遅牛早牛
時事雑考「臨時(素うどん)国会が終わった」
◇ 臨時国会が閉じた。素うどんのような国会で、管総理の初舞台としてはいかにも「らしい」ものであったといえる。それにしても閣法7本とは情けなやの一言である。法律の更新は円滑な行政のために必要不可欠であるから国会は遅滞なく対応すべきではないか。かけひきもほどほどにすれば、もっとやれるだろう。
素うどんではあるが、底にエビ天一本が隠されていた気がしたのが、労働者協同組合法の成立である。全会派賛成の議員立法、それも100条を超える堂々の押し出しである。聞けば10年余の奮闘があり、故笹森清中央労福協会長の念いがあり、関係者の大量の汗があったという。まるで奇跡のようであり、画期の匂いがする。こういう政策・制度の取り組みもあるのだ、久しぶりの快挙の報に心が躍った。
◇ 安倍前総理の桜を見る会問題はすでに事案となっている。事案には何らかの結論が必要である。検察として、国会として、党としてそして本人としての結論である。当時の官房長官であった管総理の責任を問う声があるが、追求したい野党の気持ちはわからないでもないが、やはり難しいと思う。それは総理の後援会運営まで官房長官が連帯責任を負う必要はないと考えるからである。追求する側にすれば理屈は自在に展開できるが、日々の行政府の任務は定規で床を掃くような律儀さが必要で、両者はなかなか噛みあうものではない。現実問題を処理する官房長官に総理の後援会に目配りする時間があるのか、あるとすればそのこと自体が非難の対象であろう。やたら丸めた粘着テープを振り回すのはやめた方がいい。あくまで安倍氏が背負うべき問題であり、これこそ厳しく追及すべきである。
◇ 感染症対策は難問である。経済活動が活発になると感染者が増加する。人の動きを抑制すれば経済が停滞し、その悪影響は低所得・無資産者だけでなく社会全体に波及し悲惨なことになる。
麻生副総理が過日「民度」といってひどく非難されたが、三密はじめマスク着用、手指の消毒など人々の日常生活での細やかな行動に、政府も自治体も助けられていることは確かである。しかし、それだけでは解決しない。萎縮している経済に点滴をうつ必要はあるし、消費をうながす施策も当然である。
他方、医療崩壊への不安も高く、国民生活の諸処にストレスが高まりつつ、また蓄積されていく。これを軽んじてはならない。直接の責任がなくとも、往々にして怨嗟の的になるのが権力者であろう。理不尽なことと思うが、といって同情する気はない。この国には理不尽なることで苦しんでいる人が何万人もいるのだから、これは象徴的生け贄になるかもしれない。政治的直感であるが、舟が覆る予感がしてならない。
◇ 時代を変えるのは世代交代であり、理屈の新陳代謝である。もういい、うんざり感が横溢している国会界隈のことだが、理屈の新陳代謝がかなわないのなら世代交代を促進すべきであろう。質問と追求、その手口が代わり映えしないあなた、変えられないのなら降りた方がいい、野党の話である。でなければ舟を覆せない。国民は安心して舟を覆したいのであるが、覆してさらに悪くなると今は思っているから、躊躇しているのではないか。だからとはいわないが、長老は早く退いて後任はすべて女性に、これしかないだろう、立憲民主党の話である。
◇ 一方の国民民主党は瀬戸際に佇(たたず)み波間を凝視している。ただ見つめているだけではなにも変わらない。付和雷同を潔しとせず塁を守ったのは立派ではあるが、次の手がなければ頓死に向かう。中道は聖人君子の道に似ていて言うは易いが行うのは難い。つまり困難が多いのだ。勇気を賞賛されたものの苦しみは、さらなる勇気を求められることであろう。留まってはならない、沖に向かえ。憲法改正論議も大いに結構、活性化を目指し政界のビタミンたるべし。
思い返せば2018年5月から2019年7月の参議院選挙までの間この党は何をしていたのか。結局、時代に流されるだけ流され後は飲み込まれるだけか。そうもいくまい。一国は一人を持って興るのであれば、数ではない。その自覚と覚悟があれば道は拓ける。
それにしてもいつまで大店気分なのかしら、近ごろは屋台の方が人気あるよね。
◇ 国内に争点なし、すべて外にあり。米国大統領選挙が一番、ここが決まらなければ何も動かせない。そんな折、青と赤の相克はなおつづく。他国のことではあるが、そうもいっておれない、半分自国のこととなっている。という日米関係を私たちは作ってきた。この日米関係は現実であって、まず受け入れざるをえないのである。だから、否とするならば新たな関係を提起しなければ議論にならない。どんな日米関係を日本側として望むのかについてちゃんと議論しろよ、といいたい。当然、安全保障体制が深く絡んでくるのは必定である。憲法改正論議の正面はこれである。だから日米関係を触らないのなら大げさに騒ぐな、といいたい。
◇ それにしても英国も米国も二大政党制をどうするつもりなのか。沈思を重ねてもおそらく変えられないであろう。だから分断は深化し憎悪は増幅される。もって他山の石となすべし。かつてわが国も戦前は二大政党でひどいものだった。相手に対する全否定の応酬に終始し、汚職も蔓延していたらしい。抗争を繰り広げる政党に国益も国民生活も何もなかった。といった政治への不信、不満が全体主義的傾向への支持、つまり革新官僚と軍部の暴走を生み出したといえる。ただ、すべての原因が政党制度にあるわけではないのだが、たまには歴史を振り返ることも大切ではないか。
◇ 保守政治の神髄は現状肯定であり、それは今日をつくりあげた自負と責任に立脚しているといえる。その誇るべき現状は現状を持って評価するしか手立てはないから、またそれは客観性を持たないことから説得力は弱い。現状を万民が賞賛しているのなら問題はないが、そうではないだろう。つまり問題があるのである。
例えば、潜在成長力を十分発揮できていたなら、理屈のうえでは今日GDPは1.5倍になっていたであろうという説もあるが、これを実証することは難しい。だから、現状肯定への批判視座が築けない。ゆえに現状に安住する。この安住が保守政治に怠慢とおごりをもたらす。いい方を変えれば、安住とは現状への依存であり変化への拒絶すなわち籠城である。この病に近い状況を打破するには内部葛藤が必要であるが、ここは放っておいても内部抗争が生成するから不思議なものである。
民主党政権崩壊から8年。批判視座の構築に失敗した自民党は内部抗争の時代を迎えるであろう。それは唯一の批判視座であった石破派の失速であり中途半端な野党統合の結果からもたらされるもので、これで内部抗争にうつつを抜かす環境が整ったといえる。
政権を共有することが自民党の組織結合の源泉であるとすれば、現状は政権争奪レースでいえば無風状態であるから、後顧の憂いなく思いっきりおやりなさいといいたい。とくに、安倍前総理が取り込んだ、幻想ともいえる右翼グループの危うい政策理念を解体し国民生活に根ざした現実路線を取り戻すために大汗をかくことは決して無駄ではない。幸いにも立憲民主党が放棄した中道領域は小隊規模の守備兵がいる程度であるから、まさに千載一遇の機会ではなかろうか。
◇ 来年1月20日正午までの期限付きのトランプ大統領の動向から目が離せない。また威を借りてかどうかわからないが、イスラエルが何を仕掛けるのかまるで妖刀が放つ光に世界は緊張している。これに連関するのが中国の生命線が原油シーレーンにあることであろう。中国を扼するであろうホルムズ海峡封鎖、事変を望む勢力を侮ってはならない。教唆を含め謀略うごめく40日余、酔ってはいられない。
◇ いってはならないが自ずから現れている、それは現首相の敵は前首相であること。お互い長い関係であったことが、抜き差しならない事態を示唆する。二人はただ者ではないのである。妬心多き者と面従の達人、その終幕は近づいている。
来年こそ本物の修羅場であろう。久しぶりに政治家の恐ろしさを知る時が来た。これは決して忌むべきことではなく、政治の本質であり必要な道程なのである。なぜなら、来るバイデンの4年も疾風怒濤の時代となることは必至であるから、世界に伍するリーダーを得るためにはどうしても淘汰が必要となる。そのための抗争なら受け止められるであろう。
◇ 枯れモミジ 葉一つ揺れて 贄さそう
加藤敏幸
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