遅牛早牛

時事雑考、「2024年3月 液状化に向かう日本政治と安全保障」

【2024年度予算の年度内成立が確定した。難航したがほぼ予定の着地といえる。民主主義は多数決ではないが、民主政治は多数決である。だから造反のないかぎり内閣提出法案は可決されるはずであるが、不祥事があると政治日程が不安定化する。今回は「裏金事件」が災いしたが国会日程への影響は軽微といえる。

 ところで、3月2日土曜日が休みにもかかわらず衆議院で予算審議がおこなわれたのは、与党側の要請を立憲民主党の首脳部が受けいれたからだと伝えられている。その理由は特別委員会の設置や政倫審の継続などの与党の譲歩がえられたことと、野党としてのまとまりを優先し日本維新の会や国民民主党の声を尊重したためということのようである。尊重なのか忖度なのかくわしいこは分からない。3月4日の月曜日でもよかったのではないかという声もあるが、それでは予算の自然成立日(参議院が、衆議院可決の予算をうけとった日から30日以内に議決をしなければ衆議院の議決を国会の議決とする)が4月2日となり、参議院の予算委員会の審議次第で年度はじめの処置が必要になる。現下の情勢を考えれば予算の年度内成立すなわち3月2日までの衆議院の可決に岸田総理としてつよくこだわらざるをえなかったということであろう。

 この点について3月4日の参議院予算委員会では、立憲民主党の議員がえらい剣幕で岸田総理にせまっていたが、のがした魚は大きいということであろう。つまり、参議院予算委員会を舞台にしたかけひきにおいて、さらに参議院の政倫審をふくめて野党優位の審議をおこなうという目論見であったということであろう。

 しかし、その目論見ははずれ参議院予算委員会としてはふつうに、できれば29日までに来年度予算案に対する参議院の意思を決定するひつようがあるので、攻守の立場が逆転というよりも元通りになったということであろう。

 予算の年度内自然成立が確定したことで、岸田政権は一息つけるわけであるが、引きつづきの政倫審もきな臭いようで、さらに順調そうに見えるが賃上げにも中小・非正規の壁があり、日銀の金融政策も袋小路のようで、課題山積といえる。とくに、実質経済成長のマイナス化が不気味で、いいのは株価だけという政治的には嫌味な空気である。

 さて、政治資金をめぐり関係議員一人ひとりの政治責任を追求する声は次の総選挙までつづくと思われる。安倍派なのかそれとも旧安倍派というべきかふと手がとまるが、安倍派の人たちがとくべつにグルーピングされるのは、天下無双の派閥として権勢をほしいままにしていたことが災いしているのであろう。世間では「盛者必衰の理」と受けとめていると思われる。そこで、グルーピングの通称として「裏金議員」というのは烙印がきつすぎるので賛成しかねる。(といっても、そうなるだろうが)また「還付議員」というのもあるが水漏れしそうで笑ってしまう。あるいは「簿外議員」というのもあるが、べつの意味あいが哀愁をよぶので止めたほうがいい。ともかく、世間のきびしい風を覚悟すべきだし、有権者には選挙で白黒をつける責任がある。これで投票率がさがるようでは有権者の負けということかもしれない。

 保守派用語である「禊(みそぎ)」をつぎの選挙でうけるという発想があるのは有権者を甘く見ているからだろう。禊は選挙の前にやれということで、選挙で禊をやる議員は落選ということではないか。

 あれこれいっても、まとまりの悪い野党にとって「裏金議員」追放の御旗をかかげられることは、政策の一致といった高いハードルを越えることなく、すり抜けられるという意味でホクホクであろう。野党連携の成功率が高くなるといえる。また低迷気味の立憲民主党がそれらの小選挙区で譲歩に徹すれば自民党を議席減に追いこめるかもしれない。

 そういった野党連携に道をひらく機会を与えないためには、選挙の前までに党内できびしい処分をくだすこと以外に手がないのではないか。起訴されなかったからといって罪がないということではない。また、単純なミスともいえない。派閥が指示をするという意図的組織的な不記載であり、法違反である。岸田総裁には処分という大仕事がのこされている。で、処分される人たちはどうするのか。処分の内容にもよるが、公認の可能性があるのであれば受けいれ反省することになるであろう。そうでなければ集団離党するか引退するか、それとも党内で反抗するかなどパターンはいろいろ考えられるが、不記載という違反をひっさげての反抗では先が見えている。想像以上に前途多難である。

 岸田総理の評価がわれている。それよりも、正直いって派閥解消が事態を複雑にすると思われる。つまり、自民党内の政局は派閥関係であったので分かりやすかった。しかし、派閥を解消すると今までの方程式がつかえないから、先が見えない。先が見えないと何ごとも決められないことになるのではないか。

 それと法案の取りまとめ、あるいは内閣提出法案の事前審査などの本来の議員任務がどうなるのかも重要である。立法府なんだから審議がおろそかになっては困る。全般的に法案審査の水準がさがっているようで、省庁への対応力もよわくなっていると心配する人もおおい。

 年度内成立が確定したなどと喜んでいるようであるが、その予算にしても112兆円をこえる膨満ハリボテ予算ではないか。財政規律や行政改革はどこにいったのか。借金でつじつまをあわせているだけで、後世へのつけまわしではないか。いつまでも続けられるとは思えない。今のままでは危うい、と思う。

 いまさらガラガラポンとはいわないが、せめて底にたまったドロドロだけでも何とかしなければ内憂の集積場になる。ということでやはり、「安倍派処分」と「長老追放」が岸田総裁の歴史にのこる大仕事であると思っている。

 あとは、日米同盟の新定義であるが、「是々非々」というのは「ノーといえる日本」であり「任怨分謗」とは「なにがあっても支えていくから」ということで、どちらを選ぶのか。分断症状の米国だからわが国の選択は値千金といえるのである。彼は危険と分かっているのに賭けてしまう、そんな政治家かもしれない。】

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時事雑考「2024年2月の政局-政治と金から賃上げへ-」

【この時期、酒蔵がひらかれ新酒がひろうされる。秋に収穫された新米が仕込みをへて35日ほどで酒になる。灘、西宮、伊丹と近隣の酒どころでは蔵びらきに酒好きが列をなす。その一人としてならんでいる。ならぶことが楽しい。30分ほどで番がきて、利き酒セットを紙製ホールダーにのせる、そしてたかだか50ccほどをゆっくりと口にふくんでいく。多く飲むことがかなわなくなって久しいが、陶然とあたたかい海にしずんでいく感覚にかわりはない。ということで2月の生産性は低下してしまうのである。

 ところで、昨年10‐12月期の経済成長率がマイナス0.1%となり年率換算では0.4%の減速となった、尋常ならざる驚愕の落ちこみである。良くないとは思っていたがまさかマイナスになるとはと多くの専門家も驚きを隠せない、とか気楽にいってんじゃね~よ(失礼)と毒づきたくもなる。そりゃ実質賃金が前年比で2.5%も減少しているのだから、個人消費が失速するのも当然のことであり、個人消費がふるわなければ経済はマイナス成長となるのは必然といえる。だから経済専門家は想定の範囲内であったというべきであった。

 ゆゆしき事態の原因は「物価にノックアウトされた賃金」すなわち昨年の賃上げが不足していたことにあるわけで、まさにこの国の経営者の多くがケチで予見力がないことの証左であるといえる。

 といいながら、岸田政権の責任はひとまず措くことにする。それは、なんでもかんでも政府の責任にして一件落着とするマスメディアや経済評論家の無為無能ぶりをまずは浮きぼりにしたいためであって、政権政党にたいする責任追求はこのさい有権者にまかせて、ここでは反政権を装いながら、本当のところは自分ではなにも考えてない「ブルシット・ジョブ」にいそしんでいる連中にたいして最大級の罵詈雑言でなじりたおしたいのである。

 ほんとうに賃上げ不足であった。昨年の賃上げ率が連合や経団連また政府調査においても近年まれにみる高さであったことは事実ではあるが、それで充分ではなかったのである。本当は秋の物価上昇を想定し9月にも賃金交渉を再組織すべきであったと思う。大手のためではなく未組織、小企業のためにである。

 神経質な筆者の気分の反映のようではあるが、経済運営において、この時期年率換算で0.4%もの落ち込みは致命的とさえ思うわけで、本文でもふれているが、2024年の賃上げでは実質賃金の落ち込みをどこまでリフトアップできるのかが焦点となるであろう。とくに連合傘下の労働組合が要求満額を確保できたとしても国全体としてみれば昨年の物価さえもリカバリーできない可能性のほうが高いことから「岸田賃上げ路線」は逆風にみまわれるのではないかとじつは心配しているのである。経団連と連合は当年度の物価状況を見ながら年央にも追加交渉にふみきることを考えるひつようがあるのではと思う。

 なぜなら4月には5000以上の品目の値上げが予定されている。2月は消費の底である。消費者の不安が最高潮になれば1-3月の成長率がさらに下振れするであろう。また中小組合への回答は5月が山で、未組織、小企業での賃上げは夏場の最低賃金と連関している。つまり8月の実質賃金の水準次第では半永久的に雇用者所得の回復が見込めないという氷河期にむかうような雰囲気になるのではということである。

 そういうことで、賃上げの確証もないのに「物価安定目標2%」をかかげてきた日銀の能天気な庶民窮乏化策に怒りをおぼえるのであるが、与党や霞が関からそういった声がでないのはどうしてなのか、と首をひねっている。さらに経済政策では役にたたなかったということで与党の存在価値も疑われる季節にはいるのではないか。ということで、今回は「裏金事件」にゆれる永田町と賃上げへの期待を中心にまとめた。】

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時事雑考「2024年の計-主要野党の対応(その3)支援団体の動き」

はじめに 昨日の1月26日国会がはじまった。150日間の会期である。「政治と金」については、自民党の政治刷新会議の方向性もふくめ分かりやすい議論を求めたい。とくに簿外金(裏金)の使途の解明については何のためにどのような議論をするのか、事前に与野党でしっかり詰めてもらいたいものである。そうしないと、この手の議論はややもすると乱打戦にながれやすく華々しいすれ違いに終わることが多かった。それでは国会資源のむだづかいだと思う。

 さらに、政治資金規制法の改正もひつようであろう。しかし、同法への連座制の導入については慎重に議論すべきである。よく公職選挙法の連座制が参考例として紹介されているが、そもそも二つの法律には性格の違いがあって、同列に論じるには無理があると思う。たとえば収支報告書への不記載・虚偽記載についての共謀が立証されない(できない)事案について、連座制で議員の責任を追及し、辞職に追いこむことによっていかなる正義が実現されるのであろうか。さらに、金額の多寡が起訴基準にあるようだが、金額だけで違反の悪質性についての判断ができるのかなど課題もある。何でもかんでも司直の手にゆだねる流れについては、検察国家をめざすのかという危惧さえ覚えるもので、そもそも政治に金がかかるという理屈の中に有権者とのかかわりや交流の存在が指摘されている。適正に処理されている事例のほうが多いわけで、一部の派閥や議員の不始末で全体に重荷をかすのは本末転倒ではないか、という声も強いことから全体の議論が迷走する可能性もあると思われる。今さらややこしい議論をするよりも、有権者が次回選挙で投票によって審判する方がはるかに合理的だというのが、筆者の意見である。

 ちなみに、公職選挙法の連座制は1925年普通選挙制の導入時から規定されていたが、いく度となく改正強化され、1994年(2回)の改正では「拡大連座制」ともよばれた。筆者としてはきわめてきびしいルールだと受けとめているが、選挙は民主政治の根幹であることからやむをえないと考えている。また、「おとり行為」や「寝返り行為」などの免責規定があるなど、なかなかにむつかしい規定で異論も多い。

 他方の政治資金規正法は資金の動きを開示させるいわば形式を求めるルールである。形式といいながらも重い刑罰が科せられているところに特徴がある。とくに公民権停止は政治生命にかかわるもので、かぎりなく重いといえる。公正な選挙で選ばれた議員の形式違反と選挙そのものへの不正行為に対する違反への処罰が、連座制という責任追及としては合憲違憲ギリギリの手法を同列にあつかっていいのかという論点において、大いに疑問が残るものである。

 まあ、権威主義国が好んで使いそうな手法であって、とくに選挙で選ばれているが気にいらない議員を辞職させるのに格好の手段になるのではないかと、未来小説的ではあるが気にしているところである。

 わが国が全体主義とははるかに遠いと安穏と構えているだけでは民主政治を守ることはむつかしい。190をこえる国連加盟国のうち全体主義とはいえないまでも選挙に公正さを欠いている国は想像以上に多い。また議員活動に国家権力が介入する国もさらに多い。抽象的な「民主主義の危機」が病症として具体化しているのが世界の現実なのである。厳罰化というのはもっはら司直にゆだねることでその恣意性についてのリスクを負うだけでなく、主権者の怠慢を助長することで民主政治の向上にはつながらないと思う。

 野党は選挙で決するべきである。政治の場に検察権力を多々導入することはけっしてためにならない、とくに野党にとってはそうではないか。連座制適用の主要事例をふりかえればまたちがった考えも浮かんでくると思うが。

 この国会は、とくべつのむつかしさを抱えている。表層的な問題も多いし重要である。さらに深層にも大きな課題がよこたわっている。とくに外交防衛でいえば、対米関係であろう。日本も小さくなったが、米国もしかりである。日本もふらついているが、米国もしかりである。本当に多極化を受けいれるのか。であれば、隣接国との関係を整理するひつようがあるかもしれない。台湾有事よりも半島有事少なくとも北からの挑発の可能性は高いと考えるべきではないかとも思う。

 それもあって世界は同時多発紛争の危機に直面するであろうし、地域と規模と程度によってわが国の対応も変わらざるをえなくなるであろう。危機に瀕すれば国民の選択肢は狭められる。国民は自粛するであろうが、それがあらたな政治危機を生むと予想される。

 ということで今回は、主要野党を対象にらくがき帳のように書いてみた。書けば書くほど労働団体の役割が浮上するのであるが、冷えた雑煮は雑煮ではないということなのか。あるいは16.3パーセントの限界のなせるものなのか。

 昨年、日米関係について「任怨分謗」か「是々非々」かと問題提起をしたが、筆者自身いまだに結論をえていない。

 さて、賃金交渉の季節となった。小企業での賃上げ、価格交渉が焦点であろう。この領域で成功すれば歴史的成功との賛辞をおくりたい。中小企業ではない、対象は小企業なのである。これがわが国の課題の筆頭であり、産業構造問題における核心である。この問題にかぎれば岸田政権を応援したくなるのだが、新しい資本主義の二の舞にならないことをせつに祈るばかりである。

 「裏金事件」は「簿外金事件」と表記を引用をのぞき変更した。おもな理由は「裏金」のニュアンスが多様であり、事実をこえて憎悪感情を生むおそれが強いと考えたからで、インパクトには欠けるが「簿外金」のほうが正確である。

 -コラムの構成については、(その1)(その2)(その3)となっているが、執筆が3週間程度で元のラフスケッチに順次肉付けをしている。したがって後にある文章のほうが新しいはずであるが、ラフスケッチでの構文を軸に書きこんだ場合はときおり前に書いたもののほうが、視点としては新しいことがあって奇異に感じられるかもしれない。作文法に由来するものなので理解願いたい。】

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時事雑考「2024年の計、主要野党の対応について(その2)緊迫する現下の動き」

はじめに 「岸田文雄首相は18日、自らが会長を務めていた自民党岸田派(宏池会)の解散を検討する意向を表明した。」(日経新聞電子版2024年1月18日19:29)暴走宰相の面目躍如であろうか。四囲の情勢から先手をうたざるをえなかった面があるにしても、局面を動かしたということであろう。もちろん党内に課題を残したものの対外的には先手を取ったことから1月29日の集中審議はすこしだけ楽になったといえる。それよりも、場合によっては年内解散それもわりと早い時期の可能性がにわかに上昇ということかもしれない。さらに、党内がこじれれば大再編にいたるかも。世界の動きをみればこの程度で驚くことはないと思う。

 前回は、非自民非共産のゾーニングで野党協力あるいは連立については、立憲民主党(立民)が主要政策でそうとうな譲歩をする以外に成功の道がないことをしつこく述べた。憲法改正反対、安保法制破棄、原発廃止にこだわらなければという条件について、さっそく関係者に声をかけてみると、そんなこだわりをもっているのは少数であるとの話であった。立民の多数がそうであるのにその方向に動かないということであれば、よほどの制動力がはたらいているのか、それとも休眠しているのか、あるいは表裏を使いわけているのか、本当のところは分からない。 

 動かないということは熱量不足ということかもしれない。制動しているのが支持者であれば政策変更は難しいのではないか。よく高山では気圧が低すぎて沸点がさがりコメが炊きあがらないという。似ていると思う。

 ところで、「ポスト岸田?」といった思わせぶりな記事がときどき顔をみせるが、いつの話なのか。また内容が「タラレバかもしれない」の大安売りで、筆者のものと大差がない。新しいようで実のところは陳腐なのである。】

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時事雑考 「2024年の計、主要野党の対応について(その1)」

【あけましておめでとうございます。しかし、1月1日の能登半島地震と羽田空港航空機衝突事故には虚をつかれました。また衝撃的でしばし言葉を失いました。まだ不明の方も多く救助・救援活動がつづくなか、ひたすらご生存を祈るばかりです。さらに被災地域の一日も早い復旧と復興を心から願っております。ここに、亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、被災された皆さまにお見舞い申し上げます。】

【さて、年末に引きつづき2024年の政局について、主要野党を中心に分析をこころみたが、妄想がかなり多くなった。確かなことがいえないのである。それほど不確実であり、また国際情勢の影響をもろに受けるということであろう。たとえば、韓国がユン大統領に交代したとたんに、日韓の風景が一変したことが強烈な印象として残っている。同様のことが頻発するかもしれない。いわば良い目がでるか悪い目がでるかに似た不確実な世界ともいえる。

 さらに、米国の握力が弱くなると世界各地で紛争がおきるということなのか。そうなると、ウクライナ、パレスチナの次は半島かしら。とか、いえばいうほどその確率があがりそうで怖いから慎むべきか。と言葉に自縛される日々となっているのである。

 「これでは、検察のクーデターではないか」と匿名引用で伝えられているが、本当にそういったのか、安倍派の中堅幹部が。であれば傲慢感を伝えるに十分なひと言ではあるが、信じがたいことである。

 やはり、賃上げが物価上昇に追いついていないというより大きく差をあけられているようだ。毎月勤労統計調査(速報)によると、昨年11月の実質賃金は前年同月比3.0%減で、4月(3.2%減)以来の低水準となり、20か月連続で減少している。統計の不連続があるのだろうが、日本経済の生命線というか、経営者の意思で決められる賃金であるのに、これほど難渋するのはどういうことなのか。やはり賃上げは力で獲得せよという啓示なのか。この春の結果次第で、大・中堅企業を中心とした労使関係モデルでは間に合わない、時代に合わないということになるかもしれないと思う。そうなると、そうとうな危機ではないかしら。「岸田さん、システムダウンが近づいていますよ」ということで、あとは「狂乱賃上げ」だけかな、特効薬は。

 漢字かな比率は気をゆるめると漢字過多になる。また「言う」よりも「いう」をもちいているが、かながつづくと切れ目が判じづらくなるので、例外的に漢字を使うことがある。同音異義語がある場合も紛らわしいときは漢字使用としている。などなど、ルール化しているつもりでもAIではないので、不徹底の儀は容赦ねがいたい。例により、字数超過につき(その1)(その2)に分割した。】

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時事雑考「岸田総理にとってチャンスではあるが、空振りも心配な年末年始」

【2023年もそろそろ帰り支度で、何かしら寂しい気がする。日本国憲法前文には「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」とある。初めて目にしたときは「崇高な理想」があると思った。また諸国民は「平和を愛する」ものと思ったし、「諸国民の公正と信義」を信頼しようとも思った。

 あれから60年、今さらそれらを否定しようとは思わない。しかし、「われらの安全と平和を保持」する前提としての「諸国民の公正と信義」に対する国民の認識がおおきく揺らいでいることも事実である。

 一国平和主義が行きづまってから久しいが、さりとて集団的安全保障の議論がすすんでいるわけでもなく、なんとなくやむをえないと追認するばかりである。それで日々おさまっているのだから、波風をたてることもないと思う。それでもたまには侃々諤々の議論をしてもいいのではないかとも思うのである。というのは国防強化論もそろそろピークアウトしそうで、そうなると新たな平和論が求められるのではないかと感じている。現実を踏まえたうえでの平和構築のための立論がなければ国民は安心できないのではないか。これが政権交代の条件式であると思う。

 さて今回は、政治資金パーティー売上金還流裏金事件について、思いつくままに書き流したが、平家物語の書きだしを思い浮かべた人も多かったと思う。しかし「奢れるもの久しからず」だけで終局させるわけにはいかない。出口はあくまで令和政治改革であり、衰退日本に歯止めをかけることであると思う。

 そのためには「人を代えない」ことが一番で、いつも問題がおこるとヘッドを代えてごまかしてきたが、いまわが国が直面しているのは支持率問題ではなく政治システムそのものであるから、ヘッドではなく権力構造を変えなければ良くはならない。そういう意味では金権派閥にメスを入れるべきである。ではよいお年を。例によって文中敬称を略する場合あり。】

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時事雑考 「低々支持率をめぐる騒動を越えて岸田政権は中道へ向かうのか」

〔くる年の暦丸めつ店仕舞う。コロナ後は人手不足で閉店する飲食店が多いと聞く。労働者はどこへいったのか。長年粗末にあつかったことの報(むくい)などとはいいたくないが、たしかにこの国には労働者を消耗品のごとくあつかう癖というか作風があるようで、これを改めないかぎり消費と生産のバランスのとれた経済にはならないであろう。また、労働者を使い捨てる風土で労働生産性を伸長させることはむつかしい。というのが筆者のベースラインである。とにかく労働者を中心とする考えなので、まあこのぐらい偏向すれば誤解されることもないわけで、気分はこのうえなく涼やかである。

 とはいっても世にたとえば労働党なるものがあらわれたとしても、それが労働者の代表だなんてちっとも思わない。どんな政党であれ「私たちはあなたがたの代表だ」という呼びかけには嘘がまじっているから、「あなたたちは、ほんとうに私たちの代表なのか」としつこく問いただしつづけないと、いつか手にした如意棒とともに飛びさり見えないところで何かをして、都合が悪くなると帰ってくる孫悟空になってしまうのである。労働者はいつも仕事でいそがしい。だからといって見張りを怠ってはいけない。政治家の中には飽きっぽく、支持者との同床異夢関係をすこしも気にしない強い人たちがまじっている。だからよくよく見張っていなければ、どちらが「ご主人さま」か分からなくなる。(選挙の時だけははっきりしているのであるが)

 たしかに政務三役の任命責任もあるが、有権者として選んでしまった責任もあるように思う。(これからは納税証明書もいるのかしら)

 ところで、師走は一年をシメて新年をうかがう月であるのだが、ウクライナもパレスチナガザ地区もこのままではシメようがない。残念なことに悲惨は立ち去らないので、2023年をシメることはできず、新年を祝うこともできないのか。

 さて前回は「任怨分謗か是々非々か」とかいいながら、日米同盟をどこまで深化させるべきかと悩んでみたが、現在の非対称な関係であるかぎり軍事同盟としては十全に機能するとは思えないというのが結論であった。とくに、「米軍は矛で自衛隊は盾」という役割分担論も「日米安保は瓶の蓋」論の各論にすぎない、つまり自衛隊を盾に閉じこめておけば対外的には無害であるという理屈なのである。だから、専守防衛論が実戦上機能するのかといえば、専守だけでは防衛上不十分なところが出現すると思われる。

 もともと専守防衛というのは、有事ではなく無事を前提とした考えといえる。この点を神経質につめていくと敵基地攻撃をふくむ反撃論が浮上するのであるが、理論上は100点をねらえても、実戦で100点がとれるかは不明であるから、結局のところ国民の犠牲の程度をどう考えるかである。

 仮に国民のゼロリスク追求レベルが高く、かつ反撃能力の保持を否定するのであれば、受動化した防衛では、莫大な費用を用意しなければならないであろう。とうていGDP比率2パーセントには収まらないと思われる。それ以上に現在北朝鮮が開発中の攻撃アイテムに対して有効な対処策には技術面での困難がともない、どんなに予算をかけても対応できないケースがでてくるかもしれない。

 となれば、ゼロリスクをあきらめ報復攻撃のための強力な打撃力を用意した抑止策に切りかえるひつようがでてくるかもしれない。いずれにしても反撃能力の保有がなければ成立する話ではない。ということで、ロ朝の軍事連携がすすめば東アジアの安全保障のステージを激変させると思われる。

 2024年は、気分としてはブルーで、危機管理ランプはオレンジあるいはレッドの可能性が高いであろう。仮定の話ではあるが、まことにおぞましいことといえる。例により、文中の敬称は略す場合もあり。】

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時事雑考「日米同盟の向こう側『任怨分謗』か『是々非々』か」

【10月、11月はなぜか忙しくてペースが落ちた。(ファイルの日付が10月23日だから20日近く抱え込んでいたのである!)それとは関係ないが、岸田内閣の支持率も落ちている。「6月解散がラストチャンス」であったと考えていたのだが、案の定、年内解散はないことになったらしい(11月9日)。

 ところで、減税案が不人気のようだが信じがたいというのが一般論ではある。そりゃ給付金のほうがてっとり早いとは思うが、税の増収分の還元策という理屈からいえば、減税のほうが本筋かなと思っていたら、財務大臣によると全部使ってしまっているので還元の原資はないということらしい。これには「なんじゃそりゃ、ホイ」と思わず合の手をいれたくなった。

 さらに、少子化対策の財源あるいは防衛力強化のための増税などが出番をまっているというから、誰しも「ちょっとまて、オイ」といいたくなるであろう。まさか「なんじゃそりゃ、ホイ」「ちょっとまて、オイ」が響きわたる合の手国会になることはないと思うが、なんかギクシャクしていて、また暴走的で、そのうえ刹那的ではないか。

 いまだに実質賃金の下落が止まらない。物価に連敗の賃金。来春まで待てない、生活が持たない。これほど生活がピンチなのに減税が嫌われるなんて思いもしなかったが、やはり来年の話だから超遅すぎるということであろう。

 まさか、減税の実施時期に総選挙をぶつけるつもりなのか?そうであればすごい仕込みと思うが、それだと品質期限切れになるのではないか。

 ところで、岸田さんはいじられキャラなのか。あるいは誰だかわからない匿名者によるいじり過ぎなのか。メガネを疑似標的にするあたりは手練れの仕事で、大げさにいえば諧謔的殺意を感じる。

 そういえば、立憲民主党の泉健太代表も似てきている。政権を狙うのは5年先というのは本音だろう。それでも意欲的すぎるという声さえあるのだが、多くは、まあそんなものだろうと思っているのではないか。しかし、代表が本音をいうのはまずいというか、「5年先までもつわけないのに、なに呑気こいてんだ。」ということかもしれない。第一党と第二党の党首が似た者どうしではないかという指摘はどうだろうか。そのためにも、早く党首討論をやってくれ!】

 

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時事雑考「ネタ切れ芸人化した政党への処方箋-遺伝子組み換え?」

(満月に酔ったわけではないが、酷暑の疲れのせいなのか例の妄想に見舞われることが多くなった。不安と倦怠が同居する今どきの政治におそらく妄想で、心の均衡を保っているのであろう。「足して二で割ればちょうどいいのだが」といってから愚痴る会はいつも解散となるのだが、近年の遺伝子操作をつかえばそういうことができるらしいのである。妄想の種はいつも政党への「なんとかならないものか」という愚痴が発端であった。まあ、良いとこどりは凡人のご都合主義といえるが、遺伝子組み換えによる政党の改造は有権者のかなわぬ夢かもしれない、と書けばすかしすぎであろう。気にいらないのであれば、政党改造に着手すればいい、それが有権者の権利というもので、、、。

 舞台はまわる。大陸は動く。事態は変わる。ひとつとして繋がるものがないのに、同期しているかもしれないが、誰もそれを知覚できないとしたら、なにも起こっていないことになる、のかと意味不明な文案が鼻だれのように落ちてくる、月を眺めすぎたからなのか。

 ところで、地球の温暖化もたとえば富士山が大噴火をおこせば噴煙などが日照を遮り低温災害を引きおこすので、すくなくとも温暖化が足ぶみ状態となる。祝うべきか。あるいは期せずして地球が寒冷期に入るとしたら、人類はふたたび石炭を焚くであろうか。

 さて、筆者は資本主義の暴走、社会主義の堕落、民主主義の危機という三題噺を枕にしてきたが、いよいよ啓蒙主義の怠慢、自由主義の閉塞を追加すべき事態となってしまった。で、もうやめた。もっとましなことをいうべきではないかと反省している。

 最後に、インフレは完全泥棒である。日銀は目こぼしをしている、泥棒が増えるまでは捕まえなくてもいいと。昨今のご時世をいえば、金融資産をもたない人びとは今や棄民状態にあるといえる。だから、強力な再配分をやらなければ気分は一揆状態になるぞ。何で真面目にやらにゃならんのだ、俺たちだけが。危機は風にのってやってくるから足音を立てない。ここは気をつけたほうがいいよ、と警告しておこう。例によって文中敬称略もあり。)

9月の内閣改造は不発、高い不支持率がつづく

 9月13日の内閣改造が岸田氏の目論見からいえば失敗であったといえる。目論見とは支持率の回復、つまり支持不支持の均衡にあったと推測するならば、せっかくの改造は空砲におわったといえるのではないか。さらに、新任大臣のいわゆる身体検査や初期故障のリスクを考えれば、これからの話ではあるが空砲どころか「やらなければよかった改造」といった声がでてくるであろうし、そうなれば党内的に厄介なことになりかねない。

 アンケートに回答する側には歴とした理由があるのだから、今回にかぎらず低い支持率には不思議な点はひとつもないといえる。だから、その理由を解明できないのであれば、政治家としては失格というべきであろう。有権者に理由なき不支持というものがあるとは思えない。

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時事雑考「最低賃金2030年代半ばに1500円、墨絵のような目標」

(前回、気候変動ではことばが弱いから気候擾乱としたが、戻ることができない道のようである。ことこれに関しては世界の指導者は無能である。指導者以外も無能である。

 ところで、ロ朝会談ではプーチンとキムが手を握り、ウクライナ用弾薬と宇宙技術とを交換するという。あくまで予測であるが危なっかしいことこの上ない。どうかねぇ~、場末の二人組にならなきゃいいのだが、何をしでかすのか予想がつかない。前にも、プーチンのいるロシアとプーチンのいないロシアとではどちらが危険なのか、と問うたがどちらも危険と答えればタカ派で、プーチンのいないロシアと答えればハト派で、プーチンのいるロシアと答えれば馬鹿者だという人がいたが、そろそろ冗談もいえなくなりそうである。いよいよ煮詰まってきた。

 というややこしい時に内閣改造をやっちまった岸田はすごい、マジですごいという声がごく一部ではあるが流れている。税収は70兆円ベースで予備費たっぷりだからルンルン内閣のようである。

 ガソリンが高い。で、トリガー条項はどうなったのかしら。えぇ、その分円を安くしておきました、ということだろう。

 このごろ物価が上がって暮らしがいまいちで気分がよくない人がスポーツで機嫌をなおしている。もちろん関西はアレ待ちですな。HP掲載の時刻によっては修文しなければ。来週は久しぶりに東京です。例により文中敬称略です。)

岸田最賃、コップの中の画期、物価上昇をどうするの?

◇ 岸田首相の人気がいまいちなのは、たとえば最低賃金(以下最賃)について「2030年代半ばまでに1500円をめざす」と宣言するのはけっして悪いことではないのだが、それがまるで紙鉄砲のようで迫力を欠いているだけでなく、ポイントをはずしているというか、むしろ「はぐらかしている」と思わせる怪しさがあるからではないかと、ここ何日か思うようになった。

 今年の最賃は全国加重平均で1004円におちついたが、岸田首相の方針を実行すれば十年余で496円増えることになる。この長期間におよぶ引きあげ目標は、あくまで政府の目標であって審議会の目標ではないが、経営者団体の反応が好意的だという点もおりまぜれば、じつに画期的なもので、方針化とあわせ拍手をおくりたいと思う。しかし、政策として時代がもとめているものとは微妙にずれているような感じがする。

 つまり、この程度の引上げ目標では国際的な順位は変わらないので、あいかわらず賃金後進国をつづけるという宣言にほかならないから、まあ国内だけの「うちむきの目標」といえる。

 もっとも支払う側にとってはそれでも負担が大きいということであろう。それは理解できるが、しかしこの岸田方針だけでわが国の賃金、最賃の比較劣位が改善されることにはならないと思われる。それでも「負担が大きい」と抵抗しているだけでは、個人消費がじり貧の収縮経済をつづけることになり、失われた30年のくり返しではないかということである。

 よくよく考えれば、数値目標を方針化することには、メリットだけではなくいくつかの弊害があり、状況によっては裏目がでる場合があるのではないか。たとえば物価上昇が5%を超える場合では、1004円に対し50円以上の引きあげがひつようとなる。また、賃上げがベアで2%をこえれば、さらに20円以上の上積みがひつようで、この場合70円以上の引きあげを受けいれられるのか、使用者側の判断が注目される。

 くわえて、物価上昇率が低位の1%程度であっても、方針の年額50円ちかい増額ペースを維持するのか、意見は分かれるであろう。つまり、1500円という水準が実質なのか名目なのかで性格の違った議論になるのであって、通常は名目であるが、デフレならいざ知らずインフレ傾向がつよまるケースでは、年次の引きあげ額に物価上昇分を混ぜこむことには労働側の抵抗がつよまると思われる。おそらく、物価上昇分は別立てで加算ということに落ちつかざるをえないであろう。

 さらに、秋の最賃は春の賃上げを踏まえての議論であるから、ベアが大幅にあがれば目標とのマージンが窮屈になる。そうなると、目標とは何なのかという批判が生じると思われる。今は、妥当な感じの1500円であっても、経済状況によっては頻繁な見なおしがひつようとなるだろう。

 「最賃を長期にわたって上げていきます」というメッセージは評価される。しかし、各論においてもっとも重要なのは平均的な賃金水準との整合性をどのようにとっていくのかということである。具体的には、改定前において最賃額を下まわっている労働者割合、すなわち未満率がたとえば10%をこえはじめると、最賃のもつ公正競争基準としての役割が粗鬆化し、同時に違反が急増し最賃制度そのものに赤信号が点滅することになる。

 また、改定した後に、改定後の最賃額を下まわることになる労働者割合、すなわち影響率がたとえば20%をこえはじめると、春の賃金改定に引きつづき秋の賃金改定がひつようになり、じつに煩瑣である。さらに賃金改定時期を最賃改定後にはじめるという遅延現象も発生し、それが最賃水準の議論へマイナスの影響をおよぼす怖れが生じることになる。(10%、20%は筆者の経験にもとづく私見である。ちなみに筆者は1090年代半ばに連合で最賃を担当していた。未満率、影響率については注を参照。)

 現在、審議のなかで未満率や影響率についても精細な議論がおこなわれていると聞くが、政治的意志をもった大幅な改定は現行の最賃決定システムにとって過重負荷(オーバーロード)となり、システムそのものを損傷するリスクもあることから、岸田方針を貫徹する気があるなら、物価上昇率の反映もふくめ最賃制度の再定義がひつようであるといえる。

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