政策レポート

2015年10月21日

中国経済の動向と今後の見通し

  10月19日に発表された中国の7-9月期のGDPは6.9%の上昇にとどまり、6年半ぶりに7%を切りました。中国経済は、ここにきて景気減速の様相を呈しており、これを主要因とする世界的な株価の下落や原材料価格の低下による途上国の経済的混乱などが生じています。世界第2位のGDPをもつ中国経済の減速は、日本を含め世界経済に対して大きな影響を与えるものであり、今後の動向が一段と注目されます。

  これまで、我が国の多くの経済学者やエコノミストは、中国経済を悲観的に論評する傾向が強く、リーマンショックの際も「中国経済は崩壊する」と断言した人も多くいました。今回もすでに悲観論が広まりつつありますが、今後の日本経済の成り行きを考える場合、実際に中国で何が起きているのか、あるいは今後どのような展開になっていくのかを正確に把握することが大事だと考えます。

  以下、さまざまなデータ分析や中国経済研究者などの論評から、中国経済の実状と今後の予測などについてまとめてみました。

1.中国経済への楽観的な見方

  中国経済の減速は、ここ3年間のGDP成長率の低下に明確に表れています。中国は、2008年のリーマンショック不況を、4兆元(当時の為替レートで約57兆円)という膨大な財政投資によって乗り切り、その後も10%前後の実質経済成長率を達成してきました。しかし、2012年からは7%台に低下し、2014年が7.4%、そして本年の上半期は5%台、通年でも6%台前半になるのではないかと推測されています。なお、もともと中国の経済統計の正確さについては疑問が投げかけられており、本年の経済成長率は、実際は5%を切るのではないかとの見方も出始めています。

  問題は、この経済成長率の低下傾向をどのように見るかということです。当然、楽観的な見方と悲観的な見方の両方があります。以下、それぞれの見解を見ていきます。

(1)内需拡大による安定的成長へのプロセス

  楽観的な見方の代表的な見識は、日本が経験したように、中国も現在、高度成長から安定的な成長に至る成長プロセスを辿っているというものです。

  これまで中国は低賃金を背景に「世界の工場」として、海外企業から導入した技術で、カラーTV 、エアコン、パソコン、スマホなどを作ってきました。これらの製品の製造技術で中国は日米に追い付いたわけですが、しかし、このキャッチアップが終わると、技術進歩のスピードが低下し、これが経済成長率の低下をもたらしているという見方です。中国には、優れた商品開発能力とか消費市場に大きなインパクトを与えるような技術開発力が十分に蓄積されてきませんでしたので、このことによる成長率の低下は避けることができないということです。

  1970年代の日本も同様に、高度成長期から低成長期への転換プロセスを経験しました。日本はその後、設備投資や輸出拡大による成長から、消費を中心とする内需拡大による成長パタンーへの切り替えを実現しましたが、この楽観論は、中国もこのような展開になっていくのでないかと予測しているわけです。実際に習近平政権は、消費拡大による内需型の成長、あるいは質の経済成長をめざす「新常態」の目標を掲げています。今後、中国は自力による新たな技術進歩を追求し、とくに人材育成や研究開発投資の促進政策に一段と力を入れていくことになるでしょう。この消費と技術進歩という二つの政策が具体的に実現していけば、中国は再び世界の経済をリードする経済大国になっていくものと考えられています。

  なお、この内需主導型の成長に関し、中国政府は、①経済成長に対する消費の寄与率が投資の寄与率を上回ったこと、②GDPに占めるサービス業の割合が工業の割合を上回ったことを挙げ、さらに今年に入って李克強首相が言及している「新・李克強指数」(雇用・住民の収入・エネルギー消耗・海外旅行者数を指標にしたもの)が昨年10-12月期から大幅に上昇していることを明らかにし、中国はすでに内需主導型の成長過程に入っていることを表明しています。

(2)最近の経済指標の好転

  もう一つの楽観的見方は、以下に列挙した最近の経済指標の動きから、中国経済は回復に向かっている、というものです。

  ①鉱工業生産指数が本年4月以降、5ヵ月連続で前月を上回っていること。

  ②比較的経済実態を表していると言われている「李克強指数」の電力使用量・社会融資規模・貨物輸送量は、最近それぞれ上昇に転じていること。

  ③自動車販売台数は、最近、上昇の動きが見られること。

  ④輸出入とも、2015年年初の谷を下回ることはなく、底入れが確実な線形になっていること。

  ⑤不動産バブル崩壊と言われた地価の大幅下落も本年の1-3期が底値になっており、最近は大都市を中心に上昇に転じていること。

  ⑥過去1年間の利下げ政策によって社会融資規模は増加していること。

  ⑦電子商取引のアリババ集団に代表される通販市場が急成長していること。

  このような直近の経済指標などから、中国経済はすでに底を打って回復過程に入っているという見方が出てきているわけです。但し、このような経済指標の動きは、これからも中長期的に継続していくという保証はありません。今後、これらの指標の発表を注意深く見守っていく必要があります。

2.中国経済への悲観的な見方

  中国経済の減速について、今回は構造的な問題を含めてこれまでのものとは違う、という見方も一般化しつつあります。このことは、中国政府自らが認めており、例えば、楼継偉財政大臣は9月のG20の会議で、「過去の景気刺激策により過剰生産能力と在庫が大量に増加し、この解消に時間を要する。今後5年間は構造調整の陣痛期に当たる」と表明しました。

  以下、中国経済の今後について厳しい見方をする論評や実態の分析などをまとめてみました。

(1)株価と不動産価格の下落

  中国では、上海・深セン証券取引所において、6月半ばから株価が下がり続け、8月には大暴落し、日本円にして数百兆円に及ぶ時価総額が減少する事態となりました。上海総合指数でみると、本年初めから上昇に転じ指数は6月12日に6,112のピークに達し、その後に下落に転じて7月末3,664、8月末3,206と大幅下落をしたのです。この株価の大幅下落は、それまでの1年半にわたって2倍にまで膨張した株価が反動に転じたという側面もありますが、元の切り下げや成長率の低下などによってもたらされたとの見方が有力です。そしてこの株価下落がさらに中国経済の先行きを不安視する材料となり、世界的な株価の低迷を誘発しているのです。

  もう一つの大きな問題は、不動産価格の下落です。2013年に前年同期比19.1%あった不動産開発投資伸び率も、10月19日発表の統計で、本年1-9月期は2.6%にまで低下してきています。まさに、中国の不動産バブルははじけた、という見方が一般的になってきました。

  こうした中で、政府は本年8月までに政策金利を5回引き下げるなどの金融緩和策を実施するとともに、地方政府にインフラ投資の促進を要請しました。また、中央政府自らも積極的なインフラ投資を加速させ、住宅に関しては2軒目の住宅購入における最低頭金比率を引き下げる施策などを打ち出しました。さらに中国財政部(財務省)は9月8日に「更なる積極的な政策を講じ経済の安定運行を促進する」との声明を発表、9月14日には発展改革委員会が「投資促進のための8つの措置」を決定しました。これらを受けて、各国の株式市場では株価が一時的に上昇しましたが、基本的には中国経済の落ち込み傾向を受けて、世界の株価は下落傾向にあります。今後、株価や地価の動きを含め、中国政府の政策展開を注視していかなければなりません。

(2)輸出入の減少と人民元の切り下げ

  中国のここ3ヵ月の輸出入量の推移は次のとおりです。

    輸出(前年同月比) 7月=8.3%減  8月=  5.5%減  9月=  3.7%減

    輸入(前年同月比) 7月=8.1%減  8月=13.8%減  9月=20.4%減

  この輸出入の落ち込みは、中国国内における生産活動が停滞していることを表しています。とくに輸入減が激しく、8月は▲13.8%、9月は▲20.4%と大幅に落ち込み、原材料の国際価格まで引き下げています。これにより中国に原材料を輸出している資源国や開発途上国を中心に、各国経済はマイナスの影響を受けつつあります。

  一方、輸出についても今日までマイナス傾向が続いています。その主な要因は人件費上昇と人民元の上昇とされていますが、この傾向は実は3~4年前から続いており、また7月の▲8.3%という大幅減少は、前年同月が大幅に上昇したこと(前年6月は+7.2%、7月は+14.5%)への反動減とされていますので、深刻に考える必要はないとの見解もあります。

  中国では消費が堅調に推移しており、これら輸出入の落ち込みによって景気の底割れが起きるということにはならないわけですが、7月の輸出入データが8月10日に発表され、その直後の8月11日、12日、13日に3日連続で人民元切り下げが行われたことから、中国経済が緊急対策を必要なほど悪化している、という印象を対外的に与えたようです。

  今回の人民元の切り下げは、人民元を国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)に加えるための措置において、IMF側から「人民元の基準値が市場の実態からかけ離れて高い」と指摘されたことへの対応として行われた面もあります。つまり過大評価され上昇し過ぎた元を調整するための措置でした。もともと中国の為替制度は米ドルと連動するように基準値を動かす「ソフトペッグ制度」を採用しているために、近年、米ドルの上昇に伴い人民元も上昇してきたのです。これが輸出に大きなブレーキをかけてきたため、中国としてもIMFへの対応とともに貿易政策上の調整も必要となってきたということです。

  しかし、この人民元切り下げの効果が出ずに、輸出が停滞・縮小する状況が今後も続いていけば、中国経済は困難に直面することになるでしょう。

(3)生産活動の低下

  10月19日に発表された中国の民間固定資産投資の統計結果は、本年の1-9月が10.4%の伸びとなっています。1-4月が12.7%ですから、じわじわと低下してきている様子が伺えます。とりわけ製造業は、その実質成長率が本年1-6月期で6.11%と全体より低く、2014年比で1.2ポイントも低下しています。自動車販売数も、少しは改善の兆しは見られるものの、対前年同月比で大きく落ち込んでいます。都市部の求人倍率は、すでに1.0%に近づいているのではないかとの推測もあり、中国は全体として生産活動が低下し、調整期に入っていると言えます。この背景には、技術進歩率の低下と資本ストックの調整、そして不動産バブル崩壊が重なっているようです。

  例えば、中国の主力産業である鉄鋼業は、生産能力が11億トンもあるのに対し、実際の粗鋼生産量は8億トンに止まり、3億トンが過剰設備の状況にあります。この状況は、セメント、ガラス、化学など広範囲の産業で生じており、当然、新規の設備投資は抑制され、国内のGDPを押し下げることになります。さらに不動産バブルの崩壊によって建設業関係の投資も低下が続いています。

  今後、これらの主要産業においてこのような状況が続けば、中国のGDPの伸び率は低下し続け、また競争力維持に重要な研究開発投資に資金が振り向けられなければ、産業自体が大きく衰退していくことになるでしょう。

(4)その他のマイナス的要素

①地方財政の窮状

  今日の中国には、地方政府が大きな財政赤字を背負っているという深刻な問題があります。地方政府は、「資金調達プラットフォーム(融資平台)」といわれる子会社を設置し、ここで銀行からの借り入れ社債を発行して都市化関連投資を展開してきました。この資金を使って、いわゆる土地転がし的な事業を展開してきたわけですが、不動産ブームが去り不動産バブルが崩壊する様相を見せると、これらの借金は一挙に不良債権化し、地方財政を窮地に追い込んでいくことになります。この事態を重く見た中央政府は、まず融資平台による資金調達システムを止め、地方政府みずからの「地方債」を発行して資金調達するように指導してきました。しかし、最近、景気の低迷が一段と明らかになる中で、一部の地方政府において融資平台を復活させる兆しが出ています。この問題は、これまで様々な投資活動において機能してきた「シャドーバンク」が抱える問題の一つとして、中国経済全体にマイナスの影響を及ぼしていくのではないかと懸念されます。

  今後、地方政府の資金調達システムに何らかの制度改善がなされなかった場合は、地方政府はさらに返済不能の借入金を増やすことになり、中国経済は一挙に落ち込んでいくことになります。今後の地方政府の動きは見過ごせません。

②「アジアインフラ投資銀行」の設立問題

  本年6月29日、中国が主導する「アジアインフラ銀行(AIIB)」設立の調印式が行われ、年内にも事業が開始されることになっています。創設メンバー国は57ヵ国でした。

  これまで、アジアのインフラ投資を支えてきた世界銀行やアジア開発銀行(ADB)は、アメリカ、日本の主導のもとに運営されてきましたが、融資条件が厳しく、資金援助を受ける途上国側の意見がなかなか通らないという課題が指摘されていました。その間隙を縫って、今回中国がアジアへの影響力を強めようとして、このAIIBの設立に動いてきたのです。

  しかし、AIIBは、投資プロジェクトの財務的判断基準が適正に行われるのか、あるいは環境基準・労働基準などを配慮した運営が行われるのかなど、いくつかの点において不安視する意見もあります。この新しい銀行の事業が成功すれば、中国の多くの国営企業は利益を得ることができますが、一方、融資の不良債権化や、インフラ施設そのものが想定外の事由で機能不全などを起こすようなことになれば、中国経済は大きな荷物を背負うことになります。今後は、このリスクについても十分に留意していく必要があると考えます。

③深刻化する社会問題

  中国においては、様々な社会問題が横たわっており、社会の安定と発展の大きな障害になっています。その代表的なものが格差問題です。従来から指摘されてきた「都市と地方の格差」のみならず、最近は都市における富裕層と出稼ぎ労働者・非正規労働者・若年失業者などの貧困層との間の格差問題も深刻な社会問題となっています。とくに若者の就職難とこの問題で自殺する若者が増加し、社会への不満も高まっています。

  また、相次ぐ化学工場の爆発や労働災害事故の多発に見られる安全対策の不備、大気汚染や水質汚染などの環境汚染の深刻化、食品の安全確保の問題、汚職事件追究の泥沼化、インターネット言論と宗教への弾圧強化など、さまざまな社会問題がなかなか解決されない状況にあります。

  中国はこれまで、失業対策や内陸部の所得引き上げ対策など経済的な社会問題に対しては、とにかく中国経済を成長させることで解決しようとしてきましたが、さらに人口の高齢化問題とそのための社会保障制度の整備の課題も絡み、社会問題はより複雑化・深刻化してきています。このような中で、政治の責任が大きく問われようとしています。中国経済を展望する際には、これらの社会問題の解決に向けた中国政府の社会政策の今後の展開も注視していく必要があります。

3.中国経済の今後と我が国の対応のあり方

  以上見てきたように、中国経済は様々な事象が複雑に交錯し、現在は経済指標に表れているように全体として経済活動は低下しつつまります。中国経済の先行きに対して厳しい見方が出てくる論拠も揃っていますし、一方で、それほど深刻に見る必要もないのではないか、あるいはこの程度の経済的停滞は想定内である、との見方も十分な説得力を持っています。今回の7-9期GDPの伸び6.9%についても、とくに金融機関に属するエコノミストの間では、さほどの悲観論は出ていません。

  ただし、中国と密接な関係にある日本経済を考えた場合、例えば8月の中国向けの輸出は前年同月比で▲14.2%となっており、このような状況が続けば日本経済への影響は無視できないものとなります。当然、日本企業にとっては、海外投資戦略や商品・部材の輸出方針を見直す必要を迫られます。さらに中国経済の成り行きがより厳しいものになっていけば、我が国企業の収益そのものに影響することになり、ひいては来年の春季賃上げ交渉にまでその影響が及んでくることになります。当然、労働組合としても中国経済の動向にはいっそう注視していく必要があるわけですが、この際、中国経済に対して過度に危機意識を醸成することはマイナスになると思われます。

  いずれにせよ、我が国の企業労使や政府には、今後の中国経済の動向に対し、様々なデータや現地の生の情報などを冷静に分析し、適確に対応していく姿勢が求められています。