遅牛早牛

すれ違う日韓、正面の北朝鮮はずぶとくしたたか

◇ 7月1日経済産業省は「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」と題し、同国に対し輸出管理上のカテゴリーの見直し(ホワイト国からの除外手続き開始)と特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え(7月4日、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)を発表した。(8月2日、従来のカテゴリーをABCDの4段階とし、韓国をBとしホワイト国の表現は廃止された)

◇ この発表をうけ、案の定というか日韓のメディアは徴用工問題への対抗措置との位づけを前提に、まるで米中の関税報復合戦のミニ版のごとく大げさに取り上げた結果「輸出置規制問題」空間は大きく膨らんでいった。残念なことにこの歪められた第一印象は減衰することなく逆に増幅拡大され、特に韓国においては「日本からの経済報復にどう対応するべきか」という新たなテーマ設定がおこなわれ、本来の「特定品目とその製造技術の管理」という行政上のテクニカルな課題からは大きく離れた産業破壊とか侵略といった大時代的なテーマにすり替えられていった。これは意図的な曲解をベースに国内の団結強化をはかる政治ショーにほかならない。残念ながら現状は、冷静に問題の解決をはかるという国家間外交のイロハからは到底考えられない事態となっている。特に実務内容については当然把握していると思われるが、問題は分かってうえでの意図的曲解であることにあり、このことから何らかの話し合いを持つべきだという安易な論調が意味を持たないと思われる。

◇ それにしても、7月1日発表の前日(6月31日)のスクープ報道が、政府として口が裂けてもいえない「徴用工問題に対抗」「事実上の対抗措置」と伝えたことは、経済産業省の文書を読む限りその意は微塵も汲みとれないし省庁が発表時にそのように語るとは思えないことから、おそらく別に政府筋の確証を得ていたと思われる。報道者と官邸の距離感もあるのだろうが、まるで活断層にダイナマイトを投じるがごとき報道であった。結果としても罪の重いものといえる。

◇ その後、国内のいわゆるバラエティ系番組でも参議院選挙公示後の週末には「徴用工問題に対抗」との意は消され、代わりに安全保障上の理由が表にでて少し整理されたのはよかったが、相変わらずサムソンなどのメーカーがいかにも甚大な損害を被るとか、フッ化水素を韓国内で生産することでやがて日本産が不要になるといった産業戦国物語仕立ての無駄話がだらだらと続き、これらの空想的報道がいつの間にか「米企業や世界の貿易秩序に否定的影響を及ぼす」との韓国政府の針小棒大発言を支える根太になったと思える。軍事転用などの悪しき利用を防止するための措置がどうして米企業や世界貿易に悪影響を及ぼすのか、だれしも理解に苦しむもので、経済制裁や禁輸措置とは次元の異なる行政措置であることを報道において今一度明らかにしてほしいものである。

◇ そこで、輸出品管理であるがこれは輸出ごとに品目・数量・日時・元先・目的などを詳らかにするもので、量質の制限を目的とする規制とは異なるものである。もともと日本政府が韓国における半導体の生産量を規制する動機も権限ももたないことから、半導体の製造に使用することが明確であれば、たとえばフッ化水素は100パーセント確保できると断言できる。問題は横流しあるいは行方不明である。軍事転用あるいは毒ガス製造に使われるリスクを生産国である日本がゼロに近づけることは当然の責任でありそのためには行政による管理が必要となる。具体的には所管省庁と輸出企業とのやり取りが中心で、韓国内外で他に転用されない確認が取れれば必要量は確保できるもので、この点韓国政府の反応はどう考えても被害妄想に近く正確性を欠くといわざるを得ない。もちろん書類とやり取りは記録保管されるし、処理は適切に行われると考えられる。この場合、日本国内の輸出企業の役割が大きく日常的に連携していることから、正しい対応をしている限り韓国メーカーの負担は少ないといえる。

◇ このように問題の根っこが簡単なものであることから輸出管理についての騒動は正確な報道がなされるならばそのうち収まると思われるが、徴用工問題のほうは韓国内の事情、つまり文大統領の政治姿勢の本質にかかわることから簡単には出口にたどり着くことは難しいだろう。

 そもそも日本政府の韓国政府に対する不信の根源は1965年の「日韓請求権協定」に対する文大統領の姿勢に根差すもので、日本側の問題提起は簡明である。すなわちこの二国間協定を文大統領自身どう考えているのか、また締結後の54年間の両国関係をどう評価するのか、加えて日本側の協議申し入れを無視しつづけることの真意はどこにあるのかなど基本事項である。今日の東アジアの政治情勢は薄氷上にあり、日米韓の強固な連携を軸に平和と繁栄を構想することが最重要であることは論を待たないであろう。そのためにも、文政権がその立ち位置と向かう方向についてあらためて明確にする必要があり、その意味で説明と行動が事態解決の必須要件である。

 

◇ 視点が変わるが、WTOの場で自国企業ひいては産業の弱点を大げさにいい立てることは韓国の国益にそぐわないと思われる。WTO加盟国の頭には韓国産業の脆弱性のみが印象深く残ることになったのではないか。もともと、日本にサムソンの半導体生産量をコントロールする気も力もない。ところが当の韓国政府が日本のコントロール下にあるかのごとく騒ぐと逆にそう思い込む向きがでてくるかもしれない。いわゆる風評被害である。どうしてわざわざ自らの脆弱性を作り込み宣伝するのか、これも不思議なことである。あらゆる悪いことの原因が日本の輸出管理の変更にあるといいたい気持でもあるのだろうか、国内外に対する手法の整理が必要ではないか。

◇ また、輸出管理よりも北朝鮮の単距離弾道ミサイルの射程内ということから連想される非常時リスクの方が大問題で、有事における戦略攻撃目標になるとの推測が働けば大手の顧客は調達先を分散させるだろうし、臆病な投資マネーは逃げていくことも考えられる。つまり韓国政府としてはリスク評価を優先させる投資マネーの潮流を理解し、資本市場への対応に注力するべきではないか。

 文大統領が政治目標としている南北融和は投資家の視点に立てば一面プラスイメージではあるが、融和政策の内実によっては北への直接投資が選好され結果的に韓国パッシングに向かう可能性もある。文政権が資本の本性を忘れ独りよがりな夢物語に溺れているうちに、冷徹な若き独裁者は外国資本の取り込みにいそしみ安い労賃を餌に世界の工場を目指すであろう。北にとって南は胎盤、いずれ用済みとなる日は近い。日本と事を構え国内に対立を抱え込む韓国は北から見ればネギ鴨どうぜんで隙だらけである。いいように扱われるのではないか。いろいろな歴史経過はあるが、ともに民主国家、自由主義陣営として長年ものづくり産業に貢献してきた同志の立場でいえばまことに残念である。敵を見誤ってはいけない、北からの地バチは南の幼虫に卵を産みつけ神経をマヒさせるだろう。

◇ 大局的には、北朝鮮の厳密な非核化が第一課題であり、そのうえで、北の開発を促進し半島の平和を確かなものにしつつ、域内の経済発展をはかることが第二課題である。また六か国をベースに東アジアの平和と繁栄を共通目標とし、ウィンウィンの関係を築くことが第三課題であろう。このような道程が考えられるが、北に核兵器と長距離弾道ミサイルが存在する限り、この道程は一歩も進まない。米国が、完全・非可逆・検証可能な非核化を宥和的に緩めることは受け入れられない。核拡散防止は完全厳密になされなければ、保有国の正統性が毀損し、だれでも彼でも核保有できるだらしのない超危険な地球を生みだすことになる。イランとの斉一性に疑問もあるが、原爆を生み出し使用した米国の責任は重い。

 この文脈において、徴用工問題が韓国政府の不作為の結果として俎上に上がるのを同政府が白々と放置する意図はなんであるのか。その意図の説明もなくホワイト国たる地位だけは残せと強弁する感覚はわからない。また韓国内の不買運動が政治上の戦略性あるいは論理性とはかかわりなく漠然とした不満のはけ口として広がっていくことは危険である。たとえば、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄など自滅・自傷行為ではないか、正確な情報にもとづく問題設定をおろそかにすることはいずれの国の政府にとっても危険なことであろう。靄っとした騒動の陰で第三国の浸潤が匂ってくる。

 今は、矛先は日本に向かっているが、輸出品管理が大山鳴動ネズミ一匹で収まったあと、騒ぎのエネルギーはどこに向かうのだろうか、的は容易に取り換えられる。何をもって集約するのか、振り上げたこぶしをどこに下すのか、第二幕こそが修羅場ではなかろうか。

 

◇ 件(くだん)の輸出品管理は予定調和的に収まるであろう。関係する韓国メーカーは理解していると思われるが、すでに山は超えている。管理の見直しはいずれやらなければならなかったのだから市場閑散期であったことは幸いであった。それにしても3年間日本側の指摘を無視し続けるとはあきれてものがいえない。こういったことを文大統領は小さな問題とは考えないで細心の注意を傾注すべきではないか。アリの一穴ともいう。無視しつづけたことこそが安全保障上の問題の核心である。

◇ 問題提起の方法として決してうまいやり方だったとは思えない。しかしことの重大性を思えばわが国政府の方針を毀誉褒貶の場に曝すことはできない。中途半端な対応はさらに問題をこじらせる危険があるので、今は粛々と見守るが、全体状況を俯瞰すれば、韓国には韓国なりの地政学的悩みがあるのも事実である。その悩みを共有し日米韓の側に立つことの利益を確認しあうことが肝要であろう。韓国が今後も仲間でいることにはコストがかかることを日米で議論する必要もあるのではないか。(といいつつ、官邸の皆さんやっぱりあんさんらは不器用やわ。)

◇夕立も避暑に逃げ行く都心かな

加藤敏幸