遅牛早牛
「平成30年の大晦日、去年の蕎麦が残り候」
◇ 平成30年もあとわずかな時間となった。この一年間も多難多事に暮れていこうとしている。残されたいくばくかの時間を用い、そう治部煮に取りかかる前に、忘れてはならないことを並べてみる。
◇ 議院内閣制は民主政治のいくつかの欠点を補う、たとえば行政機関の最高責任者の選定過程を民衆から距離を置くつまり間接的に選びうるという意味で優れていると思う。すなわち選挙で選ばれた国会議員による選挙で指名されるという二段構造は、主権者が激高し感情に走る状況などに対し、一拍二拍の間を作ることにより国の進路を安定化させる、いってみれば鎮静化効果を持つといえる。しかしこの一年間はその議院内閣制の他の欠点が露わになりとても繕いきれなくなったことを強く印象づけた。
◇ 700人を超える国会議員のうち70名前後が政務三役として行政府に入り、30名前後が衆参両院の役員(議長、委員長など)に就くわけであるが、前者は内閣総理大臣の指揮のもと、後者はその意向に従い任務を遂行する。また残された与党の議員は党開催の法案事前審査の場での発言は許されるが、法案等が国会に提出されるや否や全面賛成の立場で成立まで驀進する。驀進というのは、数は力なり、数は正義なりとの不退転の決意で野党を圧倒することに専念するわけで、議席構成で過半数を有している限り賛否は動かない。まして三分の二超を確保した場合完全試合モードに近くなる。この完全試合モードは確実に議員を無力化していく。
野党は議員数減により調査に支障をきたし、質問時間を減じられ、不誠実な答弁に質問を空回りさせられ、やがて支持者から鼎の軽重を問われだす。といったみじめな状況に追いやられる。一方与党議員は完全試合モードの中で、あえて一石を投じる気にはなれないであろう。反骨精神を持つ与党議員も静かなる同調圧力のもと一昨年より声が小さくなっているようである。
地元後援会は「いつ大臣になれるのか」に焦点を当て始め、議会での筋の通った発言などには注目しないどころか、出世の妨げとの意見も出てくる。与党議員の無力化の始まりである。世にいう大臣病は本人よりも後援会、支持者がかかる病のような気がする。それというのも議員が議会を忘れ、行政府に同調しすぎるからで、与党であっても行政府に対しては緊張関係を保持するのが議会人の義務である。
◇ 完全試合モードはさらに霞が関をも毒する。答弁の質にかかわらず法案は成立するわけであるから、役所が命懸けで答弁を作り上げる動機が希薄になる。どんな質問もはぐらかせて済むなら、「あとは大臣よろしく」といって大臣の答弁術に委ねればいいわけで、苦労することもなくなる。しかし国会議員の質問は、すべてのとはいわないが、少なくとも一部であっても主権者の質問であり意思である。公務員はいつから、過半数だけの国民の奉仕者になったのか。
◇ それもこれもモリカケ問題への対応であった。与党は総理大臣の連帯保証人になってしまった。普通はそれでいいが、こんな問題までと思う。結局、総理が白なら与党も白、総理が黒なら与党も黒ということで連帯せざるを得なくなった。距離を置くべきであった。特に疑わしきは罰せずとは疑惑の永続化であり、潔白の放棄である。与党に対しさえ連帯は止めたらと考えていたのに、お役人までがどうして連帯保証人になるのか。連帯保証人とは表現上のことで本来別の表現もある。だから与党は国会内に調査委員会を設置すべきで、それが来年以降の議会の権威の回復、否暴落防止の方法だと思う。それにしても財務省はどうやって信頼を回復するのか。状況認識が甘いのでは。まあ天下の俊英が結集しているのだから何か策があるのだろうと思うが。
◇ ネット空間で「(野党は)いつまでモリカケをやっているのだ」との書き込みを目にすると聞くが、このままではいつまでも続く可能性が高い。「(モリカケを)なぜやらないのか」という声も多いし、すっきりしないという声が圧倒的である以上続ける必要があるだろう。問題は他に論議することがあるではないか、ということで、だからと言ってモリカケをやめろ、やめていいということにはならない。まあ与党としては時間枠を大幅に拡大すればいいわけで、増やせば増やすだけモリカケが増えて困るというなら、だったら調査委員会を設置するべきであった、ということである。これは議会対策における戦略ミスに近い。十分に議論して初めて議会といえるのだから、蛇口を締めるようでは「困ったものだ」。
◇ 葉ボタンも 残りて今日は 大晦日
加藤敏幸
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