政策レポート

2015年1月28日

来年度政府予算案の編成と諸課題

  1月14日に2015年度の政府予算案が閣議決定されました。予算案は1月26日開会した通常国会に提出され、2014年度補正予算案の審議・成立後に衆・参それぞれで審議・採決されることになります。

  一般会計は、本年度の当初予算に比べ約4,600億円増え、過去最大規模の96兆3,420億円となりました。歳入・歳出の主な項目は次の表のとおりです。

H27年度予算.jpg

1.政府予算案の特徴

この来年度予算案の編成の枠組みは基本的には昨年と変わっていませんが、主に次のような特徴が挙げられます。

(1)景気回復を背景に、法人税を減税しながらも、約5兆5,000億円もの大きな税収増を見積もっていること。そしてこの税収の増収分は、主として国債発行の減額に当てられ、一応、財政健全化のための道筋をつけたこと。

(2)予算規模の増大は、主として社会保障費支出の自然増によるものであり、前年度比で3.3%の増加となっている。しかし、消費税率の10%への再引き上げが見送られたことで、社会保障関係・子育て支援関係の充実策の一部が見送られたこと。

(3)社会保障関係では、統一地方選挙が控える中で、高齢者の負担増につながる医療・介護における運用や給付の効率的化が見送られたこと。その分、健康保険組合などサラリーマンの負担増に頼っている側面があること。

(4)財政健全化のために十分に削減の余地がある「公共事業」については、ほぼ現状の支出水準が維持され、新幹線の整備、空港の整備、大規模災害対策、東日本大震災の被災地対策などを中心に使われること。防衛費の拡充と併せ、自民党らしい予算となっていること。

(5)高校授業料無償化や子育て給付金など所得制限を設け、一見して所得再配分機能を導入しているようだが、一方で、ジュニアNISA(少額投資非課税制度)創設、結婚・子育て一括贈与非課税枠の創設、住宅取得資金贈与非課税枠の拡大など、金融資産の贈与に係る課税優遇措置を講じていること。これは、「持てる者」を優遇する政策で、結果的に資産格差の拡大に繋がることになる。

 

2.予算案と暮らしの変化

  私たちの暮らしに関し、大きな増減があったものや新規に打ち出された主なものは次のとおりです。基本的には、政策の充実や財政支出の効率化など、予算編成上の変化が見られる項目は、子育て世代や高齢者、あるいは失業者を対象とした対策が中心になっています。

(1)子育て支援関係

  全体として国・地方あわせて約2兆5,000億円の予算が計上され、待機児童解消のための保育所の拡大・整備、保育士確保のための給与改善などへの補助が拡充されます。これら保育政策の充実を中心とした少子化対策は、民主党政権時代に行われた「幼保一元化のための総合こども園」の設立や民間施設の積極的活用策などの延長上にあるものです。

  しかし、現在でも待機児童数は約2万1,000人(2014年4月現在)と言われており、予算案ではその対策として2,195億円が計上されているものの、さらなる保育政策の充実が求められているところです。とくに、消費税率の再引き上げ延長によって、財政当局が十分な施策の展開を抑制したわけですが、政策的に優先される課題であるだけに、もう一段の配慮が欲しかったと考えます。

  一方、低所得世帯に対し私立幼稚園保育料への補助が継続される他、子育て世代に対し消費税率引上げの影響を緩和する目的で支給された「子育て世帯臨時特例給付金」が、引き続き来年度も支給されます。給付は本年6月分の児童手当の受給者を対象とし、児童1人につき3,000円が支給(1回)されます。ややバラマキ的な政策ですが、増税への負担軽減という点では若干の政策効果があると考えます。

(2)教育支援関係

  高校生等奨学給付金支給対象者の拡大(13.1万人→34万人)、大学等奨学金事業(無利子奨学金)の無利子奨学金制度の対象拡大、幼児教育の無償化に向けた段階な措置が実施されます。しかし、貧困状態にある児童・生徒が増加する中で、実質的に子供たちの進学と生活を支援する方策は十分とは言えません。厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査」によると、現在、「貧困線」(2012年は122万円)に満たない世帯で暮らす18歳未満の子どもの数を推計した「子どもの貧困率」は16.3%で、子どものうち6人に1人が貧困という状況になっています。本人の希望にもとづく進学、就学の継続、最低限の文化的・健康的な生活が送れるような支援策の充実が必要となります。

(3)医療・年金・介護関係

  負担軽減に関しては、国民健康保険の保険料について低所得者の軽減措置が継続され、また高額療養費制度における低所得者(年収約370万円以下)への負担の軽減化、介護保険の保険料について低所得者の高齢者への軽減措置が行われます。

  一方で、低所得者対策として、年金に最大月5,000円上乗せする「年金生活者支援給付金」の実施は、消費税率再引き上げの延期に伴い、2017年度まで延期されることになりました。 また、昨年度、遺族基礎年金の支給対象が母子家庭に加え父子家庭にも拡大されましたが、来年度についてもこの制度が継続されます。

(4)雇用関係

  女性の活躍に関する目標を達成した企業には助成金が支給されます。また、非正規雇用対策としてパートタイマーの均等・均衡待遇の確保をはかるための「働く女性の処遇改善プラン」への支援策や、ひとり親の就業機会・転職機会を広げるための支援策、育児との両立に配慮した「短時間訓練コース」の実施などが行われます。一方、若者に関しては、ニート対策としての「地域若者サポートステーション」をハローワークと連携させて就職支援を充実させる施策、また高齢者に関しては65歳を超えてもシルバー人材センターなどで働くことを促進する「シニア活躍応援プラン」が実施されます。

  地域の雇用対策としては、地方自治体が創意工夫を活かして雇用機会の創出をはかる「実践型地域雇用創造事業」の拡大が行われます。

  以上の雇用関係の諸施策は一定の評価はできるものの、現在、政府の雇用政策において最も緊急課題になっている2,000万人を超えた非正規雇用労働者に対し、どのように雇用を安定化させ、労働条件を引き上げるかという視点にたった施策については、全く不十分であると言わざるを得ません。

 

3.消費税収と社会保障給付の関係の課題

(1)社会保障目的税としての消費税の位置づけ

  現在、年金・医療・介護などに支出される社会保障の給付費は、全体で115兆円にも上っています。このうち約4割の43兆円が公費負担(うち国は約30兆円)で、残りは社会保険料や利用者の一部負担で賄っているという構図になっています。

  高齢化に伴う社会保障給付の増加と、少子化対策としての子育て支援策の必要性とともに、民主党政権は二つの方針を打ち出しました。一つ目は、消費税収は医療・年金・介護の給付に少子化対策の費用をプラスした「社会保障四経費」に充当すること。二つ目は、消費税を原則として社会保障の目的税とすることを法制化し、会計上も区分経理を徹底しその使途を明確化すること。

  この方針にもとづき、「消費税法」の改正により、社会保障目的税としての消費税の位置づけは明文化されましたが、会計上、毎年度の予算及び決算において消費税収(国分)が社会保障四経費に充てられることを明確に示す方法は現在、検討中となっています。

  ここで一つの懸念が生じてきます。消費税を「社会保障四経費」に全て充てたとしても、国が負担する30兆円には達しません。例えば、消費税率を10%に引き上げた段階でも、地方消費税(1%分)や地方交付税に回す部分(消費税の29.5%)を含めても税収は26兆円前後と試算されています。そこで、この不足分について、従来通り他の税収などから補うのか、それとも消費税率を引き上げながら補っていくのか、という政策的な選択がいずれ迫られてくることになります。

  来年度予算案については、安倍内閣が消費税率10%の引き上げを延期したことにより、実施されるはずであった社会保障関係の予算措置が延期されたり、縮小されたりしました。これまでは、「高齢者三経費」の不足分は他の税収や国債発行などで補填されてきたわけですが、今回のように、「消費税収が減れば社会保障給付を減らす、逆に増えれば制度の充実をはかる」というパターンが一般的に行われば、消費税率と社会保障給付の水準の連動性がますます強まり、消費税の安易な税率引き上げにつながるのではないか、との懸念が生じます。消費税を負担する国民としては、将来の消費税の姿をどうするのかという議論を含め、納得のいく説明がほしいと考えます。

(2)基礎年金の国庫負担の問題

  消費税増収分の扱いについて見ますと、本年度は、昨年4月からの消費税引き上げの増収分5兆円について、社会保障関係予算の四つの分野に配分されました。

①約6割の2兆9,500億円が「基礎年金国庫負担割合の2分の1」の差額費用に

②1兆3,000億円が「後代への負担のつけ回しの軽減」として安定財源の確保ができていない既存の社会保障費に

③5,000億円が子育て支援、医療・介護の充実、年金制度の改善など社会保障の充実に

④2,000億円が消費税引き上げに伴う社会保障関係給付の物価上昇分に

  一方、来年度予算案においては、厚生労働省が作成した図のように、増収分を8兆2,000億円と見積もり、それぞれ四つの分野に本年度分+αで配分されます。

消費増税内訳.jpg

  出所:厚生労働省「平成27年度厚生労働省予算案概要」

  ここで気になることは、消費税増収分のうち約3兆円がつぎ込まれる「基礎年金国庫負担分」のことです。基礎年金の国庫負担は、従来は「3分の1」でしたが、保険料負担の軽減化と給付水準維持のために「2分の1」に増やすことになり、2005年度から2009年度までに段階的に引き上げられてきました。その財源は財政投資特別会計の剰余金や「つなぎ国債」など限りのであるものでしたが、本年度から消費税の増収分を充てることになりました。

  この措置は民主党政権時代の構想に沿ったものですが、この機会にいま一度、基礎年金の財源の負担のあり方を議論していく必要があると考えます。一つの問題は、国民年金の加入者(第1号被保険者)の保険料免除者・保険料未納者の割合が増える中で、実質的に厚生年金など被用者年金からの基礎年金拠出金が国民年金からの拠出金分の一定割合を補っているということです。また、非正規雇用労働者の急増に伴い、本来は厚生年金に加入すべき労働者が自営業者などを対象とする国民年金に流れ、いまや6割を占めるに至り、国民年金の保険料負担の収入の中心的な役割を担っているという実態もあります。つまり、被用者・サラリーマンが基礎年金の財政運営において大きな負担を強いられているということです。

  今回、基礎年金の「2分の1」の差額部分に消費税の増収分が充てられることにより、サラリーマンと自営業者との負担上の格差が一定程度は縮小することになりますが、依然として、サラリーマンは基礎年金に対し、①保険料 ②所得税 ③消費税の三つの負担をし続けるわけであり、今後とも公平性の観点から負担のあり方を検討すべきだと考えます。

 

4.財政健全化の目標達成の課題

  今回の予算案編成を見ると、あらためて財政再建について考えていく必要があると考えます。税収の伸びを背景に、国債の発行を本年度より4兆3,870億円減額したことで、安倍晋三首相は、「経済再生、財政健全化を同時に達成するのに資する予算になった」と述べています。しかし、果たして、来年度予算案は財政健全化に資するものとなるでしょうか。

  政府の言い分は、新規の国債発行は36兆8,630億円と同4.4兆円減り、歳出入の総額に占める割合を示す国債依存度は本年度より4.7ポイント低い38.3%に下がる。そして、2015年度の基礎的財政収支(PB=プライマリーバランス:税収・副収入で政策経費をどれだけまかなえるかを示す)の赤字を2010年度比で半減させる、という財政健全化目標をクリアした、というものです。具体的には、来年度予算案における基礎的財政収支の赤字は13兆4,123億円となり、地方分を含めた赤字の国内総生産(GDP)比は3.3%。これは2010年度実績の6.6%の半分ということで、財政健全化の中間目標達成にメドがついたというものです。

  この背景には、景気回復に伴う税収増があります。本年度当初予算に比べ、所得税は1兆6,520億円の増収、法人税は減税にも拘わらず9,720億円の増収、そして消費税は1兆7,730億円の増収を見込んでおり、そこに、新規国債の発行額をギリギリまで抑えたことで、PBの対GDP比を辛うじて3.3%に抑えたということですが、この政府の財政健全化に道筋を付けたという説明には、いくつかの問題点があります。

  第一に、景気の変動が読み切れない中で、今後の景気情勢によっては税収が落ち込むことも予想されるということです。本年度についても、政府や多くのエコノミストは、消費税増税による消費抑制効果は半年程度で薄まると予測していましたが、実際は消費の低迷が続いているわけです。とくに、企業業績の改善で法人税収は大幅な増収が見込まれますが、実際のサラリーマンの実質可処分所得は低下している中で、消費低迷、内需の縮小に繋がる可能性が極めて高いという現実を直視する必要があります。

  第二には、財政健全化に対する政権としての姿勢の問題があります。例えば、①社会保障関係給付が増え続ける中で、選挙対策のために、制度の改革・効率化策を打ち出そうとしていないこと ②大震災の復興需要や災害対策は暫く続くものの、比較的予算を削減しやすい公共事業は抑制する方向にないこと ③防衛予算については今後とも増額されることが予想されること ④異次元の金融緩和政策として日銀による大量の国債引き受けが一般化したことで、国債発行に関する抑制的意思が働きにくくなっていること――などが挙げられます。

  今回は、税収増を見込んで国債発行は減額し、財政健全化の姿勢を表しましたが、このような経済情勢の今後の展開や政権の姿勢を考えれば、この方向が今後とも続くかどうか、注意深く監視していかなければなりません。