答)を掲載しています。
これによると、今後国内の生産額を「大幅に増やす」と回答した企業は10.1%、「やや増やす」の34.1%と合計すると44.2%が国内での生産増の方向を示しています。
その主な理由として、「日本国内の工場を充実させなければ、高機能・高品質の製品を生み出す生産技術を維持できない(61.5%:複数選択)」、「技術やノウハウ、知的財産の流出を防ぐ(59.4%)」、「利益率の低い安価な製品の生産を抑え、国内市場でしか作れない高付加価値製品を増やしている(55.8%)」、「製品企画・開発部門がある日本で生産した方が、摺り合わせによる連携がはかれ競争力の高い製品が生まれやすい(46.0%)」が上位4つの理由になっています。
アンケート結果に見られるその他の理由を含めて、生産拠点の日本回帰という現象を分析しますと、その背景として、我が国のメーカーの中に、いわゆる「中国リスク」への意識が高まっているということが上げられるでしょう。当初の見込みより大幅なコスト削減にならなかった実態、2003年のSARS問題や電力不足問題などインフラの問題、昨年来の反日感情の高まりなどが指摘されます。さらに、我が国メーカーも現地生産で流出する可能性がある「知的財産」をきちんと守っていかなければならないという課題も重要になってきています。
このように、我が国の製造業においては、従来の海外進出のあり方が問われ、生産拠点をどのように再構築するか、あるいは製品開発力や生産技術をどのように高めていけばよいか、という課題が大きくクローズアップしてきたと言えます。
2、高まるマザー工場機能
製造部門の海外進出における諸問題への対応策として、ここ2〜3年、我が国のメーカーは「海外仕様のための生産技術の開発を担うマザー工場機能の重視」という戦略を打ち出しています。「日経ものづくり」のア
ンケートにも、「海外生産をしており、国内にマザー工場がある」という回答が42.5%もあります。マザー工場は、一般的には「生産技術の発信基地」としての工場ということですが、具体的には、製品開発、量産化にむけた生産工程の機能強化とその結果として得られる生産技術や生産技能の「形式知化」「マニュアル化」を担う工場と定義されます。
2000年の頃から、アジアのメーカーを含めた「グローバル競争」が一段と激化していく中、我が国メーカーはこの競争で生き残るための高付加価値製品を造る力の強化が要請されるようになりました。これに応えるために、「従来にない高機能な製品や部品を造れる生産技術力」を保持し高めていく実証の場としての工場機能が求められるようになったのです。
日本経済新聞社論説委員の後藤康浩氏によると、マザー工場は主に3つのタイプに分類されるようです。第1は、工程削減や設計変更など生産技術を高める工夫をして新製品の量産化を可能とする生産技術の発信基地タイプ。第2は、開発・設計部門に重点をおいた製品開発に特化したタイプ。第3が、海外市場向けの技術・技能を開発し蓄積していくタイプです。そして、この第3のタイプが今後の主流になっていくのではないか、というのが後藤氏の推測です。
これには、人口減や社会の成熟化に伴って我が国の市場が成長の限界を迎えるため、製造業は必然的に海外に市場を求め、そして現地生産を拡大していかざるを得ないという背景があります。海外生産では、その国の人々が造ったらどうなるかを検証し、そこに適したマニュアルを作り、技術・技能の移転を円滑化する訓練システムを開発するニーズが高まる。そして、この役割を担うのがマザー工場ということで、しかも、求められる機能を備えた工場は、様々な要件を満たす日本国内でないと成立しないというところがポイントです。
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