研究会抄録

ウェブ鼎談シリーズ(第9回)「労働運動の昨日今日明日ー官公労働運動について②ー」

講師:山本 幸司氏、吉澤 伸夫氏

場所:電機連合会館4階

ウェブ鼎談シリーズ第8回に引き続き、後半部分を第9回として掲載しました。
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参議院がねじれて難しくなった

【加藤】 民主党マニフェストで言えばいろいろ内部矛盾を克服しながら、連合において官公労と民間労組とがお互いに矛盾をきちっと処理しながら理解を深めながらやってきたことも含め、結局完結しなかったからだめだったという結果論の支配する世界に入っていったという気がするわけです。したがって、2010年参議院を失った民主党政権のもとでこれ(労働基本権の回復)は貫徹できるのか、結実するのかといったら誰が考えたって参議院では野党が許すはずがない。まさに天下に朗々と正しいと言ってもそれは許されない。何をしてでも潰しにかかるぞというのが当時の自民党でした。  

 かつそれは自分たちが2006年にやや気持ちが動いて、何とか調整をして官公労働者の理解をもらって政府は政府の言い分を通し、いくつかの基本権の部分を復活させてもいいかな、しょうがないかな、それで収まるのなら何とか収めたいという当時の自民党の人達が俺の顔を潰されたと。したがって民主党政権ができた時にやれるものならやってみろと、闘争態勢に入ったときに、私の当時の立場で言うとこれは難儀だということでした。だから結論から言うと地震、津波、原発の事故が起こって、どうにもならなくなった時に63日の閣議で、要するに閣議決定までは持っていこう、閣議決定が当時としては到達できる最高のポジションだったと思っています。

「国家公務員法改革基本法第十二条、労使環境の見直し」は大きく評価

【山本】 ただ、そういうなかで参議院選挙負けてねじれ国会になってしまった。片肺みたいな状況で民主党政権が弱体化していく下で基本権の回復は実現しませんでした。しかし、国家公務員改革基本法の中では第十二条で労使環境の見直しとして一応法律に規定されました。このことはいろいろな評価はあろうと思いますが、積み重ねられてきた重要な到達点として認識すべきと考えます。

【吉澤】 でそれは今も生きていますよね。

【加藤】 確かに議論のベースとしても大きな役割を果たしています。内心よくまとまったと思っています。

【山本】 はい、だからこのことは非常に大きな成果だったと思います。同時にあの参議院選挙(20107月)を負けてしまって多数派を失ったことが決定的ですが、同時に3.11で、実は南雲さんが事務局長で、私が副事務局長で公務員制度を担当していました。当時の総務大臣に呼ばれて、消防職員の団結権の問題についてはこの状況のなかでは申し訳ないが難しくなった、という話がありました。東京消防庁の特殊能力を持った部隊の派遣を要請するに際して種々の政治的しがらみが生じ団結権の問題を進められないということでした。

 私どもとしてはあずかり知らない事情もあるわけで、政治のしがらみということでしょうか。

【加藤】 確かに理屈だけでは動かせない、言ってみれば政治的なさまざまなしがらみを方程式に入れても、解が出てこないということもあるでしょうね。

政権先行か与野党協議か、付きまとう二つの道(選択肢)

【吉澤】 歴史を振り返って考えると、冷戦構造崩壊以前は明らかに政治対立の象徴にあったのが公務員の基本権、いわゆるスト権問題です。民主党政権になって連合も含めて望む方向でとなった。だけどうまくいかなかった。ではこの先どう考えるのかというときに政治問題だから我々が望む、連合が望む政権ができるまで、あるいはそういう努力を尽くすというところに端的に進もうか、いや待てよ、もう少し政治の対立を超えて冷静に与野党の立場を離れて、やはりそういう議論をつなげるべきではないかという二つの選択があると思います。そこをどちらがいいのかと冷静に考えるべきではないかと。

【加藤】 明日に向かうという事で、今吉澤さんの方から選択すべき状況ではないのかという問題提起ありましたが、OBの立場で気楽に喋ってもらいたいのですが、山本さん、仮にそういうふうに問題提起されたときに山本さんならどんなふうにお考えになりますか。

政権交代優先路線は取るべきではない

【山本】 基本権問題は政権交代抜きには解決しないというスタンスはとるべきではないと思います。

【加藤】 とるべきではない。

【山本】 はい。そんな問題ではない。どの政党が政権を取ろうが、今の社会状況のなかで今の公務員労働者の意欲をきちんと保って、いい仕事をしてもらうためには、責任を負わせるかわりに交渉に参加できる権利も保証する。そういう新しい時代に進んでいかければならないのではないかと。で、率直な印象で言いますと、自民党の公務員制度に関わった、当時若かった方々はかたくなにダメというような認識ではなかったと思います。

【加藤】 私もね、実は2006年当時、民主党政権になる前ですが民主党でいえば松本剛明さんや松井孝治さん。

【山本】 はい、はい。

【加藤】 それから自民党は林芳正さん、それから。

【山本】 宮沢洋一さん。

【吉澤】 宮沢洋一さんですね。

【加藤】 検討グループに特に誘われて、連合、労働組合の方面の話が必要なのでと、私は嫌でしたが、何回か同席をしていました。あの時、谷さんが人事院の総裁でしたか。

 ややこしい話がいろいろありましたが、結局林さんはネガティブではなかったし、言われる通り、自民党の中も、全部がネガティブではなくて、事と次第によってはという面はあったと思います。したがって、今の吉澤さんの問題提起について、私も考えが近いのは、それらは2006年の1月に立ち戻って、つまり政権交代どうのこうのという話から切り離して、むしろ普遍的に日本が先進国家として対応するときに、いつまでもこのまま放置することはやはり恥ずかしいだろう、先進国家としての要件を欠くだろということではないか。先進国家いや近代国家として問題が大きすぎると言うことで、私は政権問題とは別に対応していくのも手だったと思います。

【山本】 これは先ほど吉澤さんも述べられていた点で、繰り返しになりますが、やはり冷戦が終わって、かつてはソ連とアメリカの代理戦争を、日本国内では自民党と。

【吉澤】 55年ですね。

冷戦体制の崩壊からイデオロギー対決を離れ冷静に

【山本】 はい、社会党が代表し、労働組合ではイデオロギー対決の象徴のようなもので、文科省と日教組みたいな、そういう対立の図式が長く続きました。自民党の羽田さんが例えば日教組の新年旗開きに来て親しくあいさつをするというような考えられない状況になったわけです。そういう意味からすれば、政治イデオロギーの対立の象徴的なものとしてあったものが、現実の政策問題として、より豊かな日本社会を作るためにどうしたらいいかという次元の議論ができる条件が出来つつあるわけです。スピードをさらに速めていく必要があると思います。

【加藤】 そこは自由に、政治的取り組みというのは当然自分たちが応援する政党が政権を取るというところを目標にして、やっていくことを否定する気もないし、それはそれで日本の政治状況における緊張感を作り出している意味でも、非常に大事なことだとは思います。

 ただ、戦後体制、戦後体制と巷間言われていますが、戦後レジームをどうすると言ったときに、では戦後体制とは何ですかと問われたときに、私はまずこの戦後体制を作った立役者のひとりは昭和天皇であったし、労働組合を合法化するとか、だから当然マッカーサーも含めて。

【山本】 GHQですよね。

【加藤】 GHQであったと、それで。

【山本】 菊と刀の結合ですよね。

戦後レジームからの脱却というなら、普通の労働基本権を

【加藤】 そうです。で、それはまさに新しい支配を作ったもとで、公務員制度とは何ですかと聞きたいのです。戦後レジームの中でも、一番普遍的に、全国的に骨格は、やはり公務員制度だったと思います。これは国家公務員、地方公務員を含めて非常に大事なインフラです。だからこれを変えてくという仕事は、3年か4年かあるいは56年で政権交代してキャッチボールするような、そういう所に任せる話ではなく、もっと普遍的な場で、きちっと議論すべきテーマであったと思います。それが残念なことに、ある種紛れてしまったという意味で非常に残念だったし、日本にとって決していいことではない。それははっきり言って自民党政権にとっても同様で、彼らがこれから先も政権を継続する時には、公務員制度は結構重荷になってくる。つまり、あの時に仕上げておけば、もっと簡単とは言いませんが、きちっとできたものが、後ろに行けば行くほど難しくなる、なぜか。これは吉澤事務局長が言われた、財政悪化の中で、国民が冷静に、その問題をとらえていけるのか。

 これは言われたとおり、地方自治体があれだけの合理化をとりつけて、労働組合は結果的にそれに参加をして、実質的な労使関係を作っていった、ということと同じように、今度は財政環境が後押しして、労使はおそらく交渉せざるを得ない。で、その交渉と言うのは働く側として、組合費を払っているのにこんなことを受け入れなければいけないのかというようなマイナス面も持っているということが想定されますよ。

 だから、そのことを明日の労働運動に何を提言として残していくかということになりますが、私としては、この問題は国家100年の経営、つまり戦後体制の中で70年間支えてきた、それは天皇の官吏から始まって、労働者までの果てしない距離の中の、どこのポジションなのか。完全に労働者性という端まで行くのか、そこは国民の多数が賛同できるものを作り上げていく必要があります。

 たとえば、学校の先生が放課後部活の面倒を見て、テストの採点をして、翌日の授業の準備をして夜中の12時になっても仕事が終わらないということが何年も続くということを、では民間のあなたはどう受け止めますか、それは仕方がない当然だろうということなのか、あるいはお互い労働者でしょう、だから痛いことは痛いと共感し合いましょうという連帯感というようなものがないと、なかなか問題を突破できない。私は連合の場で、この問題は共通して対応する、扱っていくことが正しいと思いますが、まずその根っこを、同じ働く者、同じ痛みを受ける者という立場を、共通化していく。まずそれを作らないといけないと思いますが、その辺はもう出来上がっていると。

【吉澤】 誤解を恐れず申し上げると民間等のみなさんとある意味土俵は一緒だと思います。それは企業の経営、あるいは国・自治体の存在があるから組合の存在はあるわけで、ではそこの経営にどれだけ責任を持つかということは当然問われてしかるべきです。で、そういう中にあってもう差し迫ってこれ以上待てないと言うのが財政問題というとことについて、どう考えるかということがあります。一方で、民間のみなさんとの違いはやはり決定的なのがたぶん政治との関係ですね。

【加藤】 ああ、そうですね。

財源がなければ、権利だけでは給与は払えない

【吉澤】 今も議論がありましたとおり。正直言って公務員の関係で言うと、国会あるいは地方議会の議決がなければ、1円たりとも賃金給与は払えないのです。

【加藤】 ということですね。

【吉澤】 民主的なコントロールという問題があります。憲法上は国民が主権者ですので、憲法の理念と第28条(勤労者の団結権など)がある意味衝突するのです。だから労使関係だけでは完結できません。ではこの場合にはどうやって調整するのかというのが、最も冷静に公務員の制度をどうするのかということでやらないといけない課題だろうと思います。

労働基本権と財政民主主義の対抗関係は厳しい

【加藤】 なるほど。私は財政民主主義という言葉が、この問題(公務員制度改革)の事務局長としてとりまとめに入った時に、1番の壁、これは理屈でどうにもならないのです、実は。財政民主主義という言葉を出された時に、これは主権者たる国民が選んだ議会がダメだと言ったことについて、憲法に書いているから、今言われた通り衝突したときはどちらが優先ですか、これは結論から言うと財政民主主義なので、出せないものは出せない、無い袖は振れないというほうを採用するしかないという構造ですよね。そうするとそれは民間と同じです。

 会社つぶれてどうするのと、それは会社法優先ですと、労組法もあれば、基準法もあれば、いろんな法律はあるけれども、まさに会社の存続が先行します。

 だから承継転籍とか、いろいろなことが出された時に労働組合として、なかなか抵抗はできない。ダメだと言っても会社法優先です、最終的には。だから企業合併という現実資本の行為を、労働組合の法的立場で対抗できるのか、また経営に介入できるのかと言ったら、私は難しいと思う。企業内の労使関係はどこまで行っても内部関係でしかない。自分たちでよく話し合って解決しなさいというのが最高裁の判断ではないかと思うと労働問題は労働問題としてやらざるを得ない。解雇権の乱用など相当にひどいことでない限り、企業所有の問題、経営権の問題について、これは、もっぱらその席にある人たちの合理的な判断で決まるということでしょうね。

 だから、似たような運命のもとにあることは事実で、今やグローバル化した民間企業よりも政府の方が、分(ぶ)が悪いというか、業績が悪いという事でしょうね。

【山本】 だから勤務条件あるいは財政民主主義と基本権、憲法28条と調整を済ましたあと、事実的には、あるいは実際的には議員内閣制ですから、公務員の使用者たるトップである内閣総理大臣、総理大臣は多数派を結成しているわけですから、そこで労使交渉の当事者として交渉したものを国会に出したら、通らないって話にはならんわけです。

【加藤】 通らなければ

【山本】 総理であることを辞めなきゃいかんという話になりますから

【加藤】 そう、内閣総辞職

【吉澤】 国会はそうですね。一方、地方議会は二元代表性(首長、議会ともに選挙で選ばれる)で違うところがあります。

【山本】 地方は大統領制だからね。で、この先労働運動との絡みで言うと、日本の労働組合は古くから言われている企業別組合ではないですか。そのメリットとデメリットというか、そのデメリットの部分が、情勢が厳しくなればなるほど、内にこもってくるというか、その傾向がどうしても強くなるという事が指摘できると思います。

 それを、2003年でしたか、連合評価委員会を立ち上げて、地域で顔の見える運動をやらなければだめだという報告をいただき、それを受けて連合大会では、「組合が変わる・社会を変える」というスローガンを打ち出し、全国の地協(地域・地区協議会)が整備されたという経過がありました。先輩たちが連合を結成していろいろな苦労をしながら、運動の中で学び、さらに前進するために「組合が変わる」では組合はどこをどう変えてどう発展させるのだという議論を、もっともっとみんなが産別や地域や様々なところでやっている運動を踏まえて、議論をすることによって、こうやれば社会を変えられる、という基盤の上で、公務員制度の問題についても、官民超えた理解の広がりというのでしょうか、こういうものも多分出てくるのだろうと思います。

【加藤】 そう、多分出てきたであろうと、まあ歴史的に。

【山本】 いや、出していかなければいけない。

【加藤】 仮定で言えば、ある条件が整えば、そういうふうに、出てきたであろうけれども、現実はそうはならなかったという、これは歴史の事実ですから、良い悪いではなくて。

 それを経験した私たちとしては、これから後輩に何を残すかといえば、今からでも遅くはないと。私は今からでも遅くないので、本来の基本的な方向性をもう一回確認をして、やはり皆さん方から、労働組合を認識してもらう、認知してもらうという、基本的な所から出発をしないと、基本権の問題について、本当の意味での合意形成というところまでは難しい。あわよくば政権を取ったので、さっさっと法律を通しますと言っても、私はそうはならないというのは当事者が一番よく分かっているわけで、やはり現実にそれを動かすためには、相当調整をしていかないと。もう、強力な反対者がいたのではどうにもならないので、まあ納得はしないが理解はするという段階まで、例えば中小企業の経営者だとか、いろいろな人たちにも理解してもらうという努力を、どこでするのかという事だと思うので、あまり手っ取り早く、政権を取ったら何でもできるとか、と言う幻想を二度と持たずに、基本権の問題というのは、長い時間をかけて地道に一つ一つていねいに、官民がそろってよくわかりました、根っこは一緒ですね、同じ土俵ですねと言う事を確認しあって、やっていくべき事柄だという事が、まあ、後輩に残せる言葉かなと思います。

労働界全体の理解が必要

【山本】 そういう意味では今まで積み重ねてきたものがあってそれは決して小さくないと思います。したがって、我々は政権交代すれば当然それはもっと進むし、しかし政権交代しなければ実現できないという課題ではないと思います。積み重ねてきたものをさらに、一歩ずつ一歩ずつ前に進めることによって、政権交代しなくとも、実現できるはずだと思いますが。

次世代に覆いかぶさる国の財政問題、強い危機感を

【吉澤】 私は、次の世代に対してということもありますが、ほんとに政治あるいは政権の動きを、待っていられないぐらい危機的になっていると思うのが再三繰り返しますが財政問題だと思います。民主党政権の時に大震災があった、給与(カット)の問題を申し上げましたし基本権の問題があった。明らかにその経過において、国会の動向も含めてなんですが、この国が抱える避けられない現実において、公務員の労使関係・基本権問題が、一つの素材としてあったのは多分間違いない事実です。で、そうした時に、この先のこの国をどう考えるのかという時に、小林慶一郎慶応大学教授が編著した「財政破綻後」でしたか。あの書籍の中で、日本の国債の安全神話というものの一つに、国内の資産で償却しているので大丈夫です。だけどこれは、もう今もどんどん借金が積み上がっているので、いずれは外国の資本に頼ることになった時に大変なことになりますよ、というのは誰もが共通している認識。で、これがシミュレーションからすると2035年、その時には100%財政が破綻すると。これも一つの見方かと思いますが、そういうメッセージがあるのです。で、25年から30年というところ、どうするのかというのは今の安倍政権は頼りになりません。申し訳ないのですが、立憲民主党も国民民主党も全く頼りになりません。という中にあって、仮に財政が崩壊した時に、これは公務員の問題という次元ではない。国債での預金運用に頼っている金融機関は必ず潰れる、社会保障もズタズタになる、多分国民生活も崩壊します。少なくともそういうことが目前に控えているもとで、改めて公務員の基本権問題をどう考えるのかっていうことを急がないと、本当にこの国はとんでもないことになるという危機感があります。

【加藤】 平たくいえば誰にもわからない。誰にもわからないが、そんなことは起こらないと誰も言いきれない。この問題は、オオカミ少年のようにずっと言い続けられてきて、いまだに、なんとなく消化出来ていて、この日常性の中にいわゆる正常性バイアスという、まあ何も起こらないからいいのではと思っている。つまり異常な状況にあるにもかかわらず自分の認知としては正常だと思っている。

 この問題をどう受け止めていくかという事です。ただ、私は国債が暴落をするというシミュレーションそのものについて今後のテーマとして扱わなければならない。ここ10年間放置してきました。問題は仮にそうなったときにどうするのですかということで、その時の政権執行部がどうするのか。ただしこれはどのぐらいマイナスかという、まあダメージコントロールという判断です。ということでこれは、民間でいえば会社倒産という事態、そして直前に労働組合として何ができるのか、という事になります。だから、少なくとも働いた分の1カ月分の賃金を確保してくれという賃確法のレベルの話なのか。それとも労働債権を会社に対してどれだけ保全させるのか。何が起こるのか見当がつかないという事も含めて、まあしかし、国家公務員・地方公務員がそういう状況になるという事自体とんでもないことで、ギリシャに近い形で、やはり行政サービスを停止するとか言うことですか。

【山本】 だから、その時代認識というのがある。今の日本社会はどう見ても持続可能性が担保されてないと。それは今出ていた財政問題もそうだけど、少子化の問題もある。

【吉澤】 そうですね。

【山本】 高齢化の問題、それから家族機能の問題、独居者が着々と増えていて、孤独死していく人間が年間20万人出るだろうと言われている。かつ我々の公的年金も、150兆円の積立金の50兆円は国内株式に注ぎ込まれているわけです。運用から抜けないわけですよね、入れているのは全部株価を維持するために入れているわけじゃないですか。

【加藤】 抜いたら(株が)暴落する。

【山本】 暴落するから、そうなると一番起こり得るシミュレーションとしては、クライシスが外国のどこかで起きて、それを引き金として世界的な株安のような事象が起こるというのが、一番近い所ではもう起きてもおかしくない。そうなると、本当に地域社会をみんなでどう作っていくのか、暮らしの安心、持続性をどう担保するのかといったときに、今までのような行政がサービスを全部提供するあるいは必要なサービスを市場から手に入れるという発想ではなくて、みんなが新しい連携構造をつくりあげる、そのために労働運動が果たさなければいけない役割ってすごくあると思いますね。やはり当事者意識を持ってやらないといけないわけで、その一番根っこのところと直接にリンクしている問題がこの憲法第28条だと思うわけですよ。ILOではないが、社会の安定した働きが機能するためには、それぞれの当事者責任を負って、いい社会を作ろうということで、そういう次元の問題として、もう少しみんなで深めていく必要があると思います。

【加藤】 そういう問題について、非常にネガティブな、嫉みとか、やっかみということを含めて、人間には感情があって、非常に難しい問題がある。いわば危機的な状況になった時に、国民の生活を支えていくということからいえば、第一は公務員ですよ。働くべきは、例えば治安を維持する。

【山本】 いやだから、そういうそれぞれの役回りがあって、その役回りを十全に果たさせる、果たすためには公務員についていえば、求められている役割を果たすためには、やはり当事者責任を求めて、権利も与えて、自分たちの頭でものを考えて、社会にもあるいは使用者側である当局に対しても、言うべきことは言うし、みたいな関係を。

【加藤】 それは、そうあるべき議論ではあるが、私が言いたいのは、民間は放っておいても、泥水すすってでも生き残るということで、いろいろなことをやると思います。ただし、お年寄りだとか、子供達だとか社会秩序を支えていくという意味での役割は、それは公務員だとか地方公務員だとかが、結構強く認識されて、また要請も、期待感も強まるということの中で、基本権がないから難しいとその時には言えません。これはもう危機だから、そんなこと(基本権)があろうとなかろうと危機に対してはそれなりの役割を果たさざるを得ないということにはなると思います。ただし、それで十全なのかと、仮にそういう危機が想定された時に、もっとプライドを持って自分の仕事を成し遂げていく。だから、単なるお金をもらっていることじゃなくて、自分のプライドの中で任務を果たしていくということを、支えるために何がいるのですか、ということの中で今山本さんは公務員の労働基本権もビシッと与えるべきだという論を共通認識として作り上げていくということは、この3人としては共通の結論だと思いますが、難しい敵もおるようですね。

【山本】 特にいろいろなところで、最近言われるようになっていますが、特に政治的にリベラルだとか、あるいは左と言わるような人じゃないところから、日本国の滅亡だとか、崩壊だとか、元総理はじめいろいろな方が警告されています。私は正しく見るべきところを見て言っているなと思いますが。あと20年経てば全国の自治体の6割の人口が半分近く減る。そうすると、当然のごとく税収は半分になるわけです。しかし、人口が半分なったからといってインフラを半分にするわけにはいかない、だから住民税を上げるのですかという悪循環に入っているわけです。もう横須賀にしてもそうだし、夕張なんか典型だけれども。

【加藤】 夕張もあの苦しみの中で、確か中学校を一つにして、市で中学校が一つだなんていうのは考えられないが、今もなんとか続いて、少しずつ良くなっているようです。だから、そこは夕張の行政に対して市民の皆さん方がどういう評価をしているのかということを調査したいと思います。案外原点に立ち返って行政がおこなわれて。

【山本】 いやすごくがんばっていると思います。

【加藤】 評価は高い。これはお前たちさぼってばっかりではという誹り(そしり)は一切ない、という意味では、切り抜けられるのではないか。そうはいっても楽観論だけでいいのかと言われたら、楽観論だけでは少し無理があるとは思います。

【山本】 だから、権利としての基本権に象徴される、労働運動あるいは労働組合が担わなければいけない社会的役割っていうものが、ますます大きくなると

【加藤】 それはまったくそのとおり

社会全体の持続可能性が問題、生活点をカバーする運動を

【山本】 それは、おそらく生産点だけではなくて、生活点においても社会運動としての労働運動が引き受けなければならないことが大きくなっているし、それを抜きには前に進んで行くことができないような状況になっているのではないかと思います。もう一つは、よく人口が減ったっていいじゃないかという議論をする人がいます。言い方を変えると、問題は生まれてくる人間と亡くなっていく人間の数がバランスする定常状態にまで持って行かない限り、社会は持続可能ではないわけですよね、だからものの考え方だとか、制度のあり方などが定常状態を可能とするものに変わる必要がある。

【加藤】 それはそのとおりです。

【山本】 そのためにはみんなの今までの価値観をもう1度点検しないと、今だけ金だけ自分だけみたいなことの延長線上ではそれはないだろうと思います。

【加藤】 おそらく江戸から明治へ大きく転換していった時代に相当する、いろいろな局面、生活の各局面における変革っていうのでしょうか、価値観を変えてくとか、生活様式を変えていくというようなことにやはりなるのでしょうね。

 大事なことは、働く人に対して、また働くことに対して皆さん方がこぞって敬意を持つ。働くことは尊いことだという基本的価値観はこのまま継続して、維持していくことが大切だと思います。という意味でいくと、公務公共サービスを支える人たちに対しても敬意をもって対する、これは大事だと思うのです。同時に民間で働く人達についても、働くということについては敬意を持つ。という社会でなければ、なんかもうすべてがぐちゃぐちゃに

【山本】 全くその通りですね。

【加藤】 なるという事だと思います。公務公共サービスを消費するサイドの理屈というのはまだありません。山本さんが言ったように生活点での議論というのはなかなか連合レベルでは浮かび上がってこなかったのですが、サービスを受ける消費者と言う立場で、生活点ということもあわせて、サービスを受ける立場から何を言うべき、それは文句ばかり言うのではなく、やはり敬意を持って、そういうサービスについては消費をしていくということがないと、北欧のように税金をたくさん取られてもいいです、信頼しますという形での解決策にはつながらないわけです。消費税を上げたら上げたで、バカ野郎ひどいことをしやがってという、非常にマイナス面が出てくるわけで、税金は安い方がいいのだ、社会保険料も安い方がいいということでは、労働に対する敬意はないと思います、基本的には。そういうことでは自分の労働も安く叩かれても仕方がない。それでいいのですかと聞きたいと思います。やはりそこのところをなおざりにしてきたなと反省しています。

【吉澤】 うーん。やはり高福祉低負担という社会は

【山本】 ありえない。

【吉澤】 これはありえないので、そこはやはり真摯に国民と向きあって、だからそういう面ではより緊張感を持って効率的でいいサービスを提供していかなければならないというのは、もう組合であるとかないとかという次元ではなくて、むしろそこをしっかり組合としても考えていかないといけないというのが重要なポイントだと思いますね。

社会運動としての労働運動の再構築と働くことへのリスペクトを大切に

【山本】 そういう時代状況、経済社会構造の変化の中で、地域に暮らし、生活している人たち自身がサービスの受給者という立場に留まるのではなくて、先人たちは何もない所から労働金庫を作り、全労済を作ったわけです。であるとすれば利益を目的とするのではなく、また投資に対する最大リターンを目的とするのではなく、それぞれの暮らしの切実なニーズを満たすために共同の事業として、社会運動としての労働運動が関わっていくことが必要になってきているし、現に始まっていると思います。そういうなかで公務員労働者、あるいは公務を果たす役割というものは単に提供するだけではなくて地域のそういう力をコーディネイトするというか、上手くネットワークが機能するようリーダーシップを果たすこともまた求められていくのだと思います。

【加藤】 これは鼎談シリーズ第2回でも、山本さんからその辺の可能性について指摘していただいたことですので、今は小さいが将来的には大きな役割を果たすべきという事がありうると思います。

【山本】 働く事に対するリスペクトがとても大事だと思います。連合は「働くことを軸とする安心社会」を提起し、一般的に戦後ずっと言われてきたのは、労働は苦役だ、生きていくために仕方なく金を手に入れる為に働く苦役なのだということでした。しかし留意すべきは働く事それ自身は人間の本来的な深い喜びにもつながって、人と人の豊かな関係を形成するものなのだということです。したがってそういうディーセントワークやワークライフバランスを実現していく取り組みと合わせて全ての人の働くことに対するリスペクトをベースにした文化や人間関係をより豊かなものに作り変えてく作業と重なると思います。

【加藤】 そういうことですね。話は尽きませんが、今日はこの程度で終わります。どうもありがとうございました。

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【講師】山本 幸司氏、吉澤 伸夫氏

山本 幸司氏:労働者福祉中央協議会 アドバイザー、日本労働者協同組合連合会 顧問(副理事長)
1990年再建埼玉教職員組合書記長、1998年日本公務員共闘会議事務局長、2003年公務公共サービス労働組合協議会事務局長、2007年連合副事務局長、労福協副会長、2011年(公財)日本労働文化財団専務理事(2015年退任)、2015年労福協専従副会長退任、同参与。法制審議会民法成年年齢部会委員、国家公務員労使関係制度検討委員会委員他
吉澤 伸夫氏:公務公共サービス労働組合協議会 事務局長
1987年10月 鹿児島県霧島町職員組合書記長、1989年10月 自治労鹿児島県本部執行委員、1994年10月 鹿児島県霧島町職員組合執行委員長、1995年10月 自治労鹿児島県本部書記次長、1999年 9月 自治労本部中央執行委員、2007年10月 公務公共サービス労働組合協議会事務局長(現職)

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