研究会抄録

ウェブ鼎談シリーズ第(14回)「戦後の労働運動に学ぶ」
講師:仁田道夫氏、石原康則氏
場所:三菱電機労働組合応接室
発言広場
【遅牛早牛】 時事雑考「最低賃金2030年代半ばに1500円、墨絵のような目標」
(前回、気候変動ではことばが弱いから気候擾乱としたが、戻ることができない道のようである。ことこれに関しては世界の指導者は無能である。指導者以外も無能である。
ところで、ロ朝会談ではプーチンとキムが手を握り、ウクライナ用弾薬と宇宙技術とを交換するという。あくまで予測であるが危なっかしいことこの上ない。どうかねぇ~、場末の二人組にならなきゃいいのだが、何をしでかすのか予想がつかない。前にも、プーチンのいるロシアとプーチンのいないロシアとではどちらが危険なのか、と問うたがどちらも危険と答えればタカ派で、プーチンのいないロシアと答えればハト派で、プーチンのいるロシアと答えれば馬鹿者だという人がいたが、そろそろ冗談もいえなくなりそうである。いよいよ煮詰まってきた。
というややこしい時に内閣改造をやっちまった岸田はすごい、マジですごいという声がごく一部ではあるが流れている。税収は70兆円ベースで予備費たっぷりだからルンルン内閣のようである。
ガソリンが高い。で、トリガー条項はどうなったのかしら。えぇ、その分円を安くしておきました、ということだろう。
このごろ物価が上がって暮らしがいまいちで気分がよくない人がスポーツで機嫌をなおしている。もちろん関西はアレ待ちですな。HP掲載の時刻によっては修文しなければ。来週は久しぶりに東京です。例により文中敬称略です。)
岸田最賃、コップの中の画期、物価上昇をどうするの?
◇ 岸田首相の人気がいまいちなのは、たとえば最低賃金(以下最賃)について「2030年代半ばまでに1500円をめざす」と宣言するのはけっして悪いことではないのだが、それがまるで紙鉄砲のようで迫力を欠いているだけでなく、ポイントをはずしているというか、むしろ「はぐらかしている」と思わせる怪しさがあるからではないかと、ここ何日か思うようになった。
今年の最賃は全国加重平均で1004円におちついたが、岸田首相の方針を実行すれば十年余で496円増えることになる。この長期間におよぶ引きあげ目標は、あくまで政府の目標であって審議会の目標ではないが、経営者団体の反応が好意的だという点もおりまぜれば、じつに画期的なもので、方針化とあわせ拍手をおくりたいと思う。しかし、政策として時代がもとめているものとは微妙にずれているような感じがする。
つまり、この程度の引上げ目標では国際的な順位は変わらないので、あいかわらず賃金後進国をつづけるという宣言にほかならないから、まあ国内だけの「うちむきの目標」といえる。
もっとも支払う側にとってはそれでも負担が大きいということであろう。それは理解できるが、しかしこの岸田方針だけでわが国の賃金、最賃の比較劣位が改善されることにはならないと思われる。それでも「負担が大きい」と抵抗しているだけでは、個人消費がじり貧の収縮経済をつづけることになり、失われた30年のくり返しではないかということである。
よくよく考えれば、数値目標を方針化することには、メリットだけではなくいくつかの弊害があり、状況によっては裏目がでる場合があるのではないか。たとえば物価上昇が5%を超える場合では、1004円に対し50円以上の引きあげがひつようとなる。また、賃上げがベアで2%をこえれば、さらに20円以上の上積みがひつようで、この場合70円以上の引きあげを受けいれられるのか、使用者側の判断が注目される。
くわえて、物価上昇率が低位の1%程度であっても、方針の年額50円ちかい増額ペースを維持するのか、意見は分かれるであろう。つまり、1500円という水準が実質なのか名目なのかで性格の違った議論になるのであって、通常は名目であるが、デフレならいざ知らずインフレ傾向がつよまるケースでは、年次の引きあげ額に物価上昇分を混ぜこむことには労働側の抵抗がつよまると思われる。おそらく、物価上昇分は別立てで加算ということに落ちつかざるをえないであろう。
さらに、秋の最賃は春の賃上げを踏まえての議論であるから、ベアが大幅にあがれば目標とのマージンが窮屈になる。そうなると、目標とは何なのかという批判が生じると思われる。今は、妥当な感じの1500円であっても、経済状況によっては頻繁な見なおしがひつようとなるだろう。
「最賃を長期にわたって上げていきます」というメッセージは評価される。しかし、各論においてもっとも重要なのは平均的な賃金水準との整合性をどのようにとっていくのかということである。具体的には、改定前において最賃額を下まわっている労働者割合、すなわち未満率がたとえば10%をこえはじめると、最賃のもつ公正競争基準としての役割が粗鬆化し、同時に違反が急増し最賃制度そのものに赤信号が点滅することになる。
また、改定した後に、改定後の最賃額を下まわることになる労働者割合、すなわち影響率がたとえば20%をこえはじめると、春の賃金改定に引きつづき秋の賃金改定がひつようになり、じつに煩瑣である。さらに賃金改定時期を最賃改定後にはじめるという遅延現象も発生し、それが最賃水準の議論へマイナスの影響をおよぼす怖れが生じることになる。(10%、20%は筆者の経験にもとづく私見である。ちなみに筆者は1090年代半ばに連合で最賃を担当していた。未満率、影響率については注を参照。)
現在、審議のなかで未満率や影響率についても精細な議論がおこなわれていると聞くが、政治的意志をもった大幅な改定は現行の最賃決定システムにとって過重負荷(オーバーロード)となり、システムそのものを損傷するリスクもあることから、岸田方針を貫徹する気があるなら、物価上昇率の反映もふくめ最賃制度の再定義がひつようであるといえる。