研究会抄録

ウェブ鼎談シリーズ(第7回)「労働運動の昨日今日明日ー障害者雇用・就労支援について」

講師:津田弥太郎氏、石原康則氏

場所:電機連合会館4階

 今回は障害者雇用・就労支援について、電機連合神奈川福祉センターの石原康則理事長また参議院厚生労働委員会で長年にわたって活躍されてきた津田弥太郎元参議院議員にお話をいただきました。  障害者雇用の促進は社会全体の共通課題であり、共生社会を語る上でも重要なテーマと言えます。また就労支援事業はそのための大切なピースといえます。電機連合神奈川福祉センターは産業別労働組合として、現場の組合員の声に応える形で実践展開されたまさに「生きた活動」の拠点として、労働運動の社会活動を支えているものです。  民主党政権ができ、遅れていた障害者福祉政策への期待がにわかに高まる中、現実政策として結実させることに、多くの苦労があったと思われます。  労働組合の社会的責任を、議論にとどまることなく、日々実践することの難しさと支えていくものの誇りがあふれる内容となりました。  若手活動家必見の鼎談であります。
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【加藤】  今回は障害者雇用における取り組みについて、実際事業を担っておられる石原康則理事長。また政治の場で参議院厚生労働委員会、また政府の立場で大臣政務官として対応されてきました、加えて企業の現場もよく把握されている津田弥太郎前参議院議員をお迎えし、お話をお聞きします。

もちろん、これらについては厚生労働省の役割も大きいということでありますし、経営者団体としていろいろな立場の考えもあると思います。しかし、このウェブは、労働組合の皆さん方が中心となっていますので、労働組合の視点をベースにしながら、この障害者雇用における問題などについてお話をいただいて、また政党あるいは国会議員の立場からも、いろいろなお話をいただく中で労働運動の明日をどのように作っていくかというあたりを、現役の労働組合の活動家の皆さん方のお役に立てればということです。

それでは初めに石原理事長から今取り組まれている福祉センターの経緯とか実情についてお願いたします。

福祉センター設立の経過―組合員の相談から始まった

【石原】  私は電機連合神奈川福祉センター理事長ということで障害者雇用に携わってきましたが、そもそも電機連合神奈川地協がこの障害福祉を中心とする事業に至った経緯で言うと、当初は昭和45年頃障害のある子どもさんをお持ちの組合員から、どうすればいいのでしょうかという相談が神奈川地協に寄せられて、それはやはり神奈川地協としても労働組合の立場で、そういう相談をきちっと受けとめて、運動として展開していくことは大事であるということで「障がい福祉委員会」を立ち上げて、当初は労働運動の世界で障害者活動をやってきました。この運動の20年という節目の時にどうせやるなら社会福祉法人を設立して本格的にやろうじゃないかという、そういう決議がされまして、法人設立のための準備委員会を立ち上げて検討に入り、平成7年に社会福祉法人として認許され翌年に「ぽこ・あ・ぽこ」という施設がスタートしたという、そういう流れです。

また、施設だけではなしに、援助センターという相談機能も各拠点持っておりまして、施設とこの援助センターの両輪で障害者の就労支援ということに現在も携わってきております。

現在、当法人が支援している障害者は約2300人、うち仕事を持ち働いている人が1500人ちょっとと、これから仕事を求めている人が700人位、日中活動として施設の中で作業している人が100人ぐらい。私がこの電機神奈川福祉センターに関わるようになったのが、労働運動を退任してちょっと遊んでいたのですが。遊んでいるなら手伝えという声がかかりまして、平成23年に理事長に就任しました。電機神奈川福祉センターは伝統的に障害者の就労支援に軸足を置いてやってきた。私が引き継いだ時にも、障害者自立支援法の下で障害者就労移行支援事業ですね。これをとにかく当法人の柱として、障害者の一般就労への橋渡しを最優先・最善の価値として捉えて事業を展開していました。ところが、丁度その時、障害者自立支援法に対して批判があって、民主党のマニュフェストにも自立支援法を廃止して新法を作ることになりました。それが政権を取ったことから、すぐ「障がい者制度改革推進本部」ができて、いろいろな検討が進んだのですが、私ども事業をやっている仲間から一番言われたのが、この民主党政権で検討される障害者の就労施策の中において、とくに骨格提言のような、就労移行支援事業そのものが重視されずに障害者就労センターとか、デイアクティブティセンターでしたか、それに改編して就労移行支援事業はとにかく消えてしまうという危機感を持ち込まれたのが理事長就任の直後でした。

その時、民主党政権にあって、厚生労働省の大臣政務官でいらっしゃった津田先生とはそれ以来の付き合いですが、その当時の障害者自立支援法に対する考え方とか、障害者総合福祉法にバトンタッチしていく流れにあって、特に一般就労という軸である施策をどういう風に思われていたのか、とても興味があって今日は楽しみに来ました。

【加藤】  ということですので、津田先生いかがですか。

障害者総合支援法をめぐる動き

【津田】  今日声を掛けていただきましたことに、まずもって感謝を申し上げたいと思います。今石原理事長から当時の障害者総合支援法、議論で非常に対立と言っていいのでしょう、意見対立があったことは事実でございます。これは当時の政権の主体である民主党の中でもありましたし、野党の中でも様々な意見がありまして、大変苦労したことであります。つまり、障害者に対する支援に対する考え方というものは、やはり色々な考え方がありまして、障害者は今まで非常に不遇な状況にあったのだから、この際思い切っていわゆる障害者の権利骨格提言という形でしたが、言ってみれば全面的に認めて、健常者と対等になるようにすべきだと。結果的にそれが何を意味するかというと、大変大きな予算を必要とするということになるわけですが、そこでその疑問になって出てくるのは、障害者の方々が自らのハンディキャップを持ちながら、自立した一人の人間として希望をもって生きてくということはどういう姿なのかということを、我々はしっかり見ておかなければいけない。そこには、ハンデがあるのだからそのハンデをいろんな形で金銭的な事も含めて支援をすれば対等になるのだという事だけではないのだろうと。

それはもちろん大事な事だけれども、やはり最終的には生きることの生きがいというものをどういう形で実現をしていくかと言えば、やはり障害ハンデを持っていたとしても、社会の中で自分の存在感が認められていくことが大変大事なことであると。

 それは、石原理事長が一所懸命取り組んでこられた就労支援、やはり自分は社会の一員として自分なりの思いで役に立っているのだという、この思いというものそれをやっぱり実現していくことが大事なことで、それをいろんな形で支援をしていく政府は政府のできることをやる、NPOの皆さんあるいは社会福祉法人の皆さん、企業、いろいろな形で支援をしていこうではないかということが必要で、そこの元々の考え方のところですごい議論がありました。

 私は当時、厚生労働省の担当大臣政務官をしておりまして、障害者団体の皆さんから連日様々な、どちらかというと要請というより抗議みたいなものをずいぶん受けてきました。  つまり、障害者の権利をどこまで認めるのか、そのことに対してどれだけ骨格提言というもので、それをどれだけというか全て実現するのがあんたの仕事だと言われましたが、もちろん努力はしますと。しかし、そのことだけで何か目的がかなったということにはならないでしょう。権利があるのだから、自分が生きてく上でいろんな支援がいっぱいあれば、その人は幸せか、それはちょっと違うのではないのと。そこは率直に言いますと、障害者の方も健常者の皆さんも共に生きていく、助け合いながら生きていくというのはどういう意味なのかということが非常に大事なところになってくるわけで、やはりお互いに一人の人間として尊重し合う、助け合う、そしてそこには納得がある。そういうものをどういう形で作っていけるのかという、すこし抽象的な言い方ですが、私自身はそのことについて当時石原理事長からの問題提起もあり、あるいはきょうされん(共同作業所全国連絡会、略称;共作連)を始めとする障害者団体の皆さんからも、ずいぶん言われましたけれども。

 それから一方で、厚生労働省の役人の側からすると、どうしても彼らは予算とか対財務省に対してどういう話ができるかとか、彼らは彼らなりにまた違う悩みがありまして、そこをどうやって調整を図っていくかということで苦労したわけでありますが、やはり私の思いとしては石原さんを始めとする就労、つまり一人の障害者が生きがいやりがいを持って生きてくというのはどういうことなのかということを、しっかり真正面から捉えていく良い機会だったのではないのかなと思っています。

【石原】 そうですね。

【津田】 それは必ずしも骨格提言が一人歩きをしていくことではない、そこのところがやはり大きな議論だったのかなと。なかなかそこのところ分かってもらえなくて、とにかく何か今まで抑圧されていたのだから、何か解放されなければいけないみたいな感じが非常に強かったわけでありまして、世の中の理解を図っていくという上でも、私はあまり極端なことをやると反動が出てくる。そのこともあって、段階的に進めていくという、段階的という言葉はよくあの時使いましたが、そういう進め方をさせて頂いたのかなと思っております。

一般就労への移行をめぐり、民主党ヒアリングで発言

【石原】  民主党政権ができる前に自立支援法に対して違憲訴訟が各地で起こりました。で民主党政権になってすぐ基本合意文書に調印されて、訴訟を全部取り下げることになり、その代わり、民主党は責任をもって新法を作るという話の中で、新法の原案が進歩的な考え方の下で作り込まれた骨格提言になったので、特に繰り返しになりますけど僕らがやっている一般就労への移行というところが、その骨格提言には反映されなかった。

 それで政府の津田先生の所に押しかけて行ったら、今でも忘れませんが、党の方でワーキングチームがあって、ヒアリングをやるので、そこへ石原出て来いと声を掛けられて出て行ったのですが、僕の周りは皆骨格提言賛成派ばかりだった。で、一般就労を大事にすべきだ、移行支援事業を大事にせよというのは僕だけでした。少数派で孤立無援の形ではありましたが、僕はそこで意見表明した。でも、そのことによって発言の機会を設けていただいたことから、その後潮目が変わったと自分自身で思っていますが、僕が発言させてもらったのは12月ですが、年が明けるとこれはやはり新法では無理だとなったじゃないですか。政府も新法ではなく自立支援法の改正法として、総合支援法に切り替えます。で、就労移行支援事業もある意味石原の言う通り残すからといっていただいた。しかし、新法は無理と転換されたから、一方の勢力に対する説得がものすごく大変だったと思うのですよ。政府ももちろん大変だったと思いますが、党側も大変だった、そのスイッチングであの時は大変なご苦労があったのではないかと思います。しかしあの切り替えがあって今日の障害者就労支援という事業が延々と続いてきている。あのスイッチングがなかったらどういう展開になっていたかわからない。ですから、あの決断、総合支援法に名前は変えたけども、しっかりあと段階的にそのフォローをしていくっていう、そういうスタンスに政府も党も変わられた。しかし周りの支援者との軋轢が大変だったと思うのですが、どうだったのですか。

【加藤】 今、いきなりクライマックスに入った感じですが、お話を聞いていて、私も少しずつ思い出してきました。あの時石原さんが結構目の色変えて私の部屋に来られました。

 まずその骨格提言というのは、言ってみると相当理想主義的な、例えば障害者に対する、アメリカでやっていたアファーマティブ・アクションのような提案であった。それは今までやってきた政策との間にギャップができる恐れがある。スムーズな移行が難しい。現実に例えば石原理事長がやってきた事業とは齟齬を生じるというか、むしろおいてきぼりにされるような感じですね。その時にその決断を、党側としてもまた政府の立場で、党と政府は基本的にはこれを分けて考えるということにとりあえず国会の中のルールがありまして、だから、政務官が党務について発言をするということは、これ相当もめてということでおそらくそこは仕分けがあったとは思うのですが、政府として政務三役という立場で決断されたということで、私も聞いていて、様々な推測あるいは憶測が湧いてきます。

そのような情況の中でどういう判断を、役人も含めてするのか重要場面ですが、これはやはり石原理事長の主張を相当受け止めないとダメだったということですね。

民主党政権への期待から強い要望が

【津田】  実は、民主党政権になって、最初に障害者団体との和解というか話し合いを、長妻厚労大臣、山井大臣政務官の時にやりました。で誤解を恐れずに言うと、その時にはある面ではご説ごもっともと言ったわけです。

 しかし、いざ具体的にさまざまな議論をはじめていくと、さっき申し上げたようないろいろな観点がでてくるわけで、で、そういうことを考えていくと特に石原さんが言われている、就労支援という部分に、力が置かれない障害者政策って一体なんなのか。勿論障害者はハンディキャップがあるわけで、それを少しでも克服するために公的な支援をするのは、これはある意味当然のことですね。しかし、それがどんどん進んでいくと、これも誤解を恐れずにはっきり言いますと、甘んじてしまう、つまり就労意欲がなくなっていってしまう。

【石原】 なくなっちゃいます。

軟着陸を目指す

【津田】  その可能性だって実はあるわけでして。日本障害者協議会(略称JD)の皆さんの言い分は、長い歴史の中で差別をされ苦しんできたのだから、今回言ってみればそういう辛かった思いを積極的に解消するというような意識もありましてね。

 これは政策的にすこし違うぞと思う中で、加藤さんもご存じのように、労働政策は例えば労働者派遣法なんかも民主党のときに、かなり派遣労働者を保護する政策に変えたのですが、安倍政権になってまた戻ってしまったということもあって、苦労したのです。

 障害者政策がそんな行ったり来たりすることは絶対あってはならないわけで、確実に進めていくという方向、つまり政権が代わっても障害者政策はきちんと着実に前進をしていくということが大事なことで、そのことは、私はカウンターパートである当時の野党の自民党のみなさんとも話しをせざるを得ないので、話をしてきました。

 ある面では彼らも自分達がもし政権をとったときにも、その政策はつないでいけると言ってくれることが大事なことだと思いました。そういう点でその就労移行支援事業、これに対してきっちり評価をするということの部分をかなり入れ込んでいきました。で、そこはある面では感情的な問題が非常に多かったから、だから当時政務官室に連日のように障害者団体のみなさんがおしかけてこられまして。

【石原】 大変だったでしょうね。

【津田】  私は、もちろん話の中身はそんなに進展しませんけど、皆さんが納得するまで付き合いますよ。で、党内も実は最初に民主党の側がかなり団体の言うことを全面的に受けるみたいな話をしたものですから、その、どっちかっていうと、ひっこみがつかないみたいな所がありましたが、その中心的な立場だった山井さんもだんだん、分かりましたって言うようになったのです。ということで段々こう、こう、こう、はじめはこんな状況だったのですが、段々こうなってきた。

【加藤】  なるほど。民主党政権時代の、事象のいきさつあるいは顛末については、それはそれとして重要なテーマだと思っています。後日反省を込めて、政権担当能力について分析するべきだと思います。その中で、労働組合(運営)の経験がある、あるいはそういう組織経験のある人が政務三役としておつきになったケースでは、比較的現実対応だったという感じですね。

【石原】 そうですね。

【津田】 そう。

【加藤】  言ってみるとある種の、見方によるとぱっとしないと言われるかもしれませんが、

【石原】 いやそんなことは

【加藤】  手堅い対応をしていたのです。当時野党だった自民党の方々からも聞かされました。彼らもいろいろ観察していて、もちろん倒閣を目標にしているわけですから、民主党政権の弱点を突いてくる。その中で、強みも分析している。余談でした。

で、これをご覧になる方の理解の上で少し視点を変えてお聞きしますが、民間企業なり、官公庁を含めて障害者雇用率の確保という政策がありますが、これはもう今回2.2パーセントに上がっていく、したがってその現場である企業の場においてこの障害者雇用率を守っていかなければならないということで負担感がある。

そんな中、アメリカのアファーマティブ政策に非常に近い話が浮上したときに使用者側の反応とかありましたか。

障害者雇用率をめぐる議論「総論賛成各論○○」

【津田】  実は、厚生労働省に研究会とか様々ないろんな立場の意見を聞く機会を設けて、もちろん日本経団連さんからも担当の方に来ていただいて、連合からも来ていただいていましたが、その議論の中で言うと、この障害者雇用率、今年の4月から2.2%、2020年から2.3%にするというこれも、もうすでに決まっている事ですが、企業の側からすると非常に苦しいという話がありました。しかし、それはダメだという話ではなかった。苦しいということを理解してほしいということと、なかなかその達成が困難だというところに対する配慮をしてほしいという意見はずいぶん聞かされましたが、それがダメだ、という意見はなかったというのが私の記憶です。だからそういう面ではその障害者に対する様々な配慮が必要であるということは、やはり事業主の皆さんもかなり、一企業経営者が全部わかっているかどうかは別にして、経営者団体の役員の皆さんとか商工会議所の役員の皆さんとか、そういう方々はご理解をしていただいているのではないのかなというのが私の印象ですが、どうでしょう。

【石原】  総論としては、経営側、事業主もその障害者を受け入れないといけないっていうその気持ちは底辺にあって、身体から知的に移り、そして精神に移ってきたわけですが、まあ精神の人は早く、身体と知的と同じようにこの障害者雇用率の算式に入れ込むかどうか、と言う時に、企業からしてみると2つの問題がありまして、ひとつは精神の人は、身体と知的とは障害特性が違っていて、波があるというのでしょうか、昨日はよかったけど今日は仕事は辛そうだとか。そういう雇用管理において、どういうノウハウが必要なのかということがわからない。精神障害者にどういうふうに向かい合っていったらいいのかという所が、わからなくて不安だという。ここが一つの課題。で、もう一つは、雇用率が、かつて10年スパンとか15年スパンで0.2、雇用率を0.2あげるだけでも10年とか15年かかってあげてきているのに、この2.0から2.2になるのは、これ5年間ですよね。

【津田】 うん。

【石原】  で、更に3年を経ずして2.3に持っていくっていうこの急ピッチな、引き上げっていうのがもう企業にとって負担が重い。かつ、企業側にとっては最賃もどんどんあがっていくじゃないですか。最賃とその雇用率のアップ、これはダブルで経営に効いてくるっていう、この世界は総論では理解しつつも、やはり悩みだと思います。

 だから、この25年に障害者雇用促進法で議論されたときに津田先生にも申し上げたと思いますが、精神障害者は今もう既にみなしで入っているのだから、別に算式に入れなくていいのではないのって申し上げた記憶はありますが。

【津田】 そうですね。

「5年の、激変緩和は想定外、すごい決断」

【石原】  やはり行政としては、おいてきぼりは政策上もよくないっていう判断だったと思うのですが。ところで、この5年の、激変緩和は全然想定してなかった。これはすごい知恵だなと思って、成立から施行までの5年間っていうのが。

【津田】 そうですね。

【石原】 これは、労働政策審議会ですか。

【津田】 はい。

【石原】  すごい決断だったなと。でまた今回三年を経ずしてという、これも激変緩和が絡んで。そもそも、いつまで雇用率を上げていくのか、もう承知の通り雇用すればするほど分子が上がっていくから、雇用率高まっていくじゃないですか。雇用すればするほど事業主はたいへんになるという、これは総論では理解しつつも、悲鳴に近いとは言いませんけど、今後何らかの障害者雇用政策を考えていく必要があるのではないでしょうか。

【津田】  それで、今石原さんは事業主の皆さんと顔をつき合わせて、就労支援の仕事をされているわけですから、相手側の事情もよく分かるわけです。で、ただ国際的な大きな流れの問題一つこれあり、それからいわゆる好事例というものが、特例子会社だけではなくて、様々な分野でそれは製造業、非製造業、サービス業も、産業のジャンルもあまり関係なく様々な分野で好事例が集まって、やろうと思えばできるのだ、という切り替え、スイッチの切り替えというものがかなり大事なのだろうなと。で、厚生労働省の担当部局というのは障害保健福祉部と、ハローワークの方ですね、職業安定局の方と二つ絡んでくるわけですが、ある面ではそこの切り替えっていうものを、役所の中ではずいぶん皆激しい議論をしたうえで、これはやはり切り替えていこうとなりました。

【石原】 そうですね、確かに。

【津田】  つまり何を率先していくのか、この障害者雇用の問題でいうとその雇用率がまず走っていかないと、まあ現実が良くなっていてそれに法律が追っかけていくというのもあるわけですよ。労働政策って割とそういうのが多いのですが。

 あの、障害者雇用についてはむしろ雇用率が引っ張っていく牽引役にならないと、なかなか進んでいかないのではないかと。その時に、やはり好事例というものをどんな産業、どんな業種でもやろうと思えばできますよと、いうことをきっちり説得できないと、冗談じゃないよと言われる事業主さんにその説得できないわけでありまして、そこは相当しっかりした理論武装が必要だよねという議論はずいぶんしてきました。

 ですからその好事例をどれだけしっかり集めていくか。そして、それを現場で、ハローワークなりなんなりいろんなところで労働局なりいろんな所できちっと話をしていかないと、それこそこれお金がかかってくる話ですから。

【石原】 そうですね。

【津田】 未達の事業所はお金を払わなきゃいけないわけですから。

【石原】 納付金ですね。

職業を通じて社会参加することの意義

【加藤】 納付金という形でつじつまを合わせるということですから、確かに先ほどありました最賃と共にコストを上げる要因となって、経営的な立場に立つと苦しい、という悲鳴もあります。そこで例えば民主党が民進党に変わった時でも、社会的包摂だとか、共生社会だとか、でてくるわけです。

 ところが、共生とか包摂とか言ったときに、例えば障害のある方だとか、あるいは海外から来られて、日本語が不自由とか、いろいろな事情のある人たちを、どう私たちは迎えることができるのかという、言ってみると、そういう接点における対応のあり方をどういう政策でやっていくのかという課題になると思うのです。だから、そこのところは結局、人権思想で言うと、一番大事なことは本人の尊厳がどういう形で守られるのかということで、言ってみると、自分は社会にどういう貢献ができているのか、ということではないでしょうか。

ですから、一番重要なことは職を通じて、能力を発揮して、職業を通じて社会に貢献していく、かつそれは社会参加だ、ということが本人にとって、生活費は基本的に自分が稼いでいることではないでしょうか。

 そういうことができれば素晴らしい、ということですが、やはり多くの人が仕事を通じて、参加をし、貢献していくという部分は、どうしても企業の現場に入っていくということでいえば、あらゆる企業がそれぞれの立場から、障害者の雇用率を上げていく努力をしていくというのは、普通に言えばわかりやすいのですが、そうは進まない、この問題についてはどうでしょうか。

雇用率達成企業、やっと50%、まだまだ不十分

【石原】  例えば、雇用率達成企業は、やっと50%に、半分達成しましたっていうことで、先日発表がありましたが、まだ半分の企業が未達です。だから7割、8割、例えば2.0で、7割、8割が達成しています、だから2.2にしていきましょうっていうプロセスが踏まれるのなら、とても意義があると思いますが、やや目標が理念先行型で進んでいて、かつ日本では中小企業が非常に多い中で、中小企業の雇用が進んでいない。

大企業の方が特例子会社制度もあって、障害者雇用が進んでいっているのですが、本当はそういう包摂、インクルーシブな社会という意味では、中小企業の中にもっともっと浸透させなければいけない。にも関わらず、ここが進んでないという感想があります。

【津田】  あの、率直に言いましてね、2%から2.2%、これさっき石原理事長が言われた精神障害者の扱いをどうするのかという問題も含めて、昨今ここ10年、20年の中で精神障害者の数が激増してきている現状を考えると、そこも含めてやらないと、なかなか雇用率が上がらない。しかし、おっしゃったように身体障害者とか知的障害者と違って、精神障害者の方々は、メンタルな部分で非常に揺れ動く方々が多いもので、定量的な仕事を与えれば、進んでいくというものでは必ずしもないのです。しかし、そこは今も言いました好事例なんかも含めて、そういう精神障害者の方をうまく雇用している好事例が実は段々増えてきていまして、そういうことをより広めていかなければいけないなというのは、現場のハローワークをはじめとする所では認識をしてやっております。

 ただし、中小企業の事業主のみなさんは、やはり精神障害者は扱いにくいっていうか、そういうご意見、つまり知的障害とか身体障害の方の扱いは割と、こういう言い方してはいけないのですが、割と楽なんですね。ところが精神障害は、配慮が必要になってくるので、そこの壁をどうやって超えるかということが、おそらく今現在進行形でみんなが悩んでいる、事業主のみなさんはもちろん、役所ももちろんそれから、当該労働者ももちろん。

【加藤】  ご本人、それからご家族の悩みが多いことですね。それで少し視点を変えてお聞きしたいのは、今働き方改革を国会の中ではずいぶん華やかにやっていますが、メンタルな障害が発生する契機はいくつかあると思うのです。一つは職域で発生するということであり、かつ働き方が原因になるということも要素としてあると思います。したがって、大きい意味で働き方改革を言うならば、そういうメンタルな問題を発生させる、原因となるような働き方であり、かつ人間的な職場環境の厳しさ、ハイストレスだとか、やはりそういう部分の問題も合わせて、解決をすると同時に、社会的な認識を高めるということが必要です。未だに、本人が弱いからそうなったのではないかといった見方も結構あったりします。

 通常の対応もいくつか気を付ければ、本人にとって、ストレスを増加させるということにはならないとか、もう少し職域における上司とか、同僚たちの対応の仕方を工夫するというかレベルを上げるという政策も、キレイごとのような言い方になりますが、あり得るのではないかと思います。

精神障害者の雇用は職場環境づくりが大切

【石原】  加藤さんの話は、職場からメンタルの人を出さないようにしなければならない、そういう施策を講じるのが大切であって、何か策はないのかという質問だとは思うのですが、ここはまず働き方改革とか風通しのよい職場環境づくりですね。とにかく患うことがあってはならない。とはいえ、患ってしまったなら、まずクリニックで、医療との連携は欠かせない。それから職場の理解ですね。ここがないために追い込んでしまっているのではないでしょうか。

 それに、福祉サービスを担っている私の領域から言えば、これは精神障害者を雇用するのと同じなのですが、支援する機関としては、障害者就業・生活支援センターがあり、この業界にはジョブコーチという専門家もいらっしゃる。本人も家族も職場ですね、早めに気軽に相談されることをおすすめします。とくに病気をオープンにせずクローズでという人が多いのですが、ナーバスな問題なので気持ちはわかりますが、クローズでは理解や支援が得られず事態を悪化させてしまうケースもあり要注意です。

こういった制度とどういうふうに有効に連携をとっていくかっていう、ここなんかも大事な課題になってくるのではないかって、思いますけど。

【津田】  石原理事長の言われている、そのジョブコーチをはじめとする、個別のカウンセリング、就労支援をするために、さまざまな情報を持っていらっしゃる方が、精神障害者の特性を見て、どういう仕事だったら長く働くことができるかというのを、この支援をするそういう役割の人がすごく重要です。これは身体障害者とか知的障害者以上に精神障害者の場合はそういう役割を果たす人が必要です。特に加藤さんが言われたように、事後的に、うつ病になったとか、あるいは発達障害の方とか、そういう方々の場合には、ある面では世間の仕うちの厳しさをいやというほど受けており、自分は社会に受け入れてもらえないのではないかと思っておられる方がいます。

 そういう方々に、いや、そうは言っても生きていくわけだから、生きていくということは働くということですから、やはり、しかも働くところがもう3カ月や半年ごとに変わるようなことがあったら、それはそれでまたつらいわけですから、できれば長く働けるようにした方がいいという、そういう意味でのコンサルトというか、ジョブコーチと言いますか、そういう役割って重要で、昔我々、健常者を対象にして、雇用の場を、何ていいましたっけ、しばらく試験的に、

【石原】 トライアル雇用ですね。

【津田】  トライアル雇用。で、精神障害者の場合も、そういうような費用と手間がかかるのですが、そういうような制度をやったらどうかって、現役の時かなり強く言ってきたことがあるのですが。それは手間・暇・金がかかるもので役所は嫌がるのですが。

 実は当事者からすると、企業も含めてものすごくいいのです、トライアル雇用って。これ健常者の場合もそう、いいに決まっているわけですから、ましてや障害者なかんずく精神障害者の場合にはそういうやり方をすることによって、定着していく可能性が高くなる。私は今後の課題としては、こういう取り組みをもっと、考えて行っていただきたいなと思っています。

【加藤】  そうですね、やはり理念とか大きな話でいろいろ提起される方もたくさんおられますけれども、問題は1日ですね。1日のオペレーションですか、対応において、上手くいくかいかないかという、これはもう本当にデイバイデイで、こなしていかなければならないっていうことになると、そんな大げさなトラクターよりも、ちょっと便利なツールがいくつかあったほうが現実的だとなりますね。きちっとアイデアを出して、かつ機動的に対応していくという、そういう行政機能も必要な気もします。

【石原】  そうですね。そこらは結構ハローワークも態勢が強化されたり、障害者職業センターとか障害者就業・生活支援センターなどいろいろな仕組みが揃っていると思うんですよ。なかなか活用されてないっていうか、制度も知らないっていう世界もあるんじゃないですかね。

【津田】  今、ハローワークは全国に400か所ありますが、すべてのハローワークに障害者の雇用についての専門家っていうほどではないのですが、それなりの教育を受けた人間を配置して、カウンセリングというか相談を受けるというシステムは今どんどん作っています。それはすごく大事なことで、障害者だけではなくて、いわゆる生活保護からの脱却の問題なんかも。

【石原】 ありますよね。

【加藤】 自立支援法とかですね。

【津田】  そういうのも含めて、もちろん健常者の就労支援も大事ですが、ましてやハンディキャップを持たれている方々っていうのは、障害者の方とか、生活保護を受けておられる方とか、あるいは受ける寸前の方とか、そういう方々に対する配慮っていうのは、やはりもっとハローワークはやっていかなければいけないのではないか、重点的にやはりやっていかなきければいけないのではないかと。専門家を育てていくべきではないかという考え方は、政権はともかく、厚生労働省の役人たちはそういう思いを持っていますね。

【加藤】  今、津田先生の方から提言と言うのでしょうか、明日に向かって、こういうことが大切だという話がありましたが、石原理事長として何か、こうすべきだとかたくさんあるとは思いますが。

【石原】  まず姿勢の問題ですね。雇用する事業主の問題からいうと、雇用率があるから障害者を雇うの、そうではないのではないか。ここが、理解されてない。極論すると、納付金払えばいいんじゃないのという事業主もいらっしゃる。それと人事部は分かるのです、雇用しないといけないって。ハローワークから言われるし、社会的にもわかるし。でも採用して配属しようとすると、現場はこの忙しい中で、ノルマとかいろいろバンバン言われる中で、障害者雇用っていうのはウチの現場で受けないといけないのか、といって人事部にクレームをつけるケースがある。

【加藤】  それはよく、手に取るようにわかります。

【石原】  そのあたりを、どういう方策があるか分かりませんけど、キチッとカバーしながらやらないといけない。それから、先ほど特例子会社制度の話がありましたが、特例子会社も全国で4、500社あると思うのですが。特例子会社は、障害の軽い人を採用したいとか、あるいは有期雇用でしか雇用しないとか、あるいは普通に働けるにもかかわらず短時間勤務とかね、特例子会社でも意外と障害者のために本当に心を砕いてやっているのかどうか、すこし疑問なところがあります。特例子会社を立ち上げた人、初代の社長はものすごく熱いのです。ところが2代目、3代目になると、俺がなんで特例子会社に行かされるんだっていうような、ちょっとネガティブに受け止めるような人が来ちゃうと、特例子会社で働く障害者が気の毒ですよね。だから、このあたりを精神論になりますが、ここをカバーする必要が、なんかサポートしてあげる必要があると思いますね。

これは労働組合の責務であり、労使共同責任です

【石原】  最後に労働組合役員に向けた提言をさせていただきたい。

 まず、障害者雇用というと、それは労働組合の問題ではなくて会社の問題と考えていませんか。実は、労働組合が果たすべき社会的責任からいっても、また労働組合運動の役割・意義において、障害者雇用は労働組合運動の重要なテーマであることを認識してほしいと思います。

 その前提に立って言いますと、法定雇用率達成は労使共通の責任であると受け止めてほしい。法令遵守を唱えながら法定雇用率は未達の企業があります。法定雇用率未達でありながらコンプライアンス重視などと言っている企業があります。やや過激に言えば、雇用率未達企業は法令違反の企業です。

 それを許している労働組合はコンプライアンス違反の加担者です。労使の共同責任という理由はここにあります。だから、労使が手を携えて、障害者雇用のペダルを踏んでほしいと願っています。

 メンバーシップを方針に掲げながら、障害者を組合員化していない労働組合が多い。障害者雇用は非正規雇用が多いからでもあります。とくに、同じ関係企業でありながら特例子会社は別といって、組織化されていないケースがほとんどです。本来は、特例子会社だからこそ、組織化してメンバーシップを発揮してほしいですね。

 障害者雇用において、ワークルールに反する業務命令や指揮管理が一部に行われています。

 ブラック企業という言葉がありますが、障害者が働く職場にブラックな現場があることをときどき聞かされます。そこに目を光らすのが労働組合だと思うのですが、意外と知らんぷりを決め込む労働組合がある。

働きがいのある人間らしい仕事、つまりディーセントワークをめざすのが労働組合なら、障害者雇用にこそ監視の目を注いでほしいですね。

 また、地域連合に期待したいことがあります。地域で働く障害者を、横軸を通して支援してあげてほしい。働く障害者で、一企業や事業所では少数でも、地域というフィ―ルドでみれば仲間が多く、そこに連帯を求めている障害者が多くいると思います。

地域という目線からあたたかく見守ってほしい、地域連合にその役目を担ってほしいですね。

 最後に一言なのですが、障害者を「社会保障費(障害福祉サービス)の受給者から、納税者(給与所得者)にかえてあげたい」というのが思いです。

ぜひ、障害者雇用についてのご理解とご支援をお願いします。

本日はこのような機会を与えていいただいて感謝しています。ありがとうございました。

【加藤】  まだまだ、お話は尽きないと思いますが、現役の活動家には十分インパクトのある内容であったと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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【講師】津田弥太郎氏、石原康則氏

津田 弥太郎氏 元参議院議員
1952年生、岐阜県大野郡出身、神奈川大学法学部卒、ゼンキン連合副書記長
2004年7月~2018年7月 参議院議員(民主党、民進党、比例)
2010年 参議院厚生労働委員長 2011年 厚生労働大臣政務官
石原 康則氏 社会福祉法人電機神奈川福祉センター理事長
1970年 三菱電機(株)鎌倉製作所入社、1972年 三菱電機労働組合鎌倉支部執行委員長、1978年 中央執行委員、1987年 情報システム支部執行委員長、
1998年 中央書記長、2003年 中央執行委員長
2011年 社会福祉法人電機神奈川福祉センター理事長(現)、労働審判委員(横浜地裁・現)、
2012年 全国就労移行支援事業所連絡協議会会長、
2012年 内閣府障害者政策委員会専門委員、
2013年 厚生労働省社会保障審議会(障害者部会)補助委員、
2013年 厚生労働省地域の就労支援の在り方に関する研究会(第二次)委員。
論文 教育文化協会 第14回私の提言「働くことを軸とする安心社会」の実現にむけて 優秀賞受賞作「障害者雇用における労働組合への期待と提言」

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