遅牛早牛

時事雑考「お騒がせな人が飛びつく核共有は百害あって一利なし」

◇ 「議論はすべきではないか」といった前説をぶら下げて、突然「核共有」がヘッドラインに現れ、なんともいえぬ雰囲気を醸しだしている。もちろん、頭ごなしに議論を禁ずることはできないし、それは穏当ではない。とはいっても話題には内容にみあった重さがあり、議論にはその重さに応じた作法があると思う。そういえば「軍事を語ってはいけない平和主義」なるものが闊歩していた時代があったが、それが安全保障にかかわる議論を閉塞させたことも事実であった。当時、筆者は平和主義を標榜するのであれば、軍事についても考察を深めるべきという考えであった。したがって、軍事オタクとは一線を画しながら、あくまで軍事関係にも精通した平和主義の必要性を痛感していたのである。これは今も変わっていない。

 そういった視座から、今日の「核共有」をもふくむ国防論議について、雑考してみたい、というのが今回のテーマである。

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時事雑考 「近づく参院選、苦しい野党選挙協力―覆水は盆に返らず」

◇ とかく思い込みと思い入れに偏りがちな政治や政党論議ではあるが、ここは客観的にいって、立憲民主党(立憲)、日本維新の会(維新)、国民民主党(国民)、日本共産党(共産)、れいわ新選組(れいわ)、社民党(社民)による選挙協力については始めから無理があったということに落ちつきそうである。 

 そもそも、政党の存在理由と選挙協力には排反関係があることから、金庫のダイヤルのようにいくつかの数字(条件)がそろわないと、開かないということのようである。 

 そこで、自民党と公明党の選挙協力がうまくいっているのは、政権という最強の接着剤があるからというのは、もはや常識となっている。それでも、両党の選挙協力の結果は、どんな候補者なのかという人的要素にも大きく影響されるが、クロス投票でいえば50%から80%に上るのではないかといわれている。クロス投票とは自民党支持者が公明党候補に投票する、あるいは公明党支持者が自民党候補に投票する比率をいうもので、出口調査や投票後の組織調査などで推定されているようである。(筆者の場合は経験にもとづく勘ピューターであるが)

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時事雑考 「国防論議について、左派グループは豹変すべきである」

豹変

◇ 「豹変すべきである」。プーチンロシア大統領のウクライナ侵略をうけての国防論議に対する左派グループへのささやかな贈語である。筆者は、立憲民主党(立憲)に対しては「憲法9条改正(自衛戦力保持)を主導し、日米安保条約の実質対等化を目指す」ことを方針化すべきではないかと、ウェブ上で勝手に例示しているのだが、あいかわらず動きはないようである。常識的にはありえない話なので悲観はしていない。おそらく一周遅れで気がつくのではないかと受けとめている。

 ところで、平等原則からいって、日本共産党(共産)にも社民党(社民)にも同様のことを求めるべきであろうが、無駄になると思われるのでやらないでいたのであるが、意外なことが起こっている。ようするに、赤い旗と白い旗が同時にたなびいているのである。

◇ 「共産党は7日、全国都道府県委員長会議を党本部で開いた。志位委員長は『共産党の躍進で自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党による平和を壊す翼賛体制を許さない審判を下そうではないか』と述べ、従来の与党と維新に加えて国民とも対決していく方針を示した。」(注1)と伝えられているが、ガリガリの思考を変える気はさらさらないようだ。

 で、立憲は、「立憲民主党の泉健太代表は8日の記者会見で、共産党の志位委員長が『急迫不正の主権侵害に際しては自衛隊を活用する』と発言したことを歓迎した。『全国民が自衛隊は大切な存在だと認識している。わが国の国防を担うのは自衛隊だと多くの政党が認識することは、基本的によいことだ』と述べた。」(注2)ことにくわえ、「その上で『明確に、自衛隊は合憲だという理解をしてもよいのではないか』と共産に呼び掛けた。」(同)ようである。

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時事雑考「ロシアのウクライナ侵略がわが国の安全保障意識に与える影響」

◇ たしかにきな臭くはあったが、それでもまさかという想いであった。―

あれから34日が過ぎたが、戦火は一向に収まりそうにない。被害の拡大を防ぐためにも、人びとの不安に終止符をうつためにも、一日も早い停戦を期待したいが、それでも国連憲章などを違(たが)えてのロシアの侵略行為を認めるわけにはいかない。また、ロシアが侵略の成果をえることも断じて受けいれられない。という多くの気持ちはそれとして、プーチンもゼレンスキーもいずれ泥沼から抜けだすための決断を強いられることになるであろう。しかし、そういった出口の議論にたどり着くにはまだまだ時間がかかると思われる。また軽々にあつかうべきものではないし、わが国も時期がくれば今以上に巻きこまれることになることだけは確かであろう。

 それにしても、事態が激しく動いているなかで、遠く離れた東アジアの地にあって、さまざまな地図が解説のために映しだされるのであるが、ジブラルタルからウラルまでの広大なヨーロッパ大陸がジグソーパズルのように分割されていること、さらにそれらのピースが時代ごとに変形消失あるいは生成されていることに「わあっ、ヨーロッパは大変だな」とあらためて驚きを覚えると同時に、だから東アジアの地政学センスでヨーロッパを観ることも語ることも難しいのかしらと、やや閉じこもり気分になるのである。

 さて、今回は一連の出来事をうけてわが国の安全保障意識にどのような変化がみられるのかについて、管見を呈したいと思う。結論をいえば、いままで理屈のための理屈に終始していた安全保障議論が従来の枠にとどまらず、中国の台頭と米国の若干の減力から現実直視型の議論へ移行する過程にあって、世界大戦型の脅威だけではなく局地型の脅威が現にありうること、またそれへの対応策は実戦的に構築する必要性があることなどなど、平和構築の視点が多様化していると思われる。また国民の関心も観念的な反戦平和論から実効性の高い現実的平和主義へと移行しているとも思われる。

 ということを政治勢力別にみると、旧来の左派あるいはリベラル陣営では平和戦略の刷新と再構築が喫緊の課題になっていると思われる。が、ロシアのウクライナ侵略の前であれば「変わること」についての好機であったと高い説得性がえられたであろうが、後となってはたんなる「後追い論」としか受けとられないので、左派支持層を失うリスクだけが残ることから、いずれにせよ路線刷新は難しいと思われる。   

 とくに、日本共産党、社民党にとっては逆風である。また、立憲民主党が政権を目指すのであれば、鮮やかなイメージチェンジを成功させなければ、残念ながら政権担当政党とは認知されないであろう。このあたりについては、2022年2月9日の弊欄「政界三分の相、立憲民主党は左派グループにとどまるのか」で、「立憲民主が憲法改正(9条)を主導し、日米同盟の双務的再定義をあわせて提起するならば、わが国の政治シーンはコペルニクス的大転回によって、現在の保守グループのアドバンテージは雲散霧消するといった連想を生むのであるが、」と政治的転向の難しさを踏まえながらも、わが国の政治の活性化のためには同党の大胆な行動変容が必要であると呼びかけているつもりであるが、難しいのかもしれない。

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時事雑考「プーチンのウクライナ侵略と終わりを見通せない経済制裁」

「プーチンのウクライナ侵略戦争」というべきか

◇ 筆が止まってしまった。前回の2022年2月26日「予算案は参院に、ウクライナ侵攻が変える安全保障意識」の後がつづかない。この瞬間においてもロシア軍の都市部への攻撃がつづき死傷者が激増している。しかし、今のところ停戦協議が成果をあげるとは思えない。また協議中であっても攻撃を緩める気配もなく、むしろ無差別攻撃になっているのではないかと心配している。生活空間を破壊し、民間人を死傷せしめ、避難者を苦しめているが、これは「プーチンのウクライナ侵略戦争」と命名すべきものである。(文脈上敬称を略す)

 

国連総会が国連を支えたが、新しい風を吹かせることができるのか

◇ この侵略に国際社会が受けた衝撃は大きく、また多くの国が強い憤りを感じていることは、「国連総会のロシア非難決議『ウクライナに対する侵略』」が2日に賛成141か国、反対5か国、棄権35か国、無投票12か国で採択されたことからも明らかである。安保理常任理事国の悪しき特権をのり越えての総会決議の意義は、今日その存在を問われていた国連にとってとても大きいものといえる。もちろん、この決議には法的効力はない、しかし国際社会の規範を明確にする機能は十分はたしているといえる。直ちに撤退を強いる実効力はないものの、決議文にある16項目を読めばほとんど判決内容に近く、141か国が賛成した事実とあわせ、国連に新しい風が吹きはじめたと受けとめたい。ということから、なによりも侵略国を大いに苦しめる流れができたことは確かであろう。8年前のクリミア併合時とは大いに違ってきたと感じている。

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時事雑考「予算案は参院に、ウクライナ侵攻が変える安全保障意識」

予算案は参院へ、どんな議論を創るのか

◇ 来年度予算案が22日衆議院本会議で可決され参議院に送付された。3月23日にも自然成立することになる。地味な予算委員会であったことはまちがいないが、感染症が拡大している状況やモリカケサクラといった醜聞モノが少なかったことなどが議事を促進させたと思う。騒がしさを求める人びとにすれば大いに物足りないかもしれないが、あくまで議論の中身を吟味してからのことで、従前に比し劣後しているとは思えない。

 それよりも、野党国対間の連携について、代理ベースで日本維新の会や国民民主党などと情報交換する場を立ちあげたようであったが、共産党の抗議をうけ一夜で落城となった。もともと国対とは裏方組織であるのだから多角重層的にやればいいと思うのだが、立憲民主党の選挙総括のからみもあって機微なテーマになっていたのだろう、共産党の逆鱗に触れてしまったということか。

 共産党に一喝されてしぼむようではいかにも心元ないではないか、立憲民主党国対の一歩後退感は否めない。というのも、野党全体のまとめ役になれる条件が整いつつあったと考えていた人びとにすれば、せっかくの右側の結合手の芽が萎えたことに心底がっかりしているし、また野党全体としてもマイナスであろう。

 たしかに共産党の怒りにも理はあるといえるが、ここは立憲民主党の力量を強化しないと野党共闘の芽が出ないのだから、短気は損気のような気がする。最後には共産党のいい分を受け入れると思われることの風評を十分思慮しなければ、「やっぱりそっちを向いているんだ」ということになる。

 くわえて、この時点で野党国対委員長会談が事実上空き家になったことの意味を分かっているのかしら、とつぶやきながらも筆者の気持ちは来るべき大変化のほうにすでに向いているというのが正直なところである。

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時事雑考「衆議院予算委員会-一番野党よ、膾(なます)を吹いてどうするの」

「2回目接種から原則8か月以上」がもたらした影

◇ 衆議院で地味な予算委員会がつづいているが、2月14日のそれは興味深いものであった。長妻昭議員(立憲民主党)が3回目のワクチン接種について後藤、堀内両大臣に厳しい質問を浴びせた。質問の焦点は、昨年11月15日に開かれた厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会での諮問内容などについて、翌16日におこなわれた後藤厚労大臣あるいは堀内ワクチン担当大臣の記者会見の内容が、「2回目接種から8か月以上」に重心がおかれ、「地域の感染状況に応じて6か月以上であれば接種可能」とする分科会での方向性を押し戻してしまったのではないかという問題提起であった。また、質問の背景にはオミクロン株の感染拡大がピークを迎え、高齢者を中心に亡くなる方が急増している2022年2月の悲惨な状況のなかで、長妻議員の指摘はその原因のひとつが「押し戻し」によるものではないかというもので、そうであるならまさに人災ではないかという非難をともなうものであった。(予算員会の映像や分科会の議事録などから確認)

 しかし、映像や議事録を見るかぎり、2月16日の記者会見について「8か月以上を原則としつつも感染状況に応じ6か月以上であれば接種可能」とする諮問内容をなぞったものであったという後藤大臣の答弁はその通りで、押し戻したという指摘をささえる直接証拠を見出すことはかなり難しいと思う。

 ただし、2月11日には河野太郎衆議院議員(自民党広報本部長)がBS-TBS「報道1930」で、「8か月には、私は根拠はないと思ってます。これは完全に厚労省の間違いだ。それは素直に認めないといけない ー略ー」と発言し、オミクロン株による感染爆発への対応が3回目(ブースター)接種の遅れなどによるのではないかという世間の反感に対し、ひとつの見方を示したものと思われるが、そういった河野議員指摘の役人責任論ではなく、政治家責任論がありうるというのが長妻議員の主張であるなら、その点は賛同できる。

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時事雑考「政界三分の相、立憲民主党は左派グループにとどまるのか」

通常国会は参議院選に向けての下り坂になるのか、上り坂になるのか

◇ オミクロン株の感染拡大が止まらない。感染者増と内閣支持率は負の相関にあるようで、また今後医療ひっ迫がつづき、社会経済活動に支障がではじめると内閣支持率は低下しまた低迷するとみんなが思っている。みんながそう思っているから、政府にとっては厳しい事態になる。よくよく考えれば、キシダ政権は安定しているようで不安定、幸運のようで不運なのかもしれない。問題は、不安定で不運とみなされれば不穏な動きを招くことにある。強力な敵がいなくなると、城内は緩み、内ゲバがはじまることが多いのだ。また、自公政権には賞味期限と品質期限が逆相している可能性があり、ところどころ薄氷ありといえるが、この件はいずれ近いうちに。

 ところで同じ株でも、日経平均が冴えない。この点を衝き、キシダ政権は株式市場に冷たいといった恨み節が聞こえてくるが、予算規模や国の債務を考えれば、これ以上何を望むのかということであろう。また、異次元の金余りをいつまでも続けるわけにはいかないので、どこかで調整せざるをえないと思われるが、ぼやきが脅しにきこえるのは業界の日ごろの行いのせいなのか。それとも、客への言訳を考えてのことか、とにかく金融環境が変化するのは確かであろう。

◇ さて、通常国会は予算審議で花盛りのはずだが、思ったよりも地味である。モリカケサクラの主人公がいないのだから平穏なのは当然かとも思うが、逆に討論の中身が濃くなることを期待している。国会日程は150日を想定しているとのことなので、明ければ参議院選挙が目の前である。上りか、それとも下りか、各党代表者の試練が近づいている。

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時事雑考「政界三分の相、中道グループと是々非々」

◇ 中道は平原にあるから左右が開けている、だが右派にも左派にもそれぞれ壁があり、その壁には極左あるいは極右が陣取っている、という模式図にはこれといった根拠があるわけでもなく、人それぞれが勝手なイメージを作りあげているだけである。しかし、だからといって意味がない、あるいは不要であるということではない。もちろん、正確とはいえないがそれなりに人びとの意思疎通には役立っている。という前提でこの雑考は始まる。

中道グループの定義のための位置関係と保守グループ

◇ さて、中道を定義するためには、中道の両側に左派と右派が居ることが必要であり、右派とは前回長々と述べた保守グループのことである。保守グループの本質は現状肯定であり、それゆえの現状維持であるから、中道グループから見ると「現状そのもの」と映る。まあ、空気のようなものであろうか。だから、空気の存在を否定する論がないように、中道グループは保守グループの存在を否定することはしない。しかし、汚染された空気には厳しくあたる。また、汚染の原因を取り除き、改善したいとの強い意欲をもっている。

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時事雑考「政界三分の相、保守グループの巻」

「政界三分の相」とは

◇ 2022年1月時点で、わが国の政界は三グループに色分けできるのではないか。一つは自民党および公明党による保守グループであり、現在ここに政権がある。二つは、中道路線をいく日本維新の会と国民民主党の中道グループである。三つは、2021年10月の総選挙において政策協定を結んだ立憲民主党および日本共産党などによる左派グループである。ここでグループとしたのは、理念や政策あるいは政治手法において少なくない共通点をもっているだけではなく、何らかの「結合力」を有していると考えられるからで、具体的には第一の保守グループは連立し政権を担っている。

 また、第二の中道グループは昨年の総選挙の結果をみるかぎり追い風状況にあるが、中道路線の意義を有権者にアピールしながら支持の定着を図ることが先決であろう。当座の国会対策において共同歩調を模索しているようであるが、支持層としては対立よりも協調のほうが受け入れやすい。

 残る第三の左派グループは、立憲民主党の新代表の口から明快な路線表明がされていないので霧の中ではあるが、路線が大きく変わることはないと思われる。多少の流動性をふくむが、表現系はともかく実態としての選挙協力は変わらないと考えている。

 さらに、小政党や諸派の動きも注目すべきであるが、ここは概説なのでしばらくは触れないことにする。したがって、今回は現下の政界が三グループによる「三分の相」を呈しているという、人相ならぬ政相の話である。

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