政策レポート

2016年1月 8日

補正予算案とアベノミクスのゆくえ

1.補正予算案の内容と政策効果

  政府は、本年度補正予算案と来年度予算案を策定し、1月4日から始まった今通常国会に提出し、現在、その審議が行われています。

  来年度政府予算案については、あらためて論評することにしますが、まず今国会で審議されている補正予算案を見ますと、7月の参議院議員選挙を見据えたバラマキ的要素が強く、国民生活向上のための景気回復や格差の是正、あるいは社会保障制度の安定化や少子化対策といった緊急の政策課題には十分に応えていない内容となっています。その枠組みは、次のとおりです。

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  この他、既定経費の減額およびその他の経費があり、支出総額は3兆3,213億円です。そして、500億円規模を越える大きな支出としては、主として次のような費目が計上されています。

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  このうち、年金生活者等支援臨時福祉給付金は、選挙を意識したバラマキ的な要素が強いとともに、234億円もの膨大な事務費を伴っており、予算の無駄遣いとしか言いようがありません。また防衛関係予算について重点的な配分がなされていることも特徴的です。これは、昨年の安保法制改定による集団的自衛権の限定的行使を装備面などで担保するために措置されたものですが、米軍再編に係わる経費とともに、安倍内閣の防衛力強化の方向が明確に打ち出されていると言えるでしょう。

  しかし、今日、緊急を要する政策課題は山積しています。例えば、金融緩和策をとり続けてもなかなか浮上しない国内の景気をどのように浮上させるのか、あるいは格差が拡大する中で子供の貧困をはじめとする生活困窮者への対策をどのように進めるのか、とりわけ格差・貧困対策として生活支援・学習支援・就労支援や増大する非正規雇用への対策が急がれているのです。

  安倍政権は、これらの社会的要請をよそに、「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策等」として補正予算案に1兆1,646億円を計上しました。具体的には、前述の年金生活者等支援臨時福祉給付金3,624億円の他、「希望出生率1.8」に向けた保育所等の整備費に511億円、保育士修学資金貸付事業に566億円、また「介護離職ゼロ」に直結する緊急対策として介護基盤の整備加速化事業に922億円、介護人材の育成・確保・生産性向上に444億円などを計上しました。これらの予算措置には政策的意義はありますが、本来は年度初めからの手厚い対策が求められる施策であり、小規模の補正予算で補足的に手当てするようなものではありません。来年度予算案を含め、本格的な対策を講じることが求められます。

  一方、補正予算案の目玉として投資促進策が掲げられ、「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」として1,021億円、「中小企業等の省エネ・生産性革命投資促進事業」として 442億円などが計上されています。具体的には、中小企業の革新的な新商品・サービス開発、生産性向上のための設備導入に対して補助上限額を引上げるというものですが、これまでの中小企業施策の延長線にあるものであり、大きな効果が新たに生まれるものとは言えません。

  この他、農家の反発を受けているTPPの合意に対して、補正予算案では「TPP関連政策大綱実現に向けた施策」として3,403億円が計上されていますが、このうち940億円が農地や水路など農業インフラを整備する農業農村整備事業に充てられ、農業土木分野へのバラマキ的様相を示しています。

  これらの問題を含め、補正予算案は選挙向けの大盤振る舞いの性格が強く、衆参の予算委員会における審議を注視していかなければなりません。

(参考資料)平成27年度補正予算の概要

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2.上方改定された国民所得統計

  政府は、来年度政府予算案の編成を前に、昨年12月22日に「平成28年度政府経済見通し」を発表しました。これによると、来年度の実質GDPは1.7%、名目で3.1%の伸びを見込んでいます。27年度については、政府は当初の実質1.5%を下方修正して1.2%としていますが、現在の状況では、この達成も困難なのではないかとの予測も出ています。来年度は、これを上回る1.7%ということですが、内外の経済情勢を見るとこの数字を達成するのでは容易ではないと思われます。昨年の四半期別の国民所得統計を見ますと、4-6期が実質▲0.3%・名目0.1%となり、7-9期は当初の1次速報でマイナスとなり、日本経済の失速が叫ばれました。しかし、7-9期は2次速報でプラスに上方修正され、政府・与党関係者も胸をなで下ろしたことでしょうが、具体的経緯は次のとおりであり、厳しい状況は変わりありません。(別表参照)

  内閣府は、まず11月16日に7-9月期の「実質国内総生産(GDP)」の1次速報を発表し、「前期比▲0.2%・年率換算で▲0.8%」としました。そして12月8日に2次速報値を発表し、11月16日に発表した1次速報を大幅に上方改定し、「前期比プラス0.3%、年率換算でプラス1.0%」「名目でも前期比プラス0.4%・年率換算でプラス1.6%」としました。実質成長率、名目成長率ともに1次速報値から上方改定したわけですが、統計処理上の改定とは言え、マイナスからプラスへと真逆の速報結果となったのは意外な感じがします。

  内閣府は、上方改定の理由として、民間在庫品増加や民間企業設備などの推計値を上方修正したとしています。

  1次速報と2次速報との違いは次のように説明されています。

  在庫品に関しては、1次速報は「鉱工業生産指数」の製品在庫指数、流通在庫については「商業販売統計」の商品手持額から推計しますが、仕掛品在庫と原材料在庫については、「四半期別法人企業統計調査(法人季報)」の棚卸資産残高から推計するため、これが発表されてからの推計となり、2次速報にその結果が反映されます。

  また、民間企業投資については、1次速報では「工業統計表」の結果が利用できないため、「鉱工業指数」や「生産動態統計」など産業を大括りにした統計を用いる簡易コモディティー・フロー法により供給側推計値を使用しますが、2次速報では、「法人季報」のデータを利用して需要側推計値を作成し、先の供給側推計値と加重平均して推計値を策定するため、数値が変わってくるというものです。

  推計の元となるデータの違いによって、1次速報と2次速報の間に誤差が生じるのは当然のことではありますが、今回のように、マイナスからプラスへと大きく改定されると、社会全体に与える影響が大きくなるため、今後、担当部局において速報値の推計精度を高める努力を期待したいと思います。

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3.経済活動の停滞とアベノミスクの評価

  7-9月期の国民所得の推計値の上方改定によって、経済成長率はプラスに転じましたが、4-6期のマイナス成長とともに依然として景気は停滞状況にあることは間違いありません。

  とくに、昨年11月16日の1次速報では2期連続のマイナスとなったため、国内外のエコノミストや投資家から「アベノミクス失敗論」が大きく浮上しました。そして、この論調の流れは現在も続いています。

  しかし、安倍政権は自らがアベノミクスの成功を喧伝し、さらに昨年9月14日に「①2020年頃に名目GDPを600兆円にする。②2020年初頭に希望出生率 1.8を実現する。③2020年代中頃に介護離職をゼロにする」という「新3本の矢」を打ち出しました。国民にバラ色の社会・経済の姿を見せようとしていますが、経済の実態はそのようなものにはなっておらず、新方針を打ち出すことそのものがアベノミクスの失敗、あるいは効果が小さかったことを物語っているのではないか思われます。

  元々のアベノミスクは政権に復帰した自公の政権が、2013年1月以降、「大胆な金融緩和」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」という三つの方針と具体的政策を打ち出したものですが、現時点でこの総括が済んでいるとは言えません。その目標は「デフレ脱却」ということでしたが、日銀が目指したインフレ目標2%の達成もほど遠いものになっていますし、GDPも前述のように停滞したままです。このような状況のもとで、唐突に新しい「3本の矢」が出て来ても、多くの人は疑問を感じるだけです。

  アベノミスクに対する批判は、これまで伊東光晴・京都大学名誉教授や、浜距子・同志社大学教授など、金融政策による景気対策を主張する「リフレ政策」を批判するケインズ派の経済学者によって行われてきましたが、これらの批判も、株価の上昇や円安、それに伴う輸出産業の回復によって、「単なるいちゃもん」に過ぎないと無視されてきました。

  しかし、今日、国民所得統計でみる限り、景気は停滞・下降局面に入っているという見方が拡がっており、マスコミ等でも、「新三本の矢への失望」、「アベノミクスはしばらく様子見」、あるいは「アベノミスクは終わった」という海外の論調を紹介するまでになっています。

  例えば、昨年11月17日のアメリカの「ウォール・ストリート・ジャーナル」の『アベノミクス、今こそ再考の時』と題した社説は、「日本経済の停滞に終止符を打つという首相の公約は達成できておらず、今こそ抜本的に再考しなければならない」と示唆しています。

  また、ロイター通信は昨年11月18日に、デンマークの投資銀行のサクソバンクの主任エコノミストであるスティーン・ヤコブセンの「アベノミクスは失敗に終わったと思う。新3本の矢はもはや矢ではない。構造改革はどこへ行ったのか」とのインタビュー内容を伝えています。

  さらに、ニューヨーク・タイムズは11月18日の「日本の人口問題」と題した論説で、「近々、米連銀が利上げに踏み切ることになれば、円の価値はますます下落し、日銀はさらに手詰まりに陥る。日銀がアベノミクスへの信認を守るためにさらに国債を買い続けるとしたら、ますます円安が進むが、円安を業績向上に結びつけることに失敗し続けてきた日本の輸出企業を、さらなる円安で救済することは出来そうにない。他方、輸入された食品やその他の商品を買う消費者はその過程で大きな打撃を受ける。」と論評しています。

  今後の我が国の経済は、アメリカ経済や中国経済の動向、企業の投資行動、春の賃上げの状況など、様々な要因によって状況は変移していくことになりますが、確実な経済の好循環を作っていくためには、基本的に内需の拡大・消費の拡大が不可欠となります。したがって、春の賃上げはもちろんのこと、不安定雇用が家計の維持に大きなマイナス要因になっていることから、正規雇用の拡大に重点をおいた雇用政策の推進、生活困窮者への支援、子どもや若者が将来に希望が持てるような就学支援措置や職業能力を高める教育の充実などの諸施策を優先的に展開していく必要があると考えます。

  安倍政権のスローガン政治や、非正規雇用の増加を雇用が増えたと評価するような統計数字の恣意的な利用を許さず、真に求められる政策の推進と関係予算の確保を粘り強く要求していかなければなりません。