遅牛早牛
時事寸評「トランプ流の極意なのか朝令暮改」
[ まえがき トランプ氏あるいはトランプ大統領は今や地上における第一級の観察対象であり、彼の表情からその内心を読み取ろうと最新のAI技術を駆使したり、あるいは情報に対する解釈の癖や判断のロジックさらには隠された価値感などについて各国のエージェントが躍起になって解析している、と思われる。つまり世界は24時間365日たえまなくトランプ氏を見つめているのであるが、歴史上こんな人はじつに珍しいといえる。
そこで、そういった知見が積みかさねられた成果として「トランプ取扱説明書(トラトリ)」が普及することで、地球人の不安感もしだいにおさまっていくと予想するのか、それともいくら観察を積みかさねても彼特有の不確実性はかわらないし不確実なものの先行きを予想しても結果は不確実であるから不確実な状況は変わらないと予想するのか、いずれにしても2025年の4月も筆者ら妄想系にとっての憂鬱はつづくと思われる。
しかし、その憂鬱が薄まるのにさほど時間はかからないであろう。肝心の国民の生活がインフレでは耐えられない。ただし、振り上げたこぶしの降ろしようがないことから関税政策はおそらく迷走するうえに、くわえてウクライナも中東ガザも光明を見いだせないと悲観している。トランプ関税がおさまっても別の憂鬱がはじまるだけである。
ところで、米国の経常収支の赤字が2024年は1兆1300億円、対GDP比で3.9パーセントとなっている。財政収支も改善の見込みがないようで、双子の赤字をどうするのか。マスク氏の政府支出削減も行政サービスの現金化と思われる。
トランプ氏が諸悪の根源ではない、単なる結果でしかない。プーチン氏も習近平氏も同じことで、3人が引退するのに十年もかからない。しかし、三人組がいなくなって世界が良くなるのか。そうではないだろう。森羅万象、原因と結果が一対一でつながっているわけではない。]
1.「トランプ関税大胆不敵に迷走し」朝令暮改でひと呼吸
書きだしが、どうにも追いつかない。校正に入るころには改まるので書き直しとなる。まあ筆者の私事ではある。しかし、世界がトランプ関税にふりまわされているのは困ったことで、「どうだ参ったか」という表情に無邪気さを感じないわけではないが、総じて気分は複雑で悪い。
また、バカバカしいと思いつつもある種の深刻さを感じているが、その深刻さをどう表現すればいいのか、言葉がでてこない。
4月に入ってから、それまでは悪戯(いたずら)のように語られていたことが現実化している。大統領令の法的権限についての議論を文字通り横においた、勝手というか縦横無尽のオペレーションである。それに対し、わが国のテレビ番組などでは、実のところよく準備をされているとか、あるいは深く考えられているといった根拠なき一声(ひとこえ)評論もでているが、関税にかぎればそれはほめ過ぎというもので、難渋しそうになると手早く朝令暮改をしてみたりといった、いわゆる悪政の典型といえるのではないか。
その原因は論理性を排除する、つまり情動や情緒に依存しすぎる集団のバイアスのかかった意志決定にあると思われる。超大国であることを除いても、政権を担う政治アクターとしては異質であり、きわめて珍しいといえる。
この段階でトランプ関税の目的について、そのよし悪しをいう気はないが、政権としては方法論においてすでに失敗しているのではないか。いまさら、それを証明するひつようもない、一目瞭然である。
2.欧米といっても違いが目立つ欧州と米国
それにしても、政治文化において米は欧に劣後しているとの認識が歴史的にもあることは理解できるし、また比較論ではあるがたとえば日本やアジアはさらに劣後しているといった根拠なき空気感が、なかなか消すことのできないタバコ臭のように壁にへばりついているのである。
そこで、この際そういった役にたたない欧州の屁理屈を全面的に無効化する、たぶんデリート、コントロール、オルトを同時に押しこんだ感覚で「この野郎」とチーム・トランプは叫んでいるのであろう。やんちゃ坊主の反抗期のようで内心痛快でもある。筆者は、そういうトランプ流の音律を欧州の荘厳な音楽理論で解釈しても全くのところ無駄であると思っている。
いいかえれば、たとえ空に向かっての一発であっても理屈屋を黙らせるには十分であることを、体験的に積みかさねてきた新大陸の歴史が厳にあるのだから、偉そうなことをいって打開できる局面ではないと思う。
10パーセントを残し、また中国は別扱いとして当分(90日間)国別の相互関税の上乗せ部分の実施は延期となった。どんなに理屈をこねてももともと無理な話であるから、米国も本気で押しとおす気がないとの解釈は尚早であろう。しかし、4月も第3週に入れば各国とも、米国の足元をみる余裕もでてくるのではないか。
それにしても、一般的に10パーセントという高い税率が米国経済にもたらす影響であるが、米国内に対しては輸入消費税としてまずはマイナスに作用することはまちがいない。一年間でどれほどの関税収入が見込めるのか今のところ不明である。1日20億ドル(1年間で7300億ドル)とトランプ氏が得意そうに語っていたが、それを真にうける人はまずいないであろう。そもそも1年間もつづけられるとは思えないのである。
また、値上げ前の駆け込み消費(購入)が起こるといった商品ごとに複雑な消費行動が観測されているが、消費動向については予測不能な状態にあるといえる。ともかく減税とは180度逆向きの消費税効果により、関税収入をすばやく消費者に還元しないかぎり政府による消費抑制策となって景気後退が現実化すると思われる。さらに国産品で穴埋めができるというのは今のところ眉唾物であるが、できるとしても時間がかかりすぎる、つまり間にあわないということであろう。
ということで、米国の景気には赤ランプが点滅することになり、最悪の事態として米国発の世界同時不況あるいはトランプショックの襲来への備えが必要になると思われる。とくに米中関税戦争が数か月もつづけば空恐ろしいことになるだろう。今年の夏は世界的な酷暑に経済不安がくわわり、暑いけど寒い歴史的にも悲惨なものになると予想している。願わくば予想の外れんことを。
3.痛い目に合わなければ「どうにも止まらない」がそれでは手遅れである
さて、仮に米国の暴走であると処断してみても、米国以外の国々が暴走を止めることはできない。理屈は欧州その他のいうとおりであるが、欧州の教養はこの際無力なのである。トランプ氏は「貿易赤字」(経常収支赤字;2024年1兆1300億ドル、前年比2282億ドル増)を劇的に削減縮小して賞賛をあびたいだけなのあろうが、そのために関税にたよることが適切なのかについては、米国自身がやってみて納得するしか方法がないということなので、熱湯に手を入れやけどして初めて熱湯が危険であることを知るという以外に方法がないという情けない事態ともいえる。
だから、経済理論としても成立しないと、いくら難じてみてもさすがに超大国だけあって微動だにしないのである。つまり、事態は米国のアイデアとペースですすんでいるのであり、その結果として指摘された不都合がまちがいなく米国だけでなくその他の国や地域を襲うのであろうが、それを「あれほどいったのに、なんてことだ」とさらに追い打ちをかけてみても後の祭りで、トランプ氏はちっとも気にしないであろう。ほとんど動じないということで、米国が実際に痛い思いをしないかぎり「どうにも止まらない」ということなのである。
前回までのコラムにおいても折につけ指摘したきたが、アンチトランプ論をいくらふりまわしても事態は改善されないというか、世界史においてときどき起こる不条理ともいえる罠からのがれる術は簡単には見つからないということである。まして、わが国は確実に道連れ派であり、相手もそう思っているから、とりあえず被害の最小化を計ることが大切であろう。間違っても説教などしてはならない、いきり立つ象には近づかないのが一番ではないかしら。
ここで交渉の秘策を示唆できるはずもないが、日米交渉はある意味成り行きに任せるしかないと思う。といいつつも米(こめ)を中心に農産品の関税を思いきって引きさげればいいし、また天然ガスも米国からの輸入を増やせばいい。もちろん米国へのインフラ投資もすすめればいい。いずれもわが国にとってもメリットのあることであるから、この際思いきればいいのであるが、消費税は米国からの輸入品にかぎり免税とするしか米国からの輸入を増やす手がないのであるが、法治国家としてそれは不可能である。消費税減税は別系統の話である。
いろいろあるかもしれないが、日米間の関税交渉はおそらく合理的にすすめられると思う。オールドメディアは過剰に反応しているだけである。それでもなお、10パーセントの関税を残すのであればそれは米国内のインフレを亢進させるだけのことで、つまり米国の自傷行為であるから、いきり立って報復することもないのではないか。米中間でおこっている問題と日米間のそれとは本質的にちがうものである。
4.トランプ関税の第一の被害者は米国内の消費者であるから政治問題となる
身構えているのは各国ばかりではない。まずは米国の消費者こそが身構えるべきであって、4月5日?から米国内に輸入される物品については相互関税10パーセントを輸入業者が支払うことになる。そして、その尻ぬぐいは米国内の消費者が受けもつのである。
輸入業者がいつまでにどこにいくら支払うべきかといった詳細については専門家にまかせるとして、報道のとおりの10パーセントであるなら、わが国(日本)の消費税相当であるから売れ行きはかなり落ちこむと思われる。で、24パーセントともなれば「誰が買うか」ということで、大方の消費者は値引き販売まで待つと思われる。
しかし、差別ではなく一般課税ということであれば、どの輸出国も一律10パーセントということなので競争上はイーブンであり、結局米国産品との競争となる。問題は米国内での供給が追いつくのか、消費者が品質に満足できるのかということであるが、人手不足などから供給増は簡単ではないうえに増産部分の方がコスト高ということもありうる。もともと高コストの国柄だけにプレイバックは無理ではないか。
もっとも品物にもよるが、輸入業者としては卸(売り)値の引き上げと生産者(輸入元)への値引きという二面作戦で苦境をきりぬけようとするのであろうが、最終消費者が本当に負担に応じるのかはやってみなければ分からない。ゼネストではないが、やむを得ずの買い控えが起きてもしかたがない状況を大統領が作りだしたということになるであろう。ともかく、はじめに消費が大きく減退するということである。ここがトランプ関税の最大の弱点であり、政治的リスクといえるがその処方は難しいのひと言につきる。
それにしても中国に対しては100パーセントを超えるということのようであるが、それを実行すれば完全な輸入禁止策であるから外交的には「ゆゆしき事態」といえる。米中ともに引くに引けないと思われるのでしばらくは膠着することになる。表現をかえれば「悲劇の泥沼」に留まることになる。
政治駆け引きに現(うつつ)を抜かす人びとは別にして、米国内の消費者にとっては死活的なことになるわけであり、とくに生活用品とか雑貨の値上がりによる不足感は週日をおかずに発生するもので、それに「耐えろ」といわれても「耐えられない」現実が先行するので、商店街や通りには不穏な空気がただようであろう。
いまさら生活用品や雑貨を国産化しても安くは作れないどころか、アジア産のほうが100パーセントの関税をかけてもはるかに安いということになれば、ほんとうに「バカみたい」な話で世界の笑いものになるであろう。
賞賛を求めてやったことがブーイングの種になる。そんなことが何か月もつづけられるとは思えない。どこかでテキトーな口実を見つけて「さっさとおやめになる」のが身のためということではないか。
というのも、この問題は国際間というよりもそれぞれの国内問題でもあるのだから、人びとの我慢強さをいえば米国よりも中国のほうが耐力があるようなので、実のところ米国側のリスク(負け)のほうが大きいと思われる。
5.トランプ関税の悪影響が先行することから、一時ドル離れの心配が
今のところ、まるで米国側のワンサイドゲームのような雰囲気であるが、中国側からいえば対米輸出禁止策なので債権もふくめ状況次第で攻守がいれかわる可能性もあるといえる。債券でいえばわが国は米国債をもっとも多く保有しており(約1兆1千億ドル)、わが国の外貨準備の主要な部分を米国債がしめている。わが国では安全性、流動性、利回りを評価しひろく米国債が保有されているが、トランプ関税が米国の景気後退をひきおこすことを懸念しての東京市場での「米国債売り」がドルの長期金利の急騰を誘引したとの解釈がもとになり、追加関税上乗せ部分の実施が90日間延期されたといわれている。一般的に株価急落は現金需要を高めるのでディープなところは分からないということであろう。
とはいっても、トランプ関税の衝撃が直接的、間接的に債券市場に強い影響をもたらせることは容易に想像できたはずであるから、4月9日の事態はある意味チームトランプの楽屋裏を垣間見せたということであろう。
つまり、チーム内での検討不足との疑念が膨らんでいるのである。このあたりはトランプ政権1.0とあまり変わっていないようである。さっそく取扱説明書(トラトリ)に記載されているのではないか。
6.基軸通貨ドルの揺らぎは国際通貨制度の揺らぎでもある (中国抜きで新プラザ合意が可能なのか?)
世界第2位の米国債保有国の中国の対応については知るよしもないが、少なくとも同盟国であるわが国の政府が意図的に米国債をいじることはない。また政治的利益もない。ただし、民間ベースでいえば円高が強まれば米国債の円での評価額がさがるので、一般的にドル資産から円資産(あるいは第三の通貨)への転換がすすみやすいと思われる。
基軸通貨ではあるがアメリカファーストの度がすぎれば、たとえば不合理な関税政策が景気後退を引きおこすのであればドル離れがすすみ、米国全体としては資金不足におちいるリスクが程度の問題はあるにせよ顕在化するであろう。世界の多くの経営者はあきれながらも怒っていることを忘れてはならない。
ドルがゆらぐことを米国の利益と錯覚するなら現在の通貨制度の危機となる。また、中国抜きで新プラザ合意ができるのか疑問もある。
さらに、米国の超富裕層からしてドル資産を選好しているのか疑問なところであろう。「アメリカは長い間外国から搾取されてきた、今後はわれわれが搾取する」とはトランプ氏の巨大な思い違いであって、米国の貿易赤字はドル高を背景にいいものを安く手にいれ美味しい生活を甘受してきた証で、これでドル安になれば輸出国(貿易黒字でドルをため込んだ国)は大損となる。さらにサービス収支もあり、超富裕層への課税もふくめてEUの反論がひかええている。
もっとも無理な関税政策をとらざるをえないほど米国の国内産業が疲弊していることを米政府が宣言しているわけだから、静かに逃避する資金がでてくるかもしれないが今のところ微妙な状況といえよう。
ドル円での円高がすすめばわが国の輸出減につながることから、疑似的ではあるが関税効果が生じるともいえる。
関税交渉では時系列要素が重要であるから、トランプ政権としては時間との競争になるので対日交渉では具体的な成果を求めてくるとの予想は報道のとおりであろう。日米間ではすでに答えの半分はできているのではないか。
ところで、米国民の過半はアメリカファーストよりも自分の生活ファーストであるから、MAGAや中国を懲らしめるために生活インフレに耐えるということにはならない。ということで、トランプ氏の手元にある時間は案外短いといえる。
7.戦略の時系列配置が逆というか、とりあえず戦線を縮小しなければ状況が悪化すのでは
トランプ氏が「さあ、ディールだ」と相手(敵味方の別なく)に迫っている姿は勇ましいうえに頼もしいと彼の支持者達に感じさせているのであろう。というのも、そのディールが空振りにおわった時の氏の額のあたりにかすかに浮かぶ動揺が何を意味するのかについては、熱烈な支持者であればあるほど真剣には考えていないのではないか。という疑いを筆者はもっていて、いろいろと推察(妄想)するのである。
たとえば、トランプ氏のいっていることが正しいとか間違っているという問題は支持者の間ではたぶん軽微というか、否むしろ端(はな)から存在しないものであって、もともと議論する必要のないたとえば公理のような存在なのであろう。
であるのに、ややこしい議論を吹っかけてくるのは当然反対派に決まっているので、これは排除しなければならない、と考えているだけではなかろうか、と断定する気はないが、おおよそそういうことではないかと思っている。
また、海外からやんわりと肩すかしをくらう、つまりディールにいたらないことなど、おそらくそんなことはありえないと信じ切っているのであろうが、しかし世界は広いし、また各国の指導者も多士済々であって、もとから反米感情の強い国もあることから「ディール万能」というわけにはいかないであろう。
そもそも、ディール(取引)とは非対称であったとしても、いずれかの評価軸においては五分と五分の配分構造でないと成立しないもので、米国が一方的に関税を賦課し「どうだ参ったか」と目をむいたところで、それぞれの事情が絡まるのでただちに「参りました」というわけにはいかないのである。
本来、関税交渉の基本は相互主義であるが、「力による現状変更はけしからん」とロシアのウクライナ侵略(現在では、侵攻というのが多数派のようであるが)をなじっていたくせに、「力による関税引き上げ」とはまったくもって間尺にあわないではないかといいたい。ここらあたりにも、米国のプーチン・ロシア化が顕著であると思っている。
それにしても、バイデン氏が民主主義国と権威主義国の対立だとつよく主張していたが、「あれは一体何だったんだ」と愚痴りたい気分である。あれこれいっても大統領が代われば「国」が違ったも同然なのであろうか。また「聞く耳をもたない」ということかもしれない。しかし、そうであれば同盟国といいながらも付きあう術がないということで、おそらくは反米感情というよりも対米不信を増悪することになるであろう。そうなれば米国にとっては外交負荷が増えるだろうし、100に近い二国間関税交渉が原因で、さすがの米国外交においてさえ疲労骨折がおこるかもしれない。
さらに、関税を賦課すればするほど米国内の物価はどんどん上がり、雇用は減少し、景気後退にいたるであろう。FRBがその時のために金利引き下げを準備しているので心配無用との説もあるが、さてさてどうなることやら。
ともかく、経常収支赤字、財政赤字にくわえウクライナへの支援といったビジネスマンとしてはけっして許容できない三悪にメスを入れたいと思う気持ちは痛いほど分かるが、目的以上に手段が重要なのが国際政治である。
ただし、この三か月におよぶトランプ流ちゃぶ台返しがまったくのところ意味のない否むしろ害悪であるとは筆者は受けとめていない。そもそも米国内の内政問題からスタートしているので、おそらく彼らにとって納得のいく何かしらの状況が生まれるまでは、問題状況は終息しないと思われるし、またそう考えるべきであろう。
誰だって関税だけの問題ではないことぐらいは察しがついている。ということで、真の病巣が摘出されるまでは、形を変えてぶり返されるということであろう。たとえば、製造業の復活をめざすための高関税政策だとしても、その高関税をいつまでつづけられるのか、本来なら海外から安く手にいれられるのに、トランプ関税のおかげでわざわざ高いうえにうれしくもない国産品を使わなければならないという不条理が消費行動において持続可能とは誰一人考えないであろう。
だいいち、トランプ関税を何年もつづけることは国内政治的にも外交的にも困難であると思われるから、そういった不安定な条件下で工場投資をする無謀な資本家は米国においてもいないと思われる。おまけに「関税をかけられたくなければ米国内で生産すればいい」といわれても、それで国際競争力のあるものが作れるのであればとっくの昔にやっているわけで、それでも組み立てだけならできるかもしれないが、部品もふくめてフルセットでとなるとバカバカしいぐらい困難な話ではないか。
結論づける気はないが、トランプ氏の問題形成の過半は思い違いからきていると思われる。
8.MAGAは空想で楽しいがインフレは現実で生活は苦しい!またこのままでは孤立の罠に陥る可能性が高い
疑うことを知らない熱烈な支持者でも酷暑が終わるころには、何かしら気づくであろう。その前に、企業家や官僚はいうにおよばず研究者、アーチスト、軍人さらに旅行者までもが肌で感じる世界の冷たさに、米国人として孤立主義の限界をひしひしと感じるであろう。
しかし、悪いことだけではないはずで、いずれにせよパックスアメリカーナが死語となっている今日「新たな国際枠組の創設」を痛感させられたのは意味のあることであったといえる。
トランプ関税をつづければインフレが生活を痛撃することになる。もちろん、個別の産業では若干の成果が見えてくるかもしれない。また、痛み止めとしての減税も実施されるであろう。しかし、インフレはすべての生活者を例外なく襲うものであるから、為政者にとっては分の悪いものといえる。ましてスタフグレーションともなると、解消には最低でも数年はかかるし、今回のように原因がトランプ関税にあることが明白である場合は、選挙の結果も明白ではないか。
さて、強固なトランプ支持者の心底に「間違っていたかもしれない」という疑念の芽が生まれてくるはずだと筆者などは予見している。MAGAは空想で楽しい。しかし、インフレは現実で生活は苦しい。トランプ支持は真夏の氷柱のように急速にやせ細っていくのではないか。米国の政権の高転びは世界にとってもよろしくないことであるから、よろける程度にとどめてもらいたいものである。
また、日本政府には日米関税交渉に狭窄するのではなく、米中関係もふくめトランプ関税が誘引する世界不況への対応さらには米国外しの世界秩序形成への備え(米国外しの危険性を警鐘すべき)を怠らないように願うものである。とくに、ウクライナと中東ガザは今日までの世界政治、すなわち国際秩序の矛盾そのものであり、破局前兆とも思われるので、その内実をしっかりと把握しておくことが重要である、としかいいようがない。さらに語ることは現時点では難しい。
(つづく)
◇ 雹が打ち 合わすトタンの 呑気かな
加藤敏幸
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