政策レポート

2014年1月24日

二つの予算で経済の好循環は作れるか

 1月24日に通常国会が開会しました。この国会で、安倍政権は、まず昨年末に編成した補正予算案と来年度政府予算案、ならびに関連する税制改正関連法案の成立を目指します。

 現在の政権の最大の課題は、回復基調にある日本経済を着実な成長路線に乗せることにあります。しかし、本年4月からの消費税率引き上げによって、駆け込み需要の反動による消費減や消費者の節約志向、あるいは税率引き上げ分を価格転嫁できない中小下請け企業の業績低下などにより、全体的として国内需要が減少し、一時的に景気が後退することが予測されています。この景気後退がどのくらい継続するかについては諸説ありますが、政権としては、年度末から新年度初めにかけての景気の低迷期に、早目の財政支出によって積極的に需要を創りだし、景気を下支えしようとする戦略に立っています。この戦略を財政的に裏付けるのが平成25年度補正予算案ですが、果たして有効なものとなるのでしょうか。

1、補正予算案

 昨年12月19日に閣議決定した5兆4654億円の本年度補正予算案の主な項目は、次のとおりです。この補正予算は、これに先立つ12月5日の閣議で決定された「好循環実現のための経済対策」を予算面で具体化したものです。

<歳 出>

〇競争力強化対策                1兆3980億円

〇女性・若者・高齢者・障害者向け施策      3005億円

〇防災・安全対策の加速              1兆1958億円

〇低所得者・子育て世帯への影響緩和、

駆け込み需要の反動減の緩和            6493億円

〇地方交付税交付金                1兆1608億円

〇東日本大震災復興特別会計繰り入れ   1兆9308億円

〇その他                              3636億円 

〇当初予算の経費減額             ▲1兆5334億円

  合  計                            5兆4654億円

 

<歳 入>

〇法人税等の増収見込み分           2兆2580億円

〇税外収入の増収見込み分              3659億円

〇前年度剰余金受け入れ                9108億円

〇復興財源の前年度剰余金受け入れ    1兆9273億円

〇復興財源の税外収入                     35億円

     合  計                       5兆4654億円

 

この25年度補正予算案はどのような意味や課題があり、今後、日本社会と経済にどのような影響を与えるのか、以下、3点についてコメントします。

(1)財源の問題――財政再建の軽視

 補正予算は、12年度決算の剰余金、復興財源の使い残し、景気回復に伴う法人税の増収分などを財源としています。これにより国債の追加的発行は行なわれないものの、増収分は国債返済に回し、財政再建に少しでも寄与しようとする 財政政策の基本姿勢は一切見られません。ここには、4月からの消費税率引き上げに伴う景気の落ち込みを極度に警戒し、景気対策最優先の姿勢が反映していると言えますが、財政再建を意識しない財政運営が今後どのような影響をもたらすか、懸念されます。特に、昨秋より貿易赤字の拡大によって経常収支の赤字基調が続いていますが、このことによって国債が国内消化できない事態も予想され、将来的な財政危機の引き金になることも考えられます。

(2)公共事業への過度の依存

 「好循環実現のための経済対策」を目標に編成された補正予算案ですが、その内容は、公共事業など直接的に財政支出によって景気を刺激する短期的な財政支出と、産業競争力強化や雇用拡大策、あるいは東日本大震災の復興促進といった中長期的な政策を実現するための財政対策が混在しています。とくに問題なのは、短期的な経済対策として公共事業が重視され過ぎていることです。すでに、公共事業は東日本大震災の復興事業に見られるように、人手不足と資材の高騰によって事業そのものが予算どおりに執行されていません。また、公共事業は全体の需要拡大に貢献する乗数効果が小さいということは自明のものとなっています。このことから、補正予算の景気下支えの効果はさほど期待できないと考えます。

(3)産業競争力の強化策の効果

 競争力強化などの中長期的な政策については、1兆4000億円の予算措置がとられ、とくに中小企業対策が中心になっていることから、中小企業の経営環境の改善にプラスになると期待されています。そして、政府としては、先の臨時国会で成立した「産業競争力強化法」とセットでその効果を発揮しようとしています。しかし、同法は製品開発における規制の事前調整、ベンチャー支援、中小企業の投資に対する資金手当などが中心で、以前の「産業活力再生法」の枠組みの延長線上の施策が並べられているに過ぎません。これでは、真に日本経済と産業を牽引するには至らないのではないか、との評価がされています。今後は、設備投資拡大のための施策のみでなく、流通・サービス業も含めた労働生産性を引き上げるための従業員教育や生産・販売システムの改善対策など、消費を下支えする勤労者の所得引き上げをめざした施策に戦略的に予算配分することが重要であると考えます。

 

2、来年度政府正予算案とその問題点

 本年度補正予算に続き、昨年の12月24日に閣議決定された来年度政府予算案については、これより国会で長期間にわたって審議が行われていきますが、この予算案もいくつかの問題点や課題が指摘されています。まず、2014年度政府予算案の全体像を見ると、次のようになっています。

<収入>

  〇税収          50兆0010億円

  〇その他収入      4兆6313億円

  〇国債            41兆2500億円

    計              95兆8823億円

<支出>

〇政策予算        72兆6121億円 (基礎的財政収支対象経費)

 社会保障関係          30兆5175億円

 公共事業関係            5兆9685億円

 地方交付税             16兆1424億円

 文教科学振興            5兆4421億円

 防衛費関係              4兆8848億円

 経済協力                  5098億円

 中小企業対策                1853億円

 エネルギー対策              9642億円

 食料安定供給関係      1兆0507億円   

 その他                6兆5969億円

 予備費                   3500億円

〇国債費              23兆2702億円 

     計                  95兆8823億円

 

(1)膨張する予算案と財政再建からの逃避

 来年度の国の収入は、景気回復に伴う法人税の増収と消費税率引き上げによって大きく増え、税収と税外収入あわせて54兆6323億円の増収を見積もっています。本年度の当初予算は47兆1495億円でしたので、増収分は約6兆5000億円に上ります。

 一方、支出については、あらゆる予算項目で昨年に比べ増額され、基礎的財政収支対策と呼ばれる、いわゆる政策的経費は72兆6121億円で、今年度の70兆3700億円に比べ、2兆2421億円増えています。増額の主要因は、約1兆5000億円が高齢化に伴う社会保障費の増額なので、一概に大盤振る舞いの予算案とは言えませんが、増収分に比べ、国債発行額は1兆6010億円の減額でしかないこと、また補正予算と一体化した15ヶ月予算とすれば、やはり来年度予算案は財政再建を無視した膨張的な予算と言わざるを得ません。

 とくに、公共事業については、特別会計の一般会計への統合によるものがあるものの、今年度予算に比べ12.9%も伸びました。今年度予算も前年度比で15.6%伸びたわけですが、民主党政権時代に縮減してきた公共事業は、自公政 権になってから建設業界や地方自治体の政治的圧力によって確実に復活してきた、と言ってよいでしょう。

 また社会保障関係については、高齢化に伴って拡大し続ける社会保障費を一定程度抑制する必要が迫られる中で、安倍政権では有効な施策を何一つ打てていない状況にあります。まずは、自民・公明・民主の3党で合意した「社会保障と税の一体改革」の議論について、早急かつ確実に進めていくことが求められます。

 

(2)国民負担の増加

 今回の予算案は、景気回復基調のもとでの所得税と法人税の増収を前提にしていながらも、さらに消費税増税を図るという、国民にとっては過度に負担が課せられる内容となっています。一方で、法人税については復興法人特別税の前倒し廃止が行われ、さらに法人税減税に向けた本格的議論も始まろうとしており、まさに「企業に優しく、家計に厳しい」と言われる予算案・税制改正案となっています。

 この国民の負担増を具体的に見ますと、本年4月以降の消費税率引き上げに加え、次のとおり、社会保障をはじめ、さまざまな分野で家計の負担が増えていくことになります。

 〇消費税率の引き上げ   5%→8% 2014年度で約5兆円の増税。但し、住民税非課税世帯には一人当たり1万円(年金受給者1万5000円)が支給される。

 〇年金保険料の引き上げ  厚生年金保険料が2014年9月より0.354%引き上げ(労使が折半)

 〇高齢者医療の負担    70歳~74歳の窓口負担を新たに70歳になる人を対象に1割から2割へ引き上げ

 〇受診料の引き上げ    4月より、病院などでの初診料を40円程度、再診料を10円程度引き上げ(いずれも自己負担分)

 〇高校無償化に所得制限  保護者(父母併せて)の年収が910万円を超える場合は対象外となる。約22%の世帯が年間11万8800円の支給がなくなる。

 〇自動車税の引き上げ   2015年4月より軽自動車の新車に対し自動車税を7200円から1万8000円に引き上げ。さらに購入して13年が過ぎた車の重量税・自動車税も引き上げに。一方で、自動車取得税の減税、エコカー減税拡充が行われる。

 以上の予算・税制絡みの負担増に加え、ガソリン・灯油、小麦、大豆など円安に伴う輸入品の価格上昇、さらなる電力料金の引き上げなども予想されます。これらの生活費の上昇に対し、賃金などの収入が増えなければ、各家庭は生活防衛の視点からより節約指向となり、全体としての消費が落ち込んでいくことが懸念されます。 

 

3、成長戦略と基本的政策の問題

 安倍政権は、デフレ脱却を旗印に、高い内閣支持率を保ち、そのもとで外交・防衛政策の変更や憲法改正議論など進めようとしています。デフレ脱却と成長戦略は、あくまでその他の政策推進のための手段になっている観を呈していますが、実際に力を入れようとしている成長戦略についても、企業の設備投資や研究開発に税制上の優遇措置や補助金を付与するという枠内に止まっています。

 現在、我が国が求められる真の「成長戦略」とは、革新的な分野に対する戦略的な投資であり、それは併せて、経済の再生、財政の健全化、そして国民生活の安定と雇用の確保に寄与するものでなければなりません。例えば、民主党政権時には、成長戦略として「グリーン(環境・エネルギー分野)」、「ライフ(健康分野)」、「農林水産業の分野」などへの研究開発と資金投与、そしてこれらの産業を支える中小企業の育成・保護のために、思い切った規制改革や戦略的な予算配分を行う方針が打ち出されました。しかし、安倍政権の成長戦略は、先端産業や大企業の研究開発に向けての予算配分や労働分野や社会的な安全規制の分野での規制緩和を含めた規制緩和推進施策に重点が置かれており、雇用や地域再生、あるいは食料自給率の向上とか、人材の育成などの視点が弱いように思えます。但し、「ものづくり」に対しては、それなりの高い意識を持って政策を進めようとしている姿勢は評価できると思います。