政策レポート

2014年10月28日

労働者派遣法改正案の問題

  今臨時国会において、先の通常国会で廃案となった「労働者派遣法改正案」が再度上程されました。民主党は、今回の改正案は派遣労働者を拡大させ、正社員から派遣社員の置き換えを促進するものだと判断し、臨時国会においても、連合と連携しながら、法案の成立阻止に全力を尽くす方針です。以下、今回の改正案の問題点と政府の目論みの背景にあるものを考えてみます。

1.「派遣法・政省令」の変遷

   「労働者派遣法」は1985年に成立しました。このスタート時点において法が目指したものは、自社の労働者を他社で働かせる形態を取りながらも業務請負には馴染まない13業務について、例外的・限定的に労働者派遣を認めるというものでした。しかし、経済・産業構造の変化、就業に対する意識の変化、そして労働者派遣業という業界が成長する中で、その後、対象業務の拡大をはじめ様々な規制の緩和が行われ、労働者派遣を拡大する方向に進んできました。その結果として、正社員が派遣労働者に置き換えられていくという現象が起き、併せて、派遣労働の雇用の不安定性、正社員との賃金格差、職場における指定業務外の仕事の強要など、様々な問題が浮上してきました。

  以下は、これらの諸問題の原因の一つとなっている派遣労働の適用対象の拡大の経過を法改正等の経過とともに見ることにします。

◆1985年(昭和60年)に労働者派遣法が成立

○派遣の対象は、次の「13の業務」のみ(ポジティブリスト)でスタート。①ソフトウエア開発、②事務用機器操作、③通訳・翻訳・速記、④秘書、⑤ファイリング、⑥調査、⑦財務処理、⑧取引文書作成、⑨デモンストレーション、⑩添乗、⑪建築建物清掃、⑫建築設備運転・点検・整備、⑬受付・案内・駐車場管理――13業務が政令で指定される。

◆1986年(昭和61年) 対象業務の追加

○13業務に、①機械設計、②放送機器操作、③放送番組等演出――の3業務が適用対象業務に追加され、16業務となる。

◆1996年(平成8年) 対象業務の追加

○16業務に、①研究開発、②事業実施体制等の企画・立案、③書籍等の製作・編集、④広告デザイン、⑤インテリアコーディネーター、⑥アナウンサー、⑦OAインストラクション、⑧テレマーケティング、⑨セールスエンジニアの営業(2002年には金融商品の営業が追加)、⑩放送番組の大道具・小道具の作成・設置等――の10業務が追加され、適用対象業務は26業務となる。

◆1999年(平成11年)法改正 対象業務のネガティブリスト化

○除外業務以外は派遣の対象業務とする(ネガティブリスト)に変更される。派遣期間は26業務が3年、それ以外は1年とする。

◆2003年(平成15年)法改正 ネガティブリストの見直し

○製造業への派遣が認められる。2004年3月から施行され、これにより、派遣労働者が約33万人(2000年)から約140万人(2008年)に増加する。また平成不況が続く中、これを契機に雇用労働者の中で非正規雇用労働者が増大していく。派遣受入期間の延長が行われ、専門26業務は制限撤廃、その他は原則1年・最長3年とされた。

★この間、禁止業務への派遣や偽装請負などの違法派遣や派遣切りなど、派遣労働の問題が深刻化する中で、野党が日雇い派遣の禁止、製造業への派遣の原則禁止、登録型派遣の禁止を求め法案を提出するが実現しなかった。

◆2012年(平成24年)法改正 日雇い派遣の禁止など

○特定業務や高齢者等を除き、日雇い派遣(日々または30日以内の期間を定めて雇用する派雇い)を禁止。親会社と連結子会社間の派遣については8割を超える派遣を禁止。派遣元に、無期雇用への転換推進措置の努力義務を課すとともに、派遣労働者の賃金等の決定にあたっては同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮するなど、派遣労働者の待遇改善を規定。

2.派遣労働者の実態

 労働者派遣会社は、事業所単位で把握されており、平成25年度で、雇用期間が無期限の正社員のみを雇っている「特定労働者派遣事業所」は66,308事業所、有期の労働者などを雇っている「一般労働者派遣事業所」は17,539事業所となっており、一大産業を形成しています。また、派遣労働者数は、特定労働者派遣事業所で29万人、一般労働者派遣事業所で99万人、合計127万人と推計されています。このうち、1年以上雇用されている派遣労働者は80万人、1年未満の派遣労働者は47万人となっており、その内訳は(表1)のとおりです。26業務で雇用期間が1年以上の派遣労働者が一番多いですが、製造業に派遣されている派遣労働者も24万人もいることも注目されます。

労働者派遣法改正案の問題_表1.jpg

  民主党政権時代の2012年の法改正によって、ようやく日雇い派遣の禁止など派遣労働者の保護を強化する観点での措置がとられましたが、今日、依然として登録型の非正規の派遣労働者を中心に、突然の雇用契約の打ち切りや一方的な労働条件の引き下げ通告など、不安定な状況にある派遣労働者は少なくありません。

  派遣労働者の実態については、政府や労働組合などの調査で明らかにされていますが、最大の問題点は、正規雇用を望んでいる派遣労働者が多い、つまり非正規の派遣という労働形態から脱したいと望む労働者が多いということです。厚生労働省の「派遣労働者実態調査」(2013年)によると、派遣労働者の60.7%が「正社員として働きたい」という希望をもっており、また19.2%が「派遣会社で無期雇用される派遣労働者として働きたい」とし、併せて約80%の派遣労働者が正社員としての就業を望んでいます。もちろん、柔軟な働き方としての派遣労働を選択している労働者も一部いるわけですが、多くの派遣労働者が厳しい雇用情勢の中でやむを得ず派遣で働いているというのが実態です。

 また、派遣労働が持つ大きな問題点の一つは、派遣労働者の賃金水準が相対的に低位にあるということです。例えば、時給ベースで正社員と派遣社員を比較すると、30歳~34歳層で正社員が2,127円に対し派遣社員は1,358円、50歳~54歳層では正社員が3,054円に対し派遣社員は1,249円と4割程度の水準でしかありません。(出所:厚生労働省「賃金構造基本調査(2008年)」、「派遣労働者実態調査(2008年)」)

  さらに、派遣労働者の方が正社員より労働災害の発生率が高いという統計もあり、教育訓練、福利厚生、有給休暇や産休・育休の取得などの面において、派遣労働者は総じて不利な立場に置かれていることが明らかになっています。

  今後、派遣労働者と派遣先労働者との間で不合理な相違を禁止し、均等待遇を実現していくことが求められます。とくに、教育訓練による派遣労働者のキャリアアップは均等待遇を促進するために必要であり、未熟練の職務に派遣を拡大していこうとする経営側の意図に歯止めをかけていかなければなりません。

3.今回の改正の内容と問題点

  今回の「労働者派遣法」の改正点の次の3つに要約されます。

①派遣事業所の許可制

  現在、常用雇用労働者のみを雇う「特定労働者派遣事業所」も届出制から許可制に変更し、すべての事業を許可制にすることにより行政の管理監督機能を高める。

②派遣期間の制限の変更

  現行の派遣期間の制限に関する区分は、「専門26業務か、それ以外か」、また派遣者雇用形態が「有期雇用契約か、無期雇用契約か」によって分け、4つの類型に分けられますが、改正案は、26業務の区分を廃止し、「雇用形態が有期か無期か」の二つの区分のみと、派遣労働者個人は、有期雇用の場合は「最長3年」、無期雇用の場合は60歳以上の場合と併せ「制限無し」とされます。一方、派遣期間の事業所単位の制限では、派遣会社が企業などに派遣労働者を派遣できる期間は有期雇用の場合は「原則3年間」が上限となります。但し、この期間が終わっても派遣先の労働組合からの意見聴取を条件に、人を代えて派遣を継続することができるようになります。この改正が派遣労働を常態的に活用できる環境整備になるとされています。また、無期雇用の場合は、26業務以外の業務は原則1年・最長3年の派遣契約しかできませんでしたが、この規制が廃止され、同一労働者を継続派遣でき、事業所単位においても「期限なし」の派遣契約ができることになります。この点も派遣労働を拡大していく改正とされています(表2)。

労働者派遣法改正案の問題_表2.jpg

③派遣労組者の均等待遇とキャリアアップの推進

  派遣元事業所と派遣先企業の双方は、賃金、教育訓練、福利厚生等の面において、派遣労働者が派遣先労働者と均等の待遇を受けることができよう、それぞれに義務、努力義務、配慮義務を課す。

  以上の3つが今回の法案の主な改正点ですが、最大の問題は期間制限に関わるものです。これまでの「労働者派遣法」の基本的立場は、労働者派遣という雇用形態はあくまで「専門的な業務」や「一時的な業務」への派遣として位置づけるもので、派遣が常態的に長期にわたって実施され、正社員との代替が拡大していくようなことは想定していませんでした。このことを保証するのが、「26業務区分」と「派遣期間の制限」であったわけです。今回の期間制限に関わる区分は、専門性に関わる26業務区分を廃止し、派遣元での雇用形態のみ区分としました。また、事業所単位における期間制限も「過半数労働組合等への意見聴取」という曖昧で実効性を伴わないような規定をもって派遣期間の継続が決まることになります。

  では、労働の現場において、どのようなことが起きてくるのでしょうか。まず、製造業などにおいて、作業が単純であったり作業がマニュアル化されたりする事業所では、労務管理コストが低く、経営環境の変化に雇い止めなどで対応できる労働者派遣の活用は魅力ある施策になってきます。当然、正社員を派遣社員に切り替えようとするインセンティブが強く働きます。労働者派遣法のスタート時点から心配されてきた「正社員の代替効果」という側面がますます強まってくるものと考えます。さらに、派遣会社にとっては長期の派遣が約束されれば、労働者を常用雇用化し、法の「制限無し」で派遣を継続することができるというメリットが出てきます。このこと自体は、派遣社員の常用雇用化というプラスの面がありますが、一般企業の派遣労働の活用はもともと労務費全体のコストを削減しようする施策の一つなので、多く派遣会社において当該派遣労働者に何らかの形でそのしわ寄せがいくことになるでしょう。

 ソフトウエア開発など専門的技術・技能をもった常用雇用の社員が派遣される場合は、従来からの「専門性」「一時的」という労働者派遣の規制的要素が引き継がれることになりますが、今回の改正を全体として判断すれば、労働者派遣の「未熟練・非専門性」あるいは「永続性」という要素が強まり、結局は、登録型で経営している派遣会社や、取引関係が永続的で安定している派遣会社の経営を大きく支えるものとなるでしょう。本来は正社員としての雇用を望みながら派遣という労働にやむを得なく従事している労働者が大部分を占める中で、このような法改正は、個人的には派遣労働を定着化させ、労働市場的には正規の社員を減じ派遣を増加させていくことになると考えます。

  また、今回の改正で、派遣元・派遣先に課せられる均等待遇やキャリアアップ推進への義務についても、その実効性は極めて小さく期待できるものではありません。とくに、登録型の派遣会社にあっては、派遣契約が切れれば雇用責任は生じなくなるので、このようなキャリアアップ義務を回避しようとするのは明らかです。

  派遣会社は、今回の改正は経営に負担になるとしていますが、派遣業のマージン率(※)が20%~30%もある中で、教育訓練などに関わるコスト負担増には十分に耐えることができると考えます。労働者派遣法がスタートした時代は、多くの派遣会社は教育センターを設置し、登録した主婦などにパソコンや経理などの研修を活発に行っていました。現在は、専門的ではない業務に多くの派遣が行われているため、これらの派遣では教育訓練する必要がなくなっているのでしょう。当然、派遣を受け入れる企業にも派遣労働者を教育訓練して育成していく必要性はありませんから、このような法の規定は全く意味を為しません。

  民主党は、政権時代に「労働者派遣」のあるべき姿を追求して、その規制を強める形で対応してきましたが、以上見てきたように、今回の改正は、より労働者派遣を拡大しようとする規制緩和である上、派遣労働者の労働条件改善に結びつくものでもありません。断固反対の立場に立って、法改正阻止に向けた活動を強化していきます。


マージン率

    労働者派遣料金額の平均額から派遣労働者の賃金額の平均額を控除した額を労働者派遣料金額の平均額で除して得た割合。
労働者派遣法改正案の問題_式.jpg