研究会抄録

第1回 政労セミナー「日本と中東との関係について」

講師:参議院議員 大野 元裕氏

場所:電機連合会館 5階会議室

この抄録は4月13日に開催された第1回 政労セミナーにおける大野元裕参議院議員の講演を要約したもので、文責は研究会にあります。
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【大野】 埼玉県選出の参議院議員の大野元裕です。 今日は中東の話を少ししたいと思います。私自身、もともと中東の専門家として色々な大学や研究所で仕事をし、また中東にも13年ほど住んでいました。それらの経験などを踏まえて話を進めたいと思います。

今日は、最初の基本的なところから、この間のシリア空爆のところまで話を致します。なお、レジュメとともに、5月9日の段階での「化学兵器使用と米国によるシリア・空爆」を添付しておりますので読んでいただきたいと思います。

中東のイメージと現実

さて、まず中東という場所です。「中東」とは実はヨーロッパから見た距離なんです。中ぐらいの東、あるいは中近東も同じです、中ぐらいに近い東。ものすごく極端に遠い東は極東と言います。要するにヨーロッパ中心主義です。ですから、アジア人と言いますが極東人とは言わない。それと同じように、アラブ人はいても中東人はいないんです。
だから、明確にここが中東だというのはないですが、便宜上、外務省の定義でいうと、若干一部変わったんですが、東はアフガニスタン、イランから、西はモロッコぐらいです。真ん中あたりにサウジアラビアという大きなアラビア半島の国があります。実は真っすぐこれを持ってくると大体西ヨーロッパと同じぐらいの大きさです。つまり非常に広い範囲だということをまず頭に入れていただきたいと思います。
それと同時に、中東のイメージを簡単に言うと、大体2つに分かれます。1つは、郷愁の中東というんでしょうか、月の砂漠で、その上で何かオバQみたいな格好をした人がラクダの上に乗って。これが1つの中東のイメージです。あるいはピラミッド、古い文明、こういったイメージが一方にあります。他方、戦争やテロあるいは日本人人質、こういうのが中東のイメージだろうと思います。
どちらも正しいんですがどちらも正しくないんです。どういうことかというと、例えば、テロリストって中東にいますね。そのとおりなんです。あるいは遊牧民ってすごいですね、そのとおりなんです。砂漠もそうですけれども、実はこれらは日本式に言えばフジヤマ、ゲイシャの世界です。あるいはまたぎ。日本にはまたぎがいます。でも皆さんの家の隣にいないでしょう。芸者もいますがふだん毎日は会わないです。つまり、正しいけれども、一面をあらわしたものであります。また一番高い気温は、62.3度です。それはイラクの一番南部のバスラという町です。「シンドバッドの冒険」の中で大きな鳥がシンドバッドを連れて行ってしまう、あの港町がバスラです。そこが62度を記録しています。ところが冬になると、イラクの一番北のほうでは、山のほうだと雪が2メートル積もります。だから、「イラクは暑い」も正しいし「イラクは寒い」も正しいのです。ということで我々はきちんと見るべきところをしっかり見なければいけないということです。
これはイスラムとか貧困、テロも一緒です。どれも一つの側面としては事実だし、イスラム的な価値観とかも事実ですが、それだけでみんな動いてはいません。日本だって儒教やキリスト教など、それぞれの宗教のロジックで確かに動くところもあります、伝統的文化として。しかし普通の生活においては、休みを楽しみたいとか、給料もっと欲しいとか、ごく普通に、どんな宗教だろうがみんなが抱くような、そういった行動原理で動いたりするじゃないですか。楽しいからとか。中東も同じなんです。
しばしば我々は特殊な原理や宗教に従って動いていると思いがちです。でも、それだけじゃないんです。普通の人は、家族と一緒の時間が欲しいからとか、いやいや、あっちのほうが給料いいからとか、そんな原理で動いています。だから、私が13年間中東に住んでいたときも、隣のおじさんたちは、日本の私のマンションの隣のおじさんと大体一緒です。普通にジャケット着て、ネクタイはあまりしてませんが、会社へ行って、休みになると子供たちとサッカーして遊んで、政府の文句言っていると、大体こんなものです。そこはイスラムの原理は関係ないです。でも特殊な場面で出てくる、そこを我々がどう取捨選択していくか、あるいは考えていくかというのはすごく大事なポイントになります。

エネルギーにおける中東の位置付けは重要

一方我々にとって中東を理解しないと若干問題が起こりうる。もちろん遠いところですから、テロリストが居ようが、戦争が起ころうが、極端な話関係ないとも言えるわけで、そこは北朝鮮との関係とは少し違います。
ところが、中東が大きな影響を与えるのが、1つにはエネルギーです。ちょっと見ていただきたいのは、石油という資源、この間電機産業の皆様にも大変ご心配をおかけしましたが、我が党の中のエネルギー総合調査会で議論をしたときにも、実はみんなが忘れていることが1つあるんです。原発がいいとか悪いとか、いや再生可能エネルギーがいいとか悪いとか、これはいろいろあると思います。でも1次エネルギー資源の85%は化石燃料です。これは今も変わらない。3.11のときには90%でした。この90%もしくは85%の化石エネルギーの一番大きな価格を左右する要因は石油にあります。これは後ほど申し上げます。その石油は残念ながら世界中に等しく分布しているわけではなくて、偏って存在をしている。その1つが中東だということです。
私はかつて経済産業省のエネルギー関係の審議会に5年間入っていました。そこで経済学者が来られていろんな議論をします。私はポリティカルリスクの専門家として入っていたんですが、大体3月、4月ぐらいになると、今年の石油価格は幾らだ、みたいな議論になります。3年ぐらいして気がつきました。誰も当たらない。なぜかというと、経済学者は需要と供給で考えようとします。ところが石油価格は需要と供給では決まっていないのです。

石油価格に潜むポリティカルリスク

お手元の資料の一番下の表を見て下さい。石油価格の変動を表しています。これは1年間の平均なのでそんなに上がっていないように見えますが、例えば1973年のオイルショック、あのときに短期的には、5倍とか6倍になっています。普通需要と供給で、どちらが増えようがどちらが減ろうが、5倍や6倍になる商品なんてありません。しかもオイルショックのとき石油は途絶していないんです。それなのに大きく上がったり下がったりする、これが石油価格の特徴です。
実際これを見てみると、(図の)一番最初の左のほうでぽんと上がったのが1973年の第1次石油ショック、79年が第2次石油ショック、80年代の前半がイラン・イラク戦争。それから90年の湾岸戦争、湾岸危機、9.11テロ以降ぐっと上がっていきますが、要するにポリティカルリスクなんです。
1973年のオイルショック、先ほど途絶していないと申し上げましたが、第4次中東戦争というのがあって、アラブの石油産出国が「イスラエルを支援する国にはもう売らない」と言った途端大きく価格が上がる、これが石油価格の仕組みであります。今でも日本の1次エネルギー資源の内85%を石油が占めている、これが現実です。
現在日本は天然ガスを輸入しています。天然ガスはほぼスポットがないです。長期契約です。なぜかというと、マイナス162度にしてLNG(液化天然ガス)として、バレーボールぐらいの大きさの気体をぐっとゴルフボールぐらいに圧縮し液化するわけです。マイナス162度に下げるために長さ2キロメートルぐらいの施設をつくります。数メートルごとに1度ずつ下げていきます。したがってLNGにするためには莫大な投資がかかります。要するにガスを採掘するためにお金がかかるのではなくて、LNGにするために莫大なお金(投資)がかかる。そうするとスポットではなく長期契約になります。ということで長期契約のときに最初に式をつけます。つまり、単純に1ミリオンBtu(注1)当たり幾らじゃなくて、今の市場の何かを指標として決める。何を指標にするかというと、石油です。だから石油価格が下がったら天然ガス価格も下がるし、石油が上がったらガスも上がるという図式になっています。

石油価格は物価の大元

世界の商品市場の中、額ベースで最大のものは石油です。つまり、石油価格が上がると何でも上がるのです。世界の商品市場の最大のものですから、ほかのものもつられて上がります。ですから、基本的には石油価格が上がると原材料価格が上がる、原材料価格が上がると翻っていろいろな製品価格も上がるというのが仕組みです。
だとすると、政治的なリスクで大きく変動するのに、その石油という商品が今もって経済におけるど真ん中のところのプライシングの大きな要素になっている、しかもそれが偏在して中東にある、これはやっぱりリスクなんです。そこは特に皆様のような業界の方々にはとても関係がある話だと私は思っています。だからこそ中東について、細かく知れとは言いませんけれども、一定の関連はあるということはご理解をいただく必要があろうと思っています。

不安定な中東地域、テロリストはどうやって生まれるのか

中東を一言で話すのは難しいのですが、少し不安定な状況について話を進めます。
皆さんのイメージにあるとおり、中東ではテロが跋扈しています。先ほども言ったとおり、テロリストが多いわけじゃない。普通の人はごく普通です。しかも、イラクやシリアのように、悲惨な目に遭えば遭うほど安定した平和のほうがいいとみんな思っています。多分日本人よりも強く平和を望んでいることは事実です。にもかかわらず残念ながら、テロリストの多くはイスラム教徒であることも事実だし、テロの多くは中東で発生していることも、これもまた事実であります。そして、先ほど申し上げたように、(プライシングなどのいろいろな)リスクの大きな柱をつくっているのが中東であります。
テロリストとはどう作られていくのかですが、典型的なケースの話をします。もちろん様々なケースがあるのですが。私が戦争でイラクから離れて以来13名の友人が殺されています。そのうちの数名は、もちろん病気でしたが制裁のため(医療が間に合わず結果的に)テロの犠牲になっています。
イラクのケースで言うと、1990年8月2日のイラクのクウェート侵攻以来今に至るまで残念ながら安定していない。ほとんどの人たちが言うのは、一つの家族もしくは親族に必ず1人は殺された人がいる、あるいは誘拐された人がいる、このぐらいひどい状況になっています。
テロというのは、多分ですけれども、3つのものが必要です。一つは意思です。こういうふうにやるぞ、誰か殺すぞという意思がなければできません。二つは組織です。そして三つは環境です。これらが全てそろっているのが中東の特に不安定になった地域です。では彼らは何が不満なのか。本来平和を希求しているのになぜまだテロがあるんだ。
ここでテロリストのつくり方ですが、実は私の友人たちにいろいろ話を聞くと、いろいろなパターンが出てきますが、少し共通しているのは、基本的に社会的な不満が大きい。これがそのベースの環境や組織をつくる上で大きな影響を与えています。
例えば私が、制裁が終わってからイラクに戻り市場に行きました。市場でおばあさんが座って物を売っています。目の前に一つ銀色のものを置いて売っている。「おばあさん何をしているの?」と聞いたら「売っているんだ」、「これ何?」と聞いたら水道の蛇口です。
彼女に詳しく聞くと、イラクというのは、貧富の差がありました、豊かな人はものすごく豊かですから、夏になると1カ月ぐらいフランスにバカンスに行っていました。彼女の家も豊かだったそうです。彼女が言うには、息子はテロで殺された。お父さんともう一人の息子は戦争へ行ったきり帰ってこない。だから私は家を守らなければいけない。でも収入がない。で絵を売った、ドレスを売った、家具を売った、冷蔵庫を売った、全部売って最後に残った売れるものは水道の蛇口一つ。水道は止められてしまったそうです。でも家だけは売れない。お父さんが帰ってくるから。まさにそういう思いに駆られた人たちがたくさんいます。

チュニジア、アラブの春のきっかけ

チュニジアでアラブの春の引き金になった事件がありました。道路で物を売っていた青年が焼身自殺をした。これが画像になってインターネットで流れ各国に広まった。焼身自殺の画像が広まっただけでエジプト、リビア、あるいはチュニジア、さらにはイエメン、こういった政府が倒れてしまったとは考えにくくないですか、もちろん衝撃的ではありますが。実は何が起こったかというと、そこには大きな社会共通の問題がありました。
2010年からアラブの春が始まっているので2009年時点の統計を持ってきました。(資料の)この黄色いところはアラブの春で政権が倒れたところです。それ以外の理由で倒れたところもありますけが。当時よく新聞に出ていたのは、インターネットが普及していて、しかも宗教とかがという話があったんです。しかしインターネットの普及率が一番高いところはアラブ首長国連邦で、そんなに、それと連動性はないんです。
何が起こったかというと、1つはGDPで1万ドルを超えているところでは起こっていないんです。だから、金持ちはけんかしないんですよ。やっぱり貧しいところ、若い人が多いところも実は起こっているんですけれども、貧しいだけではなく貧しさ、豊かさが混偏在しているところで起こっています。みんながみんな貧しければまだましなんだろうと思います。しかし、ひどい貧困層と富裕層とに分かれているところで残念ながら今回起こっている。だからこそ貧富の格差を解消することは大切で、そこは各国共通の大事なポイントだと思っています。
先ほどのチュニジアの焼身自殺をした青年は何がきっかけだったかというと、お巡りさんにいじめられたんです。お巡りさんにいじめられて、「そこで物売るんじゃない」と言われて、毎日のようにいじめられてお金を取られていたんです。最後は、侮辱されたといって焼身自殺するんですが、それだけじゃないんです。
このベースにあるのは、各国みんな同じです。石油から富が来るじゃないですか。これがどこに入るかというとまず政府に入ります。政府はこれを使って、自分たちの統治をするためにばら撒くのです。でも、全員にばら撒けません。そこで自分のことを支持してくれる層、一番簡単に言うと同じ部族です。どうやってばら撒くか。現金を渡すという手もありますが、それは多くなくて、就職先です。だから、学校の先生、軍隊、警察、ここが一番のばら撒き先です。彼らは、単に政権に近い部族の人であるというだけで警官になれるわけです。
その警官がいじめる相手、この青年は大学を卒業して一生懸命頑張って、俺は立派に国に貢献したいと思っていても失業率が20%ぐらいある中で、仕方がないからガムとかタバコとかを道で売っている。そこに単に同じ部族であるだけの警官が来て、「おいおい」といじめている。理不尽なことをやられても誰も問題として取り上げません。毎日いじめられて金取られて、それで最後に頭にきて油かぶって死んでしまうんです。この状況だけは中東でみんな共通なんです。ただし、先ほど言ったように、1人当たりのGDPが高いところはそれでも生活できているからまだましです。
ところが問題はごたごたが終わっても、この構図や貧しさは消えるわけじゃないということです。民主的な政権をつくればよくなるはずだとみんな思うじゃないですか。でも根本のところは変わらない。民主的な政権のほうが必ずいいのですが、前よりはいいんだけれども、自分たちの根っこの不満は変わらない。だからエジプトでもう一回革命が起こってしまった。
そして、それだけではなくごたごたになったときに、政府をきちんと取りかえればいいと思わない人がいる。そのときに「イスラムに従え。一緒に戦おう。不正を宗教の名のもとに断罪しよう」と言う人がいる。そこに集まってくる人がいます。でも、あまり主義主張だけでは集まらないんです。「民進党頑張ろう」と言っても、そのスローガンだけでは皆さんついてきてくれないですね。やっぱりそこには何か理由がなければいけないですね。主義、主張、スローガンだけでは集まらない。
イラクでいうと、例えばバグダッドの川があって、北部のところは東側がスンニ派、西側がシーア派に分かれています。電気つく数が違うんです、夜になると。お互い殺し合っているんですよ。そうなると何するかというと、こっち側のスンニ派の民兵たちは、「俺たちを支持しろ。そうしないと守ってやらない」、シーア派のこっちの宗教家の人たちは、「俺たちを支持しないとおまえたちを守ってやらない」。政府が信用できないものだから民兵に頼らざるを得ない。いたし方なくそうやっていく人たちがいる。
ではその民兵のど真ん中であるテロリストは、どうやってつくられるのかという話なんですが、実は社会の中で真っ先に犠牲になるのが、先ほどのおばあさんのような未亡人、あるいは若者、親を失った人たちです。イラクの場合孤児とかをみんなで受け入れる文化がありました。お父さんが亡くなると親戚とかが受け入れてくれるのです。ところが、みんな貧しくなるとそういう子たちはやっぱり外へ出されてしまいます。
その子たちが何をやるかというと、例えば市場で集まって、ビニール袋を持って立っている。僕らが買い物行くと、「おじさん、このビニール袋買って」と。1枚2円ぐらい。それを売ったり、あるいは靴磨きをしたり。でもそれだけでは大した額にはならない。学校にも行けないが、そこにいれば何とか本人だけでも生活できるかもしれない、そういう状況です。もともと豊かなことを知っていた世代の人もいますけれども、そうじゃない人もいます。
そうすると何が起こるかというと、テロリストのリクルーターが来ます。「おいで。どうしたの? そう。かわいそうだね。500円あげるからご飯食べておいで。いいから」。翌日また来ます。またあげるんです。「いいから、いいから」。そのときはテロリストだなんて絶対言いません。何日かたって、「いや実はね、おじさんね、アメリカ軍と戦っているんだ。正義のためなんだよ。君のお父さんもアメリカ軍に殺されたんだって? そう。手伝いたい? いや、来ちゃだめだよ。君たちのような子供たちが来るようなところじゃないから」。最初は拒絶するんです。また何日かたつと、「そう? そこまで言うんなら一度おいで。見張りだけやんなさい。君たちは大変なことする必要はないんだから、見てなさい。おじさんたちがアメリカ軍やっつけてるから」、そうやってだんだん洗脳していきます。洗脳した結果、何をするかというと、「君ね、ここにベルト巻いて。小さい子なら、君たちぐらいの年齢ならチェックされないから、そのまま市場の真ん中まで行ってこれ引くんだよ」と言われます。で、自爆テロ。
子供の自爆テロや、最近ひどいのは、最近といっても4、5年前ですが、精神薄弱の子、誰もあぶないと思わないじゃないですか。これ巻いておいて、ぽんとリモートコントロールのボタンを押す、こういう事件が多いです。
ただ、彼らも感情はあります。実は、これはイラクのケースではありませんが、かつてPFLPGCというパレスチナのテロリストの組織がいました。そのゲリラというか、コマンドーのおじさんに、「あんたたちもよくそうやってひどいことするね、若い子たち使って」と話をしたときに怒られたことがありました。「おまえ、命はそんなに簡単なもんじゃない」と。テロリストに怒られる話じゃないのですが、言われたのは、そういった自爆テロとかをやるにしても、やっぱり最初は7割ぐらい帰ってきちゃうんですって、怖くて。遂行できないそうです、失うものがなくても。でも、そこまで追い込まれていくというプロセスを我々は知らないといけない。もちろんばかなやつもいますよ。インターネットで見て、いきなり手を挙げて行っちゃうやつ。それはいますけれども、1万人、10万人に1人の世界です。そんな中でテロリストたちがつくられていくというのが今の状況です。
またテロリストたちも巧妙になっています。簡単にリクルートはできません。しかも自爆テロが起きたら、そういったのと同じような人はもう例えば市場には入れないじゃないですか、次からは。だんだん措置が講じられていき、2、3年前から多くなっているのは誘拐です。
例えば、Aさんを誘拐するじゃないですか。Aさんが同じシーア派ならいいんです。スンニ派の場合どうするかというと、身代金を取って、その後銃をつきつけ、車に乗せて、「じゃAさん、金をもらったから解放してやる、真っすぐこのまま警察署に行け。必ず警察署に行くんだぞ」と言ってAさんの手をハンドルに固定して、ゴムでぐるぐる巻きにします。で、警察署にAさんが「助けてくれ」と入っていく。それを見届けて、後ろに積んである爆弾のスイッチを押す。最後残るのはハンドルについているAさんの手、こういう状況です。 だから、こういった状況をつくらないためには社会が一番大事です。
ISが特殊なのは、組織を持って領土を持ったこととよく言われますが、それだけじゃわからないんですよね。なぜほかはみんな領土を持てなかったのかというと、実はISは、中央部と実際にオペレーションをしている前線がしっかりと連携ができたおそらく世界で初めてのテロリストのケースです。テロはどんどん広がっていくんです。アルカイダのようなものがそうなんですが、最近のというか、特にアルカイダが出始めてからがそうなんですが、テロはフランチャイズ形式です。
例えば、ザルカウィグループというグループがISの最初の母体です。このザルカウィグループ、昔、イラクのアルカイダと言っていました。その前は、香田証生さんの首をはねたグループ、要するにアルカイダの入る前、そのグループなんです。ところがそういったグループがフランチャイズとして入るんです。アルカイダがなぜそれをやったかというと、最初は資金が豊富だったからです。ところが、テロって実際にやらなくてもいいんですよ。「やるぞ」と言って脅すだけでもいいんです。そこでみんな違う行動パターンを起こしてもいいわけです。そういったテロをやるときに、「こちらはテログループ大野元裕だ」と言っても誰も怖がらないんです。「こっちはアルカイダ」と言うとやっぱり動く。そういった名前のまずフランチャイズとしてのレバレッジがある。それから組織、リクルートのときも、「こちらはアルカイダだ」と言ったほうが人は入るわけです。それから先ほど言ったお金。そういったことで、アルカイダ以来実はフランチャイズ化が進んできました。ターリバーンもそうです。それから今のISにはそんなに金はないんですよ、アルカイダほどは。それでも、お金よりもそういったフランチャイズとしてもらえる利益あるいは期待できる利益をそれぞれのテログループは考えているということになります。
どういうふうに連携がとれているかというと、例えば、おととしの夏、6月だったと思います。インターネットで広報されているISの雑誌があります。表紙はノアの箱舟です。下のほうには「洪水が来る」と書いてある。要するに、もう一度神はノアの箱舟をつくって、箱舟とはつまりISです。「箱舟に乗れば、来たる神の怒りである洪水からあなたたちは守られる。遅れることなくISの船に乗れ」、こういう広報です。それが雑誌の全ページにわたって書いてあります。
では実際に何をやっていたか。イラク中部のラマーディーというところと北部ではダムを狙って占領しているんです。中東は砂漠だけではなく土漠というか、荒土です。その中でも人が住んでいるのは、川のそばで都市や町をつくって住んでいます。都市文化ですが裏を返すと水に弱い。洪水が来たらみんな被害を受けるということです。
かつてイスラエルとエジプトが和平協定を結ぶ直前に、イスラエル側はアスワンハイダム(エジプトの上流にある)に核兵器を使うと脅していたんです。それで、エジプトが寝返るというか、イスラエルと和平を結ぶわけです。アスワンハイダムが攻撃され、ダムが決壊するとエジプトでは半分以上死ぬと言われています。それでイラク中部のラマーディーでは、テロリストはダムを確保しているんです。最終的には米軍に駆逐されましたが。
いずれにしてもそういった形で、広報していることと実際のオペレーションが一致している、それがシリアとイラクのイスラム国です。ほかでのISの指揮命令系統は大したことはないのですが、ただ、1回成功例を見せてしまうと何かすごいように見えてしまうのです。そういうイメージ効果をISは狙ってきています。
最近では、ほぼISの拠点はシリアの北部のラッカというところを除いてだめになっているので、逆にいわゆる伝統的なテロの手法、例えばインドやイギリス、そういったところでテロを単発で起こしている。単発というのは実は難しいようでやりようがありますから。そういったやり方になっています。

シリア空爆の背景

最後にシリアの話ですが、アメリカが空爆をしました。それはハーン・アッ=シャイフーンという場所において、要するにアメリカが支持する反体制派がたくさんいるような場所のすぐそばで化学兵器を使ったということです。実際に化学兵器を使ったかどうかはまだわかりません。ただ、化学兵器が使われた症状の患者がたくさん出ているので、何かあった、これは多分使用したと思います。ロシアなどは、シリア軍が使ったのではなくて、反体制派が持っていた倉庫の中に化学兵器があって、そこにミサイルが落ちたと言っています。そこはわかりません。ただ、いずれにしても使われたことは事実、そういった被害があることは事実です。それに対してアメリカは空爆をしました。国際法的には、長くなるので省略しますが、一言で言えば空爆正当化の根拠はありません。
ここでシリア国内の話をします。すごく難しいのは、「ああそうか、あそこで子供を含めてたくさんの人たちに化学兵器が使われた。これに対しアメリカが攻撃した。とんでもない。シリアもとんでもないし、国際法的にもとんでもない」、大体こんな議論がテレビでも行われていますけれども、実はそれだけではないのです。
そもそもシリアのかわいそうな人たちにトランプ大統領が関心があったら、最初の外交政策として難民の受け入れを止めるなんていうことはなかったと思います。
シリア国内だけの話をすると、シリアの国内は、なかなか簡単に説明できないんです。、幾つかのグループに分かれています。1つはアサド政権、バッシャール・アサドという指導者のもとの政府軍、この人たちがいます。ただ、この人たちは、少数派が金をもらっている、まさにその典型で、アラウィーという、これはシーア派でもスンニ派でもないんですが、特殊なセクトの人たち、少数派が多数をコントロールして富を吸い上げている、そういうグループです。これが政権派でロシアやイランが支援しています。それから次にIS、これは北東部に拠点を構えています。それから次にスンニ派の宗教勢力、4つ目が反体制派と呼ばれているアメリカやサウジアラビアが支援している勢力、この4つが入り乱れています。
何が起こってきたかというと、あえて恐れずに言えば、4つにそれぞれの国が、いろんな国がついていて、どこかが強くなるとぺしゃっとへこまされて群雄割拠の状態が続いてきた。その中でツケを払わされたのはシリア国民で、だからこそ人口の3分の1が難民や国内避難民になり、そして二千数百万の人口の中で50万以上が殺された。これがシリアの状態です。
ところがこの中で、去年の12月にアサド政権側がアメリカの支援する反体制派をこてんぱんにやっつけて、アレッポという拠点をなくしてしまった。つまり実は今、アメリカが支援しているグループはほとんど拠点がないのです、都市には。ISは外にいる。それから過激なイスラム勢力がいる。4つだったのが3つになった。そこにロシアとトルコとイランが手を組んで、アメリカを外してシリアの和平を進めようとした、これが去年の12月からの状況です。
そんな中でアサド政権側は勝っていけるのかというと、勝てないんです。ISに勝てるほど決定的な力はまだない。かつてシリア軍は30万人以上いました。今のシリア軍は5万人です。これでこの勢いをほかのところにも及ぼしながら少しでも勢力を拡大するためには何をしたらいいか。かつては圧倒的な空軍優位を築けた。今はそれがだめになっている。そこで最後に選んだと思われるのが化学兵器です。つまり、平面で制圧するにはとても便利な兵器です。だから、使う理由は十分あると思います。
それに対してアメリカが攻撃をした。アメリカはいろんなことを言っています。「もうアサドの将来はない、政権交代だ」と言っていますけれども、やっていることは、正確に、この空港の施設、そこにある倉庫、それから航空機、倉庫の中の兵器と対空兵器、この5つしかやっていないんです。つまり直接化学兵器を使ったとされるもののみをやっているんです。これはメッセージになります。つまりアサド政権側はアメリカはそこまでやる気ないかもしれないと思っているかもしれない。そういう状況です。
こんな中で、このアサド政権が一番アメリカを支持した人たちをたたいているんです。そこに対して懲罰を加え、しかも空軍優勢をつくっていたので、その空軍の、この人たちがいるところに近い基地をたたいた。ということは逆に言うとこの人たちがもう1回戻ってくるという環境をつくったんですが、まだそれでも1回だけですから、まだまだそんな力にはなりません。
そうすると、シリアにはアメリカに直接反撃する力はありません。だからやり放題です。ただ、アメリカがこれからやっていくと何が起こるかということですが。よく北朝鮮との連関が言われます。つまり、見せしめだったんだと。(北朝鮮に対し)やるぞやるぞという話が毎日(テレビなどで)出ています。ところが問題はシリアにかかわりあうと、二正面はできないと思います。シリアを(空爆して)やっておいて、中国の習近平と食事しながら、そのタイミングで習近平に、北朝鮮を抑えろと。北朝鮮へのメッセージだと脅したわけですが、これはとても効果があったと思います。

北朝鮮とシリアの異なる点

問題は、こちら(シリア)をすぐ足抜けしてしまうと、結局アメリカを支援している人たちはもうだめになります。でもここ(シリア)に携わってしまうと、二正面作戦はできないということがわかるので、中国も北朝鮮も安心したと。で時間がまだまだ延びただけだったなら、今のうちにとにかく核とISBMを整備しよう、こう思いかねない。だからトランプ政権は今回ものすごい博打のようなことをやりました。
北朝鮮とシリアを単純には比較できません。というのは、シリアには反撃する能力はほぼありません。ただしロシアがべったりついています。ロシアはシリアの、先ほど言った12月にアサド政権を助けて、アメリカとかが支援する反体制派をやっつけたじゃないですか。その報酬としてタルトゥースという港の租借権を49年間取っています。今回攻撃された空軍基地にもシリアの施設が一部あるんです。イランの施設もあります。なぜ5時何分に撃ったかというと、その人たちが出勤時間の前だからです。ロシア軍に被害は及ぼせない。
ところが北朝鮮が違うのは、北朝鮮は反撃する能力を持っています。中国がべったりついていたんだけれども、最近では中国も不愉快に感じている。少し懲罰しなければいけないと思っている可能性がある。
シリアは入れば入るほど他へ影響が及び、またロシアを怒らせることになる。こっち(北朝鮮)は、目いっぱい入ってしまうと多分中国は怒ると思われますが、もしかすると政治的な意味での落としどころはあるかもしれない。
実はアサドさんはとても頭のいい人です。私は彼が大統領になって最初に会った日本人ですが、ものすごく頭がいいのですが、彼が独裁しているのではない。彼を支えているアラウィという、この人たちが死なばもろともで、一緒にくっついているのです。だからアサドの好きなようには動けない、こういう状況なのでがっちりしています。ところが北朝鮮は、おそらく軍と、それから金王朝、親戚の人たちを含めて分かれているのだろうと思います。
静岡県立大学の北朝鮮専門家の伊豆見さんとよく話しているんですが、北朝鮮って、もう先軍政治と言って、チュチェ思想と言わないです。昔は、金正日時代ぐらいまでは(チュチェと)言っていたんです。おそらく中で政治的な革命が起きていて、先軍と言って、軍をものすごく持ち上げている。だから緊張関係があると思われるのでので、そこにつけ入るすきがある。そういった同じところと違うところを見分けながらうまくできるかどうかというのはものすごく大事だと思います。
ただ、トランプ政権にそこまでの態勢と戦略があるかどうかはまだわかりません。今回のマティス、マクマスターという、国防大臣とNSCの補佐官、このラインで決まっていますが、軍人ラインで決まっているから行動は早かった、それはそのとおりだと思います。でも、いわゆる積み上げ形式ではないので、これがどこまでさまざまなことを考慮に入れてシナリオの中で組んできたかということについてはやはり大変疑問が残るので、ある意味、強いけれどももろいという両面をトランプ政権は見せてしまったのかなということを申し上げて終わります。

【質問者】 中東と日本のつき合い方の中で、日本はどういう方向に進んでいこうとしているのでしょうか。

【大野】 日本と中東のつき合いは、1900年代の頭に、南方熊楠とかそういった人たちが実はシリアまで行って勉強しています。ただ、やっぱり決定的なのはオイルショックです。それ以降、政府は中東の石油依存度を下げるといいながらも、実は、アラビア語の人たちの要請も含めて中東にぐっと寄っていきます。しかもイスラエルじゃない中東。アラブの国々に寄っていく、これが日本の伝統的なというか、長いスパンで言うと、おつき合いであります。
その中で、我々が持っているアセットとマイナスポイントがあると思います。アセットは、日本は中東で手を汚していません。ほかの国は中東を占領したり攻撃したりしています。実は日本も第2次世界大戦中、オマーン湾に潜水艇が行っていますけれども、それ1回だけです。
そして、中東の人は、誤解を含めて日本に美しい気持ちを抱いています。例えばイランでは、過去最大の視聴率を記録したのは「おしん」です。これはイラクの南部の絵ですが、イランとかイラクってこんな感じです。イランの主食は米です。イラクも南部は米です。米をつくっていて、農地で、何となく小さいころのおしんの世界と同じです。
加えて日本製品への憧れ。電気製品もそうです。私がイラクにいたときに制裁がかかっていました。彼らはサバイバルレートという言葉を使っていました。何かというと、例えば、制裁がかかって8年間。8年前に輸入したドイツとアメリカと日本の救急車で、一番生き残っているのは日本車です。やっぱり日本と商売したい、そういったいろんなイメージが日本に対してあって、誤解もたくさんありますが、それも含めものすごく美しいです。
悪いところの一つは、日本は向こうからラブコールが来ているのに、それを受けとめきれない。でそこに中国とか他の国が入っていくことによって、残念ながら彼らの中に持ってくれていたイメージと彼らの利益が直接結びつかない、そういう状況になってしまっているということ。
二つ目は、特に今回のアラブの春以降、日本は中東とのつき合い方がわからなくなっている。石油依存というのはあります。これはそのとおりですが、実は今までのように一方的に手を突っ込むことがいいかどうかということを企業のリスクも含めてわからなくなっている。その利益をどこに見出そうかという点が、何となく共通の利益が日本全体でもないということになっていて、例えばテロがないほうがいいのはみんなの利益なんですが、それは別に国益というか、例えば経済やっている人たちに、働いている人たちに納得いただけるかというと、必ずしもイコールではないのです。昔の石油を求めてとかというのと、ちょっとわかりやすさとは違うので、そういった意味で少しずつ変わってきていると思っています。
そんな中でも、中東には将来があることは事実です。ただ、まだ開発されていないエネルギーもたくさんあるし、それから市場も大きいし、しかも貧富の差もあって、わりと商品を買ってくれますから、実はその未来がずっと未来だったんです。現実になることがなかった、ほとんどの場合。そこはやっぱり私は取捨選択して、一定のところには厚く入れていくという選択の仕方が正しいと思っています。
それから、リスクは必ずあります。そんな中で、正確に、慎重でいいと思いますけれども、選んで入っていくことだと思います。トルコは、EU加盟を目指しているので、EU仕様です。ところが、地震については日本に学びたいということで、日本がODAで橋をつくりました。その後高速道路をつくって、その後トルコは地震もあるから。日本のほうがいい。日本の仕様でつくりたい。ぜひ来てほしいといって当時橋をつくっていた日本企業に言ったのですが、ODAがつかなければ行かない。先方が日本の企業に落とすと言っているのに行かない、こういう状況になっています。慎重でいいから、選んで、集中と選択で、行くところにはぜひ行ってほしいというのが、私の思いです。

【司会】 ありがとうございました。

注1、Btu:British thermal unit 英熱量1055.06j

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【講師】参議院議員 大野 元裕氏

民進党副幹事長、元防衛大臣政務官、(財)中東調査会客員研究員、(株)ゼネラルサービス専務取締役、慶大卒、国際大修、川口市生まれ、当選2回、昭和38年11月生

WEBサイト:http://www.oonomotohiro.jp/