政策レポート

2015年12月 4日

放射性廃棄物処理の課題と欧州の現状

1.我が国における放射性廃棄物処理の問題

   福島第一原子力発電所の事故を経て、原子力発電に関する国内の意見は二分されています。原子力発電をこれからもベースロード電源として位置づけるのか、それとも廃止の方向にもっていくのか。あるいは、現在休止している原発を安全性の確保を前提に早期に再稼働して行くべきか、それともこのまま稼働させずに廃炉にしていくのか、といった議論です。

  しかし、いずれにしても、これまで出た放射性廃棄物に加え、今後も増加が見込まれる使用済み核燃料などの高レベル放射性廃棄物をどのように最終処分していくかは、まさに国家的課題として残り続けます。

  我が国では、2000年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の施行により、最終処分の実現に向けた体制が整備されました。この事業主体として、2000年10月に原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立され、2028年(平成40年)代後半の処分場の操業開始を目指し、処分場の選定、処分施設の建設・管理、最終処分などの処分事業全般に取り組んでいます。なお、処分地の選定に関しては、自治体・住民からの理解が得られなかったため、本年5月から国が主導する選定作業に切り替わり、現在、有望地の調査を進めています。

  我が国における高レベル放射性廃棄物の処分の方策は、使用済み核燃料の場合は再処理してウランやプルトニウムを取り出して再利用し、残った廃液などの廃棄物をガラス固化体とし、キャニスターといわれる円筒形の厚さ5ミリのステンレス製容器と分厚い鋼製容器に入れ、周りを防水粘土で固めて地下数百メートルの地下に隔離保存するという、放射能の封じ込めに万全の対策をとるというものです。

  しかし、火山活動や活断層の問題、地下水の流れの変化の問題、あるいはガラス固化における技術的問題やキャニスターの耐食性の問題なども指摘されており、施設を受け入れる国民的な合意はできていません。また、2012年に日本学術会議の「万年単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することは、現在の科学的知識と技術的能力では限界がある」との見解も国民的合意形成を遅らせている要因の一つとなっています。

  そこで、この課題に関して欧州がどのような対応を行っているのか、その解決の糸口を探すため、10月中旬に、電機連合出身の大畠衆議院議員、石上参議院議員、関係する労働組合の担当者らとスウェーデン、イギリス、ドイツ、フランスにある関係施設を視察し、関係者との意見交換を行ってきました。

  なお、私は、日程の関係から、後半のフランス視察からの参加となりましが、以下、各国の原子力発電と再生可能エネルギーに関する政策、核廃棄物の処理に関する政策と実情、処理施設建設に関する住民合意に関する実情に絞り、視察報告の概略とフランスにおける視察と意見交換での所感を記載します。

2.欧州における原子力発電政策の基本と再生可能エネルギー政策

 スウェーデン

  スウェーデンは、1980年の国民投票で「脱原子力発電政策」に舵を切ったが、2010年には、政府は軌道修正を行い、現在運転中の10基の建て替えに限って原子炉の新規建設を認めることにした。しかし、2014年に共産党系・緑の党系が連立政権を組み、本年8月から原子力発電にかかる税金を上げた。スウェーデンの現在の電源構成は水力48%、原子力38%と二つが主要電源となっているが、2015年10月に、電力価格の低下や原子力発電に関わる税負担の増加など採算性の問題から、民間事業者が4基の早期廃炉を決めているので、原子力発電の比率は下がっていくことになる。

イギリス

   イギリスは化石燃料資源に恵まれ、石炭や天然ガスの火力発電が中心となってきたが、北海の石油・ガス資源の枯渇問題や地球温暖化対策などから、2008年以降、原子力発電を推進する政策へ転換するとともに、再生可能エネルギーの開発も推進している。原発に関しては、2014年7月時点の運転中の原子力発電ユニットは16基・990万kWで、国内発電量の2割弱を占めている。また、新規建設計画は11基である。

  なお、再生可能エネルギーについては、イギリス政府は、地球温暖化対策から、その比率を2035年までに60%に引き上げる方針を打ち出している。

ドイツ

   福島第一原発の事故を受け、ドイツは2011年3月に、17基の原子炉のうち、1980年以前に運転開始した8基を停止させるとともに、予定していた原子炉の運転期限の延長を凍結した。そして2011年6 月、連邦政府は停止させた原子炉8基を即時閉鎖し、残る9基も2022年までに閉鎖するとした。再生可能エネルギーについては、1991年から「固定価格買取制度(FIT)」を導入したが、料金負担が過大になってきたため、風力発電にシフトしつつある。発電における再生可能エネルギーの比率は、2020年までに35%、2050年までに80%という高い目標を掲げている。一方、再生可能エネルギーの増加に伴い、送電網の整備や安定供給のための火力(石炭)発電の運転調整が必要となっている。

フランス

   本年7月に成立した「エネルギー移行法」により、原子力発電の割合を現在の約75%から2025年までに50%に削減することを決定。また。運転40年を越す原子炉の運転期間延長については、原子力安全規制当局(ASN)が本年、その要件などをフランス電力公社(EDF)に提示しており、これを受け、EDFは検討して2018年以降に意見表明を行う予定である。

3.放射性廃棄物処理の政策と施設の現状

 スウェーデン

  低中レベルの放射性廃棄物の処分場として、エストハンマル市のフォルスマルクが選定され1988年から稼働している。また、使用済み核燃料についてはオスカーシャムに集中中間貯蔵施設が設置され1985年より稼働している。使用済核燃料などの高レベルの廃棄物については、フォルスマルクでの地層処分が計画されている。また、今回、調査団が視察した地下廃棄物処理の実験施設の「エスポ地下岩盤研究所」においては、耐食性が高い銅を材料とするキャニスターの研究が行われているが、2025年以降の用途は未決定となっている。

イギリス

  調査団が視察に訪れたセラフィード再処理施設には、酸化物燃料再処理工場と低中レベル放射性廃棄物保管庫がある。中レベルは2040年までに、高レベルは2075年までに廃止する予定である。2075年以降の高レベル廃棄物の処分場については、今後、選定プロセスを経て決定されるが、現在のところ未定である。なお、イギリスでは、2005年に独立行政法人の原子力廃止措置機構(NDA)が設立され、原子力施設の廃止や放射性廃棄物の管理業務などを担っている。

ドイツ

  2002年に改正された原子力法において、使用済燃料を外国の再処理施設に運搬することが禁じられ、高レベル放射性廃棄物(使用済燃料と英仏で再処理されたガラス固化体)を国内で地層処分する方針に変えた。

  ドイツでは、すでに1979年からゴアレーベンを処分地候補として調査が続けられてきたが、2013年に高レベル放射性廃棄物処分場選定に関する法律が制定され、これを受けてゴアレーベンの調査は中断された。今後は、市民参加型の新しいプロセスによって選定がスタートされる計画である。具体的には、ドイツ連邦環境省におかれた33名の専門家が、国民が納得できる選定方法について議論している。なお、この過程で、ゴアレーベンは再び候補地として扱われる見込みである。

  一方、今回調査団が視察したコンラッド処分場は鉄鉱石の採掘跡で、中低レベルの廃棄物を対象にしており、2007年に建設の許可がされた。2022年の完成を予定し、その後30年から40年の操業を見込んでいる。

フランス

  調査団は、フランス北西部のコランタン半島の先端にAREVA社のラ・アーグ再処理施設を視察した。ここでは、現在、UP2-800とUP3と呼ばれるプラントが操業し、回収したプルトニウムをMOX燃料等に加工し、再び原子力発電の燃料として利用している。

  高レベル放射性廃棄物については、ビュール地区に処分場の建設を予定している。スケジュールとしては、「2017年に原子力安全規制当局に申請→2020年に処分場建設開始→2025年にパイロット操業開始→2030年頃に本格操業」となっている。この場合、政府は処分事業に関し100年間の「可逆性」を求めている。これは将来の人達が今の決定を覆すことができることを保証するもので、そのため事業はステップ・バイ・ステップで進められることになる。

  なお、フランスの核廃棄物処理の政策は1991年に施行された「バタイユ法(放射性廃棄物研究法)」が基本になっており、①責任の所在を明らかにする、② 透明性を貫きすべてをガラス張りにする、③国民が反対することはしない――の3原則のもとに、深地層研究所の必要性を規定したものである。そして、2006年までの15年間に地下研究所の候補地を決めて研究所を設立し、その研究の成果を見て、最終処分地として最適か否かを国会が評価することを決めている。

4.高レベル放射性廃棄物の処分場建設における住民合意

スウェーデン

  高レベル放射性廃棄物の地層処分が計画されているフォルスマルクでは、20年以上にわたって関係者と住民との熱心な対話が行われてきたこともあり、施設建設に対して住民から高い支持(81%)を得ている。また、原発のあるオスカーシャムは住人の84%が原子力発電支持であるが、その理由として、原子力発電所をリスクとして見ていないということである。住民の理解を得るために、徹底した情報公開とface to faceの対話の積み重ねなど、地道な取り組みが成果をあげている。

イギリス

  高レベル廃棄物の処分サイトの選定については、カンブリア州が辞退したことで、選考が中断し関係者も苦慮している。今後、全国を対象とした地質学調査を実施し、併せて、地域住民を含む利害関係者との関わり方についての文書も準備するなど、処分に関する国民の理解レベルを上げ、2040年代をメドに最終処分地の選定を行うという方針である。

ドイツ

  コンラッドの処分場の選定については、かつて反対運動が起き、反対派は訴訟を起こしたが、司法庁が「適地」とした経過があった。その後、連邦放射線防護庁は国民の理解を得るために、「ビジターセンター」を中心市街地に建設し広報活動を行っている。また、コンラッドは鉄鋼山の封鎖に対し、地元として施設の活用を模索していたため、処分場の建設による地元経済の自立・雇用の確保といったニーズとも一致し、処分場の受け入れに繋がった経過もある。

フランス

  フランスでは、1987年に高レベル廃棄物埋設の地下研究所の建設を発表した際に、地元の激しい反対運動を経験したことから、前述のように、1991年の「バタイユ法」と2006年の「改正バタイユ法」によって、原子力廃棄物政策には国民・住民の意見を反映させることにした。そして、ビュール地下研究所に関しては、ビジターセンターを設置し、見学者に研究状況を直接見させるとともに、常に研究成果を公開して国民の理解を得る努力をしている。また、地域住民との対話においても、言葉遣いまで気を遣い、信頼関係を築いているとのことである。とくに、地方議員・環境団体・労働組合などから構成される「地域情報委員会」がプロジェクトの透明性確保において大きな役割を果たしている。併せて、地域の持続可能な地域振興政策やインフラ整備などの施策を推進し、国と地元が連携した「共生政策」をスタートさせている。

5.フランスにおける関係者との意見交換所感

  フランスにおける核廃棄物処理の最先端設備として、シェルブールのラ・アーグ再処理場とビュールの地下貯蔵庫の視察を行うとともに、原子力発電・廃棄物処理に関する政府関係者や国会議員との意見交換も行いましたが、フランスにおける原子力政策の課題と展望の一端を見ることができました。フランスにおいても、他の欧米諸国と同様に、高レベル放射性廃棄物の処分方法の技術開発と処分地の選定に苦労している実態がありますが、以下、関係者との意見交換の中で、印象に残ったものを綴ってみます。

●フランス国民議会議員のクリスチャン・バタイユ氏との懇談では、「廃棄物処理問題は長い時間軸で取り組むべきだ」と発言が印象に残りました。バタイユ氏は、1990年の「放射性廃棄物管理研究法(バタイユ法)」の制定に尽力されるなど廃棄物問題に関する専門家なのですが、放射性物質の半減期のこと、また行政手続きの問題や環境対策、さらには安全確保に関する技術上の問題などを考えると、バタイス氏が言われるとおり、廃棄物処理問題は100年単位で物事を考えていかなければなりません。この点において、フランスの取り組みは「腰が落ち着いたもの」となっており、評価できるものと思いました。

●ビュール地区の廃棄物の地下貯蔵庫の視察では、「可逆的対応」ということが説明されました。これは、今後20年、30年が経過する中で、廃棄物処理の新たな技術が開発されれば、すでに貯蔵した廃棄物を再度取り出して新たな処理をするというものです。この課題は、貯蔵と最終的な封じ込めの判断基準を何にもとめるのかなど、日本においても議論になっているものです。この施策は、コスト面では経済的負担は次世代にまで残していくことになっていきますが、とにかく廃棄物処理における絶対的な安全確保に対するフランスの意気込みを感じました。

●OECD原子力機関事務局長のW.D.マグウッド氏との懇談では、私から、原発事故における避難問題を取り上げました。マグウッド氏からは「避難しても死者が出ることがあり、避難しなくても死者は出る。しかし、まずは避難することが大事である」とのことでした。避難問題は避難先や避難期間によっては住民の生活や人生に大きな影響を与えることから、行政としての現実を見据えた対応のあり方について、あらためて考えさせられました。

●フランスの原子力規制庁のP.フランク.シェベ氏とは、原子炉の寿命問題について意見交換しました。私から、日本の40年廃炉方針は古い原子炉をアップツーデイトの基準を用いる「バックフィット方式」であるが、発電事業者や大口需要家からは批判的な意見があると指摘。シェベ氏からも原子炉の廃炉基準は現実的な対応が必要であり、政治的課題として国民的議論をすべきであるとの考えが述べられ、参考になりました。

  この他、フランス環境省のエネルギー・気候変動局長のL.ミッシェ氏との懇談ではCOP21への対応などについて意見交換しましたが、今回の調査団への参加によって、原子力発電に関する廃棄物処理の社会的・技術的課題、地球環境の保全、エネルギー政策における国民合意・住民合意のあり方を含めた幅広い課題について見識を深めることができました。

  とりわけ、ヨーロッパでは、福島第一原発事故以降、再生可能エネルギーの導入拡大が進んでいますが、一方で、原子力発電の活用しながら欧州全体でエネルギーのネットワークを構築して、エネルギーの安定供給を図ろうとする流れも強まっています。その流れの中で、放射性廃棄物の再処理と最終処分に関する政策の推進がますます重要になっています。この課題に果敢に挑戦しているフランスの取り組みは、日本にとっても大いに参考となるものと考えます。