遅牛早牛

立憲民主党は野党第一党の重責を果たせるか?

◇ 野党第一党には重要な役割がある。それは政権を奪取することである。2019年晩秋を迎えた現在、野党第一党は立憲民主党である。今日、この役割をめぐり議論が錯綜している。つまり、第一党の鼎の軽重が問われている。

 

◇ 議論のひとつは、政権構想とそのためのロードマップが存在するのか、である。昨年来の「永田町の数の論理には与しない」という姿勢は政権獲得に背を向けていると捉えられていた。しかし、同じころ一部の幹部が「参議院選挙で国民民主党を解体し衆議院選挙に臨む」と声高に述べていたと聞くが、党の公式方針かどうかはともかく(このような覇権主義が公式に表明されることはないが)旧民進党勢力を糾合し、改めて政権奪取に向かう意欲の表明と受け取られた。しかし、肝心の参議院選挙の結果が2016年の民進党獲得議席32に遠くおよばなかったことから、振出しに戻ったというのが妥当な評価といえる。

◇ さて、そこでどうするのか。衆目の中で打ち出されたのが、統一会派の提案であった。基本政策の扱いなどの問題を抱えながらも共同会派としてスタートしたが、行政監視機能の強化という点では前国会に比べ前進したといえる。ただし、それは衆議院においてのことで、参議院では会派運営をめぐりひどい不協和音が聞こえてくる。さらに、行政監視以外の法案審議では衆参ともに深度不足のすっぽ抜け感がみられるなど結成効果をうんぬんできる段階には至っていない。ここらあたり、大向こうをうならせる技を見せないと「しょせん選挙対策」との批判をはねのけられないのではないか。

 今回の会派統合は政権構想とは次元の違うもので、高いレベルの国会共闘ではあるが、しょせん国対マターと関係者は受けとめている。つまり、不足感は否めない。

◇ 議論を前にすすめ政権構想の基本であるが、それは単独か連立かを明示することであろう。現状では単独は夢のまた夢であるから、連立政権構想しかありえないことになる。

 野党第一党としての立憲民主党は模式的にいえば、左右を国民民主党と共産党とにはさまれている。連立政権構想を進めるにあたり、基本政策をいかにまとめていくのかが第二の肝であるが、有権者から戦略的理解がえられる、たとえば「当面の基本政策のまとめ」を集約できるのか、つまり解がありうるのかということになるが、これはやってみなければ分からないというのが正直なところであろう。作文はできるだろうが、要はそれぞれの支援者・団体がそういった妥協を受け入れ選挙活動に注力できるのかが問題で、「まとまった」はいいが「盛り上がらない」ではまことに失敗といわざるをえない。

 

◇ この点に関連して、共産党が示している立・国・共プラスアルファによる連立政権構想は、現在の自公連立政権に対抗する左派連立であり、日本の政治シーンに左右対立構造を持ち込み固定化することで、二大政党制ではないが、政党グループとして疑似構造を作りあげることであろう。これは歴史的存在ではなく現在進行形の政党としての存在感を示すうえでも共産党にとって利があるといえる。この形はわかり易く、有権者にスッキリ感をもたらす効果はあるが、対象となっている政党間の距離が結構大きいことから、基本政策から詳細な法案審議まで、はたして共同行動がとれるのかなど支持者が不安感を持つ可能性が高い。

 現実問題として、立憲と国民との間における基本政策のすり合わせだけでも相当な難事業だと予想されているのに、さらに共産党を加えての調整となると難しさが跳ね上がるのではないか。また、確実に集票力を上げられるのかなど緻密な検証が必要であろう。この連立構想は問題提起としての意義はあるが、実現性は相当低いといわざるをえない。

◇ そういう意味では、政治レンジでいえば右側に連立の対象を求めた方が無難であり、政権運営も安定化すると思われる。また、右側は与党と微妙に重なりあうが、だからこそ現実性が高まり、政権への安定・安心感は強まる。現在の野党に欠けるのは安定・安心感であるから、連立構成にその要素を組みこむことは価値ある着眼といえる。

 この場合、予想される対立構造にシャープさを欠く恐れが強くなるが、むしろその方が屹立する対立構造がもたらすひどい分断状況を緩和することにもつながり、有権者にすれば、政権交代に直結する投票行動を選択しやすくなるメリットがある。(スウィッチイングが軽くなる。)

 現在の野党勢力を前提にどのような連立を構想するのかが、まさに野党第一党の重要な任務といえるが、この点がよく分からない。はたしてその気があるのかないのか、できない言いわけのオンパレードでは応援団としてはさびしいかぎりである。

◇ さて、第三の肝は、まとめの任に当たる人材がはたしているのか、それも関係するすべての党に、ここが最大の関門であろう。知恵と度胸と説得力、三拍子そろった人材、これはどこの世界においても不足している。まあ、これ以上いい過ぎると失礼になるので、ここは関係者の奮闘を期待したい。

◇ 最後の、第四の肝は最も注目をあつめる人事である。首相候補は枝野、これは当然であろう。では、他はどうするのか。たとえば、構想によっては共産党を閣内、閣外いずれに置くのかという課題も出てくるが、選挙協力の実効も絡み難しいところであろう。さらに、昔の民主党のイメージを払しょくできるのか。いろいろ考えれば、誰しも二の足を踏みたくなるだろうし、考えることさえ厭になるのかもしれない。しかし、放置はできまい、何故ならそれが野党第一党の任務であるから。人事構想を明確にしなければ、政権獲得のスタートラインに立つことはできない。

◇ 野党第一党の役割の続きであるが、野党の国会対策を主導すること、これが重要である。主導とは「この指たかれ」式の命令ではない。信頼の獲得である。他の野党に対する配慮と奉仕である。これがあって、本当のリーダーシップが発揮できるのだが、とくに、参議院では選挙のしこりとは関係なく、もともと作風というか、個性というか人的特性に由来することがらが、残念ながらハーモニーを損ねているように見える。謙虚さをそなえれば鬼に金棒だと思うが、もったいないことではないか。地道な努力を積み上げてこそ政党間協力は熟成するもので、有権者が見ているのはそういうところでしょう。大きなビジョンを描こうとすればするほど、過去の所業が壁となる人生の現実を、今の立憲民主党参議院に見るのは私だけではないだろう。被害を受けた側が恨みをはらいそのうえで新心を得る過程と、害を与えた側が何かを感じ改めていく過程が重なり合って大きな力を得ていく、そんな浪漫なストーリなどあろうはずがないと思うが、それでもそうあって欲しいとの思いが政治の原風景ではないか。ここで乗りこえなければ明日はない。打算で結構、見せてくれなきゃ応援できないよ。

◇ 最近、立憲と国民の合流話がどこからともなく聞こえてくるが、新機軸がなければ注目度は低いだろう。基本論をわきに置いたままでガラガラポンを何回やっても、「昔の人が出ています、名前をかえて」といわれるのが関の山で、面白くもなんともない。魅力的な政策目標を掲げられないのに、政党組織をいじくり回すのはいい加減やめたがいい、何回名前を変えたら気が済むの、とは長年支援してくれたベテランの声である。

 政党統合による政策の集約が度を過ぎると中間層の受け皿をなくし、四捨五入による十かゼロかといった乱暴な民意の集約を招くことになりかねず、それでは民意を丁寧に汲みとる機能を捨てることになる。

 また、現下の政治状況において、国民意識を強引に二大グループに分別することがいいのか、またできるのかといった重い疑問を生むことにもなる。加えて、英米などにみられる政治分断状況を好ましくないと考える立場からは違ったアプローチもありうるのではないか、という声も当然でてくるであろう。つまり、中道路線の意義と役割について新たな議論が生まれるということである。

◇ (補足説明)そこで、政権獲得のロードマップであるが、政権は衆議院で過半数を確保しただけでは維持できない。あわせて参議院において過半数を確保しなければならない。わが国は二院制であるから両院で過半数を取らなければ政権を取ったとはいえない。しかし、参議院は3年ごとの半数改選であるから、過半数に達するのに通常3年以上かかることになるが、その間参議院は少数与党状態が続くことになる。これが1年未満なら何とか切り抜けることもできようが、2年以上だと苦しい。予算が成立しても、関連法案が座礁すれば、政権の評価に傷がつく。不本意な政権運営を余儀なくされせっかくの有権者の期待になかなか応えられない。もちろん、衆議院で三分の二以上の議席が確保できていれば、参議院の決定を覆すことも可能であるが、時間がかかる難点がある。

 したがって、衆議院での過半数確保と参議院選挙のタイミングが重要である。たとえば、2012年暮れの総選挙で勝利した安倍自公政権は、翌年7月の参議院選挙でも快勝し、政権運営を安定化させた、このケースが理想的である。また、2007年夏の参議院選挙で民主党(当時)は安倍政権を過半数割れに追い込み退陣させ、続く福田、麻生政権を優位に立つ参議院を活用し立ち往生させ、2009年9月の総選挙で300を超える議席を獲得し政権(鳩山)を奪った。しかし、翌年7月の参議院選挙で過半数維持に失敗し、ねじれ状態化で苦しい政権運営に陥った。この2010年の参議院選挙が民主党による政権交代の意義を溶解させていくターニング・ポイントであったと思う。選挙後、参議院議院運営員会の与党筆頭理事の役を与えられたが、少数与党の悲哀がなんたるものか、骨の髄に沁みこんだものであった。

◇ ところで、参議院の過半数確保とはどんなことなのか、簡単にいえば248議席(現在245議席、3年後3増)の過半数は124で3年ごとの選挙で63以上の議席を確保しなければならない。この63であるが、たとえば32の定数1の選挙区で25勝7敗、13の複数区で13+3、比例区で22、これで63となるが、この数字がいかに困難であるのか、選挙を知れば知るほど途方に暮れるであろう。単独ではとても無理である。したがって、どのような連立を組むのかが当面の焦点ということになる。(政党の合流には時間がかかる。支援団体を視野に入れればさらに時間と手間がかかるうえに、将来再びの分裂ということになればもう終わりである。)

◇ 衆議院議員は2021年10月には任期満了となるので次の総選挙に最大の関心を抱いているが、政権交代を視野に入れた議論をする上では、同様に2022年夏の参議院選挙の帰趨が重要である。 

 どのような戦略で多数派を形成するのか。野党第一党の戦略提起が議論のスタートである。「政権交代をめざし」とか、朝のごあいさつ代わりに軽く口ずさむのではなく、本気で戦略とその実現をはかる具体的方法論を提起しなければ、国民は振り向いてくれない。それが厭なら第一党を降りろ、ということである。

◇夏秋間(かしゅうかん)雨季さえ超える災禍あり

加藤敏幸