遅牛早牛
裁量労働制をめぐる答弁撤回ー答弁は政治家の責任ですー
1月29日衆議院予算委員会において「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と安倍首相は答弁したが、2月16日午前の衆議院予算委員会では「1月29日の私の答弁は撤回するとともに、おわびを申し上げたい」と撤回した。
首相の国会での前言撤回はきわめて珍しいことである。しかしこの時点で何がいけなかったのか、つまびらかではない。というのは2月16日午後、「データもあると話をしているわけで、これのみを基盤として法案を作成していない」との発言を朝日新聞は伝えている。確かにデータがあることは事実である。だから2015年7月の衆議院厚労委員会で当時の塩崎恭久厚労大臣も同様の答弁をしている。
2月19日朝厚労省はデータが不適切であったと野党合同会議で頭を下げている。同日朝の予算委員会理事会においても厚労省幹部は、質問そのものが異なる調査の結果を比較しており、データを不適切に利用したことを認めたと報道された。足してはならない数字を足し、比較しても意味のない数字を比較している。初歩的な誤りである。答弁の根拠とされた「労働時間等総合実態調査」は2013年に公表されたもので、労働基準監督官による実地聞き取り調査そのものは、必要があって行われたと思われる。したがってこれはこれで完結しているわけで、後はどのように解釈し行政上いかに活用するか、である。
問題は「一般労働者よりも短い」ケースがあることを指摘する目的で答弁に用いたことである。
裁量労働制で働く人は数多くいる。そして中には手際よく仕事を片付け、結果短い労働時間で済んでいる人も多いだろう。これはたいへん結構なことであって、誰も問題にしていない。問題になっているのは、裁量労働制で働く人に長時間労働が多いのではということである。加えて、裁量とは名ばかりで実際の勤務は、客先や他部門の都合が優先され、結局みなし残業つき非裁量労働にすぎないという不満が少なからずあることである。
だから裁量労働制を拡大すれば長時間労働の改善に役立つというのは、筋の悪い冗談であって、説得力はゼロより悪いマイナス状態である。
普通にいえば、今指摘されている裁量労働制の問題を解決した上で、裁量労働制が働き方改革を進めるうえでプラスの効果を持っていることを実証してから提案するのだろうが、そういう手順になっていない。つまり普通ではないということか。
少し非難の矛先が厚労省に向いているようだが、政治家の強い要請に無理を承知でデータを答弁に落とし込んだのはいただけないが、政治主導が原則である以上第一に政治家の責任が問われるべきで、国会答弁を「傾向と対策」に止めるマニュアル国対を改めなければ国民の共感は得られないと思う。
加藤敏幸
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