遅牛早牛

籠池氏、佐川氏証人喚問に思う

「人には沈黙する権利があり、表現する自由がある」

己にとって都合の悪いことは語らなくともいい。沈黙を罰することはできない。これは人権擁護の基本原理である。同時に、人は表現の自由をもつ。いつでも、いかなるところで表現していい。しかしそれによって生じる不都合については責任を負う。

 昨年323日の籠池泰典氏と本年327日の佐川宣寿氏の証人喚問は好対照であった。「本当かしら」と思わせるほどの籠池氏の饒舌、一方で「そこまで隠さなければいけないのかね」と疑念を引き寄せる佐川氏の拒否。きついコントラストだったが国会としてどんな意義があったのか。中途半端感は免れない。国有地売却と公文書改ざんの真相解明、責任の所在などテーマを整理して議論を進めないと結局対策までは届かないのではないか。野党にしても内閣支持率の低下だけが目的ではないと思うが。政争は政争としてあっても仕方ないがそれだけに終始するのでは建設的な進展がないし国民には疲労感と不信感だけが残る。

 籠池氏の饒舌の海に紛れ漂う真実と不実。それらが明らかになる時がいずれくるであろう。それにしても、長い勾留ではないか。本当に「逃亡のおそれ」「罪証隠滅のおそれ」があるのかしら。例によっての人質司法。「おそれ」とは確率である。検察は仕事がら微細な確率にこだわるのかもしれないが、それをただすのが裁判所でしょうといいたい。たとえば拘留期間の妥当性を後日検証する仕組みがあってもよいのではないか。裁判所に意見できるのは国会だと思うのだが、この国会が時の政治そのものであるからして難しいのだろう。そういう意味でこの国の人権状況はいまだジトッとしている。長期勾留は表現の不自由のためなのか

 一方、「おそれ」におののいているのが佐川氏で、「刑事訴追のおそれがある」と証言を拒んでいる。では具体的にどんなことで訴追されると本人は認識しているのか。それは公文書の改ざんにかかわることなのか、あるいは国有地売却にかかわることなのか。あるいはもっとひどい問題が隠されているのか。と聞いても「刑事訴追のおそれ」を理由にきっと答えてくれないのだろう。将来のことだが、これで訴追されないとなれば何かしら話してくれるのだろうか。主権者たる国民が置いてきぼりのまま、疑惑が疑惑を呼んでいる。

 佐川氏の証人喚問は安倍首相、麻生財務相の目前で行われた。証人が拒否しなかったのが、丸川委員の「○○からの指示はありませんでしたね。」質問である。これが田舎芝居のようでどうにも気恥ずかしい。といったら田舎芝居に申し訳ないか。指示もなければ忖度もない。お二方は完全に無関係です、と部下にいわれて恥ずかしくないのか。貴方の統制下にありませんでした。勝手に改ざんして国会に配りました。理財局だけの暴走です。それでは平成の関東軍ではないか。その上動機は局長答弁とのつじつま合わせ、ということが真実であれば、前代未聞の統制違反、監督不行き届きであり統治機構としては最悪の事態である。まして国税庁長官に昇格させたり、適材適所と評価したり人事措置としては何とまあハチャメチャな対応であったといわざるを得ない。

 決裁文書を勝手に改ざんされた上に、立法府に(嘘を)報告された首相と財務大臣は統括者として顔に泥を塗られたにひとしい。丸川委員の「総理夫人、官邸の関与はなかったという証言が得られました。ありがとうございました。」この場合証言の信ぴょう性云々については別のこととして、統制不全を眼前で証言されて、何が「ありがとうございました。」だ。せめて忖度くらいは言ってもらわないと、統括者としては立場がないのではないか。

   

 加えて、4月5日参議院外交防衛員会で、「陸自イラク派遣部隊の日報」を巡って議論が行われた。国会でないと答えたものが出てきた。「ない」と答弁させられた時の大臣も立場がないだろう。しかし、大臣の顔色をうかがって、ある、なしの答弁が作られるとしたらどうだろう。毅然として探せと命令すれば出てきたのではないか。官僚や部下が、と責任を転嫁するかのごとき発言があふれているが、「そんな文書でてきたら都合が悪い。」と顔に書いてあったのではないか。
 もし仮に大臣が「隠せ」といったら大臣の責任は重大であるが、「探せ」といって「ない」と国会に報告し、後日「あった」となったときの大臣の責任はさらに重大である。なぜなら組織が無責任状況にあるからである。責任の所在が不明のまま、「あったり」「無かったり」では組織とは言えない。この罪は重い。 指示もないのに「隠ぺい」が行われる組織状況とは全くふざけたもので、根本から見直す必要がある。統括者は統制不全の全責任を取るべきである。

  

 複数の省庁に発生している「規律、統制、命令と責任」にかかわる不祥事は行政府の堕落の兆候ではないか。しかし問題発生の省庁が責任を持って解明する方針のようだが、調査結果の信憑性の保証はどうなっているのか。説得力のない報告では火に油を注ぐことになるだろう。また混乱に輪をかけるのではないか。など問題の深刻さについて官邸は鈍感すぎる。首相だけではない官邸が、である。ということで、いよいよ立法府の出番だと思うが。

加藤敏幸