遅牛早牛

第48回総選挙(葦の髄から天井を覗く)

 奇襲解散からひと月。「自公再び3分の2」(朝日新聞23日朝刊)の見出しは何となく不満げである。「立民躍進、希望苦戦」と続く。「立民躍進」はその通りだが、「希望苦戦」との評価は議論を呼ぶ。現職5750に減少した点は明らかに苦戦である。しかし選挙戦をつぶさに見た立場からすればよく踏みとどまったと思う。当人達はよもや立民の後塵を拝すとは露にも思わなかったと思うが、台風並みの逆風の中50議席は立派なものではないか。いわば底値、でしょう。

 一方の立民(朝日新聞24日朝刊では立憲、したがって以降立憲とする)は現職1555に、一議席を他党に譲っての大躍進である。希望から排除されたか、されそうだったか、個別にいろいろあったと思うが、無所属組が自力で生き残りを決意したのに比べ、集団でスクラムを組んでの生き残り作戦が図に当たった。

 枝野代表の功績である。被害者然とし、かつ気丈に鎌首を持ち上げる姿に人々はある種の好感情を抱いたことは間違いない。しかしそれだけではないだろう。同情票だけで野党第一党の地位を築けるほど甘くはない。

 立憲躍進の核心は有権者のニーズに合致したことではないか。それは各党の比例票獲得数の推移からうかがうことができる。手元にある茨城5区の比例票政党別獲得数から、自民44,393票(+149)、希望30,465票、立憲25,696票、公明16,721票(-1,251)、共産6,003票(-3,152)、維新3,145票(-11,039)、社民1,219票(-993)、幸福588票(+166)の内、公明、共産、維新、社民の減少(合計16,435票)が目立つ。()内は前の47回からの増減で、前回民主は34,363票であったから、希望+立憲は21,799票の増とみなせる。この小選挙区の投票率は今回52.11%、前回51.88%で+0.23%ポイント増でほとんど変わっていない。投票率上昇による増票1,564票から、自民と幸福の増票分を減じた1,247票に、生活と次世代の前回票(今回は無し)合計4,117票を、さらに前述の4党減少分16,435票を加えると21,799票となり希望+立憲のみなし増票と一致する。

 またいくつかの仮説を前提に分析を進めると、比例票の性格から公明、維新、次世代から立憲へ、共産、社民から希望への移動は考えにくい。生活は少しわかりにくいが立憲よりも希望に流れる方が多いと思われるがとりあえず半々と仮定する。

これらの前提に立ち、公明+維新+次世代+/2生活の合計15,419票が希望へ、共産+社民+/2生活の合計5,133票が立憲へ流れたと推測した上で、旧民主から希望、立憲への移動を推測するならば前者が15,046票、後者が20,563票となり(合計に投票率上昇相当分1,247票を含む)、その比率は42:58つまり概ね4:6となる。

 したがって旧民主分はその4割が希望へ6割が立憲に流れたと推側できる。この比率は旧民主党支持者の小池代表発言(排除発言)への反発を反映したもので、ことが円満に運べば100%希望に流れたはずというケースと、排除発言はないが選別された人たちが新党(立憲に近いスタンス)を立ち上げたケースなどいろいろ考えられるが、どこまで行っても頭の体操の域を出ない。後者のケースでの比率は7:3程度と思う。

 旧民主分の6割を立憲が獲得した背景に小池代表発言への反発という要素があったことは事実ではあるが、そのこととは別に立憲自身がその有り様を明確に示したことが投票する側からいえばすっきり感を得られたということではないか。これは枝野代表のリーダーシップの成果であろう。同時に民進の左側という位置取りも共産、社民では今一という層にとって格好の政治ポジションとなったのではないか。

比例票の動向を踏まえ、話をまとめると、

①希望、立憲の合計は旧民主分を大きく上回っており、いわば分裂増効果が認められる。

②分裂増の源泉は近接政党からであり、希望へは右側、立憲へは左側から流入している可能性が高い。

③公明の減少分の行方はほぼ希望と思われるが、どんな経緯があったのかわからない。

④分裂が増票を生み出す現象は、有権者が政党選択を行う場合、より自らの政治的立ち位置に近い対象を選ぶ志向すなわちフィット感を大切にすることを示唆する。

⑤たとえば共産の3,000票の減は旧民主の中道・中道右派的傾向を忌避して本来共産支持ではないが次善の策として共産に流れていた左派・中道左派票の受け皿としての立憲の影響が大きい。

⑥また維新の11,000票の減は、維新支持者が親戚筋と感じる小池代表へのシンパシーを考えればその多くは希望に流れたと類推できる。このことは希望所属の議員にとって重要な心すべき事項であろう。

⑦社民の減は新船への乗り換え現象である。新船は快適だ。

ということで奇襲解散がもたらしたドタバタ劇も有権者側からいえば少しではあるがスッキリ感を増したと評価できる。その意味で顧客満足度は上昇したのではないか。しかし残された課題はあまりにも多い、特に選挙区選挙において野党複数立候補すなわち野党乱立がもたらす死票の増加は、最終議席数に直結し、議会構成が大きく民意からかけ離れる状況をもたらし、結果的に政治不信を助長する恐れがある。

 さて各党の当面の課題と動きについては次回以降とする。

注)茨城5区は長年野党が議席を確保し、中道スタンスを保持し保守層も含め幅広い支持を得ていた。今回新人へのバトンタッチをめざし事実上自民対希望の一騎打ちとなった。

2017年10月29日

加藤敏幸