政策レポート

2014年8月26日

「水素エネルギー」への期待と課題

1.水素社会の実現にむけての国家戦略と福岡県の取り組み

  我が国のエネルギー供給を取り巻く事情が厳しくなる中で、現在、水素エネルギーへの期待が大きくなっています。
  太陽光や風力など再生エネルギーによる発電が脚光を浴びる一方で、水素エネルギーはその陰に隠れていた観がありましたが、今日、二次エネルギー(電力のように、石油、石炭などの一次エネルギーを加工・変換したエネルギー)として重要視されており、政府も、本年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」において「水素社会の実現」を前面に打ち出しました。そして、6月24日には、経済産業省が「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を公表しました。
  そのポイントは、水素利用における技術的課題や経済性の確保の観点から、それに要する期間によって、次の3つのフェーズに分けて取組みを進めるということです。
 
第1フェーズ:「水素利用の飛躍的拡大」
  家庭用・産業用燃料電池の導入支援や実用化に向けた実証、燃料電池自動車の導入促進、車両の低コスト化・高耐久化など、現下で実現しつつある燃料電池技術の活用を拡大し、大幅な省エネの実現や世界市場の獲得を目指す。(現在~2020年代中頃)
 
第2フェーズ:「水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立」
  供給側においては海外の未利用エネルギーを用いた水素供給システムを確立するとともに、水素発電ガスタービン等の開発・本格導入も視野に入れ、エネルギーセキュリティの向上を目指す。(2020年代後半の実現を目指す)
 
第3フェーズ:「CO2フリー水素供給システムの確立」
  再生可能エネルギー等を用いたCO2フリーの水素供給システムの確立を目指す。
  (2040年頃の実現を目指す)

  一方、参議院経済産業委員会は、水素エネルギーの研究開発と活用の実情を把握するために、6月23日には水素活用に先進的な取り組みを行っている福岡県を訪問し、県知事などと意見交換するとともに、「水素エネルギー製品研究試験センター」、九州大学の「次世代燃料電池産学連携センター」と「水素素材先端科学研究センター」などの視察を行いました。

 福岡県はすでに平成16年に行政・メーカー・大学が連携した「福岡水素エネルギー戦略会議」を立ち上げ、研究開発、人材育成、水素エネルギー新産業の育成・集積、情報拠点の構築、社会実証などに取り組んでいます。現在の中心的な研究テーマは、燃料電池自動車(FCV)の普及に伴う水素ステーションの整備に関する研究で、日本では4億円から5億円かかるとされている水素ステーションの建設コストを低減する技術開発、あるいはヨーロッパ並みに建設コストを抑えるための必要な規制緩和策に関する研究等について報告を受けました。

  例えば、「水素エネルギー製品研究試験センター」では、水素ステーションで使用される大型容器や蓄圧器の開発試験が行われていました。この水素ステーションのシステムができあがれば、自動車に高圧の水素ガスを装填することが可能になるということでした。また、九州大学の伊都キャンパスでは、大学と企業が共同で燃料電池関係の材料開発などの研究・実証を続けるなど、大学のキャンパス自体を水素社会のモデルとして活用しようとする姿勢が見られました。
 
140623__052.JPG 次世代燃料電池産学連携センターを視察

 

2.燃料電池の開発の歴史
 
  水を電気分解して水素と酸素を発生させる逆の原理で、水素を酸素と反応させて発電するのが燃料電池です。その実用化に向けて、アメリカのゼネラル・エレクトリック社の研究者が1955年から研究をはじめ、固体高分子形燃料電池(PEFC)を開発しました。この燃料電池は1965年に、アメリカの有人宇宙飛行計画であるジェミニ5号で採用されました。その後も、定置式燃料電池の開発や出力強化のための改良が続けられ、アポロ計画からスペースシャトルに至るまで、この燃料電池は電源、飲料水源として活用されました。
  一方、日本においては、第一次石油ショック後の1978年に、通商産業省(当時)が「ムーンライト計画」において燃料電池の開発方針を打ち出し、民生用、産業用の燃料電池の開発が開始されました。1982年には、東芝が50kWの「りん酸形燃料電池」実験プラントを川崎工場に建設し、発電に成功するとともに、1991年には東京電力五井火力発電所の実験プラントで、出力1万1,000kWの発電を実現しました。
 
  燃料電池を自動車に搭載可能とする画期的な研究となったのは、1987年、カナダのバラード・パワーシステム社によるフッ素系樹脂を電解質膜に用いた固体高分子形燃料電池の開発でした。これより、FCVの世界的な開発競争が始まります。
  まず1994年には、ダイムラーベンツ社が、バラード社の燃料電池を搭載したが燃料電池自動車の試作車を発表。またトヨタは、1997年の東京モーターショーに燃料電池自動車の試作車を発表し、量産化に向けた研究開発に膨大な資金を投与していきました。
 そして12年前の2002年12月には、トヨタと独自の開発を続けてきたホンダがそれぞれ燃料電池自動車の第一号を日本政府に納入し、首相官邸と経済産業省で使用されることになりました。各自動車メーカーは、これらの技術をベースに、高出力化、軽量化、低コスト化を目指し触媒や容器など材料開発などを含めた研究開発を続けました。そして、ようやくトヨタが本年中に、日産とホンダが来年中に燃料自動車の市販を行う方針を出し、世界の開発競争において日本のメーカーは一歩先んじることができました。しかし、欧州のメーカーや韓国のメーカーも着々と市販化を準備しており、燃料電池自動車をめぐる国際競争は予断を許さない状況となっています。
 
  一方、定置式に関しては、家庭用電源や産業用電源として、「固体高分子形」の他に「りん酸形」、「固体酸化物形」の燃料電池が開発され、それぞれ実用化されるに至っています。とくに家庭用の燃料電池は、パナソニックと東京ガスが開発した天然ガスから水素を取り出して発電する「エネファーム」が2009年より販売され、政府の補助金を受けながら徐々に拡大してきました。さらに大阪ガス・長府製作所のエネファームも市場投入され、東京ガス管轄と大阪ガス管轄を合わせた現在の普及台数は約4万台となっています。
 
 
3.水素エネルギーの利活用の展望と課題
 
  水素をエネルギーとして活用する分野は、政府のロードマッブにあるとおり、大きく3つの分野での活用拡大が期待されています。
  第一は、水素を使った燃料電池自動車の普及。第二は、現在すでに実用化されている「家庭用燃料電池(エネファーム)」・産業用燃料電池のさらなる普及拡大、そして第三が水素を直接燃やして発電する「水素発電」の実用化です。
  以下、この三つの開発・実用化の現状と今後の課題について説明します。
 
(1)燃料電池自動車の展望
  トヨタ自動車は、世界で先陣を切って、本年中に燃料電池自動車の一般販売を行います。また、日産、ホンダもこれにも続くようですが、日本のメーカーの社運を賭けた研究開発の努力がようやく実を結んだと言えます。政府も、燃料電池自動車の普及を目指して、まず、予定されている販売価格の約700万円のうち、200万円程度を補助する方針を打ち出しています。
  燃料電池自動車の普及には、販売価格の課題とともに、まず燃料の水素をどのように供給するかという課題があります。トヨタは、かつてはガソリンから水素を取り出す「ガソリン改質」の研究を続けてきましたが、技術的な困難性に直面し、車に搭載したボンベに圧縮した水素ガスを装填する方法に切り替えました。この場合の最大の課題は、ガソリンスタンドにように、水素ステーションを全国に設置しなければならないことです。前述のように、「福岡水素エネルギー戦略会議」と関係研究機関が水素ステーションの整備に関し、建設コストの低減や水素ガスの高圧充填の方法などを研究していますが、燃料電池自動車の市販にあわせて、一刻も早い水素ステーションの全国的な整備をはかっていかなければなりません。この社会インフラ整備については国としても十分な支援措置を講じていく必要があります。
 もう一つの課題は、燃料電池自動車の普及に伴い大量の需要が見込まれる原料の水素をどのように安定的に供給するかということです。水素は自然の中に広く存在しないため、主に、①化学工場や製鉄工場で副産物として発生する水素(副生水素)を利用する方法、②天然ガスなどの石油鉱物を改質して水素を取り出す方法、③水を電気分解して水素を取り出す方法、の三つしかありません。現在、環境問題への対応ということから、③の電気分解の電気を風力や太陽光発電などの再生エネルギーでまかない、CO2フリーの水素を製造する方法が国際的にも主流になりつつあります。さらには、最近の実証研究によって、中東など油田で原油産出時に副産物として発生する水素をトルエンに溶かし、これを海上輸送で日本に運び、トルエンから水素を取り出して利用するという方法が実現化の方向にあります。この水素供給システムも大いに期待できると思われます。
 
(2)定置形燃料電池の普及
  天然ガスから水素を取り出して発電する家庭用の「エネファーム」は、東京ガスならびに大阪ガス管内で徐々に普及し、現在、約4万台が稼働しています。経済産業省は、2016年に「市場の自立化(普及のための補助金は縮小もしくは廃止)」をはかり、2020年には140万台、2030年に530万台、つまり全世帯の約1割にまで普及させるという目標を示しています。
  この目標は、「日本再興戦略」(2013年6月閣議決定)において、国の目標として位置づけられていますが、これを達成するためには、さらなる材料コストの削減や大量生産体制をつくるなど、販売価格のさらなる引き下げが必要となります。
  一般的に、国民がこういった機器を導入するかどうかの判断基準は、投資資金の回収が10年以内に収まる価格かどうかということですが、具体的には50万円程度が想定されています。当面は、一般家庭の導入に対する補助金を継続することが重要ですが、かつて太陽光発電の補助金を一時打ち切ったことによる普及停滞という過去の事例を参考に、補助金打ち切りのタイミングは慎重に検討すべきだと考えます。
  さらに、エネファームを普及させるためには、住宅形態の4割を占める集合住宅への設置も促すことが必要です。例えば、マンションなどのベランダや屋上などに設置できるかどうか、その方法や安全性の確保について規制緩和や導入支援策の展開など、積極的な対応が必要となってくるでしょう。
 
(3)水素発電
  水素を直接燃やして発電する水素発電は、現在、千代田化工建設と川崎市との共同事業として、川崎市鶴見区の臨海部において実証研究と発電所建設が進められています。水素は空気の混入割合と一定の温度のよって燃焼する性質を持ち、この燃焼熱を利用してタービンを燃焼させて発電するしくみですが、川崎でのプロジェクトは、LNG発電所を改良して、LNGに水素を混ぜて燃焼させ、これでLNG使用量が減らし、またCO2の排出も削減しようとするものです。また、このプロジェクトは、前述したトルエンを使った水素製造・移送システムも研究しており、来年の本格的な稼働に向けて最終段階に入っています。
  原子力発電所が稼働していない中で、天然ガスの輸入が増加し続けており、このことが貿易赤字を拡大させ、国民には電気料金の負担増を強いているわけですが、水素発電は今後のエネルギー供給体制を大きく変えるものであり、今後の発電所の増設を大いに期待したいと考えます。