研究会抄録
ウェブ鼎談シリーズ(第11回) 「労働運動の昨日今日明日ー障害者雇用・就業支援の実践と課題について」
講師:鈴木巌氏、石原康則氏
場所:三菱電機労働組合応接室
加藤「今日はお集まりいただき有難うございます。障害者支援事業につきましては、すでに石原さんと津田さんとの鼎談を行い、本研究会のホームページに「ウェブ鼎談シリーズ『労働運動の昨日今日明日』第7回『障害者雇用・就業支援について』2018年7月20日」として掲載しています。また、「政治と労働の接点Ⅱ」(83ページ)に収録しています。
その中で、法律の制定や経緯について解説をいただき、また多くの課題についても提起していただきました。
それから、2年近く経ちましたが、今回は障害者雇用を、企業活動の中でビジネスとして成立させている鈴木さんには経営者の立場から、また石原さんには、就労移行支援事業で、働く人達を送り出す立場から、また労働組合の社会貢献活動という視点もあわせ、実践的な活動を通して障害者雇用をどのように発展させていくかというテーマについてお話しいただきたいと思います。
労働組合の活動家を対象にしたウェブ講座ですから、いろいろな方が見られると思います。主には電機連合の役員の皆さん方が、そういう問題があるな、またこんな問題点もあるな、将来的にはそういう方向に向かっているのだから、自分たちも日常の活動でそういった発信をすればいいとか、そういう組合役員の基本的な知識として、役立つ話の展開になるのではないかと思っています。
もちろん、行政機関の雇用率が実は低かったとか、そういう問題も、最近改善されたと聞いています。人に求めるのは簡単ですが、自分たちでそれをクリアするというのは大変だと思っています。
昨日もテレビを見ておりますと、河田羽毛という企業が紹介されていました。羽毛布団やダウンジャケットの古いものを回収して、羽毛をとり出し洗浄し、乾燥再生する、つまり再利用に関わっているのですが、羽毛は100年もつそうですね。そういうことで資源の再利用のプロセスに、障害者が参加して、そういう資源再利用という環境問題と、もうひとつは障害者の雇用促進ですが、社会貢献という視点を持って企業活動を進めているということでした。
また、投資の世界でも、SDGsという視点から企業評価を行い投資をしていくということでして、徐々にではありますがプラスの方向に動いていると思います。
あとは石原さんのほうで進行をお願いします」
特例子会社を経営した経験をお持ちの鈴木さんのご紹介から
石原「はい。それでは、私から投げかけて、意見交換、議論を深めていきたいと思います。鈴木さんは、日立製作所の社員として、労働組合の役員として、そしてそのあと特例子会社としてのキャリアを歩んでこられたのですが、その歩みを振り返って、評価というか、思いを、まずお話しいただけますか」
鈴木「会社に入って、生産技術の職場にいたのですが、声がかかって労働組合の役員に。人との繋がりからか、労働界が長くなりました。三菱電機の労働組合の方々とも接点がいっぱいあり、特に総合四労連関係者やら、電機連合の労働政策委員会の関係者など、そういうのが財産になっています。その後、障害者雇用の会社に行ったことで、障害者本人はもちろん、そこに関わる企業の代表者とか、そこをサポートしている指導員であるとか、特別支援学校の先生方、ナカ・ポツ(就労・生活支援)センター、就労移行支援事業所など、そういう方々との接点ですね。会社員、労働組合役員では出会うことがなかったわけですよ。この業界に入ったことで、幸せな人生を送ったかなと、ポジティブな意識は持っています」
石原「障害者雇用の場に行かなければ、組合役員を終えて会社に戻る、会社員で人生を終えたということですが、特例子会社というステージに移って、有意義な人生であったということですね」
赤字を出さない、連結経営の一員としての厳しさの中で、両立をはかる
鈴木「そうです。ただ一方で苦労した思い出話でいうと、拠点閉鎖とか、縮小とかがあって、艱難辛苦じゃないですが、解雇してはいけない雇用を守るんだ。ということに、非常に苦労したこともあった。特例子会社は特殊なんでしょと、特別なんでしょと、赤字出しても良いんだよねとか。親会社が助けてくれるんだろとか。そういう誤った考えをお持ちの人がけっこう多い中で、しかし特例子会社であっても赤字は出してはいけない、黒字経営しなければならないということで実は苦労もしました。で、はっきり言って、具体例として、独立行政法人高齢・障害者支援機構からの助成金収入が滞った2009年頃苦労させられた。予定したものが入金されない。これは最終的に赤字になるぞということが見えてきて、そこで、私は自ら乗り込んで交渉に行ったこともあった。一民間企業として、経営者として、これでは困るんだ、死活問題だと。」
加藤「それは厚生労働省ですか」
鈴木「はい、現在は労働局ですが、当時は支援機構だった。で、原因は分かったんです。申請していたのが処理されていなかった。結果的には時期が遅れましたが、しっかり入金されて、赤字にならずにすんだ。あのときかいた汗がすごく良かった。経営する上で赤字を出してはいけないということが身に染みて分かった。日立グループの連結経営の一員ですからね。赤字だったら、そんな会社いらねぇよと言われてしまう。会社であるかぎり黒字化しなければいけないということで、苦労させられたという、苦しい思い出があります」
石原「障害者雇用が予算以上に促進されて、財源が足らなくなって給付金が入ってこないということもあったのではないですか」
鈴木「納付金制度のペナルティ原資が減り、それが財源となっている調整金が打ち切られるという事態ですね」
石原「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ですね」
鈴木「財源が枯渇して...」
石原「納付金という財布が。特例子会社とはいえ、親会社からみたときには関係会社である。関係会社である限りは、グループ企業の一員ですから、やはり利益は求められますよね。福祉といって甘えるな、会社である限り利益は出せという高邁な思想で回っていたっていうことだと思います」
鈴木「赤字を出しても補填してやるとかね、日立はそこは難しかったけど、ただ業務の切り出しなどには親身に応じてくれました」
石原「そこは厳しく追求された」
鈴木「特例子会社でも、厳しい会社があれば、ゆるい会社もあるんですよね」
石原「特例子会社は5、600社、全国にありますが、私が知っている企業では、赤字でもいい、うちの会社の法定実雇用率を特例子会社が担ってくれているのだから、赤字が出ても補填します、指導員で出向している人件費は親会社が負担しましょう、水道光熱費は親会社が負担しますとか、そういう企業もあるじゃないですか」
鈴木「代表取締役の給料は親会社が出しているとかね。しかし、うちは、建屋の賃借料とか電気ガス水道光熱費は逓減もなく応分の負担していましたし、私の給料を含めて、全ての人件費を社員に稼いでもらっている、赤字では給料をもらえない」
石原「それは日立さんの理念として、すばらしいところだと思います。事業として、また社会貢献として両立されている」
鈴木「それは後ほど出てくる話かもしれないけども、親会社と特例子会社の関係性というのは、特例を起業したときは熱い手の握り方をして、うまく経営が成り立つんですよ。ところが時間軸の中でどんどん当初の気迫が薄まっていって、赤字は出すな、仕事がなければ自分で探して来いと、そういう会社も実はある」
石原「いっぱいありますよ、そういう会社は」
鈴木「うちはそうではない。仕事を探していても、親会社が協力してくれる。職場の皆さんが理解者です。困っていたら、助けてくれる。意識が高いです。日本の教育も変わった。われわれの世代は、特殊学級とか小学校、中学校で区別して、障害者を隔離するような時代の経験者。今は違ってインクルーシブ教育がどんどん進んできて、障害がある人、ない人をコラボしながら、共生するような環境がどんどんできてきて非常に良い方向にいっている」
石原「さきほどの話題なのですが、特例子会社を設立する時は、親会社もしっかりアクセルを踏む、特例子会社の社長も初代はすごく張り切って頑張られる。ところが、2代目、3代目となると、失礼だが、情熱が薄れてくる。そういうのを移行支援事業をやっている側から感じるときがある。そのあたりはどのように考えられますか」
鈴木「特例子会社の社長になった人が、前任者の踏襲で数年我慢すれば時が解決してくれるのではないかとネガティブな発想を持つ人がいる。これでは、障害者は当然としてみんなが不幸です。せっかく働ける社員がいたとしても、やる気のない会社幹部のためにドロップアウトしていくとすれば心外ですよね。私の場合は、社員と一緒に働いて、笑って汗して楽しむことで払拭できた。最初、障害者が40人ぐらいのときに、障害者の雇用機会を創出して、社員を100人にするぞと目標を立てたんです。そしてどうアプローチするかと考えたとき、一番先に思いを巡らせたのはいろいろな多くの利害関係者と接点を見いだしていこうじゃないかと。そこで信頼関係をうまく構築して、障害者が末永く働ける環境作りをめざした。いろいろな利害関係者から、こういう問題があった時に、あなたの会社はどういう解決方法をとりましたか、あるいはソフト、ハードでどんなやり方をしていますかというノウハウの具体的な情報を取り合って、彼らをアウトしないような取り組み、方向性にもっていくっていうか、そういうことに知恵をしぼって、自分を奮い立たせながらやってきたわけです」
石原「いろいろな課題があっても意識を鼓舞しながらですか」
鈴木「だからそこは、精神論なんですね」
石原「精神論ですか、そこは」
鈴木「だからこの業界は、例えば、三菱電機さん、東芝さんと日立さんがその親会社・グループ会社を含めて同業他社だから、競合しているところがいっぱいあって、多分、本音で議論できない部分があると思うんです。ところが、障害者雇用というのは、実はそうではない。共通因子の下、その認識に立つ。逆に一人ぼっちでは解決できない。だから本音でお互いに情報を公開して、情報共有して、悩みや経験不足のところをカバーしながらやっていける。障害者雇用では同じ土俵でということで、そういう意識を持っていれば、経営者として難題を抱え悩んでいても、少しでも解消していくのではないのかなと」
石原「企業の枠を超えた連携ですね。一人で悩まずに連携して、うまく乗り越えていくことが大事ですね」
鈴木「そうです」
特例子会社の社長としてのやりがい、その魅力は
石原「そういうキャリアパスを経て、鈴木さんは障害者雇用に携わってこられたのですが、特例子会社の社長として、やりがい、その魅力というんですかね、そこを語っていただきたい」
鈴木「やりがいですか。まあ、笛吹けど踊らずじゃなくて、彼らは踊るんですよ。もっと言うと山本五十六さんの、褒めて、褒めて彼らを躍らす、躍って働いていただく、このことを意識しましたね。だから、ダメだ、ダメだという叱り方は良くなくて、当然、褒めてばかりもいられないですが、10回ある内の褒めるのを6回か7回にして、叱るのが3回ぐらいにするとかね、そういうのを心して彼らに接した。もう一つは、彼らとコミュニケーションをうまくとれなくても、とくに言葉が出てこない社員が結構いますが、言葉が出てくるまで、こっちは焦らずゆっくりと待っている。そういう、寛容性というか寛大性っていうか、そういう気持ちにならないと、彼らとの信頼関係が生まれない。それに、社員に対して、あなた方は何のために働いているのと質問すると、これがね、給料貰って生活するためという事はほとんど言わない。言うのは、お客さんに喜んで頂くという、そしてお客さんに褒めてもらいたい、そういう意識が非常に強い。ハンデキャップを持った彼らの、とくに知的障害のある社員はそういう人が多いなぁと、そういうところに感銘をうけたな」
石原「そういう人たちをサポートできるところに生きがいを感じたということですね。それに鈴木さんは、社長さんの集まりだとか、障害者雇用のその業界団体とも関わって、単に企業のトップというだけでなしに、外に出て、活躍されています。そのような中で気付かれたことや印象があればお話しいただきたいのですが」
鈴木「NPO法人障害者雇用部会との絡みで言えば、トライアングル(雇用、福祉、教育)の関係、連携事業として実は神奈川モデルを主体的な立場で構築した経験があり、これが今、非常に機能しています。これに対する誇りを持っています。
さらに言うと、奇数月に、NPO法人雇用部会の定例会というのがあって、そこでいろいろなセミナーをやる中で、さまざまな新しい情報を頂戴したり、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をしたり、いい体験をしましたね。それに一泊の」
石原「宿泊研修ですね」
鈴木「宿泊、一緒に行きましたね。まあ、午前様まで、徹底して議論しました」
石原「熱く、障害者雇用について語り合った」
鈴木「非常にいい思い出です。それから、指導員のための指導マニュアルを作ったんです」
石原「あのマニュアルはすばらしい」
鈴木「いろいろな経験を踏まえて、ノウハウを生かしたから、使いやすい指導員のためのマニュアルが完成した。これもいい思い出です」
石原「とても評判のいいマニュアルです」
鈴木「あと2017年に全国障害者特例子会社連絡会のセミナーで、私が神奈川代表として講演したことがあって、最低賃金アップと法定雇用率アップというダブルリスクへの対処策という問題提起です。これも、皆様から非常に評価された。実は、これまで長い歴史の中で、全国特例子会社連絡会でセミナーをやっていても、問題意識というか、いろいろな問題提起が今までなかった。どちらかというと誰かの報告とか、厚労省障対課の課長の話とか、独立行政法人の話とか、またどこかの大学の先生の話とか、聞くだけで、受け身の会議だという意識があって。それをガラっと変えることで、全国特例のセミナーが大改革されたのですが、その一翼を担ったと思っています。
あと、SACEC(一般社団障害者雇用企業支援協会)の関係も、全国の主要特例子会社代表者といろいろ、喧々諤々やる中で、厚生労働省への政策提言もさせてもらったし、障害者雇用を進める企業の皆さんと意見交換したり、直近では日本財団から助成事業としての全国障害者雇用事業所協会の協力によって、障害者の雇用状況等に関する調査研究に携わった。こういうのが自分でも勉強になったし、いい思い出となっています。あとは東京都の労働局や企業などから、招聘されて講演したとか。横浜市の教育委員会などでも、保護者や教員の前で熱く語らさせてもらいました」
障害者雇用を進める企業の理念や役割について
石原「次に、障害者雇用を進める企業の理念や役割といったことについて質問したいのですが、障害者雇用というのは法定雇用です。法定雇用という事は義務的雇用ですね。ということなのですが、障害者雇用企業の意義とか意味ということについては、鈴木さんはどうお考えですか」
鈴木「ポジティブにやっているところもあるし、仕方なくやっているところもある。残念ながら本音ではやらされているといった思いがある。これは否定できないというのが現実です。これを抜本的にどう変えるかというのは、例えば納付金制度を抜本的に変えて意識づけするとかですね。納付金制度は100人以上が対象ですが、人員規模に拘わらず全企業を対象に一人5万円に不足数を乗じる方式を、実雇用率の多寡に応じて傾斜をつける方式へ。そういう抜本改革もあるだろうと思います」
石原「綺麗事では、いくらでも言えるんでしょうけど、これは本音としてやはり企業の気持ちとして受け止めないといけない。そのうえでいろいろと考えないといけないということでしょうか」
鈴木「電機連合神奈川地協(電機神奈川)の約50年におよぶ共に生きる地域社会をめざした取り組みについては立派なことやっていて、その中の一つが、ぽこ・あ・ぽこ、電機神奈川福祉センターの取り組みだと思うのですが、その電機神奈川の取り組みは、非常に、私は評価するんですが、私は電機神奈川の戸塚の人間だから、もっと言うと吉田さんという地協議長の時に私は書記長だった」
石原「吉田伸さんですか」
鈴木「そう、戸塚支部委員長の吉田伸さんです。だから、私は、当時の役員だったから、吉田議長のときに電機神奈川が取り組み始めた経緯について、よく知っているのですが、ただ私が思うのは、今どこまで障害者雇用について頑張っているのか、非常にクエッションマークなんですよ。労労間もそう、労使間もそう。どこまで障害者雇用について真剣に取り組んでいるか疑問でね。組合の運動として、この問題に取り組んだ経緯も、先輩方の理念も忘れられている。単に会社の実雇用率が何ぼだというフォローしているぐらいだったら、取り組んでいるとは僕には思えない。そういうことをしっかり労働組合が入り込んでやって欲しいのですよ。雇用機会をどう創出して雇用するのか、三障害(身体、知的、精神)に対してどうサポートするのか、そういうことを三菱電機労組中央がやるのか、支部がやるのか、日立労組本部でやるのか、支部がやるのかっていうこと。大上段に議案書には障害者への取り組みについてうたっているから、かっこはいいんだけどね、実際に事業者所の中で、障害者を雇って、雇うためにどういう問題を抱えていて、先ほど言った職場の理解とか、仕事があるのかないのか、そういうことを含めて組合がどこまでやっているのか、そこが疑問だよね」
障害者雇用は労使の課題である
石原「そこはね、僕も組合の研修とか地協の研修に行ったんですけど、研修の中で質問するんです。おたくの会社の法定雇用率は何%ですかと」
鈴木「実雇用率ね...」
石原「答えられるのは、1割もいません。それだけ無関心だっていうこと。私は労働組合に対して、障害者雇用の問題は、経営の問題ではなく労使の問題だといつも言っているのですが、おそらく鈴木さんがおっしゃりたいのはそういうことだと思うのですが」
鈴木「だから、地域別最低賃金が引き上げられる。このトレンドは決して間違っているとは言いませんが、中小零細企業や特例子会社の障害者雇用という切り口で見た時に、最賃アップに追従するのは非常に難しい、もっと言うと特例子会社の立場で言えば、親会社から委託料をもらいながら、その売り上げで、給料や賞与、ベネフィット、退職金などを払っているんだけど、苦しい。親会社の労使関係は、春季交渉で、ベースアップいくら、賞与いくらとか、日立は・・・」
石原「何カ月分とか」
鈴木「賞与は6カ月近くとか、俺の時は4カ月しかなかった。それはいいんですよ。ところが、特例子会社が、じゃあ親会社と交渉して、同じようにベースアップしたくても、これは叶わないですよ。そこを、だから、努力して生産性をあげるなり、コスト低減をして、利益を生んで、その分、最賃をクリアするのにがんばらなきゃいかん。もっと言うと、最賃がよりどころにもなっています。大体の会社は入口賃金は最賃なんです。で、定昇はないが毎年ベースアップさせるっていうかね、最賃の上がる率を社員に反映させる、そういう手法を取っていますが、ここ数年の最賃の上げ幅は大きく、月額5千円のアップをリンクして上げていくのは至難ですよ」
石原「最賃が上がったから、親会社にその分負担してよとはなかなか言えないですね」
鈴木「一番、手っ取り早いのは、新人をいっぱい入れて特開金(特定求職者雇用開発助成金)と言うのがあって、2年に亘って120万(重度は3年に亘って240万)円とかもらえるのがある。でも、それは未来永劫続かない」
石原「そのときはありがたいですが、中長期的に給付されるかいうと、そうではない」
鈴木「そうです」
障害者雇用の量的な拡大は広がっているが、質的にはどうなのか
石原「次に、ここを鈴木さんに力を入れて解説して欲しいのですが、障害者雇用の量的な拡大は確かに広がっていると思いますが、その質的な問題です。ここが伴っていないのではないかと思える」
鈴木「少し長くなりますが。何で量的に増えたかと言うと特例子会社制度や、企業と福祉とか支援機関とか、あるいは教育機関との連携努力があった、それに納付金制度の存在、また、法定雇用率が未達だと企業価値が落ちるという意識が働いているのも確かです」
石原「さまざまな要因が関係していますね」
鈴木「それに、一般的に、障害者に対する理解が進んでいる、認知されるようになっているということでしょう。それから精神障害者の義務化ですね。福祉から雇用へということも非常に追い風になっていると思います。それに、もう一つ、法定雇用率の引き上げのピッチが加速度的に上がっていること。1.8から2.0へ0.2ポイント上がるのに、実際15年かかっている。それが2.0から2.2に上がるのに、わずか5年で上げたんです。で、働く障害者は間違いなく増えている」
石原「増えたことにより課題が顕在化します」
鈴木「働きがいがあって、その後、人間らしい第二の人生を送る、この権利を日本の国民として有しているわけですから。そんな観点から何歳まで働くのか、それから幾らの収入を求めるのか、それに社会的支援がどこまで求められるのかという3つの要素から研究していかなければならないと思います。量的にはやってきましたが、質が伴っていない。本当に彼らが生き甲斐を持って人生を送れるような環境づくりをしなければいけない」
石原「働く障害者のライフプランという問題もあります」
鈴木「強いて言うならば、企業だって、量産時代には独身寮など箱物を用意してここで寝泊まりして、今はなくなってきていますが。でも障害のある彼らは、生活基盤としての今の住居という課題と、親なき後をどうするかという問題を抱え、自己責任でやらなきゃいけないのですが、彼らの人生を考えたとき、どうやって我々がアシストできるのかっていうのが」
石原「だから会社で働くだけではなく、第二の人生における生活面、住居とか、そういう面も含めたサポートが必要だということでしょう」
鈴木「そうですね。まあ中にはね、自分のお金を管理できない人もいるんですよ」
石原「はい。金銭管理がやれない」
鈴木「そうですね、広くいうと生活管理。でも会社がそこに関わるといやらしいんですよね」
石原「プライバシーがあるから」
障害者雇用特例子会社の経営責任者としての方針について
石原「では次に、障害者雇用、特例子会社という立場での経営責任者としての方針をお願いします。すでに出てきたと思いますが」
鈴木「基本的には三現主義(現場、現実、現物)でやる事を大事にしています。三現主義でPDCAを回す。仕事の手法です。根っこには障害者雇用に情熱を傾けて、そこの根っこの考えは明確にしながらそういうことをしっかりやろうという方針です。で、他の会社に対して模範を示せるような会社になろうと、そんなことをよく言っていましたね。まあ細かいことはいっぱいありますが、それに遵法精神ですね」
石原「大手企業は雇用率を達成していますが、中小企業はなかなか進まない。障害者雇用がゼロっていうとんでもない会社もあります。この辺りはどのようにお考えですか」
鈴木「特例子会社があるようなところと、しっかり連携が取れる会社をつくる。もう一つ具体的に言うと、人・物・金、これがちゃんと準備できるかどうかですね。中小企業の中には障害者雇用はさておき、そもそも、人・物・金の余力がない。具体的にいえば、障害者を職場に雇い入ると面倒をみる職員を補充しなければいけない。そのための人件費がかかってしまうのです。そこまでしなければいけないのかという会社って結構あるんじゃないかな。そしてもう一つは適した仕事がない、だから雇用しないという言い訳。障害者雇用で先行している企業がいっぱいあるから、そういうところを見聞して、教えてもらいながら進めていく、とにかく考え方をリニューアルしていかなければならない」
石原「順調に障害者を雇用しているところもあるんだから、そこに学びなさいと」
鈴木「そういうことですね。見学しなさいといいたい」
石原「見学して勉強して欲しいと。中小企業には、とにかく学んでほしい」
鈴木「それと、業務の掘り起こしについては、何ができるかではなくて、どうしたらできるかという発想の転換だね。実はいろいろな工夫とか道具だて。それから指導の方法や仕方とか、それからいろいろな支援です。皆の叡智を結集すればできる」
石原「合理的配慮の部分もありますね」
鈴木「も含めて、そういうことを経営トップがトップダウンで経営をするということ、障害者雇用に対して、そういう意識を持てば出来ないことはない」
石原「経営トップの意識も大切ですね」
鈴木「一人ぼっちで何かをやろうと言っても無理ですよ。成功している企業を見て勉強してくださいといいたい」
中堤「重電機器グループの関係会社で、今一番困っていることは採用なんです。その障害者の方で就職希望の方がいて、そこから採用するというよりも、障害者が少なくて採用ができない」
鈴木「それは売り手市場になっているからで。今は」
中堤「そう売り手市場になっていて、なかなか採用が出来なくて」
鈴木「知的障害の方はまさにいなくなっているのだけども。後ほど出てくるA型事業所が積極的に集めている」
石原「A型は労働契約を締結しているけど」
鈴木「福祉事業なんです。実は」
石原「福祉事業であって、労働契約を締結している、そういうところもあって」
鈴木「あの、悪しきA型事業所というのもあるようなんだけど。そこは特別支援学校とナカ・ポツと太いパイプを持っていて、だから、4月1日採用に向けては特別支援学校に早くから手を打つ必要がある。で、ちゃんと実習を受けるとか、そのグループ会社の雇いたい職場で実習をさせる、それをしないで、面接だけで採用すると良くない」
加藤「双方にとって良くない」
鈴木「よくないですね。」
中堤「ハローワークに依存しているとかありますね」
鈴木「あとは一般公募するような感じですね。うちはしていないけど。一般公募をして痛い目にあったから指名求人です。さっきも言ったように、特別支援学校と太いパイプがあるから、あらかじめ実習を2~3回やってから、では合格です、4月1日に向けて採用をするから、というようにする。就労・生活支援センターとも太いパイプがあるから。そういう所から実習を受けて採用するとか。そういうことをしないでハローワーク頼りだとなかなか難しい。だから、ハローワークに力がないとだめなのだが、ないんだよね」
中堤「グループの中の各社個々に任せているのです、採用を。ここから見ると、既に大きなグループがあるのだから、一つの採用するツールと言う環境と言うかパイプを作って、組織的にその採用者の実習を含めて...」
加藤「合同採用みたいな感じですか」
鈴木「合同面接会、やっています。ハローワークでやっていますね」
中堤「そういう手も打たないと個々の会社で障害者採用となると難しくなってくる」
鈴木「合同面接会と言えども、そこには個別企業が入ってくるわけなんですが、今言われているのは、企業グループとして一括ということかな」
中堤「大きなパイプを作ってやるのもどうなんだろうと思うことはあります」
鈴木「でもそれって、合理的、効率的な発想すぎて、直接本人とあるいは学校とか、その就労移行支援事業所と関わらないで雇うということにもなりかねないので、非常に希薄な雇用関係に繋がっていくと思います。個別に動かないとなかなか採用には繋がらない」
中堤「障害者雇用の場合は一対一で繋がることが必要なんですね」
石原「一対一の厚い関係がやはり求められるのではないでしょうか。働く障害者の方もハローワークで、この企業へと言われるよりも、1年生のときから、2年生3年生と実習なんかに行って、あの会社で実習させてもらって勉強になったから就職したいとか」
鈴木「神奈川県でいうと、先ほどの三者の連携事業という中には2年生の職業能力評価といって、要するに2年生の体験実習なんですよ。2年生のときから実習を、例えばAと言う人がXという会社に実習に行って、これが上手く相思相愛の関係になると、Xがつば付けをしちゃって、3年で卒業するまでに実習を何回か繰り返す中で内定をして4月1日を迎える」
中堤「実はそういった会社がいっぱいあって。関西方面では、他社は特別支援学校とかで、もう1年生2年生くらいで、いわゆる青田刈りをしている感じです」
鈴木「懐かしい、ちょっと」
中堤「いざ特別支援学校行ってももうとても無理ですという感じです」
石原「それは三年生を狙うからじゃないですか」
中堤「それは、手順が遅いよという事ですね」
鈴木「だから、1年生の時からでもいいから」
中堤「そういうことをあまりやっていないですね。」
鈴木「だから社会貢献ですよ。障害のある方が将来仕事に繋がるということを、企業として実習を受けてもらって社会貢献をするという取り組みをすればいいのです。それがきっかけになって採用につながるということです。また企業価値も高まるんでは」
中堤「そこからなんですね」
石原「10年間くらい腹くくって進路担当と仲良くなっていくとか。その学校の進路担当とまずパイプを作るってことかな」
鈴木「だから営業に行かないといけない、特別支援学校の」
石原「営業に行かないといけない。これは移行支援事業もそうなんですけど、営業という概念が入ってくるんです。利用者に来ていただかないといけないから。待っていては駄目な世界があって」
加藤「ということは、今の中堤さんのお仕事で少しお困りになっている事情を踏まえてのお話だと思います。先程鈴木さんがいわれた先行事例に学んでいくというのは、入口段階の仕事であって、つまり組織と組織の信頼関係を作るとか、そういう意味での先行事例は、そこで苦労された結果としてのノウハウといえるのでしょう。
先程の進路指導だとか長い付き合いが大事だということは、人と人との信頼関係がないと、ということで先行事例に学ぶという結論です」
新卒採用の前に移行支援事業所を経由してからと言うのはどうか
石原「これきっと鈴木さんと僕と論争になっていくところだと思いますが、福祉を担っている立場からいえば、新卒は実習とか受けているんですが、新卒で、即就職するのではなく移行支援事業所に一度来て、更に職業能力を高めたうえで就職した方が定着率は高いのではないかという思いを持っています。企業サイドはやはり新卒がいいと言いますが。
もちろん、学校は学校でやっているのですが、それでも、一旦移行支援所事業所を経由して就職した方が、ずっと定着支援のサポートも移行支援事業所はやりますから。働き続ける限りやりますから。学校は三年間でしよう」
鈴木「アフターフォロー3年間です」
石原「公的なフォローで言うと、三年間で定着支援は打ち切られるのですが、移行支援事業所としては面倒味がいい。だから、新卒、新卒と企業が新卒ばかりに目を向けるのはちょっと間違いじゃないかなと」
鈴木「それは是々非々になると思うんですよ、新卒で、躾がちゃんとできていて、コミュニケーションもできる、人間関係もちゃんと備わっている。そのような、すぐ仕事が出来そうな人をわざわざ就労移行支援事業所ということは良くないという発想です、企業側は。だから、そこは数字では表現できない。だから雰囲気ですよ。この人は即、マッチングが叶うねとかいう判断だね」
石原「企業は定着のための努力はきちっとするから、福祉経由ではなく、寄り道せずに採用させてくれということでしょうか」
加藤「そういう人もいれば、やはり石原さんの言われる就労移行支援事業所経由でというのもありで」
石原「個人個人の問題ですかね」
加藤「だから個々別々にケースによるというのが是々非々と言われたことでしょうか」
鈴木「そうです。だから一派ひとっからげには言えないですね。例えば、拘りを持って独りよがりな人がいたら、企業人としては難しいだろうと。そこは就労移行支援事業所が二年間の中でしっかりと鍛えて、就職できるように支援するという組織ですから、そこは福祉にお願いしたいわけです」
石原「はい、わかりました。それでは次のテーマでいいですかね」
障害者の人生設計、ハッピーリタイアメントに向けての企業の考え方は
石原「障害者の加齢の問題です。社員のハッピーリタイアメントに向けて企業は、その障害者の人生という問題に対してどのようにお考えになっているのかお聞きしたいと思います」
鈴木「基本は本人の幸せが全てであって、定年退職まであるいは再雇用を含めて、今の制度で言うと65歳まで雇用するという、当然考え方は持っています。しかしながら、仕事上のことだけじゃなくて、アフターファイブの異性関係だとか、あるいはお金だとか、また、保護者との関係だとか、いろいろなトラブルがあって、そこを乗り越えるために、本人努力も必要だし、保護者努力も必要だし、企業努力も必要です。そこに関係する学校だとか支援センターだとか、諸々の連携プレーでやるのですが、そうは言っても働き続けるのは無理かなと就労の限界を感じれば、これは申し訳ないけど、いったん福祉に戻って、就労移行支援事業所でリワークしましょうというシナリオが、世の中的にはあることが事実です。そこで、あなたは全てがダメだという話ではなくて、もう一回やり直そうねと。不足する分を移行支援事業所で勉強しましょうというシナリオが日本の中に、この業界にまだ実は構築していると私は思っています。ただ、そうは言っても企業もそのことを人任せでは困るわけで、やはり加齢に伴う作業能力の低下とか体力の低下、これに対して何が出来るのかというと、適材適所への配置換え、これは口では簡単ですが、いろいろな職域が備わっている会社とそうではない会社とがあって、これはどっちが叶うか叶わないかは自ずとわかりますね。いっぱい職域があるところは、当然、その職域の中で、体力的に軽いところがあれば、その人はそこに配置換えすれば上手くいくかもしれないということができればいいのですが。そういう選択肢が全くなければできないことは事実です。だから、私がいた会社ではいっぱい職種、職務があったから、選択肢が多くあった」
石原「これは日立さんだからできるバリエーションというのでしょうか。職種、職務が多いという強みですね」
鈴木「選択肢が多い会社は少ないです。適材適所に配置する、理想的に言えばそういうのが出来ればいいのですが、そういう職域を拡大する努力が必要です。軽作業の確保とか、それに多能工化。なんでもできるようなスキルアップ教育というか、訓練というか。そういうことをすべきでしょうし、それに体力強化訓練、基礎訓練を含めて、企業努力としてやらなければいけないだろうと思います。それから短時間勤務も会社として選択する余地がでてくる。例えば7時間45分、働いていた人を、いや6時間とか。あるいは週30時間に満たない短時間勤務に。要するに雇用率的には0.5カウントになるかも知れないが、そういうのを加齢にあわせるために準備していくとか。そういう努力も必要となってくるだろうし、さらに言うと最低賃金の減額も場合によっては」
石原「減額特例ですか。職業能力が衰えて、生産性が落ちるといったケースではということですね」
鈴木「最低賃金を払えないのであれば」
石原「届け出て、監督署の了解をもらって最賃減額を」
鈴木「うちはやったことないけど、申請資料作りがどうも大変らしい」
石原「実務的に減額特例をしようとしても」
鈴木「やろうとは思わないし、親会社は否定的だった」
石原「やめときなさいと。コンプライアンスもあるから。」
鈴木「先程言った、神奈川県の特例子会社のヒアリングでも、ほぼほぼ最低賃金をクリアすべくやります、減額特例はやりません、したくありません、という意見が大勢です。うれしい話です」
石原「それは意義のある話ですね」
鈴木「もう一つはリタイアした場合です。ハッピーリタイアという言葉を使っているのですが、そういう人たちに対して制度化というか、具体的に言うと、再訓練するとか、その訓練支援金、お金をつける制度。だから一回リタイアした人に対して、訓練するための支援金を作る。それから、生活の支援金。こういう制度が叶えば当事者にとっても実は有り難い話。国に対して...」
石原「国に対して言いたいってことですね」
鈴木「企業にはできない」
石原「企業はできないから」
鈴木「一旦、働いたんだけど、ドロップアウトしたと。その人たちに対して生活保護費を渡すというだけではなくて、しっかりと支えるというか、そういう制度化を検討したらどうかなと」
加藤「それは新しい制度になりますね。普通は定年退職ですから年金と接続するので問題ないでしょうが。それよりも若い段階でリタイアするというケースですか」
鈴木「そうですね」
加藤「その場合には直ちに生活保護にいくのではなくて、生活支援の形で、あの教育訓練支援とか...」
鈴木「そうそう。トレーニングができるようなお金ね」
石原「通常企業をやめて、訓練に入ると雇用保険の失業給付の世界に、条件を満たせば入れるのですが、条件が整わないケースもあったりするではないですか。もう一つ、訓練に行くと社会保険料が納入できないっていうか、年金の掛け金がかけられないので中断してしまう。で、そういうのは将来の年金給付に影響してくる問題がありはしないかと」
加藤「それは、普通は国民年金で本人のお金でかけてつないでいきますが」
石原「そこが難しいのですが、国民年金の掛け金に困る人が出てくる、障害者には」
石原「だから1万6000円くらい払えればいいんだけど、払えないケースが」
鈴木「逆に生活保護をもらった方が楽だってことか。免除される」
石原「生活保護をもらったほうが」
鈴木「免除されるんだっけ、医療費も」
加藤「医療費はそうですが、年金は法定免除で期間はカウントされますが給付額に反映されるのは半額で、これは国庫負担です。」
石原「確かに、鈴木さんが言っている支援金とか、セーフティネットがないと、今のままでは幾つか制約条件があって、少し検討すべき問題ですね」
加藤「ということは、行政として仕組みを作る余地があるのではないか、ということですね」
石原「そうですね」
鈴木「企業として再チャレンジするためにはお金をもらえれば、そういう余力を持っていれば再訓練できるし。本人に対してもちゃんとお金を出せる。」
石原「働けるようになれば、その時、また戻ってきてほしいと。そうしないと企業は雇用率が低くなったら困るでしょう。ちょっとお金出してでも訓練して、また職場復帰してほしいと」
加藤「ということは、それはいわゆる離職という形態なのか、雇用上は。それとも休業、休職という状態でやるのか。今の話では雇用継続ということではないでしょう」
鈴木「そうですね、はい」
加藤「雇用継続とすると、これはちょっとモラルの問題に」
鈴木「休職じゃだめなんだよね、確か」
加藤「だからこれは、一回退職をしたうえで。しかし、退職者に対して企業が支払うというのは税務の問題も含めて、だから」
石原「だから、雇用契約は休職かなんかで残しておいて、そこにサポートするというのが、現実的かなと思います」
加藤「話を混乱させることになるかもしれませんが、育児休業の休業給付というのは、休業に対して雇用保険が企業の代わりに払いますということで、最大67%の給付率になっています。先ほどのケースは出産、育児という理由ではないですが、つまり再度訓練をしてリカーレントしていくための費用の扱いをどうするかということです。
雇用保険の二事業(雇用安定、能力開発)の部分は企業が負担しているわけです。企業が負担しているものを原資に還流させるということが考えられます。だから一つは鈴木さんが言われたのは、保険からの直接払いなのか、企業から本人へ払うのかで、これはなかなか難しいでしょう。もし離職していたら関係のない人に企業が払うということでは株主対策としてもたないですね。で、損金として出すか出さないか税務の問題も出てくるでしょう。となると、雇用保険から、企業が負担している上乗せの部分を原資としてそれで払うということはどうでしょう。もともと、育児休業と休業給付は社会的要請ですから。」
石原「少子化対策という名目もありますからね」
加藤「それは大きいと思います。ただ、今のケースが社会的にどういう意義付けができるのかということもあるでしょうが、検討すべきだと思います。それで企業サイドから見て円滑な障害者雇用の道が開けるということであれば、政策的には意義があるということでしょう。
もう少しスキルをアップすればなんとかなるとか、きめ細かい支援ができれば、再就職の可能性が上がるということであれば、矢田議員や浅野議員にお伝えして議論してもらうことが可能でしょう。」
鈴木「俺は国民民主党の党員だよ。コンタクトがとれるとうれしいね」
石原「知的障害者の方の場合では、20歳前の年金を、掛け金なしで受給していて、これは地域によって違うんだけど、就職したことによって、その20歳未満の障害年金が打ち切られるという問題があります」
鈴木「障害基礎年金ですね」
石原「サポートがあるから働けている訳で、サポートが無いと働けないわけだから」
鈴木「最近、打ち切りとか出ている話のこと」
石原「あ、そうです」
鈴木「それ年齢で打ち切り、年齢要素ないでしょう」
石原「年齢要素なし。就職したというだけで」
鈴木「就職して、自立しているのだからと思う」
石原「そう。就職できたから自立しているのだろうと、だから障害基礎年金は支給しません。働けるんだからと」
鈴木「それは勘違いが多い。我々のサポートがあるから彼らは仕事ができているのですね」
石原「だから、サポートが無かったり特例子会社に就職しなかったら、途端に仕事が出来ないわけだから、そもそも20歳前の障害基礎年金の受給権は就職しても、サポートがあって働けている人には、障害者については、打ち切るのはやめてほしいという要請がある」
鈴木「それが地域ごとに違うというスタンスが気に食わないんですよ」
石原「最賃で働いている人が多いということは、月に100時間働いても10万円ではないですか」
石原「首都圏で働いていても約10万円ちょっとでは生活ができないのです。基礎年金7万円弱がないと。17万円で生活設計が成り立っていると僕らは理解しているわけですよ」
鈴木「10万円じゃないですよ。月150時間の労働時間あるから、15万円」
石原「日立さんとかはそうなんだけど」
鈴木「労働時間が短いところもある」
石原「労働時間を短くしたり、そういう中で働いている人が多いものだから。大手企業では15万もらっていても、恐らく平均すると15万円は貰っていないと思うのです」
鈴木「特例子会社はそんなことないでしょう」
石原「特例はそんなことない?」
鈴木「ないですね」
石原「じゃあ特例で働けるっていうことは150時間とか短時間勤務にはしてないっていうこと」
鈴木「そうです。平均的に7時間超えています。特例のアンケートによれば」
石原「アンケートだとそう言うことですか」
鈴木「はい」
石原「今日のところは、インカムの問題もどう考えておくかで、働けなくなったとか、途中で労働能力が落ちたような時に、どういうセーフティネットが、今既にあるのかも分からないし、ないという理解なのかも分かりませんが」
鈴木「ないですよ」
石原「ここらは、少し研究のテーマですね」
加藤「そうですね。政策制度として検討対象になると思います。鈴木さんの所では、制度の活用の仕方についてはよくわかっていらっしゃる上で、そういうものを企業として用意しなければならないと言われると、そこがエアポケットになっているということです」
鈴木「ここは、だから、実例を挙げて、できるかできないかを研究しなければならない」
加藤「そうですね。今日はそういうことにとどめて」
石原「ただ、姿勢としては、福祉の側も、何が何でも仕事は継続すべきだと、『あなたは、働き続けなさい』というような言い方はしない」
鈴木「おっしゃる通りで」
石原「やはり、加齢で職業能力が劣ったり、生活基盤が崩れてきたりすれば、定着支援の場においても『あなたはもう勤めるのは無理でしょう。だから、働くのはやめて、福祉の施設にいったん戻ろうか』という言い方です。これは僕らも成績を問われるのです。移行支援事業所から就職して、『あそこの事業所は離職率が高い』となると、事業所のスキルを問われるわけです。だから、そこはものすごく慎重になるのですが、しかし無理やり働かせるというスタンスはないので、そういうセーフティネットをね」
加藤「やはり必要だと言うことですか」
石原「どういう仕組みがいいのか。他にも、障害者だけではなく、ワーキングプワーの方とかもおられて、そことの整合性をどうとるかですね」
ネットワークの情報をしっかりキャッチアップすることが重要、問題はマッチング
鈴木「そのセーフティネットって、やはり救済していこうと今の議論が一つある。もう一つは、たまたまこの職場だから、この会社だから、あるいはここの指導員だから、アンマッチなことになったと、そういう場合は、他の会社に行けば、他の職場であれば、他の指導員であれば、救われる可能性もあるのです。
だから、ネットワークの情報をしっかりとキャッチアップして、それを個人情報に関わる問題かもしれないが、だれでも見えるような環境の中で、『あ、この人はうちなら働けるから、うちにちょうだいよ』って、そうネットワークがあれば救われるというか」
石原「そこは、移行支援事業所と絡んでいると、両方の情報が入って来るではないですか。求人、求職双方の、そこの状況なんかも見れますが、ハローワークでは中々難しいのではないですか、このあたりは」
鈴木「だから例えば、そういう事業はNPOとか社会福祉法人を立ち上げて」
石原「そういう中で調整していけばいいのか」
鈴木「逆に言うと、厚労省あたりから、そう委託事業として展開してもらうとか」
加藤「確かに、お金をどう支払っていくかという課題もありますが、問題はこのマッチングですね」
鈴木「はい」
加藤「もちろん通勤圏内ということで限られてきますから、広域では無理なので、ある程度狭い領域での情報システムを確立していくという任務はちょっとエアポケットになっていると思います」
鈴木「一都三県のエリアで、とか」
石原「現実にメーカーは無理で、たまたま三菱電機の特例にクッキー工場があり、お菓子作りの工場が立ち上がっていて、『お菓子作りの工場で、私は働きたい』ということで長く続いているというケースもあるので、そういう場合は調整するということで」
鈴木「いったん福祉に行かないで」
石原「企業間で」
鈴木「あ、税金かからない、そこが良いんですよね。メリットがある」
石原「メリットあります」
加藤「税金がかからないというのは、税金をむやみに使わないということですか」
石原「そう、失業されるよりは、新しい職場を探してあげるのがいいでしょっていう意味ですね」
加藤「それはもう、まさに社会貢献としてはレベルの高いことです」
石原「だから、そこの情報をどう共有化するかというのが一つの問題ですね」
鈴木「だから覚悟をもってやれば、できそうな気もします。情報が吸いあがるような仕組みや仕掛けを作って、情報が漏洩しない管理体制をしっかり作りながら、ネットワークを構築し、実際に見に行って、『あ、このAさん、うちにちょうだいよ』っていうか、現場サイドからすれば」
人事総務部門の役割は
石原「話題は飛びますが、私の福祉の側から見ていると、人事・総務の人は障害者雇用しなければいけないということは、ものすごく分かってくれているのです」
鈴木「本当、分かっている?」
石原「人事の人達はハローワークに行ったり、関係機関に出向いたりして、採用しているではないですか。人事が面接して、また現場の係長とか班長にも面接はしていると思いますが、しかし配属先の係長や班長に理解がないというケースがあって、『総務、人事がうちの職場に障害者を配属します』っていうが、ここの現場で働くのは無理といって、うまくいかない。そういうケースがあるんですよ。そこらはどうお考えですか」
鈴木「人総(人事総務)の皆さんが、理解があって進めている、凄く良い話なんだけど、本当にそうなのかな」
石原「それは、僕は疑っていない」
鈴木「というのは」
石原「雇用率もあるし」
鈴木「雇用率があるから、そうなんだけど、実はほんとうに人総が汗をかいているのかな。現場に出て行って、現場の人達と喧々諤々やって、あなたの職場で障害者雇用をしてほしいのだが、ついては、こういう仕事があるね、ああいう仕事があるね、そして、指導者も配置するから、ここで障害者を活用してほしいと、あともう一つは職場全体がしっかり盛り上がるか、理解・納得の上で進められるような環境を、身も心も障害者を受け入れ協働する感性も、人総が本当につくっているのか、実は懸念があるんですよ。で、そこを特例子会社に任せている。はっきり言うと、アウトソーシングしているケースも」
石原「なるほど」
鈴木「言い過ぎかもしれないけど、楽だもん。自分達は、数字のフォローだけでいいという。某社も、申し訳ないけど」
石原「特例子会社の社員ですが、一般職場に配属するというケースはあまりないですか」
鈴木「それはコンプライアンスの問題があるから出来ないですよ。それは派遣業だったらいいんだけど」
加藤「今の話は直接雇用で障害者を職場に配置するような事例はないのですか。」
鈴木「日立グループの各社が主体的に雇うことを基本としています。特例子会社を使わないで直接雇用している会社・事業所は多数あります」
石原「そういうところで、ままあるのです」
鈴木「そういうことか」
石原「人総は採用したい、いい人だと思って採用して、機械係の歯車班とか、配属すると、そこの職場が、ちょっと受け入れられないというような態度になってくる」
鈴木「そこは先に言ったように、そこの職場の方々が障害のある方に対して、どれだけの理解があるかという、先ほどの生い立ちですよ。我々の教育がどういうふうにされてきたかとか。そういう根っこのところに戻ると思うのです。
で、某社の事例でいえば、誤解があってセクハラで訴えられた社員がいるのですが、親会社の女性に。それは、職場でよく知っている人だから、駅のホームに行ったらいました、で近くに寄って行った、でそれに対して、その行為がセクハラだって言ったのですね。その女性は被害者意識を持ったのですね。ところが、本人はそういう意識は全くなくて、『日ごろお世話になっています。ありがとうございます』って言いたい、単に言いたかっただけなんですね。それをセクハラだと誤認識された。つまりは、全く障害者の事というか、理解されていなかったってことなんです。ダイバーシティ教育をやっているっていうが、実は、某社の場合はダイバーシティ教育って、その、個性を認めた、認めましょうっていうことで、具体的に何をやっているのって、女性の働き方ですよね、はっきり言って。障害者の働き方について、ダイバーシティ教育でやっているのかというと、やっていないように感じます。やっているとしても、上っ面だけで、そういう環境が、背景にあると私は思うのです。その事例は、他でもあるのではないかと思いますよ」
加藤「やはり、どちらがどちらの立場での勘違いかはわからないが、結構勘違いだなとも思いますが、しかし、一方が被害を感じれば被害者ですから」
石原「そうですね」
加藤「なにか対応が難しいということは聞いています」
鈴木「後はね、面倒くさいとかね、付き合うのが嫌だとかさ。そもそも論のところで、なんだろな、職場の人達をどうやって教育するかということですか、そうとう至難ですね」
雇用率を達成する手段として、仕事を福祉施設に出すという考えについて
石原「ちょっと飛びますが、鈴木さんがよくおっしゃっている直接雇用して、雇用率を達成するのではなく、仕事を例えば福祉施設に切り出すから、その分を雇用率にカウントしてくれという議論があるではないですか。それについての、鈴木さんのご意見は」
鈴木「福祉職場に対して仕事を提供している企業は、社会貢献を旨とした施策に対しては、これは非常にいいことだと思います。
一方で、コストメリットもある。例えば100円でやっているのが、ここだったら50円で出来るとか。そういう面もある事を認識すべきであると。で、貢献評価を、雇用率でインセンティブを付与することは、お金がかからない施策だからいいかもしれないが、本来的には主体的に雇えるようにして、その業務に携わる業務管理や環境づくりなどの企業が努力すべきことを回避している。もっと言うと、アウトソーシングしいているように思います。だから、法定雇用率を守るという本来あるべき主体的な企業姿勢をしっかり貫いたうえで、余力をもって福祉への展開が理想ではないかと」
石原「実雇用率1.5%ぐらいで低迷しているのに、仕事を出したから、雇用率にカウントしてくれというのはまずい」
鈴木「それだけではまずい」
石原「2%にカウントしてくれなんて言うのはダメだと思う」
鈴木「自分で2.2をまず達成しなさいと」
石原「と、いうことですよね」
鈴木「しっかりやりなさいと」
石原「まず稼ぎなさいと、その上で仕事を出すからっていう議論はあっても」
鈴木「まあ、先程の社内アウトソーシングの話と一緒よね」
石原「最近話題の農業の話も一緒で、やり易さだけを...」
鈴木「社会貢献、格好いいように見えるのだけど、主体性がない」
法定雇用率の課題と未来形は
石原「分かりました。それと、雇用側にいらっしゃる鈴木さんにお聞きをしときたいのですが、法定雇用率ですね。2.2%、先ほどのお話で5年ごとにまた上がっていくと、分析されているのですが、ヨーロッパを見ると5%、6%の法定雇用率ですが、鈴木さんはずばり、この法定雇用率はどこまで引き上がっていくべきかと思われますか」
鈴木「まずその前に、現在の法定雇用率の算出式があるのですが、これが大いに問題で分母はまあいいとして、分子ですね」
石原「分子のほうが」
鈴木「その、福祉サービスとして報酬を得ているA型事業所を分子に入れているとか。それから、雇用実績がどんどん上がれば上がるほど」
石原「頑張れば頑張るほど雇用率が上がっていく」
鈴木「法定雇用率が上がっていくという、なんだこの仕組みはと。それにもう一つは、チマチマと0.1ポイントとか0.2ポイント上げるようなやりかたは、私はおかしいと思います。そういう意味では」
石原「例えば、10年ごとにコンマ2%とかコンマ3%とか」
鈴木「いや、もっとですね」
石原「もっと!?」
鈴木「もっとダイナミックに、ヨーロッパの、ドイツ、フランスみたいに5%ぐらいに上げて、それに対してそれぞれの企業が10年計画でこうやっていくとか、そういうものをプランニングさせながら実行させていくということ。で、納付金制度もそれに照らしながら変えていく。納付金制度も、ヨーロッパのような、頑張れば軽減されるんでしょう、金額が確か、そういう仕組みって日本にはないですね。押しなべて、皆から同じ一人いくらって、貰うのはいかがなものかと、これだけ頑張っているのに」
加藤「1%前後のところも、1.5も1.9も」
鈴木「そうそう。押しなべて一緒」
加藤「それでは、インセンティブにならないということですね」
鈴木「そういうのは、見直しの検討に入れてもいいかなと。それからもう一つは、障害者の定義。分子の関係で定義も、今は医学モデルですよね」
石原「それを社会モデルに変える」
鈴木「現在、社会モデルに見直そうとしている」
石原「検討されているようです」
鈴木「そうすると、5%、6%にハードルを上げたとしても、容認できるのでないでしょうか」
石原「要はチビリチビリ上げる今の制度、今の仕組みは問題だということですね。分母・分子の問題ですが、採用すればするほど雇用率が上がるというのはおかしいということ」
鈴木「自分で自分の首を絞めているようなものです」
ジョブコーチ制度について
石原「わかりました。それからお聞きしときたいのは、雇用側でジョブコーチ制度とか、その就労・生活支援センター(ナカ・ポツ)制度です。ナカ・ポツは触れていただきましたが、ジョブコーチ制度はいかがでしょうか」
鈴木「職場定着をさせるために、理想論かもしれませんが、企業が主体性を持ってやるべきだと思っています。そのためには、一定の資格を持った人であれば企業内ジョブコーチとして」
石原「企業内ジョブコーチですか」
鈴木「はい、企業在籍型ジョブコーチとか」
石原「二種ですか」
鈴木「はい、これが、有効に作用するとは思うものの、ただ別に資格がなくてもできないことはない、だって、障害者の定着をどのようにはかっていくかというのは、課題は幅広くいっぱいあるわけですから、だから、企業がまず主体的にやるべきで、後は派遣型とかなんかではないですか。職業センターから来てもらうとか、訪問型とか。こういうものが、ケースバイケースによって、あるいは、企業規模の大小によるので、あるいは、企業の支援体制の濃淡によって差がつく、必要性が出てくる。うちみたいなところでは要らないのですよ。主体的に自分たちでやりますから」
石原「もっと、サポートしてほしい中小企業とかに」
鈴木「そう、そっちに回すのよ」
石原「望んでいるところにサポートに入る」
鈴木「実績のあるところは訓練されているし、事例を抱えながらバックグラウンドもあるし、自分たちでやれるという、私は確信を持っています。で、もう一つ、仕事を知らない人に現場に来てもらってもね」
石原「仕事を知らない人に来てもらっても、できないですよね」
鈴木「逆に、ジョブコーチのために時間取られてしまう、本音を言えば」
石原「そういう問題があるってことですね」
鈴木「だから、大きな会社や人材が揃っている会社は多分あまり必要としないかもしれないね」
特例子会社制度の今後について
石原「特例子会社制度が、昭和50年にスタートしています。もう40年、50年になろうとしている。そんななかで特例子会社はさっきの数字でいうと1000社までいっていないですね」
鈴木「500社ちょっとです」
石原「500社ちょっとですね。で、良いか悪いかは別にしてA型事業所。これ自立支援法の時に、A型の制度ができて、雇用型でありながら福祉の制度ですね。この曖昧性の問題ですが、もっと言うとそれが何で特例子会社は、4、50年経っても1000社にいかないのに、A型事業所は2万か3万、今あるのですか。この違い、A型にも問題があるんだけど、特例子会社の仕組み自身も、今のままでいいのか、将来どうされていくのでしょうかという問題認識です」
鈴木「先ほど言ったように、大企業には特例子会社の有効性があるわけです。もろもろ言うと、アウトソーシングになってるんですよ、はっきり言って。彼らは特例に預けたから頼むよと。本来業務は自分で出来ますから、やれるからラッキーじゃないけどそういう方って結構いるのです。だから、そういうメリットがある。で、実際に実績としても上がっているわけです。大企業ほど法定雇用率をクリアできているわけだから。そのことはまず評価できる」
石原「大前提として、はい」
鈴木「ここは、是としてもらわなきゃいけない」
石原「OKです」
鈴木「ただし、職業選択の自由とは違うけれど、特例子会社で働いている人がずっとそこにとどまっているというのは決していいとは思わない」
石原「ああ、そこです、質問したのは」
鈴木「キャリアアップっていうか、あるいは、親会社へのシフトだね」
石原「親会社へのシフト」
鈴木「こういうのは円滑にするべきだと思います」
石原「特例子会社で10年も20年も頑張ってきて、職業能力も付いているのだから」
鈴木「100人いてゼロか1人もいないかもしれませんが」
石原「いや、それが今、限られていてものすごく少ないじゃないですか」
鈴木「教育を受けたいといっても、特例子会社ってキャリアアップのそういう教育はしない、カリキュラムはありません。やるとしても親会社ですね」
石原「そうなりますね」
鈴木「グループ会社にしかね、無理だとしたらそういうところに行くしかない」
石原「能力を高められるので」
鈴木「入っていくしかないので、ホントに将来を見据えてやる気がある人についてはそうすべきではないかと思います。で、A型事業所ですが、全て良い会社ばっかりじゃない」
石原「よく分かります」
鈴木「特開金をもらいながら、人件費に回しているところもあるかもしれないと思います。A型事業所をつくって、そこで雇用率を確保し、給付金ももらいながら、『うちの会社、良い会社だ』ってやっている会社などはとんでもないと、本音としてあります」
石原「鈴木さんのお考えはよく分かりました。ありがとうございました」
加藤「どうもありがとうございました。色々な問題点も明らかになりましたし、ご苦労も分かりました。私の場合は問題意識と関心だけは高かったんですが、なるほどというところが多々ありました。中堤事務局長も直面している問題もあり、良いお話を聞けたのではと思います」
鈴木「こういうことを、だから、障害者雇用が進んでない企業、小さい会社を巻き込めばいいんだよね」
加藤「今の鈴木さんからご指摘がありましたところは、労働組合の役員向けということでしょうか」
鈴木「そうですね」
労働組合の役割は大きい、目の色を変えて取り組んでほしい
加藤「労働組合を通じて人事・総務の方とか、現場をかかえる事業部長あるいは工場長とか、そういう人たちも含めて、共通認識を少しずつ高めていくことが必要だと思います。
石原さんが前から言われているのは、せめて労働組合の役員ぐらいはということですね」
石原「そう、目の色変えろと」
加藤「継続して言われている事なのですが、今回も障害者雇用を広げなければという問題意識を持っている人事・総務の方々のためにも、先行企業が長年に渡って培ってきたノウハウを、細かな事も含めて応用・活用していくということが、急がば回れともいいますから、ホームページに掲載いたしますが、それ以外の方法でも広めていく活動必要だと思います。」
鈴木「そうですね」
加藤「必要じゃないかなという風に思いますので。とりあえずは」
有価証券報告書に雇用率など記載するようにできないか
鈴木「思い出したんだけど。やっぱり、トップダウンで物事を進める上で、検討してほしいことがあるんですよ。それは何かっていうと、その、うちの会社は今、実雇用率がいくらかっていう、有価証券報告書なんか出てないじゃないですか」
石原「おお、ああ、そう・・・か」
鈴木「意識付けとして非常に大事なことだと思うし、もう一つは、PLとかBSにその貢献度合い。経済効果っていうのかな」
石原「指数化してね」
鈴木「そういうものがね。こんだけ、今、障害者を雇いれているから、法定雇用率をクリアしているから貢献度合いがこうだとか、金に換算するとこうだとか、見立てだと実はこんだけ足引っ張っているだとかね。そういうなんか数字で見えるそういう、マークシートとかなんかで見えたら、経営者の意識変わるんじゃないかな」
石原「なるほど」
加藤「前者の有価証券報告書にという話については政府は受け入れる可能性があると思います。後者の方は、これはむしろSDGsの議論に如何にまきこんでいくかでしょう」
石原「そうですね」
加藤「経済団体が中心となり議論した方が進展すると思いますね。そのほうが、経団連だとか同友会にしても時代、時流に合ってると思いますね」
石原「合ってますもんね」
加藤「SDGsの範疇として、17の目標がありますが、その一つとして、それは今言われた貢献度、つまり、経済的あるいは社会的な数値的で測っていくということによって意義を高めていくというのは正攻法だと思います」
石原「確かにそうですね」
加藤「非常にいいアイデアだと思います」
鈴木「昔から思ってんだけどね、なんか具体的にどうしたらいいかって、プロじゃないから分からないんだよね」
加藤「まあ」
石原「人材教育なんかも指数化しいてなかったですかね。なんか経営指標にね、落とし込めないかっていう議論です」
加藤「それは、スイスの、名前は忘れましたが、専門大学が毎年企業評価のレポートを出しています」
石原「ええ、そうですよね。企業評価の」
加藤「国の競争力評価なども話題に上がりますが、これからSDGsの中でそういう社会貢献の部分をどのように入れていくか。だから、投資ファンドの分野では、ここ数年のうちに変わってきたことは社会貢献分野に力を入れてる企業の評価を高めているということですから」
石原「高める」
加藤「投資判断の時に、今まではいくら儲けるかとか一株利益とか、そういう評価軸だったのですが、今はエコとか社会貢献あるいは女性役員登用率だとか、さらにこれからは女性の活用、障害者雇用などを含めて、総合評価の方に移行しています。そういう意味では良いテーマだと思います。ただ、その評価をする方法をどうするのかについては専門家がやればいいと思います」
石原「でも、加藤さんがおっしゃった女性の管理職の登用なんかは、指数で出てるではないですか。何%とか」
加藤「30%を目指すとか・・・」
石原「だから、鈴木さんがおっしゃったように障害者雇用率も、これはもう書くか書かないかの判断ですね」
加藤「それはだから、有価証券報告書にですか」
石原「有価証券報告書です」
加藤「それは多分、政府は受け入れると思うのですが、ハッキリ言って、官邸のトップダウンでやるしかないと思います」
石原「なるほどなるほど、ではそろそろ終わりにしましょうか。」
鈴木「はい」
-了-
【講師】鈴木巌氏、石原康則氏
鈴木 巌(すずきいわお)氏
昭和48年4月 株式会社日立製作所戸塚工場 入社
平成 8年7月 日立製作所労働組合中央執行委員
平成12年7月 日立グループ労働組合連合会(旧全日立労連)事務局長~副議長
平成19年4月 株式会社日立ゆうあんどあい代表取締役社長
平成20年4月 特定非営利活動法人(NPO法人)障害者雇用部会理事
平成24年4月~ 社会福祉法人電機神奈川福祉センター理事~評議員
平成29年4月 株式会社日立ゆうあんどあい相談役
平成30年4月 一般社団法人障害者雇用企業支援協会理事
令和1年10月 茨城県特例子会社連絡会会長
令和2年 6月 株式会社日立ゆうあんどあい退職
石原 康則(いしはらやすのり)氏
1951年 兵庫県生
2013年 神奈川大学法学研究科博士前期課程修了
社会福祉法人電機神奈川福祉センター理事
公益財団法人富士社会教育センター理事
日本労使関係研究協会会員
2003年~2010年 三菱電機労働組合中央執行委員長
2011年~2019年 社会福祉法人電機神奈川福祉センター理事長
【研究会抄録】バックナンバー
- 【】ウェブ鼎談シリーズ第(14回)「戦後の労働運動に学ぶ」 講師:仁田道夫氏、石原康則氏
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第13回) 「労働者協同組合法について」 講師:山本幸司氏、山根木晴久氏
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第12回)「戦前の労働運動に学ぶ」 講師:仁田道夫氏、石原康則氏
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第11回) 「労働運動の昨日今日明日ー障害者雇用・就業支援の実践と課題について」 講師:鈴木巌氏、石原康則氏
- 【】バーチャルセミナー「あらためて労働組合と政治」 講師:一の橋政策研究会 代表 加藤敏幸
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第10回)「労働運動の昨日今日明日ー労働運動と生産性ー」 講師:山﨑弦一氏、中堤康方氏
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第9回)「労働運動の昨日今日明日ー官公労働運動について②ー」 講師:山本 幸司氏、吉澤 伸夫氏
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第8回)「労働運動の昨日今日明日ー官公労働運動について①ー」 講師:吉澤 伸夫氏、山本 幸司氏
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第7回)「労働運動の昨日今日明日ー障害者雇用・就労支援について」 講師:津田弥太郎氏、石原康則氏
- 【】ウェブ鼎談シリーズ(第6回)「労働運動の昨日今日明日ー最低賃金についてー」 講師:北浦 正行氏、加藤 昇氏