政策レポート

2014年7月 4日

非正規雇用問題への民主党の取り組みとその意義

Ⅰ. 非正規雇用の実態と民主党の関わり方

 

  今日、非正規雇用労働者が増え続けています。本年3月時点で、全雇用労働者数5541万人のうち、1964万人(うち1332万人が女性)が非正規雇用労働者になっています。ほぼ3人に1人の割合です。非正規雇用労働者は相対的に賃金水準が低く(正規の62%)、雇用期間が定められていて不安定な状況にあります。社会保険が適用される人も半分程度です。

  特に問題なのは、主たる生計維持者が非正規雇用の場合、本人・家族が生活苦に陥るケースが多いことです。とりわけシングルマザー・シングルファザー家庭の場合はこのケースが多く見られます。また、非正規雇用労働者は職業能力を高めるチャンスも少なく、正規雇用に結びつくことが困難になっていますし、雇用が不安定なため、結婚、子育てなど将来設計を立てるにも困難な状況に置かれています。

  これら、非正規雇用労働問題は、我が国としても早急に解決すべき政策課題であり、民主党も野党時代・与党時代を通じ、保育対策、貧困対策を含めた雇用政策を提言し実行してきましたが、現在まで事態を大きく改善するには至っていません。

  民主党としては、野党の立場から単に政策面で政府・与党に注文をつけるだけではなく、実際に非正規労働者を支援し、併せてこのような地道な活動を通じ民主党への信頼と支持を取り戻すという方針のもとに、本年4月16日に大畠幹事長を本部長とする「非正規雇用対策本部」を発足させました。

  私はこの本部の事務総長に就任しましたが、この本部は、非正規雇用労働者にかかわる諸課題をより明らかにし、政党として何ができるのか、あるいは、労働組合やNPOなどとどのように協働できるのかなど、関係者のヒヤリングも行いながら検討してきました。

  そして、6月24日の民主党役員会において、非正規雇用労働者が持つ個別の課題を受け止め、その問題解決に全国の民主党組織や議員が取り組む運動体として、「働きがいのある人間らしい仕事」推進協議会を設置することを決めました。

  今後は、民主党の県連・総支部・議員が連合や労働者福祉協議会の地域組織、あるいは非正規雇用問題に取り組むNPOなどに共同行動を呼びかけ、問題を抱える非正規雇用労働者の声を聞きながら、相談活動や行政への働きかけを行い、さらには生活資金の貸し付けを含む必要な支援活動を展開していくことになります。

 

Ⅱ. 非正規雇用労働問題の課題と対応のあり方

 

  民主党非正規雇用対策本部は、非正規雇用問題の本質はどこにあるのか、その解決に向けた政策的・運動的課題や留意点はどこにあるのかなど、関係者からのヒヤリングも参考にしながら検討してきましたが、6月19日の対策本部で以下の『非正規雇用労働問題の課題抽出にむけた中間報告』を確認しました

  この『中間報告』は、対策本部が設置される前から、私(加藤)と岸本衆議院議員、辻元衆議院議員、NPO活動家、労働組合関係者など数名の有志で検討してきたものをベースにして策定されたもので、9つの論点整理と、3つの各論から成り立っています。今後の非正規雇用労働問題の解決に向けての民主党の活動の参考になれば幸いです。

 

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「非正規雇用労働問題の課題抽出にむけた中間報告」

2014年6月19日

民主党非正規雇用対策本部

 

  バブル崩壊後の日本の社会・経済は、内外の様々な影響を受けたことにより構造的な変化が起き、その結果の一つとして、様々な面で格差が拡大しました。そして、格差拡大は、低年金・無年金の高齢者、長期間にわたる失業者、低賃金の非正規雇用労働者、シングル・マザーなどに見られるように、深刻な貧困問題を引き起こしています。

  このような状況の中で、民主党と民主党を支持する労働組合は、その政策立案・政策実行力と組織力を背景に、格差と貧困の問題に真剣に取り組んでいく必要があります。当然、この課題については幅広い視点からの検討が必要となってきますが、ここでは、格差と貧困の大きな誘因の一つとなっている「非正規雇用労働者問題」に焦点を絞ることとします。とくに労働・雇用分野における格差問題は、これまで、性別、学歴別、年齢別、企業規模別、職業能力別などに起因する格差が論じられてきましたが、現在は、「正規雇用か、非正規雇用か」という点での格差問題に焦点が移ってきています。そして何よりも、多くの若者が非正規雇用労働に就くことを余儀なくされ、そのことで職業能力を向上させる機会を失い、さらに将来に展望が持てないという深刻な状況に置かれています。「同一労働・同一賃金」の原則に立ち、非正規雇用労働者の雇用の安定と労働条件の引き上げ、そして職業能力の付与について、一刻も早い対策を講じていく必要があります。また、このことは労働組合の組織率の引き上げにも繋がっていくものと考えます。

  以下、これまでの議論から浮かび上がった論点を整理しながら、政策的インプリケーションを探り、民主党や連合等に向けて「政策課題」「運動課題」に関する提案を行います。

 

1、格差問題の本質と格差是正の可能性

 

(論点1)格差そのものを分類する必要があるのでないか?

 

  格差問題を論じる場合、「格差」に対する人々の認識には幅広いものがあるため、一定の格差については許容されるべきという意見、あるいは格差に関する自己責任論を主張する意見も根強く残っており、このことが議論を複雑にしています。

  例えば、労働・雇用の場における様々な格差があり、正規と非正規との間では賃金水準、福利厚生、訓練機会などで差別的処遇が見られますが、これを許容することができるかどうかの明確な基準はありません。また、残存する差別的処遇や格差について、最低賃金制度などのミニマム保障、所得再配分機能の活用、あるいは機会均等の保障など企業内外の制度改革によって対応できる格差と、社会的正義・社会通念、あるいは人間の尊厳などの視点から、文化的・社会政策的な改革をしなければ解消できない格差もあります。

  幸いにして、労働・雇用の場においては、「同一労働・同一価値・同一賃金を原則とする」という理念が、様々な格差や差別的処遇についての判断基準の一つとなってきました。例えば、一定の権限と責任を与えられ、やりがいをもって仕事をしている「パートタイマー」の労働者について、許されない格差や差別的処遇は何なのか、という判断基準は、裁判における判例や労働組合の取り組みなどの積み重ねから明確になりつつあります。その基準にもとづき、緊急性の高いものや実現性の高いものと、時間を要するものとに分類し、優先順位をつけながら、その是正策を打ち出していくことが一つの方法として考えられます。

  具体的には、労働・雇用政策に関する政府への要請や議員立法、さらには企業の労務管理システムの改革要請など、フォーマルな形での対策を推進していく方法を取っていくことになりますが、併せて、市民・労働者が地域のコミュニティーの中で助け合うというインフォーマルな共助システムの構築についても、積極的に関係方面に働きかけていくことも必要となってきます。

 

(論点2)非正規雇用労働者の増大した要因を明確化する必要性

 

  職場における正社員との処遇格差、低い労働条件、雇用の不安定という非正規雇用労働者の問題を解決するためには、非正規雇用労働者が増加した背景や要因について的確な認識を持つことも重要です。一般的には、「不況による市場の縮小や経済のグローバル化によっていくつかの国内産業が比較劣位に置かれ、その産業の生き残りをかけた製品・サービス単価の引き下げとそれを補う労働コストの切り下げを迫られた経営者が非正規雇用の積極的活用をはかったため」と要約できるでしょう。ある意味で、グローバリゼーションの必然的な結果として表れた側面がありますが、これに政府による労働市場の規制緩和政策が拍車をかけたわけです。

  そこには、財界の政策要望を寛大に受け入れる自民党政権の体質や、それまで企業構成員である従業員の利益を優先してきた日本的経営の転換や、国内での投資を避け海外での工場立地を選択する経営者の投資戦略の変化があったわけです。さらには、不況のもとで正社員組合員の雇用確保を優先した労働組合の行動規範があったことも指摘できるでしょう。これらマクロ・ミクロの政策変化が相乗的に作用して、「非正規雇用労働」という労働市場における低コスト構造が形成され、その増大を促してきたわけです。

  このことから、格差是正には、制度改革とともに、政治や経営戦略のみならず、企業文化や労働組合の行動様式などの見直しも前提になってくるでしょう。

 

(論点3)「新自由主義」的政策から如何に訣別していくのか?

 

  格差が拡大し非正規雇用労働者が増大した実質的な契機は、多分に「新自由主義」的な政策理念にもとづく労働政策にありました。我が国において、本格的な規制緩和政策が実施されたのは小泉政権からです。とくに、「労働者派遣法」の改正による労働分野における規制緩和策は、一挙に非正規雇用労働者を増大させることになりました。

  もともと「新自由主義的」政策は、福祉国家の限界と財政の赤字化、そしてその背景にある既得権益の温存、公的部門の非効率化、公的な規制による市場活動の停滞などを問題視し、規制緩和、行政改革、競争原理の導入などの政策を取り入れることで脚光を浴びてきました。この政策は、公的部門の効率化、住民サービスの向上、市場の拡大、チャレンジ的精神の醸成など、それなりのプラスの影響をもたらしましたが、労働市場においては、既述のように、派遣労働者など非正規雇用労働者の増大や労働条件の低下など、大きなマイナスの作用をもたらしました。

  今日、景気が回復基調に乗り、産業の国際競争力も回復しつつある中で、労働者を犠牲にした過度の競争原理の導入、株主利益の優先、労働分配政策の軽視、さらには社会問題からの逃避といった「新自由主義」的経営の「エートス」を転換する必要があります。まさに、新しい資本主義のあり方を追求する企業の取り組みが求められているわけですが、今日、その可能性の一つとして、大企業を中心としたCSRの活動とともに、利潤以外の価値をも追求し、途上国支援や貧困対策など社会的問題にも関与する「公益」的資本主義あるいは共益資本主義という考え方とその理念にもとづき実際に活動している企業が注目されています。

  これらの企業活動が、労働市場における従業員の地位向上にも影響を与えることが期待されます。また今日、景気回復と人口減の中で労働力・人材不足が問題視されていますが、労働市場の需給逼迫を労働条件の引き上げに連動させていく環境整備も行っていかなければなりません。

 

2、非正規雇用労働への評価と格差是正のための具体的政策

 

(論点4)「非正規から正規へ」という主張とその可能性は?

 

  非正規雇用労働の問題の解決策として、一般的に「非正規雇用を正規雇用に転換せよ」という要求があります。厚生労働省の調査でも、「正社員として働く機会がないために、やむなく非正規で働いている」という労働者は、契約社員で34.1%、派遣社員で44.9%にも上り、また、非正規で「正社員になりたい者」は15歳~34歳の層で41%、33歳~45歳の層で24%となっています。

  この数字は、「非正規から正規への転換」と要求は正当な要求であることを裏付けていますが、一方で、正規への転換の可能性が現実のこととして見通せない、あるいは“諦め”などの消極的な考え方、さらには労働時間・勤務地・仕事上の責任の負荷などの面から「非正規でよし」とする考え方もあり、「非正規のままで働きたい」という労働者の比率も高い、という事実をも表しています。

  したがって政策的には、第一に、「非正規雇用から正規雇用へ」と雇用契約上の移動を促す政策と、第二に、非正規雇用労働者そのものの労働条件を、「同一労働・同一価値・同一賃金」の原則の下、EU諸国並みに引き上げ、雇用を安定化させる政策、の二つを同時に提示する必要があると考えます。

  また、第一については、企業内における移動、つまり非正規労働者を正社員に採用する誘導政策と、正社員を募集する企業への就職を支援するという企業横断的な移動促進施策、の二つの施策を考慮する必要があると考えます。

 

(論点5)「正社員」は果たしてディーセントワークなのか?

 

  前項の「非正規雇用労働者を正規雇用に」という要求は、「正規雇用労働者は、雇用が安定し、一定の労働条件が確保され、福利厚生やキャリア教育が充実し、働きがいをもって働くことができている」という前提があってはじめて正当な要求になるものです。しかし、企業間競争の激化や収益率の低下、労働分配率の低下などを背景に、現在、正規雇用労働者も厳しい労働環境に置かれているケースが多いと言われています。極端な事例として、「ブラック企業」と称されるものまで出現しています。

  したがって、非正規雇用労働問題を論じる際には、同時に正規雇用労働者の働き方についても論じるべきであり、民主党や連合としても、すべての労働者に「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」が保障されるよう、日常の労働組合活動や労働・雇用政策に関する立法活動を推進していく必要があると考えます。

 

(論点6)非正規雇用の労働条件引き上げの方法は?

 

  労働市場において非正規雇用という働き方を少しでも減らし、また非正規雇用として働いている労働者について、「同一価値・同一労働・同一賃金・同一処遇」を原則とした労働条件の引き上げを実現していくためには、社会的な運動の盛り上がりを背景にした政策推進活動、とくに労働組合やNPOなど、関係者による活動の推進が必要となってきます。

  まず、非正規雇用労働者の増大の要因・背景を考えれば、非正規雇用を相対的に減らす方法として、マクロ政策的にはデフレ経済からの脱却や産業競争力の強化、ミクロ政策的には労働現場における労働生産性の向上などが挙げられます。当然、経済情勢の好転を労働政策の変更に結びつけるには、何らかの政策的トリガーが必要となってきます。従来の発想からすれば、非正規労働者を正規雇用として雇う際に、補助金や税制上の優遇措置を企業に付与するなどの方法、あるいは女性や若年者の公的職業訓練制度のいっそうの拡充政策などが考えられますが、さらなる政策的な工夫が必要でしょう。

  他方、個別企業における対策としては、企業内で非正規雇用を正規雇用に変えやすくするためのコンサルタント業務の推進や、「正規」と「非正規」の間の労働条件の格差を縮める具体的施策を企業に求める活動が考えられます。いずれも、「同一労働・同一価値」の基本理念に立って一つ一つの差別的処遇を改善していく活動が基本となりますが、このプロセスを後押しする最低賃金制度をはじめとする労働関係法令の整備を推進するとともに、企業内や地域社会において差別意識を取り除き、基本的人権を尊重する文化を醸成することも必要だと考えます。

  なお、非正規雇用労働者の労働条件の改善に関わる法的措置としては、「パート労働法」の改善が注目されます。「パート労働法」は、①社員と仕事内容が同じ、②社員と同じように転勤や配置換えがある、③契約期間に定めがない―の3要件が当てはまるパートについて正社員との差別を禁止していますが、今回、国会で改正された「パート労働法改正案」は、③の要件を削除し、期間に定めがある有期雇用のパートにも対象を広げます。このことで、約1400万人(2012年)のパート労働者のうち、対象者は約20万人から約30万人になることが推計されています。今後は、この法的枠組みについて、さらなる条件緩和を行い、他の雇用領域にも拡大していくことが重要になってきます。

 

3、非正規労働者に対する日常的な支援・フォローのあり方

 

(論点7)職場において何がフォローできるか?

 

  政党、労働組合が日常的な活動の中で、非正規雇用労働者を支えることができるのかどうかが試されています。とくに労働組合は、事業所内の活動において、非正規労働者を「働く仲間」として組織化に全力を尽くすことが求められます。かつてのゼンセン同盟などが取り組んできた「パート労働者の組織化」は長い歴史を持っていますが、依然として組織化の運動方針を決めるまでには至っていない労組も数多く残っているのが現状です。これからも連合の方針に沿った組織化の努力が求められますが、組織化に至らなくとも、労働組合は労働条件改善をフォローすることができる唯一の職場組織であるという認識に立ち、非正規雇用労働者を職場の改善や労働条件の決定プロセスに参加させる機会づくりを考慮しても良いでしょう。例えば、労働組合の大会や会議にオブザーバー参加を認めたり、「三六協定」や労働安全衛生委員会などにおける従業員代表の選出に非正規雇用労働者を参加させることが考えられます。

  また、パート労働者などの組織化といっても、結社的な強固な組織論ではなく、出入り自由で、集まりの場を提供する程度の緩く自由な組織論で臨むなどの工夫も必要だと考えます。

  なお、非正規労働者が組織化されていなくとも、当該企業の労働組合が強い交渉力を持ち、常に一般的水準より高い労働条件を獲得する活動をしていれば、非正規労働者も安心感を持つことができるという事例も報告されており、交渉力強化に向けた労働組合運動のさらなる発展が期待されます。

 

(論点8)孤立化した非正規雇用労働者にどのようにアプローチするか?

 

  「経済的貧困」とともに、孤立化した非正規労働者の「承認の貧困・つながりの貧困」に対してどのようにアプローチしていくか、という点も政党、労働組合の一つの運動課題であると言えます。さらに、「非正規雇用労働者」のみならず、「ひきこもり」の青少年、血縁・地域社会から孤立した人々、社会的活動への参加からの逃避している人々へのアプローチも重要な課題です。

  とくに、このような人々に対して、様々な支援活動を行うことは重要ですが、同時に、政党にとっては、最終的には、社会参加や政治的参加が得られるような活動ができるかどうかが問われます。例えば、貧困問題、非正規問題に取り組むNPOの活動支援では、会議室や印刷機の利用などでも便宜をはかるなど、きめ細かい対応が必要となります。

  一方、連合では、現在「STOP THE 格差社会」を掲げ、職場のワーク・ルールの点検を訴え、非正規雇用労働者の労働相談に応じるなどの活動を展開し、さらに貧困問題に取り組んでいるNPOや弁護士会と連携した反貧困キャンペーンにも協力しています。孤立化した非正規労働者の社会参加を促進する次なる運動の展開が期待されます。

 

(論点9)労働者福祉事業との連携は可能か?

 

  政党や労働組合の非正規雇用労働者への支援方法としては、生活相談・法律相談・労働相談などに各種相談活動が一般的に考えられますが、さらに、生活資金の貸し付けなど、経済的な支援まで踏み込んでいくことも検討する必要があります。この際、労働組合と深い関係にある労働金庫や労働者共済など労働者福祉事業活動と連携することが考えられますが、これらの事業は生協法の規制により、組合員以外の員外利用については強い規制がありますし、貸出しリスクの管理の問題も出てきます。

  今後、この運動を進めていくために、政府に対し法改正や行政指導の改善を求める必要がありますが、「各論」で述べるように、当座の生活資金や結婚資金などの低金利貸付、住宅生協や医療生協の利用における便宜供与など、自らができる支援活動を展開していく必要があると考えます。

  今後は、労働組合と福祉事業団体が参加して、勤労者福祉の向上のための政策活動をしている全国の労働福祉協議会(中央労福協)とも連携しながら、これら施策の実現化に向けた検討を進めていく必要があります。(各論参照)

 

<各  論>

(各論1)非正規雇用労働者の生涯設計の支援の一つの試み

 

  非正規雇用労働者の生活支援に関しては、一部で先進的な取り組みを実施している自治体がありますが、全般的に国や自治体の諸対策は大きな効果を上げていません。このことから、政党、労働組合、NPOなどの運動体がこれらの対策の限界を乗り越える新しい政策メニューを考える必要があります。

  例えば、この施策を検討する際に、若い非正規雇用労働者が希望を持てなかった結婚を実現化するという理念型を想定し、そのための政策メニューを組み立ててみる方法も考えられます。

 

《非正規労働者の結婚を可能化する政策メニュー》

 

目標

  今後の経済の動向や社会環境の変化によって諸条件が変わってくるが、例えば、年間の所得200万円の非正規労働者の男女が結婚するとし、世帯収入400万円で暮らせる家計が将来的にも安定することになれば、若年者も結婚に希望が持てることになる。労働組合や労働福祉事業団体など連携し、その際の障害を取り除き、諸条件を整える施策を考えていく。(国・自治体の政策を含む)

 

政策メニュー

〇結婚資金(結婚式、新居や家財の購入など)に対する低金利貸付

〇若年夫婦向けの公的(NPO運営の住宅の補助を含む)な低家賃住宅の供給。安心して生活できる住まいの確保支援 affordable housing 。

民間アパート・空き家の借り上げ、家賃補助

〇出産にかかわる負担の軽減化措置として、出産手当金の増額、保育料軽減化措置、その他、様々な育児支援。

〇若年低所得者に対する所得税・住民税、健康保険料の軽減化

〇正社員化を促進する雇用法制の改正

〇若年者の公的職業訓練制度の拡充(雇用保険加入を前提としない労働者層に対するアプローチ)

 

【参考1】 非正規雇用労働者の年収

国税庁の民間給与実態統計調査によると、非正規労働者の年間給与平均額は、男性225万円、女性143万円(平均168万円)となっている。ちなみに、正規従業員は男性520万円、女性349万円(平均467万円)である。

 

【参考2】 単身者の税・社会保険料負担

《年収200万円の税・社会保険料》(住民税と健康保険は世田谷区の例)

 

a 所得税 27,200円  (122-c-d-38)万円×5%

b 住民税 60,900円  (122-c-d-33)万円×10%-2500円+4000円

c 国民健康保険料 115,900円 (89万円×6.28%+30000円+89万円×2.23%+10200円)

d 国民年金保険料 180,480円 (15040円×12ヶ月)

a+b+c+d 合計 384,480円

手取り 1,616,960円

 

単純に、200万円の非正規雇用労働者(社会保険非加入)の男女が結婚した場合を考えると、実質可処分所得は年間約320万円、1ヶ月=約27万円となる。したがって、税・社会保険・住居費、そして育児・教育費の負担を軽減していけば、一定の生活水準が保たれ、子供も持つことができる。

 

【参考3】 世帯人数別の家計支出

単身世帯  172,000円       ※全世帯の平均、平成20年

2人世帯  258,000円

3人世帯  297,000円

 

(各論2)シングル・マザー対策の強化の必要性

 

  多くが非正規雇用で、且つ少ない収入と子供の養育費のために生活苦に陥っている定型的な貧困層がシングル・マザーです。シングル・マザー(シングル・ファーザーも含む)の貧困問題は、現在、自治体での取り組みが先行していますが、細かい生活支援を含めた多角的な支援体制が不可欠であり、政党や労働組合としても、非正規雇用労働者への対策を徹底するとともに、該当する組合員への直接的な支援や、NPOと連携した支援策を講じていく必要があります。

 

<充実すべき政策メニューの例>

〇母子家庭対象の公共住宅の拡充

〇生活資金の貸付制度の拡充

〇母子世帯に対する生活保護や児童扶養手当の拡充

〇シングル・マザー向けの就学支援策並びに職業訓練制度の拡充(給付金付き)

 

【参考1】

現在、行政が提供しているシングル・マザー世帯への諸対策

(1)手当関係

※世帯収入・子供の年齢・年金支給の有無など、また各市町村により手当・支給の条件が異なってくる。

○児童扶養手当・・・第1子で41,720円(所得制限あり)

○児童手当   ・・・3歳未満=月額10,000円、3歳以上第2子=月額5,000円

○児童育成手当・・・児童1人につき13,500円(所得制限あり、東京都)

○生活保護(8種)・・・住宅扶助は、母と子供一人で上限家賃69,800円

         (生活保護には、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助などがある)

○母子福祉資金(資金の貸付)・・・生活資金・就学支度資金・転宅資金等の貸付(審査あり)

○母子家庭自立支援教育訓練給付金制度(杉並区)

 

(2)生活支援の優遇措置関係

〇国民年金の支払い 全額・半額免除

〇住民税・所得税の減免等

〇水道・下水道料金の減免等

〇ひとり親家庭医療費助成(東京都)

〇子育て支援

・ホームヘルプサービス、ファミリーサポートセンター(ショートステイ/トワイライトステイ)

・病後児保育 病児保育

・民間のヘルパー派遣

 

(3)就労促進

〇高等技能訓練促進費

〇自立支援教育訓練給付金

〇常用雇用転換奨励金(企業向け)

〇在宅就業支援事業

 

(各論3)労働運動と労働者福祉事業の運動への期待

 

(1)貧困対策、非正規雇用労働者対策など活動領域の拡大

  日本最大の労働組合の中央団体である連合は、増え続ける非正規雇用労働者の問題について、一つは、そのことが労働組合の組織率(2012年で17.9%)を下げる主要因になっていること、もう一つは、正規社員に比べ雇用が極めて不安定で労働条件も劣位にあることが様々な社会問題を引き起こしていることから、労働者派遣の製造業への解禁をした2003年の「労働者派遣法」の改正以降、連合運動の中心課題の一つとして位置づけてきました。連合本部に「非正規労働センター」を設置して当該労働者からの様々な相談活動の展開や、企業内の非正規雇用労働者を積極的に組織化する方針を打ち出してきました。

  一方、労働金庫や労働者共済など、労働組合と連携した労働者自主福祉事業活動も、労働組合員間の「共助」のシステムからさらに踏み込み、とくに東日本大震災以降、貧困問題や雇用創出などの「共生」「公益」に関わる活動まで事業範囲の拡大をはかっています。労働組合とこれら福祉事業団や生協などで構成される労働者福祉協議会(以下、「労福協」と略)は、関係組織の連携の拡大と強化をはかり、「共助拡大」と「実効性ある生活支援戦略」を展開してきました。

  非正規雇用労働者や生活困窮者を対象にした「労福協」、ならびに個別の事業団体による具体的な活動としては、主として次のようなものがありました。

 

①労福協では、政府のパーソナル・サポート・サービスのモデル事業27のうち、5つの労福協(沖縄、長野、山口、徳島、新潟)がこれに取り組む。現在も「生活困窮者自立促進モデル事業」として引き継がれようとしている。

②静岡県労福協は、2010年に、労金の特別利用配当金を受け取った労働組合の再拠出による「地域役立資金」を30億円積み立て、ライフ・サポート・センターの活動支援や奨学支援などに活用した。

③労福協として、「生活困窮者自立促進モデル事業」、「寄り添い型相談支援事業」

「反貧困キャラバン」への協力を行った。また、これらの運動から、地域の勤労者のセーフティーネットの機能を果たす「拠り所づくり」の運動に発展させようとしている。

④産別共済を活用した非正規雇用労働への福祉サービスの提供(UAゼンセン)

⑤労働金庫による失業者支援。離職によって住居を失った人への「就労安定資金融資制度」の実施。14,620件・118億7797万円の利用があった。

⑥労働金庫による職業訓練中の生活費補助支援の「訓練生活支援特別融資」を行い、その実績は約4万件・108億4000万円の融資であった。

⑦全労済は、非正規雇用労働者を対象に、団体共済内の非正規労働者を対象にした掛け金を下げたコースを導入。また、「こくみん共済」において掛金・保障が半額となるハーフタイプを用意。

 

(2)福祉事業団体による活動の展望とリスクの低減策

 

  非正規雇用労働者や失業者をはじめとする生活困窮者は、とくに経済的理由(リスクが高い)から、協同組合を利用することが困難です。しかし、事業団体も公益機能を担っているという自覚に立ち、リスクが高くとも、具体的な制度設計を工夫すれば、そのリスクを軽減することができるはずです。

  その際の課題として、ア失業共済(失業の際に見舞金を出す)の商品化については、母集団のスケールなどを加味した数理計算上の可能性の検討。イ奨学金による奨学支援と、奨学金の返済困難者に対応するために、借り換え、利子補 給などの措置の検討。ウこれらの制度・商品設計にあたっての利用者が許容できる負担額と不足分のシミュレーション――などが指摘されています。

  労福協は、これらの課題に対応し、持続可能な運動を展開していくためには、リスク軽減のための「勤労者連帯支援基金(仮称)」を創設して各制度に不足分の資金を提供する方法を提案しています。そして、この基金への拠出方法として、次のような対応を示しています。

①労働組合が事業団体から受けとる利用配当、出資配当の一部を拠出。

②労働組合の闘争資金預金の利子の一部を拠出。

③事業団体の利用促進に伴う利用配当を拠出。

④事業団体の収益の一部を拠出。

⑤関係団体の公益法人改革に伴う公益支出。

⑥個人寄付(例えば、事業団体に再就職した組合役員の報酬の一部)

⑦事業団体による、社会目的に限定したファンドの発売

 

  これらの財源対策については、労働組合と事業団の合意が必要であり、今後、関係者によって真摯な論議が展開されることが期待されています。民主党としても、これまでの労働組合、労働者福祉事業団体が実施してきた活動をしっかり評価し、さらに今後、取り組まれようとしている実効性ある活動を政治的側面で支援していく必要があると考えます。